フェイトの見舞いの帰り、蓮の戦う理由を知って迷いが出ていたなのは。その帰り道で彼女は自問自答していた。
戦いを止めるのが本当に正しいのか。自分たちに戦いをやめさせる資格があるのか。
だが、その迷いに答えを出す間も与えず、神崎士郎の刺客『ガルドミラージュ』がなのはを襲う。それに対し、応戦するなのは。
何とかガルドミラージュを破ることに成功し、家に帰ろうとした矢先だった…

「…えっ?」
 無数の羽――さしずめ羽手裏剣といったところか――が飛来し、なのはを木に固定した。
近づいてくる羽手裏剣を放った張本人が、なのはを殺すべく近づいてくる。
それは先ほど倒したガルドミラージュ同様、神崎士郎の手駒であるモンスター『ガルドストーム』だった。
「まだいたの…?」
 なのはは、今回現れたモンスターは先ほど倒したガルドミラージュだけだろう、そう思い込んでいた。
だが実際は違う。目の前にガルドストームがいるのがその何よりの証明だろう。その油断のせいで羽手裏剣を食らい、動きを封じられる羽目になったのだ。
そのガルドストームが斧を構え、なのはへと走る。
羽が抜けず、固定されたままのなのは。覚悟を決めたのか、目を閉じた。
…だが、斧がなのはの身を裂く事は無かった。
おそるおそる目を開けると、斧を持った虎のようなライダーが…タイガが目の前にいた。
「仮面…ライダー…?」

(さて、どうしようかな…)
 タイガは現在、どう戦うか思案していた。
いつもならフリーズベントやアドベントなどで物陰から不意をついて先制し、そのまま畳み掛ける戦法を使うのだが、すでに姿を現してしまった以上、それは使えない。
かといって、動きを封じられているなのはを囮に使うのは時間がかかりすぎるし、何より彼の『英雄になる』という信念が許さない。英雄は弱者を囮になどしないものだ。
ならば取れる手段はたった一つ。戦斧型バイザー『デストバイザー』やデストクローを使い、真っ向から戦うことのみだ。
思考時間3秒。決まってからの行動は早い。カードデッキから一枚のカードを取り出し、バイザーに装填した。
『STRIKEVENT』

第二十二話『蘇る雷』

「あの人、強い…!」
 羽を抜く作業を続けるなのはは、タイガの実力を見て驚いている。
不意打ちという戦法の影に隠れがちだが、彼自身もライダーの中では強い部類に入る。
カードを装填し、デストクローを呼び出したタイガは、ガルドストームの斧を左のデストクローで受け止め、その隙に右のデストクローで腹を衝く。
ガルドストームも負けじと羽手裏剣を放ち、タイガにダメージを与えようとするが、それは無駄というもの。
羽手裏剣は元々束縛用で威力が低い上、デストクローは盾としても使える大型手甲だ。その程度の攻撃は左のデストクローでたやすく受け止めることができる。
が、これではタイガも攻撃することができない。距離があるので武器が届かないのだ。
ならばどうすればいい?簡単な事だ。手に持っていて届かないなら、手から離して届かせればいい。
それに思い至ったタイガは、右のデストクローを手放し、ガルドストームへと投げつけた。直撃を食らい、よろめくガルドストーム。
その隙を逃さじと一気に距離を詰め、デストバイザーで切り刻む。もはやガルドストームはグロッキーだ。
「じゃあ、さよなら」
 そう言うタイガの声が、聞こえた気がした。
その声とともに、一枚のカードを取り出し、装填する。これだけボロボロの相手に使うカードなど、当事者のタイガや実際に見ていたなのは以外でもとどめ用しか思いつかない。
そして、予想通りの電子音が響いた。
『FINALVENT』
 音とともに、契約モンスター『デストワイルダー』が現れ、爪の間にガルドストームの首を挟んで押し倒す。
それと同時に、先ほど投げたものと同じデストクローを構え、最大の大技『クリスタルブレイク』を放とうとするタイガ。そちらへと駆け抜けるデストワイルダー。
そしてタイガとデストワイルダーがすれ違う。その直後、デストワイルダーの爪の間からガルドストームが消えた。どこに行った?
…その答えはすぐに出た。タイガを…いや、タイガが掲げあげた左腕を見ると、デストクローがガルドストームに突き立てられていた。
そのままガルドストームは貫かれ、爆散。なのはが羽手裏剣の束縛から逃れたのも、ちょうどその時だった。

