「リボルバー…シュゥゥゥゥト!!」
 リボルバーナックルから作り出した衝撃波『リボルバーシュート』が由美江を襲う。
どう見ても直撃コースだ。さらにウイングロードで離れた際に出来た隙もある。これは誰でも当たったと思うだろう。
「これで倒れててくれればいいんだけど…」
 リボルバーシュートで巻き起こった土煙が晴れる。そこにはダウンしている由美江の姿がある…はずだった。
「…いない!?」
 そこに由美江らしきものは存在しない。あったのは、残ったわずかな煙と衝撃で多少抉られた地面のみ。
慌てて周りを見るスバル。そしてスバルがその目に捉えたのは…
「おぉぉぉぉぉッ!!」
 ウイングロードを駆け上がり、斬りかかってくる由美江の姿。
かわそうとするがもう遅い。すでに由美江の刀の間合いだ。
「島原抜刀居合…震電!」
 一撃必殺の切れ味を持つ縦の一閃『震電』がスバルを襲う。
この技はかつてテロリストを殲滅した際に、ホテルのドアごと一人真っ二つにしたという逸話が残る技。それが放たれた。
苦肉の策で左腕を使い、防ぐ。だがただの人間なら、この程度では到底防ぎきれない…『ただの人間』なら。
「硬い…!?まるで金属だ」
 そう、金属並に硬いのだ。血は出るし痛みも感じるが、硬い。それこそ金属が仕込まれているかのように。
よほどの業物と腕前がないと、金属を切ることは難しいだろう。そして由美江は腕前はともかく、刀は無銘。金属を斬ることは叶わない。
そしてそのときに出来た一瞬の隙を突き、右足で蹴り上げる。運よく手首に命中。刀を落とした。
刀を回収しにウイングロードから飛び降りる…直後、決着がついた。
「一撃必倒!ディバイィィィィン…」
 由美江の上から何か声がする。刀を回収したところだというのに、多少やかましいと思い、上を見ると…
いつの間にかカートリッジロードを済ませ、魔力スフィアを拳の前に作り出したスバルがいた。しかも由美江めがけて落下してくる。
刀を構え、迎撃しようとするが時すでに遅し…
「バスタァァァァァァ!!」
 スバルの持つ最強クラスの攻撃魔法『ディバインバスター』が炸裂。しかも零距離。
当然逃れることなどかなわず、ディバインバスターと拳が直撃。あえなくK.O.
非殺傷設定は切っていなかったが、それでも物理的な傷がつかないだけで衝撃はある。最悪ショック死しかねない程の強い衝撃だったのだが…
それでものびているだけで済んだのは、相当鍛えている証拠だろう。まあそれでも当分は起きないだろうが。
「ふぅ…あれ?あそこにいるの…インテグラ卿?」

第三話『ANGEL DUST』(3)

 ゴリッ…ゴリッ…ゴリッ…
「クク…クック…クハッ…」
 誰かの笑い声がする。それと平行して、何かを切るような音もする。
 ゴリッ…ゴリッ…ゴキンッ
 音が変わった。何かを切り離したような音。
音源の方へと目を向けてみる。アンデルセンがアーカードの首を持っていた。
…つまり、先程からの声と音は、大喜びのアンデルセンがアーカードの首を切り離していた音だったのだろう。
「これが、こんなものがHELLSINGの切り札?まるでお話にならない」
 そして次なる獲物…ティアナの方へと向き直る…が、いない。
倒れているハインケルが視界に入る。それを見てすべてを理解した。
「ほう、ハインケルを倒すとは…どうやらあの娘を少し甘く見ていたようだ」
 アンデルセンはそう言うと、再びバヨネットを取り出し、ティアナが逃げたと思しき方向へと歩き出す。もう何本出そうと驚かないだろう。

