魔法少女リリカルなのは Strikers May Cry 最終話「Dance With Devil」
狂気に溺れた科学者と悪魔にその身を堕とした背徳の司祭の邪悪な野望は誇り高き魂を持つ半魔の双生児の力により終焉を迎えた。
スカリエッティの逮捕により機動六課もその役目を終え、その日六課は部隊の解散を迎えることとなる。
はやてによる六課解散の挨拶が終わり、フォワード一同は六課隊舎を眺めながら短くも激しかった記憶を思い起こしていた。
そして隊舎を見つめる4人の中からスバルがおもむろに口を開く。
「六課ももう終わりか~なんだか寂しいね~ティア」
「子供みたいなこと言ってんじゃないわよ」
「う~またひどいこと言ってる~ティアのイジワル~」
「でもまあ…確かに少し寂しいわね。そういえば六課が解散したらスバル、あんたは災害救助の方に行くんだっけ?」
「うん。ティアはフェイトさんの執務官補佐だよね」
六課解散に伴いスバルは以前から入隊を考えていた特別救助隊への入隊が決まり、ティアナはフェイトの下で執務官補佐に就く事となっていた。
「ええ。ところでエリオとキャロはどうするのよ?」
「えっと、僕達はキャロのいた自然保護隊に…」
「却下だ」
エリオがティアナの質問に答えようとした時、その背後に銀髪の影が現れてエリオの返事に割って入る。
「って、ええ!! バージルさん!?」
振り返った4人の背後には六課制服に身を包んだバージルが立っていた。
「えっと…その、却下って一体?」
エリオは自分の希望配属先について突然否定され恐る恐るバージルに聞き返した。
バージルはそのエリオに少し厳しい顔を見せると、エリオの隣にいたキャロにも視線を向けて口を開いた。
「以前聞いたのだが、テスタロッサはお前達の母代わりだそうだな?」
「…はい」
「そうです」
バージルはふと視線をエリオとキャロから移す。
その視線はすこし離れを歩きながら談笑する隊長陣、その中にいたフェイトに向けられた。
バージルにつられて視線を移したエリオとキャロは不思議そうな顔をしてバージルの言葉の真意を測りかねた。
フェイトが母親代わりという事と自然保護隊への移動を否定される話が繋がらない。
バージルはフェイトに視線を向けたまま小さい声でエリオとキャロに語りかける。
「家族で共に過ごせる時間………決して無限ではない、せめてもう少し一緒に過ごしてやれ」
それは過去に家族を、母を突然に奪われたバージルだから言える言葉だった。
小さな声の中にも万感の想いの込められたバージルの言葉にエリオとキャロは彼の不器用なその優しさに胸を打たれる。
「その…はい!」
「分かりました!」
エリオとキャロの事を案じるバージルの言葉に二人は元気よく答える。
その様子を見ていたティアナも亡き家族を思い少し物思いにふける、彼女の横ではスバルが感動的な場面に鼻水まで出して泣いている。
「ぐすっ…うんうん、やっぱり家族は一緒が一番だよ。ずずっ(鼻をすする音)ティア~ハンカチかティッシュ頂戴~」
「まったくアンタって子は…はい」
「ありがと。ち~~ん」
スバルはティアナから貰ったティッシュで思いっきり鼻をかむ(年頃の女の子なんだからもうちょっと上品にしなさい…)そしてバージルにおもむろに話を移した。
「そういえばバージルさんは六課が解散したらどうするんですか?」
「まだ具体的には決めていないが…」
バージルがそこまで言うとスバルはまるで子犬のように目をキラキラさせてバージルの手を掴むとブンブン上下に振る。
「それならそれなら~是非とも私と一緒に災害救助隊に来てくださいよ~!!」
「いや、俺はな…」
「ちょっとスバル! 何を勝手なこと言ってんのよ!! えっと…それならバージルさん…その…私と一緒に…フェイトさんの執務官補佐とかどうですか?」
スバルの強引な勧誘を受けるバージルにティアナが顔を少し赤らめながらそんな事を言った。
「ティアずるいよ~そんなツンデレモードで言ったらポイント高いじゃん」