「あの…ありがとうございます。おかげで助かりました」
 なのはが近づき、礼を言う。それに対し、タイガが返す。
「…女の子が襲われてたから…だから、助けなきゃって」
 典型的な「いい人」の回答である…が、次の瞬間、タイガを発生源とした殺気が膨れ上がる。
その殺気を感じ取ったのか、それとも脳が警鐘でも鳴らしたのかは分からないが、なのはが身構えた。
「でも…よく考えたら、普通の人はミラーワールドから出られないよね」
 そう言った瞬間、タイガがデストクローを振りかざし、なのはへと襲い掛かる。
なのははそれを何とかかわすが、すぐに第二撃、第三撃と攻撃が飛んでくる。
「ゆっくり体が消えていくのは怖いでしょ?だったらその前に、僕が楽にしてあげるよ」

「ん…?」
 海鳴大学病院。金髪の少女が目を覚ます。眠ってしまってから一ヶ月近く経っていて、その間の事は何も分からない。
「ここは…病院?何で私、こんな所に…」
 そう言いながら頭を抱え、記憶をたどる。すると、眠ってしまうことになった日の記憶が出るわ出るわ。
友人の誤認逮捕、いないはずの母の使い魔の存在。そして、母との戦いの結末。彼女の記憶はそこで途切れていた。
とりあえず起き上がろうとするも、足が動かない。あれだけの重傷の上、一ヶ月もの間眠っていたのでは仕方がないかと思うが。
だが、状況は彼女がその事実を認識する暇も与えない。例の金属音である。
もし近くになのは達やライダーがいるならば問題はない。だが、もしいなかったら?そう考えた少女は、自らの相棒を探す。看護婦が気を利かせたのか、ちゃんと首にかかっていた。
「バルディッシュ…行こう」
 そう言って彼女はバリアジャケットを纏い、相棒…バルディッシュを変形させる。
ちなみに、彼女を見ることができる範囲には人がいなかったため、十分変身は可能だ。
バリアジャケットを纏い、窓ガラスからミラーワールドへと踏み込む少女。足は動かないが、飛行魔法を使うことには支障はないようだ。
「待ってて…今行くから」
 そう言うと、少女…いや、フェイト・T・ハラオウンは、モンスターの気配を辿って飛び去った。まるで雷のように。
時は、ちょうどタイガがなのはに襲い掛かった時である。

「ちょっ、待ってよ!私には戦う気なんか…」
「でも消えるのは怖いでしょ?」
 なのはの訴えをタイガは無視し、デストバイザーを振り回す。
先ほどからの攻撃を、なのはは何とか防御魔法で防ぎ、受け流し、フラッシュムーブで避けるという状態が続いている。防戦一方だ。
さらには戦闘から羽手裏剣による束縛、さらに再びの戦闘のため、体力も時間もあまり残されていない。ジリ貧という奴である。
『マスター、むこうは戦いをやめるつもりは無いようです』
「だったら、動けなくしてでもやめさせないと…」
 そう言うが早いか、フラッシュムーブで距離を取り、ディバインバスターの発射体制をとる。
「空を飛んでる…そっか、神崎士郎が言ってたのって君だったのか」
 何を今更。防御魔法やフラッシュムーブを使っているのを見ていただろうに。
それはともかくとして、それが分かった今でもタイガはなのはを殺そうとしている。いくら魔導師でも、ミラーワールドへの出入りは不可能だろうと考えたのだ。
かといってここからでは距離がある。容易には仕留められないだろう。おまけにディバインバスターのチャージ真っ最中である。
食らってはただではすまないというのは、集まってきている魔力光からも判断できたようだ。
ならばどうするか…思案しているときに、タイガの足に何かが当たる。先ほど重いからと放り捨てたデストクローだ。
急いで拾い、先ほどのガルドストームの時と同じように渾身の力で投げつけた。
あまりに急な行動。さらには飛来するデストクローの速度も速く、ディバインバスターをチャージしている最中というのもあって反応は不可能。直撃コースだ。
なのはは今度こそ終わりかと思い、目をつぶった…が、何も来ない。恐る恐る目を開く。
…どうやら神様とやらは、ピンチに誰かが駆けつけるというシチュエーションがお好みのようだ。

