「アローアロー、もしもしあんちゃん聞こえてるー?
アーアーこちらHELLSINGブッ殺し大軍団長ヤンでーす。オーイエー」
 ヤンが携帯電話を手に、兄のルークへと報告している。
現在地は2階、警備室。周りには血の海と死んだHELLSING局員が存在している。
「こっちは1F、2Fの制圧はほぼ終了ー。
あとは3階指揮中枢、円卓会議場に突っ込んで、アホ女とバカジジイ共をブッ飛ばすだけでスよ」
 ヤンの報告によると、1階と2階は壊滅状態。グールの軍勢によって占拠されている。
そこにいたHELLSING局員は…当然のごとく皆殺しにされ、ヤンとグールの餌にされた。
そして報告に対し、ルークの返答が返ってくる。
『そのまま状況を進行しろ。決して気を抜くな。俺はこれから地下階に向かう』
 そう言ってルークは電話を切った。ヤンもそれに合わせて再び行動を開始する。
切られた電話の向こう側で、ルークがこう呟いていた。
「さて、貴様の能力、確かめさせてもらうぞ。吸血鬼アーカード」

第四話『DEAD ZONE』(2)

 一方その頃、円卓会議室では。
「一体これは何だ!?どういう事だ!?説明しろインテグラ!」
 ペンウッドがインテグラへと詰め寄る。彼は臆病なので、この状況が恐ろしいのだろう…いや、臆病でなくとも恐ろしいが。
その剣幕にも動じず、インテグラが答える。
「敵が来ます。しかもすぐにも。一階二階は制圧され、我々に逃げ場はもうありません」
「そんなことを聞きたいんじゃない!どうするのだ!?この責任は…」
「ペンウッド卿、今はそんなことを言っている場合ではない」
 インテグラにさらに詰め寄るペンウッド。だがアイランズがそれを制し、さらに言葉を紡ぐ。
「もしその時が来たら、自分のみは自分たちで防がねばならんということだ。
そうだな?インテグラ」
「Ja.」
 現在の状況が理解できていたのは、円卓メンバーではインテグラとアイランズだけだったようだが、この言葉で全員が状況を理解した。
だが、ペンウッドはグール相手では勝てないと思い込み、未だに気弱な発言を繰り返す。
「あ…相手は不死身のグールじゃないか!無茶苦茶だ…どうせ…どうせみんな死ぬんだ…」
 ペンウッドの言葉で意気消沈しかけていた円卓会議室。だが…ペンウッドの頭上の通風孔の蓋が突然動き出し…外れた。
蓋が外れた通風孔からスバルが現れ、顔を出す。ちなみに蓋は落下し、そのままペンウッドの頭に直撃。スバルも多少驚いているようだ。
「スバル!」
「えーっと…すいません、遅くなりました」
 驚いているインテグラに遅くなったことを謝り、通風孔から出ようとするスバル。だがマッハキャリバーのローラーが引っかかったのか、出られない。
マッハキャリバーをセットアップさせた状態だったのは、万一を考えてのことだったのだが…それが仇となり、引っかかって出られない。
何とか出る努力をした結果、出ることはできたのだが…勢いよく飛び出してしまい、着地にも受け身にも失敗。ついでに言うとローラーがペンウッド卿の頭を直撃。
スバルが出た後、ティアナ、ウォルターの順に通風孔から出て着地。ちなみにのびているペンウッド卿は完全無視。哀れペンウッド卿。
そしてウォルターを見たインテグラが、状況を問う。
「ウォルター、下の状況はどうだった?」
「守備隊はほぼ壊滅してしまったようです。地獄絵図ですな、まるで。
誰もグールに武装をさせて組織的に行動させようなどと考え付きませんでしたから…どこの誰か知りませんが、やるものですな」
「ウォルター、率直に聞く。我々はもうおしまいか?」
「ノー!ありえません!一世紀前の初代ヘルシング卿に比べればこの程度、ピンチの内にも入りませんぞ」
 そう言うと、ウォルターが不敵な笑みをし、作戦を話す。
「地下階からアーカードが、そして3Fから我々が迎撃…いや、出撃いたします。
お嬢様のご命令通り、一匹たりともこの館から生かして帰しませんぞ。
あの小僧に我々の授業料がいかに高額か、教育してやりましょう」

