「一体…何のためにこうやってやり直させたんだ!」
「知る必要は無い。お前達の戦いは、何も変わらない。ただライダー同士で殺しあうのみだ」
令子達が誘拐された事件、その結末には大きなイベントが残されていた。
13人目にして最強の仮面ライダー『オーディン』が現れるという事態である。
真っ先に彼に向かっていったヴィータはすぐに殴り飛ばされ、他のメンバーも次々と殴り飛ばされた。
ただ一人、龍騎はタイムベントの前の記憶が残っていたため一撃を入れることに成功するが、それも全くダメージを与えられない。
そして龍騎が殴り飛ばされ、今に至るというわけだ。
「いや…変わったよ」
「何?」
「重さが…消えていったライダーの重さが2倍になった!これ以上は増やさない!」
その言葉とともに、龍騎が立ち上がる。
「人を守るためにライダーになったんだから、ライダーを守ったっていい!」
「城戸…」
龍騎の言ったことを聞いていたのか否か、オーディンはすぐに去っていった。
「私と戦うのは最後の一人だ。続けろ。戦いをやめるな」
「看護婦さん、フェイトちゃんはまだ…?」
「ええ…まだ目は覚めてないわ」
数日後、海鳴大学病院。今日もなのはとはやてはフェイトの見舞いに来ている。
体のケガはほぼ完治しているが、目は未だに覚めていない。それが今のフェイトの状態である。
「そう…ですか…」
やはり残念そうだ。もしかしたら、既に目が覚めていて、驚かせるためにわざと眠っているふりをしているのではないか。
そう思いたくもなったが、現実は非情。フェイトは未だに目が覚めない。
「あ、もうこんな時間や。そろそろ帰らな…」
時計を見たはやてが言う。現在の時刻は五時。子供はそろそろ帰る時間だ。
「あ…そうだね。それじゃあフェイトちゃん、また来るね」
そう言ってフェイトのいる病室を出る二人。
帰り際、なのはが見覚えのある人間…秋山蓮を見かける。
こんな時間に病院に何の用…いや、考えるまでもない。一般人の病院への用といったら、見舞いか診察のどちらかしかない。
「…はやてちゃん、悪いけど、先に帰っててくれない?」
蓮の用事が気になったなのはは、はやてに先に戻るよう言う。
「別にええけど…どないしたん?」
「ごめん、ちょっと用事ができちゃって」
「ふーん…分かった。ほなな」
なのはの用事とやらを深く追求せず、そのまま病院の出入り口で別れた。
残ったなのはは蓮の後をつける…もっとも、バレバレだが。
第二十一話『星と虎の邂逅』
蓮は今、彼の恋人…小川恵理の病室にいる。
小川恵理は数ヶ月前、蓮がライダーになった日からここに入院している。
その日は神崎士郎によるミラーワールドの実験の日。その被検体が恵理だったのだ。
そして実験は成功。ミラーワールドからモンスターの一体…ダークウイングが引きずり出された。
そのダークウイングが放った超音波により、恵理は意識不明となり、今も眠り続けている。
そしてその日、迎えに来ていた蓮が事件に鉢合わせしたのだ。
その時は怒りに任せ、神崎を殺そうとした。だが助ける手段…ライダーとして戦うという手段を知り、神崎からカードデッキを受け取った。
その日から蓮はライダーとなった。恵理を救うために。ダークウイングと契約したのも、恵理を喰わせないためだ。
「恵理…」
恵理の名を呼んだ。やはり反応は無い。
ふと心電図に目をやる。どうやら問題は無いようだ。
…と、鏡から音…いや、ダークウイングの鳴き声が響いた。まるで「餌をよこせ」とでも言っているかのように。
蓮はその発生源の鏡を見つけ、思い切り拳を叩き込んだ。鏡が砕けるのと同時にダークウイングが去る。
その後、帰り道にて。
あの後なのはは蓮に見つかり、事情を聞いた。
モンスターによる意識不明の恋人。それを救うための戦い。それが蓮の戦う理由。
蓮の戦う理由を知ったなのは、その足取りは重い。
「レイジングハート…他のライダーの人達も、蓮さんみたいに大事な理由で戦ってるのかな?」
不意になのはが足を止め、口を開いた。
『…でしょうね。おそらくは神崎士郎の願いに賭けるしかなくなった人達、それがライダーとなったのでしょう』
「そう…だったら、私達に戦いをやめさせる資格なんてあるのかな…?」
今のなのはには迷いがある。人を殺してでも叶えたい願い、その中には蓮のように「大切な人を救いたい」というものがあるのだろう。
それを諦めさせてまで戦いをやめさせる資格があるのか、それがなのはの迷いだ。
すると、レイジングハートが口を開いた。いや、口は無いが。
『ならばマスター、あなたは他の12人を犠牲にすることを肯定するのですか?』
「そんな事は無いよ。ただ…」
なのはがそれを言い終える前に、言葉が中断されることになる。
キィィィン…
「! レイジングハート!」
『All light.Barrier Jacket standing up.』
その頃、清明院大学401号室では。
キィィィン…
こちらでも例の金属音が聞こえる。というのも、なのはの帰り道の近くにこの学校があるからだ。
こちらではミラーワールドを閉じるための研究をしているというのは前述の通り(第十話参照)。
