リリカル・コア外伝第1話「過去」

「イレギュラーなんだよ!!お前は!!」
「な・・・」
なのはには浴びせられた言葉の意味が理解できなかった。イレギュラー?私が?そもそもイレギュラーとは?
頭の中を同じ疑問が堂々巡りを繰り返す。
だがその疑問を考える暇は無かった。なのはが思考に気を取られた一瞬の硬直を利用してボス・サヴェージ=スレッジハマーは
なのはと距離をとる。
ボス・サヴェージュは右手に持つ大型バズーカを向け発砲、速射の利かない武装ではあるが命中すれば動きを止め、吹き飛ばす
だけの威力を持っている。
訓練と経験の賜物、頭で考えるより先に体が動いた。なのはは大地を蹴って上空へ退避、打ち出されたロケット弾を回避する。
<Protection>
「この!!」
だが弾頭に仕込まれた近接信管が起動、ロケット弾を中心に大量の破片と仕込まれていたボールベアリングが円周状にばら撒かれ
地面を耕し、有効半径内にいたなのはにも襲い掛かる。
「レイジングハート、エクスプローション・シューター!!」
上空に退避し態勢を立て直す。脳裏に浮かぶ疑問を押さえつけ思考の埒外へ置く。
なぜ彼は私の命を狙ったのか?
なぜ彼は私をイレギュラーと呼んだのか?
イレギュラーとは何なのか?
彼にはすべての疑問について答えてもらう。いやまず『お話を聞いてもらう』。相手に疑問を投げかけるのではない。
だがその前に互いに全力全開で分り合う必要がある。
<エクスプローション・シューター>
「シュート!!」
炸裂設定のアクセルシューターを射出、半分はシューター自体による自立制御、もう半分を自身が制御・誘導する。
シューターを打ち出すと同時にボス・サヴェージも背部の誘導弾発射機を起動、こちらも誘導弾を射出し、なのはを狙う。
「レイジングハート、シューターの制御をお願い!!」
<All right>
自身が制御していたシューターの制御をレイジングハートに一任、自身は回避に専念する。
射出された誘導弾は二基、避けるのは造作も無いこと。
「炸裂……?違う!!多弾頭型!!」
一定の距離を飛んだ後、親機から子機を射出する誘導弾。距離をとって回避、若しくは迎撃を考えていたなのはの
機動が裏目に出る。
回避機動、だがしつこく追尾してくる誘導弾に対してアクセルシューターの射出スフィアを展開、間髪をいれずに射出。
撃ち出されたシューターは誘導弾を直撃するが直撃と同時に誘導弾は炸裂、破片を撒き散らす。
撒き散らされた破片と弱いがそれなりの爆風をなのははシールド・プロテクションで受け止める。
だが威力に押されて後退、体勢を崩す。
それでもなのはとレイジングハートもただ撃たれるだけではない。レイジングハートは目標の未来位置を計算・推定し、シューターの
誘導を行う。その間になのはは他のことに集中できる。デバイスとその使用者の理想的な補完関係である。
レイジングハートに誘導されたシューターは目標となったボス・サヴェージ=スレッジハマーの周囲に着弾、ピンク色の
魔力光と共に地面を抉り取り、土煙を上げる。瞬間、ほんの一瞬だがボス・サヴェージ=スレッジ・ハマーの動きが止まる。
レイジングハートはその隙を見逃さず、残ったシューターを直撃コースへ誘導、容赦なく直撃させた。
<Direct hit!!>
「ありがとう、レイジングハート、あれだけ直撃させたんだから……」
<……!?Master!!>
「!!」
濛々と立ち上る土煙を破り、中から機体のジェネレーターの許す限りの加速を付けたボス・サヴェージが飛ぶ。
なのはからの射撃を警戒しているのか複雑な回避機動を取りつつ、もてる火力-右腕の大型バズーカ、背部の誘導弾射出器-を
安全のための再装填時間によるタイムラグを惜しんで連射。だが、ただ連射するのではなく、直進する軌道しか
取れないバズーカの射線をカバーする様に、多弾頭式の誘導弾を射出し回避機動の動きを狭める。
近距離の機動戦は不得意ではない。だが、ボス・サヴェージの奇襲を受けてから守勢に回っているのはなのはだった。
「迎撃!!」
<PROTECTION&Intercept!!>
レイジングハートがオートでシールドを展張し、さらになのはの展開した射撃用スフィアを使用し、迎撃する。
なのは自身はありったけの射撃スフィアを展開し、直撃を受けないよう最適な回避機動を取る。
「……きゃ!!」
だが迎撃の網を抜け、さらに回避機動が間に合わなかった誘導弾を一発、二発と近接信管の作動範囲まで接近を許した。
炸裂した誘導弾は大量の破片をばら撒き、なのはに浴びせ、ガードを崩す。
なのははたまらず高度を下げる。だがそれは相手に高い高度を取らせてしまう。それは空戦では絶対にしてはいけないこと。
高度を下げ態勢を整える時に生まれる一瞬の隙に分裂せずに直撃コースを取っていた誘導弾の内、迎撃から漏れた数発がさらに
シールドを直撃。
(やったか!?)