「あーアーアームカつく。ほんとーにムカつく、本当。英国は貧富の差が激しすぎるんだよなー」
 一方ここはインテグラの私室。グールの軍勢を引きつれたヤンが陣取り、インテグラの葉巻を一本吸っている。
「いい葉っぱ使ってやがんなァ。ブルジョアーっつうのか?ブルジョアジーッ」
 葉巻を吸いながら歩き出し、部屋のドアを蹴破りながら進む。
「あの女だきゃあ簡単に殺すだけじゃダメだな」
 そう言いながらも進む。円卓会議室へと進む。グール軍団を連れて進む。
「犯して殺して、もっかい死体を犯してやらあ。
HEY、豚共(ピッグ)をズタに放り込んで一発で終わり。骨までしゃぶって夕げのおかずで一巻の終わり」
 歌いながらヤンは進む。円卓会議室へと進む。そこから何かが現れたのを見て止まる。
影がゆらりと動く…そして葉巻が真っ二つになり、後ろにいたグールが一体両断された。
何が起こったかわからず、驚いて口から葉巻を落とした。
「外したか…やはり昔のようにはいかないものだ」
 先ほどの影が近づいてくる。グールの血をまるで糸のように纏って…いや、血のついた糸だろうか。
驚いて固まっているヤンに対し、先ほどの影…ウォルターが名乗った。
「ウォルター・クム・ドルネーズ。ヘルシング家執事。元HELLSINGゴミ処理係…行くぞ」
 そう言うと、手袋に付いた鋼線を振り上げた。
ヤンはそれに対し、グールへと攻撃命令を出す。それに従ったグール達が銃を構え、一斉射撃を仕掛けた…
が、この程度の攻撃など、ウォルターには当たらない。一斉射撃の連射といえど、グールの攻撃に当たるほどウォルターの実力は衰えてはいない。
素早く近づき、鋼線を数体のグールへと巻きつける。
「のろい!やはりグールはグールですな。
グールの頑強さに目をつけたのはいいアイデアですが…これでは!不死身の無敵軍には程遠い」
 そう言うと同時に、鋼線を引っ張るウォルター。それと同時にグールの体に鋼線が食い込み、そしてバラバラに解体した。
「小便はすませたか?神様にお祈りは?部屋のスミでガタガタふるえて命ごいをする心の準備はOK?」
 ウォルターは相変わらず不敵な笑みを浮かべている。対するヤンも汗を垂らしながら笑う。
「フヘハ…ハハハヒヒヒハハアァハアハハハア…そうそう、そうこなくっちゃなァ。
楽勝すぎてつまんねーと思ってたトコなんスよジイさん」
 そう言って、ヤンが指を鳴らす。それを合図にグール達が盾を前に出し、銃を構える。
「行進!」
 ヤンの掛け声にあわせ、グール軍団が前へと前進する。
ウォルターもそれに対抗し、ドアの影に潜むティアナに合図を送った。
「ティアナ嬢、直接火砲支援(ダイレクトカノンサポート)開始!」
「ヤ…Ja.」
 ドアの影からティアナが返事を返す。ヤクトミラージュは現在通常モードのため、直接銃撃支援(ダイレクトガンサポート)とでも言うべきだったのだろうが…それは置いておく。
「行くわよ、クロスミラージュ」
『マスター、今の私はヤクトミラージュです』
「…っと、そうだったわね」
 そういったやり取りの最中にも、ヤクトミラージュを前方へと構え、カートリッジロードを行う。
それにより周囲に魔力弾を作り、そして…
「クロスファイア…シュート!」
 クロスファイアシュートとして魔力弾を飛ばす。それらは一撃でグールの盾を破り、その向こう側にいたグールを吹き飛ばすほどの威力だった。
…まあ、吸血鬼となった今の魔力と、見るからに強力そうになったヤクトミラージュ(某デビルハンターの銃を大型化したような感じだが、どうでもいいので置いておく)を見れば納得もいくだろうが。
…隣のドアの影から、唖然とした表情でスバルが見ている。まあ、これ程の威力を叩き出したのだから驚くのも無理はないが。
「第2射!スバル嬢、目標は敵戦列中央!使用魔法『ディバインバスター』!」
「…ヤ、Ja!」
 唖然とした表情のままだったスバルも、ウォルターの指揮でようやく目が覚めたらしい。すぐにチャージし、構え、そして…
「一撃必倒!ディバイィィィィィン…バスタァァァァァァァ!」
 敵戦列の中央に、渾身のディバインバスターを放つ。
シャーリーによる出力強化と、さらに教会の法儀式により、この程度の化け物軍団相手ならたやすく吹き飛ばせるようになっている。
事実、ここまでの攻撃でグールの大半が吹き飛んだ…だが、ヤンはグールの死体を足場にし、ウォルターへと飛びかかって強烈な蹴りを放った。
当のウォルターは蹴りを回避したものの、吹き飛んだ壁の残骸に道を塞がれ、動けない。
…そして、ヤンがウォルターに近づき、グレネードランチャーを突きつけた。
「ジジイ、くたばれ」
 そしてウォルターにグレネードを撃ち込もうとするが…それは阻止された。
スバルがヤンに近づき、腹に全力の蹴り。さらに…これは意図していなかったが、命中と同時にマッハキャリバーのアクセルが全開になり、結果車輪がフル回転。
ヤンが腹を押さえてのた打ち回っているところに、ティアナが接近。両手両足にバインドをかけ、動きを封じた。ちなみに右肩の間接が極まっている。
「いッいたッ、痛痛痛痛ーーーーッ!なん…なんだコラァー!!」
「大丈夫ですか?ウォルターさん」
「いやはや、昔のようにはいきませんなァ」
 バインドで間接が極まって痛そうなヤンを尻目に、ウォルターを心配して声をかけるスバル。それに対して答えを返すウォルター。どうやら心配は要らないようだ。
「何が目的だ?これだけの軍、お前だけでは準備できまい。後ろで誰が糸を引いている?」
 ウォルターからの尋問が始まった。だがヤンは答える気などさらさら無いようだ。
「俺のケツにキスしたら教えてやるぜ、老いぼれ!」
 答える気が無い。そう理解したウォルターはヤンの右手を踏み砕き、再び聞いた。もはや尋問から拷問に変わっている。
「もう一度たずねる、小僧。次は左手だ」
「…ケッ、俺らが言われたのは2つ!
特務組織『英国国教騎士団』と『円卓会議』への攻撃!そして吸血鬼アーカードの完全破壊!」
「俺ら?俺らと言ったな貴様?」
 ウォルターが『俺ら』という点に食いついた。つまりまだ仲間がいる。そういう事らしい。
それに対し、ヤンが笑いながら答えた。
「フヒェヘヘヘハハア…今頃はオレの兄貴が、アーカードをブッ殺してるトコロさ」

TO BE CONTINUED

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最終更新:2007年08月14日 11:12