リリカルコア外伝 第一話 「過去」

「状況を開始します。現在時、1500」
高町なのは一等空尉が厳かに口を開き言葉を紡ぐ。
「状況はこうです。ここから南西へ約四十キロ、かつて企業の所有していた軍事基地に正体不明の部隊が
出入りしているのが確認されました」
なのはの言葉を一語一句聞き逃しまいと隊員たちが耳を傾ける。
「航空中隊は陸戦二個小隊と輸送ヘリ四機を増強し同施設を制圧、安全化します」
陸戦小隊長が小言で中隊長に耳打ちする。何を話しているのかは分からないが中隊長は首肯する。
「なお、今回使用するデバイスはすべて実戦設定で行います」
その言葉に隊員達、中隊長以下小隊長が数名がどよめく。
「作戦完了時刻は2000とします。状況説明は以上です。・・・質問は?」
静聴していた隊員たちが小言でささやきあう。
「ありません」
代表して中隊長が宣言する。
「分かりました。では私と採点官は以後、皆さんの訓練の採点を行います」
状況がなのはから下達され、それを受けた中隊長が命令を下達。
命令を受けた部隊は待機していた隊員たちを叩き起こし、寝ぼけ眼のまま準備をする、
航空中隊の隊員は空戦用の甲冑を装着。
陸戦小隊は一般の隊員が使う戦闘装着セットを取り出して装着する。
輸送へリ四機はエンジンを始動、機長・副機長・機付員二名の四名が機体をチェック。
中隊長の命令下達後、一時間程度でここまで出来る。
いつでも出撃可能な状態。この状態で待たされるほど士卒に辛い事は無い。
「この中隊は錬度が高いね」
なのはは隣にいる赤毛の小さなパートナーに話しかける。
「そうだな、上下の意思疎通が良く出来てる」
隣に立つのは八神はやてデザインの赤い騎士甲冑を着込み、“鋼鉄の伯爵・グラーフアイゼン”を
肩にかけるのはヴィータだった。
「うん、そろそろ出るのかな?」
「みたいだな、偉いやつらが出てきたぞ」
ヴィータが顎で示した先、中隊長と小隊長クラスが最終調整を終え、隊舎から出てくる。
各小隊長が配置に着くのを確認した中隊長が腕を大きく振る。
それを合図に航空魔導師約四十名、輸送ヘリ四機にそれに詰め込まれた陸戦魔導師約四十名が空に飛び立つ。
それを見送ったなのはは自身もアクセルフィンを展開、空に上がる。
「じゃあ、行って来るね。ヴィータちゃんはここから監視よろしくね?」
「おう、任せておけ。しっかり採点してやっといてやるよ」
なのはが笑いながら手を振り、飛び上げると南西の方向に消えていった。
「んじゃ、あたしも仕事するとしますか・・・」
それを見送ったヴィータは訓練の統制室の隊舎へと足を向けた。

『第四小隊、降下開始』
『ミル51よりパパ、配置完了』
『ミル51、チョーク降下、完了後警戒位置に着け』
『了解。各チョークへ、LZに着陸する。すぐに降りろ』
どうやら訓練は無事に進行している。
先行小隊が降下し、橋頭堡を確保し、そこに陸戦小隊が降下する。
おそらく他の三個の航空小隊もすぐに降下し、施設内に突入するだろう。
手際が良い。各隊員の錬度も高い。
なのはは頭の中でチェックリストを反芻し、指揮官の指揮、隊員の動きをチェックしていく。
『ミル54よりパパへ、方位342、単騎で接近してくるのがいる』
『パパよりミル各機へどんなヤツだ?』
『・・・砂埃で分からない』
中隊長がなのはをちらりと見る。
なのはは首を傾げる。戦技教導隊で作成された訓練内容の予定には無い、状況外の事態。
「陸戦小隊、展開急げ。航空小隊は突入を続行」
中隊長が不測の事態にも拘らず冷静に命令を下し、迎え撃つ準備を行う。
『こちらミル52、機体が見えた!!接近してくるのはレイヴンだ!!』
『待て、こちらはスレッジハマー、戦闘の意思は無い、戦闘の意思は無い。繰り返す戦闘の意思は無い・・・』
通信でそう宣言した本人が突然、丘の向こうからジャンプで現れ機体を着地させる。
「おいおい、撃つなって・・・。」
頭部ハッチが開く。そこから顔を出すのは二十代後半から三十代前半ぐらいの青年。
その周囲を陸戦小隊の隊員達がデバイスを構え取り囲む。
「除装しろ!!さも無くば・・・」
「・・・わかったよ」
案外おとなしく機体を除装し、青年が出てくる。
その脇を手馴れた手つきで二名の隊員が抱え、動きを封じる。
「名前は?」
「ボス・サヴェージ。こいつはスレッジハマー」
「レイヴンか・・・」
中隊長が顔を顰めながら呟く。
「ここに来たのは仕事のためだ。この廃墟を調査しろって言うのが仕事でな。来て見ればお前達がいたって・・・」
「黙れ、お前達はこいつを監視してろ。機体には封印を掛けておけ」
そう吐き捨てると中隊長がなのはに目配せをする。
「これは状況ですか?」
「いいえ、これは状況外の事態です。一旦状況を中止しますか?」
「予定外とはいえ闖入者は拘束しましたから問題は無いでしょう。訓練を続行します」
『こちら第二小隊、降下許可を』
『パパよりゴルフ21、降下を許可する。降下後、施設に突入しろ』

