第13話「因縁の襲来」


「レッドギラス、ブラックギラス……よくやったな」

それは、ギラススピンの前にヴィータが敗北を喫してから、少しばかりした時だった。
二匹の双子怪獣を見据えながら、一人の怪しげな男が笑みを浮かべていた。
ヤプールとは違う、しかし同じく邪悪な存在。
男は、己の言葉を待っているであろう双子怪獣へと、新たな指示を出す。

「あの餓鬼の死体を、とっとと探し当てろ。
もし生きているようなら、その場でぶっ殺せ……俺は念の為、陸地を探す。
ヤプールの所まで持っていってやらねぇと、何にもならねぇからな……」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……ヴィータ。
君は今、どう思っている?」

その頃。
ダンは、ヴィータに今どう思っているのかを尋ねてみた。
ミライから聞いた話が正しいならば、彼女は闇の書の守護騎士が一人。
幸いにも自分の正体には気づいていないようだから、捕らえるのは極めて容易である。
だが……ダンは、彼女の捕獲に踏み切れないでいた。
やはり、ミライから聞いたとおりだが……彼には、どうにもヴィータが悪人には思えなかったのだ。
何か強い信念を持って、行動をしている。
大切なものの為、敢えて茨の道を歩もうとしているように見えたのであった。
そして、そんな彼女の姿が……かつての己自身と、重なって見えたのだ。
かつてダンは、地球を守るために、暴走して地球に衝突しようとしたウルトラの星の爆撃を決断した事があった。
己の故郷を捨ててまでも、守り抜きたかったものがあった。
ヴィータはまさしく、あの時の自分と同じだ。

「……勝ちてぇ。
あの二匹と、もう一度戦って……勝ちたい……!!」

ヴィータの答えは、ダンが予想していた通りだった。
やはり彼女は、完全な悪ではない。
もしもこれが卑劣な悪党だったならば、決してこうはしない。
如何なる手段を用いてでもと、考えるに違いない。
だが彼女は、正々堂々と再戦を挑み、そして打ち勝ちたいと願っている。
そしてその勝利は、己の為ではなく……他の、何か大切なものの為にと感じられる。
ならば、ダンが取る行動は決まっていた。

「……あの二匹は、レッドギラスとブラックギラス。
俺も色々あって、あの二匹とは前に何度か見かけたことがある。」
「え……それ、本当なのか?」
「ああ……奴等に勝つ方法だが、無いことはない。
俺の仲間に一人、あいつらと戦って勝った男がいる。」
「!!」

ダンの言葉を聞き、ヴィータは大きく目を見開いた。
ダンは敢えて、敵である筈のヴィータに力を貸すことを選んだのだ。
彼女もまた、何かの正義のために戦っている……自分達と同じ、立派な戦士。
そんな彼女の思いを、無駄にすることはできなかったのだ。
それに元々自分達の任務には、周辺世界の怪獣・超獣の撃破がある。
どの道、レッドギラスとブラックギラスは、倒さねばならない相手だ。

「そ、そいつは一体、どうやってあの二匹に……!!」
「あの二匹を倒すには、ギラススピンを打ち破るのが必要不可欠だ。
あの回転さえどうにか出来れば、奴等自体の戦力はそれほどじゃない……だが、ただ攻撃をぶつけてもあれは破れない。」

ダンの言うとおり、ギラススピンの威力は絶大だった。
最強の一撃であるギガントクラークさえも、全く通用しなかったのだ。
ただ強いだけの攻撃をぶつけた所で、ギラススピンを打ち破ることは出来ない。
なら、どんな攻撃ならば打ち破ることが可能なのか。
ヴィータは息をのみ、ダンの言葉を待つ。
すると、彼から返ってきたのは……単純明快な答えだった。