「何よツンデレって!? 私はバージルさんの事を考えて言ってるのよ!」
「それなら僕達と新しい配属先を探しませんか?」
「待ってエリオ君。バージルさんはまだ嘱託契約の魔道師だからその前に正式に局入りの準備をしないと!」
「そうだね。それじゃあ最短コースで武装局員の士官学校に入って…」
「そんなのダメ~お兄ちゃんは絶対に救助隊~。救助隊向けのレスキュー隊員要請コースに行って私と一緒~」
「バカスバル!! あんたはまたそんな呼び方して…ワガママ言ってんじゃないわよ!!」
「いいじゃん、別にバージルさんは嫌がってないんだし~。ですよね? バージルさん」
「その呼び方は断る」
「あう~バージルさんもイジワルだよ~」
そんなバージル達の下に小さな影が駆け寄って来た。
「おに~ちゃ~ん」
そう言いながらヴィヴィオがバージルの下に駆け寄りバージルに思いっきり抱きついた。
「なんだヴィヴィオ?」
バージルは抱きついて来たヴィヴィオの頭を優しく撫でて聞き返す。
「ヴィヴィオずるい! 私もバージルさんをお兄ちゃんって呼びたい~ナデナデして欲しい~」
「こんのバカスバル!! ちょっとは自重しなさい!!!」
この日もまたティアナの見事な突っ込みがスバルの脳天に決まった。
とりあえずスバルとティアナのドツキ漫才を華麗にスルーしたバージルはヴィヴィオに話を戻した。
「それでどうしたヴィヴィオ?」
「なのはママがみんなをよんでたの」
「高町が? そういえば訓練場に来いと言っていたな。では行くぞお前達」
「「「「はい!」」」」
バージルの言葉にフォワードメンバーは元気よく答える。
訓練場に来たバージル達はそこに咲き乱れる桜吹雪の見事な花弁の雨に目を奪われた。
「見事な桜だな…」
舞い散る桜吹雪にバージルは思わず感嘆の言葉を漏らし、フォワードメンバーもまたその美しい情景に息を飲む。
「卒業式に桜はつきもんやろ~。よ~来たね皆、ささこっちに来てや~」
そこにははやてを含む隊長陣にギンガを加えた6人が待っていた。
「なのはママ~」
ヴィヴィオはなのを確認するとバージルの下から勢いよく駆け出して彼女に抱きついた。
バージルはなのはに抱かれるヴィヴィオを優しく見守りそっと微笑を投げた、その彼にシグナムが声をかける。
「遅いぞバージル」
はやてやなのは達の下にフォワードメンバーが集まり、自然バージルとシグナムは二人きりになった。
桜舞う中でバージルは静かに口を開き、シグナムに問いかけた。
「シグナム……一つ聞きたい」
「なんだ?」
「俺はあの娘に…ヴィヴィオに兄になると言った…」
「らしいな」
「だが血の繋がらぬ…そのうえ半魔のこの俺に…本当にそんな資格があるのか……」
バージルのそんな言葉にシグナムは彼の瞳を真っ直ぐに見つめながら、間を置かずに答えた。
「あるさ」
「随分と簡単に言うのだな」
「ああ………私も今の家族とは血の繋がりはないからな」
「そうなのか?」
「ああそうだ。なあバージル、私はこう思う……」
シグナムは言葉を紡ぎながらフォワードメンバーと話していたはやてやヴィータを一瞥し、その視線をまたバージルに向けて言葉を続けた。
「…きっと家族であることに血の繋がりは関係ない。相手を想う心があれば家族になるのは簡単な事だ」
「………そうか」
「とにかく。そろそろ皆の所に行くぞ!」
シグナムはそう言うとバージルの手を引いて隊長陣やフォワードメンバーの下に向かって歩き出した。
「分かった、だからあまり引っ張るな…」
バージルは困ったように言葉を漏らすがその表情はひどく柔らかいものだった。
「それじゃあフォワード一同整列!!」
フォワードメンバーはヴィータの言葉に一列に並び、なのはとヴィータから今までの成長を褒める言葉を投げかけられる。
「あたしはこの1年間褒めたことなかったが、まあお前ら随分強くなった…」
「…みんな本当に強くなった…もう立派なストライカーだよ」