それを面白く思わない神崎士郎は、たびたびモンスターを送り込み、ミラーワールド封鎖を阻止しようとしている。
そして今回もまた然り。すぐ近くにモンスターが現れた。
「やれやれ、また…ですか」
香川が呆れ果てたような声で呟く。しょっちゅうの事なのでもはやモンスター襲来は止まらないと半分悟っているようだが。
「そろそろ東條君が向かっているところでしょうか…まあ、彼に任せるとしましょう」
香川はそう言って、研究を再開した。事実、近くにいた東條がこの反応の元であるモンスターの元へと向かっている。
この後、魔法少女と虎のライダーの接触があることを、今知っている者はいない。
高速でなのはの元へと飛ぶ、緑色のモンスターが一体。名を『ガルドミラージュ』という。
ガルドミラージュはなのはを視認しると、背負った圏と呼ばれる投擲武器を投げつけてきた。
ミラーワールドへと入ったばかりのなのははそれに気付かない。
『Protection Powered.』
レイジングハートの張ったプロテクション・パワードでようやく気付く。
幸い自動防御で何とか防ぎきれる程度の威力だったから返すことはできたが、その時に隙はどうしても生まれる。
そして生まれた隙を狙い、爪での一撃が飛んだ。それを紙一重でかわす。
「速い…それに、入ってきたのと一緒に撃って来た…」
『おそらく、神埼が本気で潰しに来たのではないでしょうか。
それならば、入ったのと同時に仕掛けてきたのもうなずけます』
ガルドサンダー、ガルドミラージュ、ガルドストームの三体は、神埼が従えるモンスターである。
それがここにいたということは、誰かを消すためだろう。
そして、入ってきたと同時にかかってきた説明もつく。始めからターゲットとして指定した相手が寄ってきたら、すぐさま仕留めようとするだろう。
「それって…前にフェイトちゃんが言ってた理由なの?」
『おそらくは』
『ライダーの戦いを邪魔する者達』、それが神埼から見た魔導師達の認識である。
その邪魔をさせないために、他のライダーにも警告を発したらしいが、今の時点ではそのライダーからの襲撃は無い。
…となれば、神崎が手駒を使い、始末に乗り出したとしても何ら不思議ではない。
…今はそんなことを言っている場合ではない。ガルドミラージュに対処すべき時だ。
「…今はそんな事言ってる場合じゃないよね。レイジングハート!」
『All light.Restrict Lock.』
捕獲魔法『レストリクトロック』をガルドミラージュの軌道上へと仕掛ける。それから一秒と経たない間にその区域へと入ってきた。
現れた光の輪がガルドミラージュを捉え、動きを封じる。
それを確認し、フラッシュインパクトで叩き落とし、アクセルシューターでさらに追撃。
「やった!?」『いえ、まだです』
ガルドミラージュはまがりなりにも神崎の手駒だ。アクセルシューター数発で沈むほどヤワではない。
下からガルドミラージュの圏が飛来する。それを何とか避けるなのは。
だが、それこそがガルドミラージュの狙いだった。600km/hの飛行速度を利用し、なのはへと迫る。
慌ててフラッシュムーブで避け、地上にある森へと逃げ込む。それを追ってガルドミラージュも森へと飛び込んでくる。
しばらく森の中で、空を飛びながらの鬼ごっこが続く。するとなのはの目の前に大木が見えた。
「あった!」
大木を見つけ、自分の狙った手を実行に移すなのは。その手とは、なるべく大きな木の手前で急上昇するという手だ。
これほどの速度ならば小回りが利かず激突する。なのははそうにらんだ。
そして作戦通り急上昇する。ガルドミラージュは狙い通り激突し、その場にダウンする。
後はとどめをさすのみだ。上空からバスターモードで狙いを定める。そして…
「ディバイィィーーン…バスタァァァーーーーー!!」
『Divine Buster Extension.』
上空からディバインバスターの光が飛ぶ。その光はガルドミラージュを飲み込み、そして消し去った。
『お疲れ様です』
「ふぅ…」
ガルドミラージュを仕留め、地上に降りて一息つくなのは。
「それじゃあ、帰ろっか?」
『そうですね。そろそろ戻らないと、心配かけるかもしれませんし』
そう言って帰ろうとするなのは。だが…
「…えっ?」
無数の羽――さしずめ羽手裏剣といったところか――が飛来し、なのはを木に固定した。
近づいてくる羽手裏剣を放った張本人。それは先ほど倒したガルドミラージュ同様、神崎士郎の手駒であるモンスター『ガルドストーム』だった。
「まだいたの…?」
なのはは、今回現れたモンスターは先ほど倒したガルドミラージュだけだろう、そう思い込んでいた。
だが実際は違う。目の前にガルドストームがいるのがその何よりの証明だろう。
そのガルドストームが斧を構え、なのはへと走る。
羽が抜けず、固定されたままのなのは。覚悟を決めたのか、目を閉じた。
…だが、斧がなのはの身を裂く事は無かった。
おそるおそる目を開けると、斧を持った虎のようなライダーが…タイガが目の前にいた。
「仮面…ライダー…?」
最終更新:2007年08月14日 11:05