「ギラススピンを打ち破る方法は一つだけ……同じく、スピンで対抗するしかない。」
「スピン……?」
「ああ……これを見てくれ。」

ダンは荷物袋から、独楽を一つ取り出した。
それを勢いよく指で回転させ、地面に下ろす。
独楽はそのまま回転を維持して、地面に立っている。
その直後、足元にある一本の木の枝を取り……勢いよく、独楽とは逆の回転を加えて独楽に突き立てる。
すると……独楽は、見事真っ二つに割れた。
この光景を見て、ヴィータはハッとした。
スピンにはスピンで挑む。
それはつまり、相手の回転に同じく回転をぶつけて威力を殺し切れということである。
そう……これこそが、かつてウルトラセブンがウルトラマンレオへと教授した、ギラススピンの突破方法。

(独楽があの二匹としたら、そいつを破った枝があたしだ。
独楽の回転がギラスすピンなら、あたしのは……!!)

ギラススピン同様に、回転をかけて敵へとぶち当たる。
ヴィータには、まさしくそれに相応しい技―――ラケーテンハンマーがあった。
これを使えば、双子怪獣に勝てる。
そう思い、ついつい笑みを浮かべてしまったが……直後。
彼女はすぐに、己の持つ最大の弱点に気づいてしまい……笑みを消した。
ラケーテンハンマーによるギラススピンの突破……これには、大きな問題があったのだ。

「……駄目だ。
あたしの攻撃じゃ……あれ程の威力はねぇ……!!」

ラケーテンハンマーとギラススピン。
両者の威力には、結構な差があったのだ。
質量差、回転のスピード……殆どの要素において、ギラススピンが勝っている。
これでは、相殺しようにも不可能だ。
折角勝てると思ったのに、とんだ糠喜びである。
ヴィータは歯軋りし、俯いてしまう。
すると……そんな彼女を見たダンが、真剣な顔つきで彼女へと言葉をかけた。

「どうして、そこで諦める?」
「え?」
「今の自分じゃ敵わないからと、どうして諦めるかと言っているんだ……!!
ここで君があきらめたら、全部台無しじゃないのか!!」
「ダン、さん……?」

ヴィータはダンの言葉を聴き、呆然とした。
先程自分を助けてくれた時の彼は、温厚で優しいといった雰囲気があった。
しかし今の彼には、そこからは考えられない様な、熱い何かが感じられたのだ。
そしてすぐに、彼の言うとおりであると気づく。
敵わないからといって、そこで投げ出すなんて愚の骨頂だ。
今の自分に不可能だというのならば……可能に変えればいいだけの話である。

「……そうだよな。
勝ち目がないからって、逃げ出してちゃ……いつまでも、負け犬のままだ……!!
ありがとうダンさん、やってみるぜ!!」

ヴィータはすぐに立ち上がると、ダンに礼を告げて奥地へと駆け足で向かっていった。
ダンはその背中を見て、つい微笑みを浮かべてしまう。
先程は、つい怒鳴ったが……ああして誰かに接するのは、レオと共に過ごしてきた時以来である。
恐らくは、あの時のヴィータにかつてのレオの姿を、無意識のうちに重ねてしまっていたからだろう。
はたして今の自分を見たら、レオは何というだろうか。

(……本当に、あの時みたいだな。
生憎今は、ジープの様な道具はないが……)

ダンはしばしの間、昔を思い物思いにふけっていた。
この際だから、とことん面倒を見る。
彼女がギラススピン打倒を果たすまで、きっちりと付き合うつもりでいた。
この時、ダン自身に自覚はなかったのだが……彼の心には、かつての熱さが宿っていた。
強敵に打ち勝つため、レオを鍛え上げていたあの頃と同じ……MACの隊長としてのダンが、そこにあった。


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「うおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

森林地帯の奥地。
その周辺一帯に、ヴィータの雄たけびが響いた。
彼女の目の前にあるのは、とてつもなく巨大な大岩。
その大岩めがけて、強烈な勢いでグラーフアイゼンが叩きつけられた。
この強烈な一撃を受けて、岩は見事砕け散る。
すぐさまヴィータは、飛び散った岩の欠片を手に取り……そして、重い表情で舌打ちをした。