そんな4人を褒めるなのはとヴィータの言葉におもむろにバージルが口を開いた。
「まったく甘すぎだぞ高町、鉄槌……こいつらはまだ不完全な部分が多すぎる…」
基本的にフォワードメンバーに対してはどの隊長陣より厳しいバージルである、なのは達の賞賛の言葉に口を挟むのかと思われた、だが彼の口から出てきたのは意外な言葉だった。
「だが先の戦いで強大な悪魔を打倒し、その力を調伏した腕前……見事なものだった」
「バージルさん…」
「バージル…お前」
なのはとヴィータはバージルのその言葉に思わず声を漏らす、そして成長した4人にバージルは最高の賞賛と笑顔を見せた。
「胸を張り誇りとしろ、お前達は強い。もはや俺から教えることは何一つ無い!!」
「「「「はい!!」」」」
そのバージルの言葉に込められた想いにフォワードメンバーは涙を堪えて元気よく返した。
「それじゃあ始めようか」
なのははそう言うと何故かデバイスを取り出し、隊長陣も同じくデバイスを取り出し構えた。
「ふえっ?」
その隊長陣の様子にスバルがマヌケな声を上げる、そしてなのははデバイスを構えながら口を開いた。
「全力全開! 機動六課の最後の模擬戦!!」
「リミッターも外れたしな、お前らも相棒持って来たろ?」
ヴィータの言葉に驚愕の覚ましたフォワードメンバーは笑みと共に自身に宿った悪魔の力を解放した。
「行くよマッハキャリバー、ベッキー!!」
「クロスミラージュ、アフターイメージ(影の分身)最初っから飛ばして行くわよ!!」
「ストラーダ、クイックシルバーの時間加速、最高速度で使うよ!!」
「フリード、ケルベロスと融合して行くよ。凍結能力完全解放!!」
白き破壊の魔獣と融合した鉄の拳を持つスバル、意のままに動く影の分身を得たティアナ、加速する時を駆ける高速の槍騎士エリオ、氷結の獄犬と融合し三つ首の氷竜となったフリードを従えるキャロ。
悪魔の力を得た4人の力はもはや隊長陣に脅威を感じさせる程に強大なものへと変わっていた。
「にゃはは…さすがにこれは凄いね」
「まったく…これ反則じゃねえのか?」
「そんな事無いです! 隊長達とは魔力量も戦闘経験も桁が違うんですから!!」
4人の力に呆れるなのはとヴィータにスバルが慌てて反論を入れる、そしてスバルはその視線をバージルに移して話しかけた。
「そうだバージルさん! こっちに来てくださいよ~♪ バージルさんも加わってくれたら絶対勝てますから!!」
スバルは六課最強(機動六課内裏ランキング byシャーリー)のバージルにすかさず勧誘をかけたのだ、その早業は勧誘王と呼ばれたはやても舌を巻くほどだった。
「いや、俺はこちらに付かせてもらおう…」
だがバージルはそう言うと隊長陣の側に立ちフォワードメンバーを一瞥して渇を入れた。
「その悪魔の力、この俺に見せてみろ! 今日は本気で行くぞ!!」
そのバージルの言葉にスバル達はガクガク震えて怯えだす。
「ほ、ほ、ほ、ほ、ほ、本気で戦うんですかああああ!?」
「死ぬ…今日は絶対死ぬ…」
スバルとティアナはもう涙ぐんでいる、本気を出すと言った闇の剣士の戦意に“ストライカーも泣き出す”。
「キャロは僕の後ろに隠れて! キャロが逃げる時間は稼ぐから!!」
「そんな…エリオ君だけ残して逃げられないよ!! そ、それに死ぬなら一緒だから…」
「…キャロ」
「…エリオ君」
フォワードメンバーはもう死ぬ覚悟になっていた、そんな所に気さくな声で銀髪の悪魔狩人が現れる。
「おいおいバージル、子供相手に大人気無えんじゃねえか?」
何故か六課制服を着た(ネクタイ無しでYシャツボタン開けまくり)ダンテがやって来たのだ。
「帰った筈のお前が何故ここにいる? 店はどうした? というかその服はなんだ?」
「それがまだ店の修理は終わってなくってな、今は閉店休業中さ。それに悪魔退治の仕事は同業者の女に取られちまってトマトジュースを買う金も無いと来た。
それをはやてに言ったら“ピザくらいご馳走する”って言うから遊びに来たんだよ。