一瞬の隙を突いて主導権を握ったボス・サヴェージが内心ほくそえむ。
総合的な火力で言えば管理世界最高の砲撃魔道士“白い悪魔”。
だが近接戦であれば勝機はある、そう踏んで近距離での打ち合いに終始したのだ。
日が沈みかけつつある夕刻、そろそろ日が暮れ辺りは夜の帳に包まれるはず・・・。
地上に着地、なのはが落ちたであろう場所へとゆっくりと近づく。
依頼の内容は“高町なのはの抹殺”。死体は確認しなければ……。
「……っ!!」
スレッジ・ハマーのセンサー群が警告を発した。
最初の警告が表示された瞬間、ボス・サヴェージは距離を取ろうとした。まだ舞い上がる土煙の中に確認された魔力反応のから!!
数瞬前まで彼がいた場所を桜色の光芒が通過した。さらに彼を追撃するかのように-実際に追撃されているのだが-何本もの
桜色の光芒が彼を襲う。
「糞!!やはり一筋縄じゃ……」
彼の言葉は途中で途切れ、回避機動に注力せねばならなくなった。
速射される砲撃に合せて今度はアクセルシューターが襲い掛かる。一発や二発ではない、正確に彼を狙い十発単位で飛んでくる。
まるで先ほどまでの自分の攻撃がそのまま返されているかのような感覚。
ジュネレーターのリミッターをカットし不規則なジグザグを繰り返す回避機動を取る。
彼が動くことによって舞い上がる土煙。
アクセルシューターは基本的に炸裂しない直撃設定で打ち出される。今回についても同様だった。
(至近弾は問題じゃない……、直撃にさえ警戒すればいい!!)
回避機動を取りつつ機体をターン、自分に向けられたシュータと相対すると右腕に持つ大型バズをタイマー設定で撃つ。
大型バズの長い砲身から出て数秒後、撃ち出した本人でさえ破片を食らうような至近距離で炸裂、破片と爆風を撒き散らす。
破片と爆風の中に飛び込んだシューターは接触と同時に速度を失い霧散した。が、それを抜けたシューター群が
スレッジ・ハマーに回避不能な距離まで接近する。
「この程度で!!」
シュータを正面から受け止める。重装甲が売りのスレッジ・ハマーと思い切りのよいボス・サヴェージだからこそ出来る防御。
最後の一発が着弾する。だがどれも装甲は抜けれなかった。装甲に傷はついた、だが乗員には衝撃以外のダメージは無い。
「ヤツは?」
機体の索敵範囲を見る。
居た。今度は立場が逆になった。
夕日を浴び彼女-高町なのは=イレギュラー-は浮かんでいた。左手に相棒の杖と周囲に無数のアクセルシューターを従えて!!
