12月2日、時空管理局本局にて。
「いや、君のケガも軽くてよかった」
本局の医務室から黒髪の少年『クロノ・ハラオウン』が出てくる。
遅れて出てきたのはフェイト。シグナムやマジンカイザーとの戦闘のせいか、左腕に包帯を巻いている。
心配をかけてしまった。そう言いたげな表情をするフェイト。そして申し訳なさそうに謝罪した。
「クロノ……ごめんね、心配かけて」
その言葉にクロノは一瞬きょとんとし、そして笑って答えた。
「君となのはでもう慣れた。気にするな」
それから少し経った頃の別の医務室では、なのはが医者から検診を受けていた。
管理局の医療用装置がなのはに光を当て、その光の動きに合わせて表示されたグラフが変動する。
なのはの現状がどんなものかの結論を出したのか、しばらくそれを見ていた医者が装置を止め、笑顔で状態を教えた。
「さすが若いね、もうリンカーコアの再生が始まっている。
ただ、少しの間魔法がほとんど使えないから、気をつけるんだよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
とりあえず、特に深刻な問題と言えるようなものは無いようだ。あるとしても、魔力を奪われたことでリンカーコアが縮小し、それが原因で少しの間魔法が使えないことくらいか。
そしてその縮小自体もマジンカイザーの妨害があり、大した量は奪われていない。これならば回復もすぐだろう。
……と、ドアの方から開閉音。その方向を見ると、フェイトとクロノが来ていた。目的はなのはの見舞いである。
「ああ、ハラオウン執務官。ちょっとよろしいでしょうか?」
「はい、何でしょう?」
医者がクロノに用があるを言い、クロノはそれに答える。
すると医者はクロノを外へと連れ出した。せっかくの友達同士の再会を邪魔しては悪いと思ったのだろう。空気が読めていて何よりである。
そして医者が告げた内容……それは大いにクロノの興味を引くこととなった。
「実は、例の時空遭難者が先ほど目を覚ましました。今はハラオウン提督が話を聞いているようです」
第三話『魔神と魔法』
時間は少しだけ遡る。
なのはやフェイトがいた所とはさらに別の医務室。甲児はそこで目を覚ました。
困惑の表情をし、あたりを見回す。どうやら状況が理解できていないようだ。
「ここはどこだ?俺は確かカイザーであしゅらを倒して、それからDr.ヘルの所に乗り込んだはずだってのに……」
頭に疑問符を浮かべ、記憶を掘り返す甲児。だが、どんなに思い出そうとしてもDr.ヘルが脱出し、自身も地獄島の爆発の中マジンカイザーに乗った所までしか思い出せない。
もっとも、そこから先は気絶していたのだから覚えていないのも無理は無いが。
そして今の訳が分からない状況は、甲児にある突拍子も無い結論を叩き出させた。
「まさかあの爆発で異世界にでも飛んじまったとか……そんなわけねえか」
「いいえ、残念ながらそのまさかよ」
最も可能性の低いであろう結論を肯定され、驚いてその声の方向へと振り向く甲児。
その方向にいたのは、クロノの母であり時空管理局提督でもある女性『リンディ・ハラオウン』である。
ちなみに外見年齢は甲児と大して変わらないため、甲児は同年代かそれより少し上くらいだと勘違いしているようだがそれはまた別の話。
「……あんたは誰だ? それにここは一体……」
眼前に現れた人物へと質問する甲児。それに対してリンディも答える。
「私は時空管理局提督のリンディ・ハラオウンです。そしてここは、時空管理局本局の医務室。
あなたは次元震に巻き込まれて、なのはさん達のいた世界に飛ばされたのよ」
そう言うと、緑茶の乗った盆を近くの台に置き、甲児へと湯のみを差し出す。
甲児はそれを受け取ると、リンディ好みの味付け(砂糖とミルクがたっぷり)になっているとも気付かず一口飲み――――
(´゜ω゜):;*.':;ブッ
「それで、兜甲児さん……でいいのかしら? あなたがこの世界に来るきっかけに、何か心当たりは無いかしら?」
気を取り直してリンディが甲児へと事情を聞く。当の甲児は先ほどのお茶を吹き出したせいで申し訳なさそうな顔で聞いている。
……ん?待てよ?確か甲児はまだ名乗ってはいないはず。それなのに何故リンディがその名を知っているのだろうか?
そう言いたそうな表情の甲児を見て、リンディが察してその答えを言った。
「あなたの事は鉄也さんから聞きました。名前と、あなた達が次元遭難者であるという事くらいですが」
「鉄也さんだって!? まさか、鉄也さんまでこっちに来てるのか!?」
食いついた。甲児と鉄也はやはり元の世界での知り合いだったらしい。
これを聞いた甲児はリンディへと詰め寄り、そしてリンディも答える。
「え、ええ。でも鉄也さんはあなたの暴走を止めた後、どこかに行ってしまったわ」
事実だ。フェイトがアースラへと連絡を入れた頃には、鉄也はもう近くにはいなかった。
どこに行ったのかも分からなかったので、捜索はしている……が、まだ見つかっていない。
とにかく、これでリンディが甲児を知っている理由はこれで判明した。甲児にとっても納得のいく理由である。
甲児はその心当たりである出来事……地獄島での死闘の事を話した。
もちろん次元震や時空管理局など、訳の分からない事もあるのだが……
ちなみに「暴走」のくだりには心当たりがあるためあえて言及しなかったらしい。「カイザーもこっちに来ている可能性」には気付いていないにもかかわらず。
「――――それで、Dr.ヘルを追うのを諦めてカイザーに乗ったんだ。そこから先は俺も覚えてねえ」
甲児が全てを話し終え、その内容をリンディが理解する。
島が一つ吹き飛ぶほどの爆発だ。それならば次元震に気付かなくても無理は無い。
いや、多少苦しいが、その爆発で次元震が起こったのだろうか?真相は闇の中である。
いずれにせよ、甲児はその爆発の時に次元震に巻き込まれ、そして異世界へと飛ばされた。これが事実である。
そして甲児はとある可能性に気付き、リンディへと聞いた。
「……そうだ! 俺がこの世界に来てるってことは、もしかしたらカイザーも……!