あとこの服ははやてが“着てみろ”って言うから着てみた」
「そうか。しかしダンテ……お前そんな営業方針でちゃんと仕事になるのか?」
「まあなんとかするさ。ところでまだ店の名前を決めてねえんだけど、なんか良いアイディア無いか?」
そんな兄弟のやりとりを見ながらはやては満足そうな顔をして呟いた。
「やっぱイケメンは何着てもええな~」
その時スバルが満面の笑顔でダンテに擦り寄ってその腕を思い切り掴んだ(ちなみに、ベオウルフと融合して尖った指先が食い込んでかなり痛かったりした)。
「ダンテさん! ダンテさん!! こっちのチームに入って下さい!! 向こうにバージルさんが入って蝶ずるいんです!!」
「いててっ……随分と強引な嬢ちゃんだな。まあ良いぜ。それじゃあ久しぶりに兄弟で遊ぶかバージル?」
「いいだろう。しかしお前の武器は非殺傷設定に出来るのか?」
ダンテの二丁銃と魔剣は非殺傷設定なんて便利なものはない、しかしダンテは意外な答えを返す。
「ああ、それならさっきメガネの嬢ちゃんに専用弾とデバイスとか言うの貰ってよ。それにこっちの魔法とかもはやてに聞いたら大概の基本は覚えたぜ?」
「そうか、しかし随分と用意が良いな。八神お前まさか……」
「その“まさか”や~!! さあダンテさん管理局入って~な♪」
「それじゃあこの試合で勝ったら考えてやるぜはやて」
「よっしゃああ!! この模擬戦は絶対に負けれへんでええええ!! イケメンゲット作戦第二段や!!」
「にゃはは…その話からするとバージルさんの勧誘は第一弾なのかな…」
「その通りや! さあみんなフォーメーション組んで行くで~。一切の抵抗を許さず鏖殺したるんやああ!!」
「はやて今日は絶好調だね…っていうかダメだよ鏖殺は……」
もう止まれないくらいの勢いでハイテンションになっているはやてに、なのはとフェイトが呆れた風に口を開いた。
バージルもそんな盛り上がる六課メンバーの様子に呆れた顔する。
「まったく、これではまるで宴だ」
「いいではないか。最後くらい賑やかな方が楽しいだろう?」
バージルの横に並んだシグナムが随分と楽しそうな顔で語りかけてきた。そのシグナムにバージルは苦笑して返す。
「そうだな……それも悪くは無い」
そんな二人を見たはやてがさらにハイテンションで天元突破した。
「くうおらああああ!! そこは何をイチャついとるんやあああああ!!! っていうかシグナム距離近い!!!
バージルさんと一番フラグを立てとるのは私なんやから勝手に手を出したらあかんのやあああ!!!!(はやて主観)」
はやてはそう絶叫すると、突然何か悪巧みを考えた時の黒~い笑みを見せてさらにこう続けた。
「ええ事思いついたで~。こうなったら模擬戦の内容変更! タッグバトルロイヤルで優勝したらなんでも部隊長特権で叶えたるで~!!
っという訳でなのはちゃんタッグ組んで~♪ 即効最強砲撃で全員撃沈して優勝! そして正式に美形兄弟は私のモンに…ぐふふっ」
はやてが嫌~な笑顔をなのはに向けた時には既に全員のタッグチームは完成していた。
以下タッグチーム。
スバル&ティアナ、エリオ&キャロ、なのは&フェイト、ヴィータ&ダンテ、シグナム&バージル、はやては自然と残ったギンガと組む事となる。
「なんて事やあああ!! 一番しょぼそうなタッグ相手やあああ!!!!」
「ちょっ! それヒドイですよはやてさん!!」
ギンガがはやてのぶっちゃけトークに嘆くなかで、各タッグチームはそれぞれに戦意を燃やす。
「よし! ティアがんばって優勝しよう!! そしてバージルさんは私のお兄ちゃんに!」
「あんたって子は……まったく」
「がんばろうねキャロ」
「うん」
「フェイトちゃんは優勝したらどんなお願いする?」
「そうだな~。それじゃあバージルさんにヴィヴィオの事をよろしく頼もうかな?」
「にゃはは、それはお願いしなくても大丈夫だよ」
「だね」
「よろしく頼むぜ小っちゃな嬢ちゃん」
「誰が小っちゃいだ! まったく本当にお前バージルの兄弟なのか?」