「シュート!!」
なのはの号令一過、アクセルシューターは与えられた目標、スレッジハマーへと襲い掛かる。
「ぬぉぉぉ!!」
常人ならすぐに気絶するような、そして訓練を受けた人間でも内臓がひっくり返すような回避機動をとる。
地面すれすれを、時に抉りながら進むスレッジ・ハマーとシューターの着弾の衝撃で舞い上がる土煙。
その土煙と彼の動きが一瞬の射撃のチャンス生んだ。土煙の切れ目その向こうにシューターを管制する彼女が見えた。
(撃てる!!)
ボス・サヴェージがそのチャンスを掴み、なのはをロック・オン。
「悪く思うなよ!!」
そう吐き捨て引金を引こうとした瞬間、機体がバランスを崩し転倒。
「……な、バインド!?」
左足に絡みついたの無数のバインドだった。地雷のように予め仕掛けられていたトラップ。
だが恐ろしいのはこれから来るであろう攻撃、彼女お得意の魔力ダメージによる“ノーダメージ”のノック・ダウン!!
「動きを読まれてたのか?……畜生、冗談じゃ!!」
転倒したのはほんの一瞬、ジェネレーターに残された最後のリミッターを解除、ラジエーターの冷却が間に合わない
オーバーヒートさせるぐらいの出力を生み出し力ずくでバインドを破る。
だが代償無しでは抜けれなかった。アクセルシューターは抜け出す瞬間に何発も命中した。
だが、それは微々たる物。もっと問題なのは機体を制御できないことだった。
生み出される出力に一流のレイヴンと謂えど操作不能に陥った。
「畜生!!」
機体は何度も大地に接触するが止まる気配は無い。
再び舞い上がる土煙、だが姿を隠せるのに良いし、何より距離をとれる・・・。
彼がそう考えた矢先だった。
機体が操作できるぐらいの速度まで減速-しこたま打ち付けられてはいるが-したのを確認し機体を立て直す。
機体ダメージをチェック。各部のダメージの蓄積は酷いがまだ仕事は終わっていない。
パシップの索敵によりなのはの位置を確認。先ほどの位置と殆ど変わってはいない。
「今度こそやる」
距離は離れたがまだ武器の射程内にいた。
ブースターに点火、手持ちの大型バズも背部の誘導弾も残弾は僅か、どうやってもこれが最後の攻撃になる。
土煙を破り飛び上がる。なのはが気付く。だが一瞬、ほんの一瞬だがチャンスが出来る。
右腕は損傷しているため大型バズを左手で支え、両手で構え、さらに背部の誘導弾をロックオンした。
「終わりだ!!イレギュラー!!」

狙い澄ましたロケット弾と多弾頭誘導弾がなのはを襲う。
……その筈だった。だが彼の機体は発射寸前でピクリとも動かなくなった。
「またバインドか?……って、まさか中まで!?」
機体と武装だけでなく、簡易的な結界内に守られている彼自身にまでバインドが効果を及ぼしていた。
スレッジ・ハマーのセンサーが警告を発する。
砲撃が来る!!そう覚悟した彼が見たのは桜色の魔力光ではなく、側方から接近する紅い魔力光と巨大なハンマーと……。
『何さらしてんだ、テメェは!!!!!!』
怒り狂う子供の声だった。
「やるぞ、アイゼン!!」
<Explosion!!>
『ヴィータちゃん!?何で……』
なのはの通信が聞こえたがヴィータの目には目標のスレッジ・ハマー=ボス・サヴェージしか見えていなかった。
「ぶっとばせぇーー!!」
小柄な体にはとても不釣りあいな巨大なギガントハンマー形態のアイゼンを振り降ろす。
「おおりゃぁぁーー!!」
振り下ろされるグラーフ・アイゼンの先にいるのはバインドで拘束され身動きの取れないスレッジ・ハマー=ボス・サヴェージ。
『がぁぁぁーーー!!』
バインドで拘束され身動きが取れない目標に対する容赦無い一撃が振り下ろされスレッジ・ハマー=ボス・サヴェージを直撃、