リンディさん、俺がこっちに飛ばされたときに、近くにでかいロボットは無かったか?」
「ロボット? あなたが話していたマジンカイザーの事かしら?
残念だけど、ロボットは無かったわ。でも……」
リンディが制服のポケットに手を入れ、そしてあるものを取り出して甲児へと手渡した。
それに対して甲児の表情に変化があった。驚愕という形の変化が。
「代わりにこれがあったわ。何か心当たりは無いかしら?」
「こいつは……カイザーパイルダーじゃないか!?」
そう、リンディが取り出したのはマジンカイザーのコクピットにもなる戦闘機『カイザーパイルダー』だ。
但し、現在はアクセサリー程度に小さく、さらにはキーチェーンまで付いている。
これはカイザーパイルダーを模したキーチェーンだ。そう言われても納得できそうなものだが……
「そう……やっぱり見覚えがあったのね」
どうやらその線は消えたようだ。だとしたら何故ここまで小さくなったのだろうか?
それを考えていると、リンディの口から甲児にとってあまりにも非現実的すぎる言葉が飛び出した。
「落ち着いて聞いて。この世界には魔法が存在していて、もしかしたらマジンカイザーは魔法を使うための道具に、デバイスになったのかもしれないわ」
……はい?
何を言っているのか分からない。いきなり異世界に飛んだだけで頭がこんがらがっているというのに、その上に魔法がどうとか言う非現実的な事が。挙句の果てにはカイザーが魔法の道具へと変化、である。
さすがに理解できなかったのか、甲児が慌てて言い返す。
「ちょっ、ちょっと待ってくれよリンディさん!
違う世界だってんなら魔法があるのも分かるけど、カイザーがそのための道具になるなんて……冗談だろ?」
「私もできればそう思いたいわ。これまで前例も無い事だし……でも、あなたがデバイスを使ってフェイトさんと戦ったのは事実よ。
鉄也さんからは「マジンカイザーには暴走機能が付いている」って聞かされているし、この世界に来たときにマジンカイザーがデバイスになって、その後に暴走したと考えれば不思議じゃないわ」
もっともこれは、マジンカイザーがロボットだった時の事情であり、デバイスとなった今それが残っていない可能性もある。
……いや、恐らく暴走は残っている。そうでなければ甲児が知らない人物に攻撃を仕掛けるなどという行動に出る理由が無い。
「それで、甲児さん。あなたにお願いしたいことがあるんだけど……」
「お願い? もしかして、この世界で何かあったのか?」
「ええ……魔導師や魔法生物が襲撃されて、魔力を奪われる事件が多発しているの。その解決に協力してくれないかしら?
あなたならマジンカイザーで犯人に対抗できるでしょうし……もちろん、嫌なら断ってくれてもかまわないわ。
もし断ったとしても、元の世界が見つかるまでの間の生活は保障するわ」
この話に、甲児は乗ろうと考えた。何の関係も無い人を襲うのを見過ごせるほど、甲児は卑怯な男ではない。
だが、その一方でとある考えが浮かぶ。暴走の話が本当なら、もしまた暴走してしまったら仲間を傷つけることになる。それだけは避けたい。
ならばどうするか……少し考え、そして決まった。
「分かった、協力する。だけど、もしまた暴走しちまったら……」
「ええ、その時は私達が絶対に止めるわ。だから安心して」
同時刻、八神家にて。
「シグナムは、お風呂どうします?」
「私は今夜はいい。明日の朝にする」
「お風呂好きが珍しいじゃん」
「たまには、そういう日もあるさ」
シャマルがヴィータを連れ、自身の主である少女『八神はやて』を連れて浴室へと向かう。
シグナムとの問答で多少珍しいと感じたようだが、それも一瞬。そのまま浴室へと入って行った。
残されたザフィーラはというと……同じく残ったシグナムへと、その真意を問うた。
「今日の戦闘か」
「聡いな、その通りだ」
今日の戦闘……すなわち、甲児がこの世界に来る前のフェイトとの戦闘である。
シグナムはその戦闘を思い返しながら、自らの服をたくし上げた。
そこから見えたシグナムの腹部には、生々しい痣が。これが意味することはただ一つ。
「お前の鎧を打ち抜くとは……」
そう、バリアジャケットの防御の上からダメージを与えた。そういう事である。
その時のことを思い返すシグナムの顔は、どこか嬉しそうだった。
久しく見なかった強敵と会えて嬉しい、といった感じの笑顔。まるで戦闘狂(バトルマニア)である。
「澄んだ太刀筋だった。良い師に学んだのだろうな。武器の差が無ければ、少々苦戦したかもしれん」
「それでもシグナムさんなら負けない。そうだろう?」
シグナムとザフィーラの会話に、突然割り込んできた三人目の声。
その方向を見ると、彼女達より少し前にこの家の一員となった青年の姿が。
そしてシグナムは彼……『デューク・フリード』の方を向き、答えた。
「……そうだな」
最終更新:2007年12月26日 22:19