「まあな。でも俺の方が二枚目だろ?」
「付き合ってらんねえな…」
「なんか他のタッグチームの方がキャラ立っとる。これはもう勝てへんな~」
「私ってそんなにキャラ弱いですか……天国のお母さん、それでもギンガは負けません!」
まるで愉快なパーティーのように姦しく騒ぐ六課メンバーとダンテを見てバージルは微笑を浮かべて呆れ返る。
「まったく本当に騒がしい……」
そんなバージルに彼の横に立っていたシグナムが笑顔で返す。
「確かにな…まあダンテではないが、ダンスパーティーと言うのも悪くないだろう? それとも私がダンスの相手では不足か?」
「お前以上のパートナーはいないだろうな………ではシグナム、俺とお前の剣舞を存分に見せてやるとするか!」
「みんながんばれ~」
ヴィヴィオがそう言うと同時に、ひどく愉快で騒がしい最高のダンスパーティーが始まる。
その楽しき舞踏に魔剣士と烈火の将は肩を並べて笑い合っていた。
Epilogue 「Crazy Wedding」
機動六課が解散してしばらく時が経ったある日、聖王教会本部にある小さな礼拝堂。
そこである男女の婚礼の儀つまり俗に言う結婚式が執り行われていた。
少年は着慣れないタキシードを着込み、少女もまた着慣れないドレスに身を包んでいた。
「キャロ、ドレスよく似合ってるよ」
「そうかな……そう言うエリオ君もタキシード似合ってる、カッコイイよ」
「えっと…ありがと」
互いに顔を赤くしながらそんな会話をするのは、六課解散時よりほんの少し成長したエリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエであった。
元六課隊長3人なのは・フェイト・はやてそしてヴィヴィオは同じテーブルに座り。この祝いの式を楽しんでいた。
「まさか“あの二人”が結婚するとはね~」
「以外だったよね」
ドレスを着たなのはとフェイトが新郎新婦について語るそして同席していたはやてはひたすら酒を喰らっていた。
「先越された~先越されたで~ウイ~ヒック。なんでこの超美少女に彼氏の一人もおらんっちゅうねん~」
「うわっ…はやてちゃんもう出来上がってるよ」
「ははは(最高に乾いた笑い)…まあはやてらしいよね」
「でも“あの二人”っていつから付き合ってたのかな? フェイトちゃんは知らない?」
「私も詳しくは知らないんだ。でも結構デートとかしてたみたいだよ」
「そうなんだ」
「ウイ~それだけやないで~ヒック」
完全に酔っ払い親父と化したはやてがグラス片手になのはとフェイトの会話に割って入った。
「“あの二人”結構お泊りとかしとったんやで~。エロエロや~“あの二人は”エロエロ妖怪や~」
「なのはママ、エロエロってなに?」
「まあ…その…ヴィヴィオは知らなくて良い事だよ。はやてちゃんお酒はもうそのくらいで…」
「うるさいわ~これが飲まずにいられるか~」
はやてがそんなバカ騒ぎをしている中、ふとフェイトは祭壇の前の新郎新婦に目を移した。
「でも……確かに幸せそうで妬けちゃうね。ちょっと羨ましいかな」
「うん、“二人”とも凄くお似合いだよ」
「ヴィヴィオもけっこんしたい~♪」
「確かにな~やっぱ祝ったらんとな~ひがんでる場合とちゃうわ」
「その通りだよはやてちゃん。でも…」
なのはは視線をまた祭壇の新婦に向けて呟いた。
「……本当に綺麗だね“シグナムさん“」
教会礼拝堂の祭壇の前に男、バージルは立つ。
いつもは軽くかき上げた銀髪を整髪料でオールバックにして整え、婚礼用の白いタキシードに身を包んでいる。
管理局制服やいつもの青いコートも似合うバージルだが、その白いタキシードを着た姿は一段と凛々しく。
どこぞの王族や貴族であると言われても誰もが否定できぬ程に威厳と気品に満ちた眩しさを放っていた。
そんなバージルの顔はいつも通りの端正な表情だが、付き合いの長い人間ならば彼がそれなりに緊張していると分かるだろう。