『こちら第二小隊、異常なし』
『第三小隊、整備用と思われる機械が散乱しているが』
『こちら先導小隊、おそらく最奥部と思われる格納庫まで到着。隠し部屋の類は確認できない』
「こちら本部、了解。各班は各階層の掃除を実施しろ。高町一尉、異常ないようですな」
「そうですね」
「航空総隊の本領、緊急展開の良い訓練にはなりましたな。後は・・・」
そう言うと中隊長が横目で拘束されているボス・サヴェージをみる。
「彼にお帰り願いましょう。彼の依頼人には何も無かったと報告していただくことになるでしょうな・・・」
どうやらこの人物はレイヴンに対してあまりよい感情を抱いていないらしい。

「そろそろ頃合だな・・・」
「え・・・?」
「ん?」
「こちらスレッジハマー、時間だ、始めろ」
なのはと中隊長が声のほうを見る。
視線の先、ボス・サヴェージと名乗った男が自身の駆るスレッジハマーに乗り込み起動させるのが見えた。
「おい待て!!・・・っが!!」
止めようと駆け寄った隊員をスレッジハマーの右腕に装備されたバズーカで殴り飛ばす。
なのはには一瞬何が起きているのか分からなかった。よく見るとボス・サヴェージを監視していた隊員が
二名倒れこんでいた。地面に血溜りを作りながら・・・。
<マスター!!>
レイジングハートが警告を発する。
我に返り戦闘態勢で構えるとボス・サヴェージ=スレッジハマーは右腕に装備された大型バスーカを向けていた。
「・・・っな!?」
だが次になのはの目に飛び込んできたのはバスーカの方向から打ち出されたロケット弾。
<プロテクション>
レイジングハートがオートガードを発動、ロケット弾を受ける。
「くっ・・・。どうして!?」
『悪いな、これが俺の仕事なんだよ。お前を抹殺することがな!!』
「なにを・・・。第一陸戦小隊!!各個に射撃開始!!やつを逃がすな!!第二陸戦小隊は援護しろ!!」
隊長の命令一過、入り口を守っており戦闘待機状態にあった第一小隊が素早く反応しレイヴンに集中射撃をくわえる。
だが、重装甲が売りのスタンハンマーは命中弾を受けながら回避機動を、バズーカと背部に積まれた誘導弾を放つ。
「うわ・・・!!」
「シールド!!」
「只の誘導弾じゃない!!分裂・・・」
最後まで言い終わることなく隊員達の周囲に着弾。
爆風に吹き飛ばされる者、破片で負傷するもの・・・。一部の隊員は倒れ伏したまま動かなくなる。
『こちら第二航空小隊!!敵性魔道甲冑と接触、交戦中!!』
『どこから出てきたんだ!?』
『あそこだ!!隠しゲート!!』
『さっき調べただろう?見落としたのか?!』
『違う、巧妙に偽装されてたんだ!!・・・うわ!!』
施設内でも戦闘が開始されていた。通信内容は悲鳴と怒号が響く。
「中隊各員!!これは訓練ではない!!各小隊は合流し・・・」
中隊長が怒鳴り声で指揮を執ろうとする。だがそこへスレッジハマーが突撃、左手で殴り飛ばす!!

「第二陸戦小隊は負傷者を施設内に運んで!!彼の狙いは私。私が相手をする!!」
「了解!!」
無傷か負傷が浅い隊員がなのはの指示を聞いて負傷した中隊長や隊員を抱えまだ安全な地上施設内に逃げ込もうとする。
「第一層にもいる!!」
「どうにか掃討しろ!!」
「相手は少数だ!!恐れるんじゃない!!」
必死に戦っているであろう隊員の声が聞こえる。なのははそれを背中に受けながら
ボス・サヴェージ=スレッジハマーと向き合う。

『機種解析・・・、不知火だ!!』
『・・・何だって?』
『狭霧もいる!!』
両機種とも高性能を売り文句にする機体。
ちょっとやそっとでは購入・維持できるものではない。
『各隊、壁を背にして動け!!飛べない状態では勝ち目がない!!』
『小隊長、上!!』
『な・・・』
通信が途絶える。やられたのかそれともジャミングがかけられているのか・・・
施設内での戦闘も激しくなっているのだけは確実。
だが航空総隊の隊員はそう簡単にやられるような隊員達ではな
い。だがそれはあくまでも広い空でのこと。
狭い空ではその実力は発揮できない。
だが航空総隊の隊員はそう簡単にやられるような隊員達ではない。
だがそれはあくまでも広い空でのこと。狭い空ではその実力は発揮できない。
なのはは歯噛みしながらボス・サヴェージ=スレッジハマーを見る。
「どうして・・・、なんでこんな・・・!!私が狙いなら・・・、私だけを狙えば・・・」
「まだ分からんのか?!」
ボス・サヴェージ=スレッジハマーが語尾を強くしてなのはの
言葉を遮る。

「イレギュラーなんだよ!!お前は!!」

ボス・サヴェージ=スレッジハマーが怒鳴る。
その言葉の意味を理解するのになのはは少々の時間を有した・・・。

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最終更新:2008年02月24日 13:22