「……駄目だ。
この程度じゃ、まだ全然届かねぇ……!!」

ダンの言葉を受けたヴィータは、今、特訓に臨んでいた。
ギラススピンに打ち勝てるだけの威力を得られるようにと、ラケーテンハンマーの強化に臨んでいたのだ。
あの技の前には、ギガントクラークの破壊力でさえも通用しなかった。
つまりギラススピンに打ち勝つには、最低でもギガントクラーク級の威力は超える必要があるのだ。
先程の一撃は、ロードさせるカートリッジの量を通常よりも増やし、スピードも威力も高めた。
自身の魔力も、とことん集中して高めた。
結果、確かにこれまでのラケーテンハンマーは上回れたが……まだ、足りない。
この程度の攻撃力では、ギラススピンを超える事は不可能だ。

「アイゼン!!」
『Jawohl!!』

再びヴィータは、グラーフアイゼンへとカートリッジをロードする。
グラーフアイゼンの方も、ヴィータの心に答えようと勢いよく返答する。
鉄槌の騎士と鉄の伯爵の意地と誇りにかけて、必ず成し遂げてみせる。
両者とも、そう心に強く誓っていた。
そしてもう一度、ラケーテンハンマーを繰り出そうとする……が。

「っ!!」

その瞬間、彼女は何者かが近づいてくる気配に気づき、とっさに攻撃を中断。
背後へと振り返ると……そこには、見慣れぬ人物がいた。
銀色のマスクで顔を隠している、いかにも不気味な風体の男。
その全身からは、極めて強い殺意が感じられる。
少なくとも……友好的な様子ではないのは、明らかだ。
ヴィータは警戒しつつ、相手の様子を伺う。
すると……その男の右手が、いきなり光に包まれた。

「なっ……!?」
「死ねぇっ!!」

男の右手は一瞬にして、一振りのサーベルへと姿を変化した。
ヴィータはそれを見て、予感を確信に変える。
この男の狙いは、紛れもなく自分自身であると。
男は真っ直ぐに前へと踏み込み、ヴィータの脳天目掛けてサーベルを突き出す。
すぐさまヴィータは防壁を展開し、その一撃を防ぐ。
そして、地を蹴りサーベルの間合いの外まで距離を離した。

「テメェ……何者だっ!!
時空管理局の連中……にしちゃ、何か妙だな。
ダンさんと同じ、この世界の住人か……?」
「答える義理はねぇよ。
ただ、お前が生きてちゃ何かと都合の悪い奴がいるってだけさ……!!」

男はサーベルの切っ先をヴィータへと向け、レーザー光線を放つ。
しかしヴィータとて、ヴォルケンリッターとして多くの修羅場を潜り抜けてきた身。
飛び道具による攻撃がくる事は、予想出来ていた。
とっさに防壁を展開してそれを防ぐと、男との距離を一気に縮める。

「うりゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ちっ!!」

グラーフアイゼンの強烈な一撃が、男の脳天に迫った。
とっさに男は、サーベルを盾代わりにしてこれを防御。
しかし、堪えきるには流石に威力が強すぎた為、後方へと大きく下がらされてしまう。
なるほど、どうやらパワー面では大きく差があるようだ。
とてもじゃないが、真正面からでは楽に勝てる相手じゃないらしい。
ならばと、男はサーベルの切っ先を上空へと向ける。
始末の手段なんて、幾らでもある……まずは、最初の切り札を切らせてもらうとしよう。

「来い!!
レッドギラス、ブラックギラス!!」
「なっ!?」

サーベルの切っ先から、光が迸る。
その光は、海へと真っ直ぐに延びていき……海原の中にいる双子怪獣へと届いた。
雄たけびを上げ、海中から双子怪獣がその姿を現す。
ヴィータはその光景を見て、驚きを隠せなかった。
全てが繋がってしまった。
あの双子怪獣は、恐らくこの目の前の男の使い魔―――あんなに大きな使い魔は始めて見たが―――。
ならば先程の怪獣の襲撃は、確実に自分を狙ってのものだ。
何故自分を狙うのかという問題は残るが……