叩き飛ばされた彼の叫び-悲鳴-が通信を介して聞こえた。おそらく機体への過度のダメージでスイッチが入ったのだろう。
彼は地面に叩きつけられるとそのまま二転三転、どころか数え切れないほど転がり叩きつけられるとついに停止した。
なのはとヴィータはボス・サヴェージ捕縛するため、生死の確認が先となるのだが……。
「ヴィ、ヴィータちゃん!!どうしてここへ?」
「あぁん?まあ、いきなり通信が途絶えてたから何事かと思って確認しようと思ったら演習用の監視システム自体に障害が
発生してな、最初の通信途絶は状況下と思ったんだが……」
一旦言葉を区切り、左手人差し指で鼻の頭を掻きながら、そっぽを向いて続ける。
「コリャなんかあったなと、急いで飛んで来てみりゃお前が何処の馬の骨とも判らない奴とやり合っていたという訳だよ」
「そうなんだ……。でもありがと、ヴィータちゃん。助けに来てくれて本当に助かった……」
「まあ、礼は後でたっぷりしてもらうとして、今は奴を捕縛するのが先だな」
ヴィータの言葉をなのはも首肯し、姿が見えぬ-何度も舞い上がり続ける土埃の為-彼を警戒する。
『第四小隊よりパパ。最下層の格納庫内の敵を制圧、指示を求む』
『第一層の陸戦小隊、地上の安全を確保。施設外の状況はこれより確認する』
施設内で激戦を繰り返していたであろう増強航空中隊からの報告を聞きなのはは安堵した。
だが、間違いなく多数の負傷者と死亡者が出ているであろう事を思うと心中穏やかとは言えなかった。
「何考えてんだか知らねーが……、変な事するんじゃねーぞ?」
「……うん、判ってる……」
ヴィータなりの気遣いの言葉になのはそれぐらいの言葉でしか返せ無かった。
しかし、ヴィータの自分の事を気遣いになのはは感謝していた。
二人で背中合わせに警戒する。なのはとボス・サヴェージの交戦の結果、高濃度の魔力が周辺一帯に
絶えず周囲に気を配り、二人の索敵範囲からは猫の子一匹たりとも逃げ出すことは出来ない。
<三時方向、約二十に音源を探知>
「……居た!!」
RHの索敵系が発見、報告し、なのはがRHを右構えに構える。
「待てよ、まずは……」
放たれた猟犬の如く駆け出そうとするなのはをヴィータが止めた。
グラーフアイゼンに軽く魔力をこめて一振りし、土煙を払う。
土煙の開いた先、ボロボロになった機体がいた。
黄色を基調とした重装甲の機体は各所から火花と放電を上げ、装甲板も各所で剥れへこみ、もはや満身創痍である。
だがそれでも彼は立っていた。
「うわぁ……」
「やれやれ、あんだけ喰らってもまだ立つたぁ、まさに烏、レイヴンの鏡だな」
ヴィータは呆れ、なのはは驚嘆した。

「この階の連中は拘束したな?」
「はい」
第二層にて交戦していた小隊は制圧した第二層の安全化を図っていた。
「向こう側の隠しゲートの方がまだです」
「よし、第三班、私と一緒に来い。念のため隠しゲートの向こう側を調査する」
比較的負傷者が少ない班を選び、小隊長は命令を下す。
「第二小隊より中隊長、現在第二層を清掃中。繰り返す……」
この状況ではもう平文でもかまわない。
『何だこれ?』
先導の隊員が何かを発見した。
「どうした?」
『でかい代物が眠っていま……』
がごん!!通信を遮るように機械が動く音がした。
何事かとその場にいる隊員達は身構える。
『小隊長!!上にハッチが、開いてます!!』
外の夕日が弱くだが中を照らし、そこに眠っていたものを照らしてた。
それを見た隊員達がその巨体に圧倒される。
眠っていたのは・・・。
「こいつは超大型の二足歩行兵器か!?こんなもんまで用意していたのか!?」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年02月24日 13:25