 時間は少し遡る。ティアナとハインケルの戦闘の結末、そしてどこへ向かったか。
ティアナは持久戦へと持ち込む算段だった。アーカードが負けるとは思えない。ならば時間は十分ある。そう考えたのだ。
対するハインケルは、そろそろ銀弾の予備が尽きかけている。
「…あれ、使うか」
 ハインケルは切り札の使用を決めた。左へと跳び、右の銃をしまう。
そして空いた右手に別の銃を持ち、構えた。先程までの拳銃と比べ、多少大きめの銃だ。
それをティアナへと向け、放つ。先程までと同様に魔力弾で撃ち、撃墜したが…それがまずかった。
着弾と同時に弾が爆発。そう、切り札の弾は炸裂弾…着弾と同時に爆発する弾丸だったのだ。
煙と爆炎がティアナの視界を奪う。次に気配に気付いたのは至近距離。ティアナの目の前に、拳銃を構えたハインケルがいた。
吸血鬼の聴覚ならば、足音にも気付けたはず。だが、爆発の際に轟音も鳴り響いたので、そのせいで足音を聞き取れなかったのだ。
そしてとどめの銃弾を放つべく、引き金へと手をかけるが…ティアナは既にその対抗手段を用意していた。
「クロスミラージュ、モード2」『Set up. Dagger Mode.』
 命令とともにクロスミラージュに変化が起こる。
少々の変形した後、先端から魔力の刃が現れる。魔法の銃剣といったところだろうか。
モード2『ダガーモード』へと姿を変えた右のクロスミラージュを振るい、ハインケルの銃を弾き飛ばす。
そして一瞬だけ隙が出来た。それを利用し、左のクロスミラージュで魔力弾を2発、3発とクリーンヒット。
そして再び通常モードへと戻し、狙い撃とうとするが…

 ドカカカカカッ!!

 鳴り響く衝撃音。驚き、二人同時にその方向へと向き直る。その方向には…
「マスター…?」
 無数のバヨネットで貫かれ、磔にされているアーカードの姿が。
「マスターーッ!!」
 あのアーカードが斃された。目の前で起こった出来事が信じられず、困惑。
何とかそれを飲み込んだと思ったら、次に来たのは恐怖。あのアーカードを倒した相手。自分なんかでは歯が立たずに殺される。
そしてとった行動は…逃亡。脱出し、インテグラへの報告を優先すべきだという理由を脳内で構築し、走り去った。
「まっ、待…て…」
 ハインケルもそれを追おうとするが、先ほどの魔力弾のダメージがある。それも今すぐ気絶してもおかしくない程のダメージが。
…死んでいないのは由美絵同様、相当鍛えていたからだろうが、それでも限界はある。
帰ったら労災を請求しよう。その思考を最後にハインケルの意識がブラックアウトした。

 そして今に至るというわけだ。
炸裂弾のダメージと恐怖でふらふらになりながらも廊下を走るティアナ。それでも歩みを止めないのは、やはり死が恐ろしいからか。
…そして歩みを止めない彼女の目の前に、何かが飛来して壁に突き刺さる。
「!! マ…マスター!」
 それは先ほどアンデルセンに斬り落とされたアーカードの首。バヨネットで額を貫かれ、そのバヨネットの刃が壁に突き刺さったのだ。
そしてアーカードの額を見て、悟った。奴が…あの男が来るという事を。
「どこへ行こうというのかね?どこにも逃げられはせんよ」
 廊下の向こうから、今一番聞きたくない声。それに続き、やけに軽い足音。
「Dust To Dust(塵は塵に)…塵にすぎないお前らは塵に帰れ…AMEN」
 あの男が…アンデルセンが近づいてくる。両の手にバヨネットをたずさえて。
慌てたティアナはアーカードの額からバヨネットを抜き、アーカードの首を持って再び逃げる。
(逃げなきゃ…逃げなきゃ…ッ!ここから逃げて、インテグラ卿に報告しないと…)
 自分では到底敵わない。逃げなければ殺される。その思いが体を支配した今のティアナには、戦うなどという選択肢は無い。
玄関の場所を思い出しながら、急ぎ走る。ここから脱出するために。
「ははははははははっ、逃げろ逃げろ吸血鬼!はははははは」
 その一方、アンデルセンはあくまで楽しみながら追う。彼にしてみれば久しぶりの吸血鬼狩りで興奮しているのだろう。
そうこうしているうちに玄関を発見。急ぎ脱出しようとするが…
 バシィッ!
 まるで見えない壁があるかのように、ティアナを弾き飛ばす。
何が起こったかわからず、吹き飛ばされるティアナ。そして玄関口に貼られているものを見て青ざめた。
「え…まさか、結界!?」
 そう、貼られていたのは対吸血鬼用の結界。吸血鬼のような存在は、その結界を通り抜けるなど不可能。
「よく知っているな…ならばお前達夜の勢力共(ミディアンズ)にそれを突破することは不可能だということも知っているな?
おとなしく皆殺しにされろ、『化け物』」
 ここに結界がある。ということは、おそらく家中に結界が張られているのだろう…
周りを見渡すと、思った通り家中の扉という扉、窓という窓に結界が張られていた。逃げることは不可能。
チェーダースの時は意識する前に吸血鬼になったため、さして感じなかった死への恐怖。それが今は何よりも強く感じられる。
ティアナの頭の中が『殺される』の四文字で埋め尽くされようとした…が、その時に響く声。
(慌てふためいている場合か魔導師A)
 そう、死んだはずのアーカードの声が。
驚き、手元にあるアーカードの首を見ると…ドロドロに溶け出している。傍から見ればスプラッター以外の何物でもない。
床に落ちたアーカードの首が砕け、液体となる。そして先ほどまで首だった液体が文字を紡いだ。
文字は英語だったが、幸い英語とミッドチルダ語は酷似していたため、ミッドチルダ人のティアナでも読める。
『私の血を飲め。そうすればお前は使役されるだけの吸血鬼ではなくなる。本当の意味での我々の一族となるのだ。
自分の意思で血液を喰らい、自分の力で夜を歩く不死の血族(ノーライフキング)に。
私の血を飲め魔導師…いや、ティアナ・ランスター!』
 ちょうど読み終えたころ、ティアナの背後…手を伸ばせば届くような距離に、あの男が…アンデルセンがいた。
「終わりだ」
 バヨネットを構え、交差させ、ハサミでも扱うかのように首を落とそうとする。