(……いや、狙われる理由なら幾らでもあんな)

これまで、闇の書の守護騎士として、幾度となくその手を血に染めてきた。
他者の恨みを買う覚えなら、幾らでもある。
目の前のサーベル男も、自分に憎しみを持つ一人なのかもしれない。
ならば、命を狙われるのも納得はいく……が。

「だからって……はいそうですかって、負けられねぇんだよぉっ!!」

ここで命を落とす訳にはいかない。
己の全ては、今の主であるはやてを救う為にあるのだ。
彼女は、戦うことしか出来なかった、破壊の為にしか動くことの出来なかった自分達に、掛け替えの無いもの―――感情をくれた。
その御蔭で、笑ったり悲しんだり……こうして、己の罪をしっかりと自覚する事が出来るようになった。


―――主の命令だから


―――己が闇の書の騎士だから


罪に対する言い訳は、いくらでも浮かぶ。
だが、それでも……罪を犯したのは、紛れも無いこの手だ。
ヴィータは、いや、守護騎士達は皆、己の宿命から逃げるつもりは無かった。
はやてが助かった後ならば、時空管理局の者達に捕まったとしても、抵抗するつもりは無い。
罪を償う必要があることは、十分に分かっているからだ。
皆と仲良く暮らしたいというはやての願いには反するが、これはどこかでする必要がある事だ。
今の自分達には、心がある……これまでに対する罪悪感を、感じることが出来る。
だが、それでも……それまでは。
はやてが元通りになる、その時までは……いかなる敵に襲われようと、負けられない。

「轟天……爆砕!!」
『Gigantform』

勢いよくカートリッジをロード。
グラーフアイゼンを、最強形態―――ギガントフォームへと変形させる。
男はそれを見て、焦りを覚えた。
先程の、彼女と双子怪獣の戦いを見ていたから分かる。
ギラススピンには打ち負けたとはいえ……あの攻撃は、相当の破壊力がある。
まともに直撃すれば、撃滅は間違いない。
回避するには、相手の攻撃範囲が大きすぎる。
防御はもっての外……このままでは、負ける。
男はその事実を即座に理解し、舌打ちする。

「ギガント……クラアアァァァァァク!!」

巨大な鉄槌の一撃が、男目掛けて振り下ろされる。
このタイミングでこの距離ならば、回避は絶対に不可能。
ラケーテンハンマーに耐え切れなかった相手に、これを耐え切る術なんてある訳が無い。
増援の双子怪獣も、この距離からならば何も出来ない。
ヴィータはこの時、己の勝利を確信していた。
だが……その予想が、思わぬ形で裏切られてしまった。

「くくっ……甘いな」
「何だって……?」
「確かに、このままじゃ俺に勝ち目は無い。
だがそれは……『このまま』じゃという話だぁっ!!」

命中寸前、信じられない事態が起こった。
突然、男の体が光に包まれたかと思うと……グラーフアイゼンが、弾かれてしまったのだ。
ヴィータは一瞬よろめくも、すぐに体勢を立て直す。
すると、そんな彼女の目の前には……

「おい……冗談だろ!?」
「ハハハハッ!!
圧倒的だなぁ、おい!!」
(こいつ……アスカと同じ!?
いや、でも……見た目とか、全然ウルトラマンじゃねぇじゃんか!!)

