狙い澄ましたロケット弾と多弾頭誘導弾がなのはを襲う。
……その筈だった。だが彼の機体は発射寸前でピクリとも動かなくなった。
「またバインドか?……って、まさか中まで!?」
機体と武装だけでなく、簡易的な結界内に守られている彼自身にまでバインドが効果を及ぼしていた。
スレッジ・ハマーのセンサーが警告を発する。
砲撃が来る!!そう覚悟した彼が見たのは桜色の魔力光ではなく、側方から接近する紅い魔力光と巨大なハンマーと……。
『何さらしてんだ、テメェは!!!!!!』
怒り狂う子供の声だった。
「やるぞ、アイゼン!!」
<Explosion!!>
『ヴィータちゃん!?何で……』
なのはの通信が聞こえたがヴィータの目には目標のスレッジ・ハマー=ボス・サヴェージしか見えていなかった。
「ぶっとばせぇーー!!」
小柄な体にはとても不釣りあいな巨大なギガントハンマー形態のアイゼンを振り降ろす。
「おおりゃぁぁーー!!」
振り下ろされるグラーフ・アイゼンの先にいるのはバインドで拘束され身動きの取れないスレッジ・ハマー=ボス・サヴェージ。
『がぁぁぁーーー!!』
バインドで拘束され身動きが取れない目標に対する容赦無い一撃が振り下ろされスレッジ・ハマー=ボス・サヴェージを直撃、
叩き飛ばされた彼の叫び-悲鳴-が通信を介して聞こえた。おそらく機体への過度のダメージでスイッチが入ったのだろう。
彼は地面に叩きつけられるとそのまま二転三転、どころか数え切れないほど転がり叩きつけられるとついに停止した。
なのはとヴィータはボス・サヴェージ捕縛するため、生死の確認が先となるのだが……。
「ヴィ、ヴィータちゃん!!どうしてここへ?」
「あぁん?まあ、いきなり通信が途絶えてたから何事かと思って確認しようと思ったら演習用の監視システム自体に障害が
発生してな、最初の通信途絶は状況下と思ったんだが……」
一旦言葉を区切り、左手人差し指で鼻の頭を掻きながら、そっぽを向いて続ける。
「コリャなんかあったなと、急いで飛んで来てみりゃお前が何処の馬の骨とも判らない奴とやり合っていたという訳だよ」
「そうなんだ……。でもありがと、ヴィータちゃん。助けに来てくれて本当に助かった……」
「まあ、礼は後でたっぷりしてもらうとして、今は奴を捕縛するのが先だな」
ヴィータの言葉をなのはも首肯し、姿が見えぬ-何度も舞い上がり続ける土埃の為-彼を警戒する。
『第四小隊よりパパ。最下層の格納庫内の敵を制圧、指示を求む』
『第一層の陸戦小隊、地上の安全を確保。施設外の状況はこれより確認する』
施設内で激戦を繰り返していたであろう増強航空中隊からの報告を聞きなのはは安堵した。
だが、間違いなく多数の負傷者と
死亡者が出ているであろう事を思うと心中穏やかとは言えなかった。
「何考えてんだか知らねーが……、変な事するんじゃねーぞ?」
「……うん、判ってる……」
ヴィータなりの気遣いの言葉になのはそれぐらいの言葉でしか返せ無かった。
しかし、ヴィータの自分の事を気遣いになのはは感謝していた。
二人で背中合わせに警戒する。なのはとボス・サヴェージの交戦の結果、高濃度の魔力が周辺一帯に
絶えず周囲に気を配り、二人の索敵範囲からは猫の子一匹たりとも逃げ出すことは出来ない。
<三時方向、約二十に音源を探知>
「……居た!!」
RHの索敵系が発見、報告し、なのはがRHを右構えに構える。
「待てよ、まずは……」
放たれた猟犬の如く駆け出そうとするなのはをヴィータが止めた。
グラーフアイゼンに軽く魔力をこめて一振りし、土煙を払う。
土煙の開いた先、ボロボロになった機体がいた。
黄色を基調とした重装甲の機体は各所から火花と放電を上げ、装甲板も各所で剥れへこみ、もはや満身創痍である。
だがそれでも彼は立っていた。
「うわぁ……」
「やれやれ、あんだけ喰らってもまだ立つたぁ、まさに烏、レイヴンの鏡だな」
ヴィータは呆れ、なのはは驚嘆した。