 ドォン!
 一発の銃声。それは正確にバヨネットの交点を穿ち、へし折った。
「その子はうちらの身内だ。何をしてくれるんだアンデルセン神父!!」
 銃声の方向から人の声。そちらを見ると、硝煙を吹き出す銃を構えた金髪の女性が…インテグラがいた。
「HELLSING局長サー・インテグラル・ウィンゲーツ・ヘルシング…局長自らお出ましとはせいの出ることだな」
 インテグラから遅れて、二人の黒服の男が入ってきた。彼らがインテグラの護衛である。
「アンデルセン神父…!これは立派な協定違反だぞ!ここは我々の管轄のはずだ!!
すぐに退きたまえ!でなければヴァチカンとプロテスタントの間で重大な危機となる!いくらあの13課とて、こんな無理は通りはしない!!」
 それを聞いていたアンデルセン。だが退く気はさらさら無い。
「退く?退くだと?我々が?我々神罰の地上代行者、イスカリオテの第13課が?」
 アンデルセンが服の下からバヨネットを取り出す。ここにしまってあったのだろうが、それでもあの量だ。かなりの重量になるはず。
それでアーカードを討ったという事実に、今更ながらティアナが震える。
「なめるなよ売女(ベイベロン)。我々が貴様ら汚らわしいプロテスタント相手に退くとでも…」
 バヨネットを構え、走り出す。
「思うかァァァ!!」
 慌てて護衛達が銃を構え、撃つ。だが相手は再生者。弾丸などものともしない。瞬く間に護衛の一人の首を落とし、もう一人の腕を落とした。
当然アンデルセンの事だからそれで終わりではない。その護衛の首を落とし、そのままインテグラに斬りかかる。
インテグラは自身の腰に携えたサーベルでバヨネットを受け止め、そのまま鍔迫り合いの様相となった。
「生物工学の粋をこらした自己再生能力(リジエネーション)!同時に回復法術(ヒーリング)か…ッ化け物め!」
「お前ら揃いも揃って弱すぎだな。話にならん。
貴様らご自慢のアーカード!首ィ落として縊り殺してやったぞ?」
 それを聞き、驚いた様子を見せるインテグラ。だがそれはすぐに不敵な笑みへと姿を変えた。
「首を落とした?それだけか?」
「な…に?」
 それを聞き、驚くアンデルセン。刹那、二方向からのカートリッジロードの音。
「インテグラ卿から手を離しなさい…化け物!」
 そう言うと同時に、そのうちの一方向の音源…ティアナの周辺に3つの魔力弾。そして…
「クロスファイア…シュート!」
 クロスファイアシュートがアンデルセンへと飛ぶが、回避される。だが、それこそがティアナの狙い。
「今よ、スバル!」
「おぉっ!リボルバー…キャノン!!」
 インテグラが来た際、近くにいたスバルからティアナへの念話が届いていた。何とか隙を作ってくれという内容の念話である。
ティアナはその念話に従い、隙を作るためにクロスファイアシュートを発射。思ったとおりかわされるが、僅かとはいえ隙ができる。
そして、たった今本命の打撃魔法『リボルバーキャノン』がアンデルセンへと叩き込まれた。
常人ならショック死してもおかしくない程の衝撃だが、アンデルセンには少しだけ後ずさる程度のダメージしかない。
「お前に勝ち目は無いぞアンデルセン。おとなしく手を引いたほうが身のためだ」
 戦力が揃う。相手は化け物だがこちらは3人。インテグラがその事を言っているのかと思い、アンデルセンが鼻で笑い飛ばす。
「何を馬鹿な。お前らをまとめて今…」
「なら早くすることだ。モタモタしてると…縊り殺したはずの者がよみがえるぞ」
「なに?」