男が、自分の何十倍というサイズになっていた―――巨大化していたのだ。
これが男の、第二の切り札。
体がでかくなれば当然、その分力は増す。
ヴィータのギガントクラークは、巨大化した男のサーベルに弾かれてしまっていたのだ。
相手が等身大だったから、最大限まで巨大化させなかったのが仇になってしまった。
ならばと、巨大化させた上で一撃を打ち込もうとするが……男はそれを許さない。
足元のヴィータ目掛けて、サッカーボールを相手にするかの如く、勢いよく蹴りを繰り出してきた。
ヴィータはとっさに行動を中止、急速離脱して男の一撃を回避する。
だが……男はそんな自分を、全力で追いかけてくる。
いかに最大速度で挑もうとも、相手の歩幅は異常なレベル……振り切ることは出来ない。
これでは、巨大化させるチャンスがない。

(くそっ……!!
どうしたらいい、一体どうすれば!!)
「死ねぇっ!!」
「っ!?」

男が勢いよく、アッパーカットを放つかの様に拳を振り上げてきた。
スピード的には、回避出来ない攻撃ではない。
ダメージを考えれば、防御に回るのは危険極まりないし、これは回避するのが当然か。
そう、誰もが当たり前のように考えるのと同様、ヴィータも考えた……が。
直後に、彼女の中に電撃が走る。

(待てよ……これなら!!)

思いもよらぬ奇策が、彼女の脳裏に浮かび上がった。
目の前の男の虚を確実に突ける、悪魔的奇手。
リスクは相当高いが、成功すれば決定的な一撃を打ち込めるかもしれない。
迷うことなく、ヴィータは動いた。
動きを止め、まっすぐに男の拳へと向き合い……障壁を展開したのだ。
出来る限りの魔力を集中させた、強烈なバリア。
しかし、こんなもので防ぎきれるわけがないと、男はヴィータを嘲笑った。
そして……強烈な一撃が、ヴィータへと叩きつけられた。

「ガハッ……!?」

その一撃は障壁を打ち砕き、ヴィータを宙へと大きく舞い上げた。
ヴィータは錐揉み回転しながら、後方へと吹っ飛んでいく。
男はその様を見て、高らかと笑い声を上げる。
実力の差は圧倒的……まるで象と蟻の戦いではないか。
後2~3発叩き込めば、ヴィータは確実に死ぬ。
男は勝負をつけるべく、彼女との間合いをつめようとする……が。

「今だ……アイゼン!!」
『Explosion』
「何っ!?」

吹っ飛ばされている最中にあるヴィータは、痛みを堪えつつもアイゼンに命令を下した。
これこそが、彼女の狙いだった。
男との距離を作り、かつ油断させてチャンスを作る方法。
それは、わざと男の攻撃を喰らって吹っ飛ばされるという、捨て身の策だった。
一歩間違えれば、致命傷を負いかねない危険な賭けだったが……辛うじて、それだけは避けられた。
こうなれば、後は反撃に転じるのみ。
ヴィータは最大限までグラーフアイゼンを巨大化させ、その反動で急停止。
男の横っ面目掛けて、全力でそれを叩きつける。

「うりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「ぐっ……うぐううぅっ!?」

自分の顔面よりも巨大な破壊槌。
それをまともに横っ面に叩きつけられたとあっては、堪ったものじゃない。
男は地面に倒れこみ、顔を押さえて悶え苦しむ。
痛いなんてレベルの一撃ではない。
身に着けているマスクには、見事に皹が入ってしまっている。
男はその瞳に憎悪を宿し、ヴィータを睨みつけた。
何としても、必ず殺す。
そう言わんがばかりの剣幕であった……が。

「まだ終わりじゃ……ねぇっ!!」
「うおおぉっ!?」

そんな男の目の前にあったのは、グラーフアイゼンの巨大な面だった。
ヴィータは倒れこんでいる男目掛けて、追撃の一打を振り下ろしにかかっていたのだ。
男はとっさに横へと転がり、その一撃をギリギリ回避。
何て真似をしてくれる。
男は大きく舌打ちし、そしてすぐに飛び起きた。
そのまま、その勢いに乗せ……真っ直ぐにサーベルを突き出した。
サーベルは、グラーフアイゼンの丁度真芯にぶち当たり、ヴィータはバランスを崩してしまう。
そして、次の瞬間……男はそのまま、零距離で光線を放出した。