常に冷静なバージルもこの日ばかりは身体に走る緊張を抑えるのに必死だった。
そのバージルの目の前に対するように女、シグナムは立つ。
常の彼女を知る者にその姿が信じられようか。
シグナムはいつもポニーテールに纏めていた髪をストレートに下ろし、花嫁にのみ着用を許された純白の衣装ウエディングドレスに身を包んでいる。
そして緊張と不安と恥じらいそして何より喜びにその頬を朱に染めていた。
ヴェール越しに見えるその顔は儚さすら感じる程の美しさである。
花嫁をよく天使に例えるがシグナムにその表現は似合わないだろう、恥じらいの中にも気品を持つ彼女の姿はむしろ女神とすら呼べるものだった。
そしてその二人が今、教会司祭の言葉と共にそっと唇を交わそうとした………
その刹那、突然礼拝堂のステンドグラスが砕け散り異形の怪物が飛び込んで来た。
「ぐはははっ! やっと見つけたぞスパーダの息子! 俺は魔界108大悪魔の一人グロンギ! 今日こそ貴様の命を頂くぞ!!」
その悪魔はご丁寧に人語で語ると周囲に部下の下級悪魔を大量に呼び出す。
普通の人間なら怯え逃げ惑うところだろうだがその悪魔の襲撃に式に参列していた元機動六課組や管理局員の反応は早かった。
「ベッキー全力全壊で行くよ」
「影の分身の力、たっぷり味合わせてやるわ」
「クイックシルバー発動!」
「ケルベロス融合!! フリード、全力で行くよ!!」
機動六課元フォワードメンバーが以前よりさらに力を増したその悪魔の力を解放、さらに隊長陣も負けじとデバイスを起動した。
「出番の無かったウサをここで晴らす!! 行くよレイジングハート!!」
「それじゃあ私も。バルディッシュ、プラズマザンバー最高出力で行くよ!!」
「何か知らんけど。とにかく大暴れや~。リィン、融合して行くで~」
「まあ、みんなホドホドにな…やるかアイゼン」
元機動六課のメンバーはシャマルやヴァイスを含めた人間まで殺る気マンマンで全力全壊の戦闘体制を準備している。
さらに礼拝堂のドアを蹴破って新郎と同じ顔の銀髪に赤いコートを着た悪魔狩人が銃やロケットランチャーを持った金髪やら黒髪の美女を引き連れて現れた。
「こりゃまた派手な結婚式じゃねえか。悪魔にも招待状送ったのかいバージル?」
「タダで悪魔狩りなんて気が進まないけど。せっかくの祝いの席なんだし派手に行くわよダンテ」
「それはいいわねえ、それじゃあ私もちょっと本気で殺ろうかしら?」
「ノリノリじゃねえかレディ、トリッシュ。それじゃあ楽しいウェディングパーティーと行こぜ Let's party!!!!」
その様子にバージルはヤレヤレといった具合にこめかみを押さえて溜息を吐く。
「ふうっ。まったく、どうして最後まで静かに終われんのだ…」
溜息まじりのバージルの言葉にシグナムは不敵な笑みを浮かべながら返した。
「せっかく魔界から来たのだ。せいぜい歓迎してやろう」
「そうだな。祝儀の代わりは命で払ってもらおうか」
そのバージルとシグナムの下に融合機アギトが二人の得物を持って飛んできた。
「シグナム~、バージルの旦那~。受け取りな」
バージルとシグナムはアギトの言葉と共に投げ渡された閻魔刀とレヴァンティンの刃を即座に翻し悪魔達に向けた。
「時間が惜しい、10分で終わらせるぞ」
「10分? 1分の間違いだろう?」
その言葉にバージルとシグナムは顔を見合わせると互いに苦笑した。
そして二人は炎の魔剣レヴァンティンと魔を喰らう妖刀閻魔刀の双刃と共に剣舞を舞い始めた。
これは伝説の序章、後に数多の次元世界で語り継がれる英雄の物語。
家族を失った悲劇に心を闇に堕とした魔剣士は魔道の栄し世界へと下り立ち、夜天の王とその仲間達に出会った。
烈火の将の熱き心と無垢なる少女の慟哭に優しき人の心を取り戻した魔剣士は将を生涯の伴侶として永く人々の為その剣を振るったという。
人々は彼をこう呼び称え敬った“伝説の魔剣士バージル”と。
終幕。
最終更新:2008年04月29日 02:20