 同時刻、アーカードの亡骸は…少しずつ姿を変えていった。
少しずつ、流れた血も含めたアーカードの全てが。無数の蝙蝠へと姿を変える。
『飲まなかったのか。バカ者め』
 その蝙蝠たちは少しずつ、インテグラの元へと飛び立つ。距離が距離なのですぐにたどり着き、そして一箇所へと集まる。
「首を斬った?心臓を突いた?そこいらの吸血鬼と彼を一緒にするなよ。そんなモノでは死なない!
貴様が対化物法技術の結晶であるように、彼はヘルシング一族が100年間かけて作り上げた最高のアンデッド…吸血鬼アーカード」
 体中を串刺しにされ、壁に磔にされ、そして首を落とされたアーカードの亡骸だったものは無数の蝙蝠へと姿を変え、一箇所へと集まり…ある吸血鬼の姿を形作った。
その吸血鬼が…アーカードが床へと降り立ち、そして歯を見せてニィッと笑う。
何が起こったかわからず、混乱して声も出ないティアナとスバル。そしてそれを尻目にアンデルセンへと最後通告を行うインテグラ。
「さあどうする!アンデルセン!!」
 それを聞いたアンデルセンは…バヨネットをしまい、微笑んで言う。
「なるほど、これでは今の装備では殺しきれん…また会おう、HELLSING」
 そう言うとアンデルセンは聖書を開き、その聖書のページを周囲へと撒き散らし、纏う。
「次は皆殺しだ」
 聖書のページが飛んだ。そしてページが無くなった頃には…アンデルセンはいなかった。
ちなみに誰も気づいていないが、ハインケルと由美江も一緒に消えていた。
緊張の糸が音を立てて切れ、座り込むティアナ。そしてティアナに駆け寄るスバル。
それを無視し、インテグラがアーカードへと話しかける。
「大丈夫か、アーカード」
「首をもがれたのは久しぶりだ。あれがアンデルセン神父か」
「協定違反による越境戦闘、機関員に対する攻撃・殺傷行為。ヴァチカンに対する十分な貸しになる」
 そして笑顔だったインテグラの顔が一気に引き締まる。
「しかし、今は連中と争っている場合ではないんだ。ここの吸血鬼も調べてみればそうだと思うが、重大な事がわかった…
で、アーカード…彼女たちはどうなんだ?少しは使えるようになったか?」
 インテグラの言う彼女たち…言うまでも無くティアナとスバルだ。
HELLSINGに出向になってしばらく経つが、少しは対吸血鬼戦闘で使い物になるようになったか。インテグラはそう聞いた。
「ああ、魔導師コンビ?普通だ」

「あの女ァ…!」
 一方ここはフェルディナントルークス院。先ほど退却してから、ここへと戻ってきていた。
現在こちらでは、由美江が非常にお怒りである。理由は言うまでも無い。スバルだ。
「確かスバルとか言ったな…いつかあたしが殺してやるよ…」
 後々まで続く因縁の出来上がりである。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年08月14日 11:11