「うぁぁぁっ!!??」

中規模の爆発が起こり、ヴィータを大きく吹き飛ばした。
そのまま彼女は、強烈な勢いで地面に叩きつけられそうになる。
ならばと、ヴィータはすぐに魔力を集中させ、そのダメージを緩和させようと試みた。
だが……その瞬間だった。
そんな彼女の背後に、何者かが現れた。
その気配を察知し、とっさにヴィータは背後へと振り返ると……そこには、先程出会ったあの男がいた。

「えっ……ダンさん……!?」
「っ……大丈夫か、ヴィータ?」

男―――モロボシ・ダンは、ヴィータをしっかりと受け止めた。
ダンは上手く踏ん張りきり、受け止めた際の衝撃を殺しきっていた。。
そしてその後、ゆっくりとヴィータを地面へと降ろす。
予想外のこの救援には、流石にヴィータも驚きを隠しきれていない。
だが、助かったのは事実……彼女は素直に、ダンへと礼を言う。

「ありがとう、ダンさん……助かった。
あたし、助けられてばっかだな……」
「何、気にするな。
困ったときはお互い様なのだからな……それに、それだけじゃない。
君と奴とが戦っているのならば……尚更だ。」
「えっ……?」
「やはり、現れていたか……マグマ星人!!」

ダンはヴィータの話を聞いた時から、ある予感がしていた。
この世界にレッドギラスとブラックギラスが出現したのは、間違いなくヤプールの仕業である。
しかし……現れたのは、本当にこの二匹だけなのだろうか。
ダンには、そうは思えなかった。
何故ならば……かつて己があの双子怪獣と相対したとき、二匹の側には常にもう一つの存在がいたからだ。
双子怪獣を操る、言うなれば司令塔ともいうべきある侵略者の存在が……
それこそが、目の前にいる男―――サーベル暴君マグマ星人である。
ダンはヴィータと別れた後、愛馬の世話を終えてから彼女の様子を見に行こうとしていた。
そんな最中で、巨大化したマグマ星人の姿を確認し事態を察知。
嫌な予感が的中してしまったことに悪態づきながらも、すぐさま駆けつけ……今に至ったわけである。

「……俺を知っている?
テメェ……何者だ?」
「お前とは、初対面という事になるな。
……以前に一度、お前の仲間と戦った事があるんでな」
「何だと……?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。
話が分かんねぇんだけど……ダンさん、奴を知ってんのか?」
「ああ……サーベル暴君マグマ星人。
あの双子怪獣を操っている張本人で……極悪な侵略者だ。
俺の仲間も、奴等に故郷を滅ぼされた……!!」

マグマ星人は、セブンにとって因縁の相手の一人であった。
大切な教え子であるレオと、その弟アストラの故郷を滅ぼした張本人。
そして、自分の足を折り……セブンへと変身する力を封じ込めた、忌まわしき敵。
何としても、この男だけは倒さなくてはならない。
この手で打ち倒さなければ、気がすまない。

「ヴィータ、下がっていろ。
あいつは……俺が相手をする。」
「相手をするって……無茶だ!!
ダンさん、あんた一体どうやって奴と……!!」
「……生憎、俺も君と同じで人間じゃないんでな。」
「……え?」

ヴィータはダンの言葉を聴き、己の耳を疑った。
彼の言葉が意味することは、彼は自分の正体が魔力プログラムであるという事に気づいていたという事。
そして……彼自身が、人間ではないということである。
一体どういうことなのか、ヴィータはそれを問いただそうとする。
その瞬間、ダンは懐に手を伸ばし、ある物を取り出した。
真紅のカラーリングで縁取られている、特徴的なゴーグル。
ウルトラセブンへと変身する為の道具―――ウルトラアイ。
本来、己がウルトラマンであるという事実は、隠さねばならない事だが……状態が状態である。
この場を乗り切るには、やむを得ぬ事……何より、己の手で決着をつける為にも。
ダンは覚悟を決め、それを掛け声と共に装着した。