「なのは…久しぶり。大丈夫だった?」

 何が起こったのか、一瞬分からなかった。少しずつ落ち着き、状況を分析。
地上にはタイガ。同じく何が起こったか理解できないらしく、呆気にとられている。
なのはに突き刺さるはずのデストクローは、地上へと落下。突き刺さっている金色の魔力刃は、今霧散した。
そして、目の前にいるそれをやったと思われる黒衣の人物は、眠り続けているはずの親友――――
「フェ…フェイトちゃん!」
 その名前を呼んだとき、なのはの目に涙があふれる。
フェイトが目覚める日をどれほど心待ちにしていたか、それを考えれば無理もないだろう。
「ごめん、心配かけたみたいだね」
「ううん、いいの。フェイトちゃんが目を覚ましてくれれば、それで…」
 すっかり二人の世界が出来上がっている。無論タイガは蚊帳の外だ。
それに業を煮やしたのか、フェイトに向かって問いかける。
「…ねえ、君。その子の仲間?」
「…友達だ」
 言い終わるころ、なのははちょっとしたデジャヴを感じたのだが…それはどうでもいいので流すとしよう。
とりあえず、フェイトはそのまま状況を分析。なのはは自分から他者を傷つけることはほとんどないはず。
結論、なのはがタイガに襲われていた。取るべき行動、この場を引き受け、なのはを逃がすこと。
倒すにせよ追い返すにせよ、なのはの粒子化はすでに始まっている。なるべく早くミラーワールドから出さねばならない。
その結論に至り、なのはに言う。
「なのは、あのライダーは私が何とかする。だからその間に逃げて」
 突然の撤退勧告。当然反論する。
「フェイトちゃんを置いて逃げろっていうの?そんなのできないよ!」
「…大丈夫、私は負けない。それに、なのはは粒子化が始まってるんだから急いで出ないと…」
 その言葉に臨戦態勢だったタイガが止まる。
ライダーでもない限り、ミラーワールドからは出られないはずだ。それなのに出ると言っている。
ならば出る手段があるのか?そう思い、聞いてみることにした。

「ひょっとして…ミラーワールドから出られるの?」
 急なタイガの質問に、なのは・フェイト両名が止まる。まさか知らなかったというのか?
…いや、聞き間違いかもしれない。だから聞き返してみることにした。
「…え?」
「いや…もしかして君達、ミラーワールドから出られるの?」
「…うん。一応出入りはできるけど…」
 それを聞き、タイガはバイザーを収め、そのまま近くにあった鏡へと向かっていった。
移動しながら、謝罪の言葉を残して。
「ごめん、てっきりミラーワールドから出られないんだと思ってたから」
 そう言って、タイガはミラーワールドから出て行った。
 …どうやらこの戦いは、ミラーワールドから出られるということをきちんと説明していれば避けられた戦いだったようだ。
それに気付いて一気に気が抜けたらしく、気力が一気に削げた。
「…帰ろうか」「そうだね…」
 そう言って、なのはが入るときに使った鏡でミラーワールドを出た。帰り際にフェイトが見たものを思い返す。
(なのはの所に行くときに見かけたあの鏡…一体なんだったんだろう?)
 フェイトが見かけた鏡。それは人間の全身が映る程度の鏡で、周りには子供がクレヨンで書いたような絵が散乱していた。
…その鏡こそがミラーワールドの中枢にして、モンスターの発生源である鏡『コアミラー』だという事を、彼女はまだ知らない。

「戻りましたか。どうでしたか?」
 香川が部屋に入ってきた東條へと問う。
「モンスターの気配は2体分でしたけど…僕が行った時には1体しかいませんでした。とりあえずその1体は倒しましたけど…」
「ほう…となると、後の1体はどこに行ったんでしょうか?」
「多分…神崎士郎が言っていた魔導師が一人そこにいましたから、あの子が倒したんだと思います」
 そう言って東條は、あの戦いの場で見聞きしたものを香川へと話した。
その中でも香川が興味を示したのは、魔導師がミラーワールドに出入りできるということだ。入れるのはライダーかオルタナティブくらいのものだと思っていたので、その事は非常に興味深い。
「なるほど、ミラーワールドへと出入りできる魔導師ですか。調べてみる必要がありそうですね…」
 そう言うと、オルタナティブのデッキを手に研究室を出た。
念のために言っておくが、ただ自宅に帰るだけである。話によると、この件に絡んでいる魔導師は子供が多いという。
ならばこんな真夜中に動くとは思えない。という訳で魔導師達への接触は翌日以降とした。

 後日、時空管理局と香川研究室との間にとある関連が出来るのだが、それは後述としよう。

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最終更新:2007年08月14日 11:06