「デュアッ!!」
「っ!?」

装着と共に、ダンの身が光に包まれる。
その眩さに、マグマ星人はとっさに目を閉じてしまった。
しかしヴィータは、目を完全には閉じず、ダンの姿を懸命に見ようとしていた。
すると彼女は、信じられない光景を目にした。
ダンの全身が、顔を中心にして次々に変化をしていく。
その姿は、ヴィータにある人物を連想させた。
所々違う所こそあるが、それでも……どこか似ている。

「ウルトラ……マン……?」

やがて光が消えた時、そこには一人の戦士が立っていた。
それは、変身を果たしたダン―――ウルトラセブンであった。
ヴィータはその姿を見て、その独特の雰囲気を感じて、その正体を直感した。
彼が……ダイナやメビウスと同じ、ウルトラマンの一人であると。
ならば、彼が自分を知っている理由は一つしかない。
彼は……メビウスの仲間である。

「ダンさん……一体、なんで……!!」
「……すまんな、ヴィータ。
騙すような真似をしてしまって……マグマ星人!!
お前の狙いは一体何だ……何故、ヴィータを狙った!!」
「ウルトラセブン……!?
どうして、テメェがこんな……くっ!!」

マグマ星人はとっさに地を蹴り、後方へと大きく下がった。
流石に、ヴィータとウルトラセブンの二人を一人で相手にするのは危険。
ならばと、彼はすぐ近くにまで来ていた双子怪獣と合流を果したのだ。
これで3対2、数の上では勝っている。
それを見て、ヴィータはすぐに空中へと飛び上がり、相手と高さを合わせた。
確かにセブンの事は気になるが、今はそれどころの状況ではない。
目の前の三体が強敵であることは、直に戦ってみたからよく分かっている。
まずは、彼等を打ち倒さなければどうにもならない。
そう思っての行動だったが……直後。
セブンが、そんな彼女の前に手を出し、その動きを制したのだ。

「ダンさん!?」
「……ヴィータ。
奴等は俺が一人で食い止める……君は特訓を続けるんだ。」
「なっ……!?
ちょっと待て、一体何言ってんだよ!!
そりゃ、あんたの実力は知らないから何も言えねぇけどさ……!!」
「そうじゃない!!
……俺では、奴等のギラススピンは……破れないかもしれないんだ。」
「え……?」

セブンの言葉を聞き、ヴィータは己が耳を疑った。
自分の力じゃ、ギラススピンには勝てない。
そんな馬鹿なと、思わずそう言いそうになってしまった。
何せ彼は、ギラススピンの突破方法を知っている。
ならば勝てる筈だと、そう思ったのだが……すぐに、ヴィータはそれを否定した。
この状況で嘘をついて、彼に得があるわけが無い。
言っている事は全て、本当のこと……彼はギラススピンを破れない。
だから……自分に打倒を託したのだ。

「……ダンさん。
あいつら、どれくらいもたせられそうだ……?」
「分からん……だが、やれる限りの事はやるさ……行け、ヴィータ!!
俺達が話している間にも、時間は過ぎていくぞ!!
行けぇっ!!」
「……!!」

セブンの言葉を聞き、ヴィータはそれ以上何も言わなかった。
目の前の強敵を打ち破れるか否かは、全て自分の手にかかっている。
ここで尚も、とやかく言っている時間などないのだ。
彼の意思を無駄にしない為にもと、すぐにその場から離れていく。
全ては……自分が成さねばならぬ事なのだ。

(でも、まだあたしには……いや、駄目だ!!
そんな事を考えちゃ……何の為に、ダンさんはあたしに全部託したんだよ!!
……やってやるさ。
絶対、やってやろうじゃんかよ……!!)

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最終更新:2007年12月22日 19:36