日曜日ということもあり、デパート内は人の波でごった返している。
家族連れ、カップル、友人同士・・・
その中を、上のどの種類にも微妙に属さない集団が歩いていた。

第六話 「OH! お買い物」

「毎度のことだけど、やっぱり人が多いねー」
「せやな~。まぁお休みの日といえば、お買い物って定番やし」
周囲を見回すなのはにはやてが返す。
シグナム達に見送られ八神家を出た一行は、バスを利用し目的地へ向かったのだった。
彼女らがここへ来た目的は二つ。
一つはイッキの服飾品の購入、そしてもう一つは――

「アリサちゃんはこの辺で待ってるって言ってたんだけど」
待ち合わせ場所として相談しておいたデパート入り口で周囲を見回していると・・・

「なのは~!!/なのはちゃーん!」
「あ、アリサちゃん。すずかちゃんも」
やや遠くから自分を呼ぶ友を確認し、なのはは手を振った。
小走りで走ってきたアリサとすずかは息を整える。と、
「あれ? はやてちゃんにシャマルさんも来てたの?」
昨日のメールで話していた以外の面子に、すずかは少し驚く。
なのは、フェイト、それから例の「アノ子」で来ると言っていたのだが。
「まぁ成り行きでなぁ。ちょうどうちも買出ししたかったさかい、ついて来たんや」
「それで、はやてちゃん達だけで行かせるのは心配だから私も」
「なるほど」
そうだったんですか、と頷くすずか。「ところで」とアリサが続き、
「昨日あんたが言ってた『飛んできた子』ってのは、その子なわけ?」
なのはに訊きながらイッキを指差した。
一人だけ見慣れない顔を見つけたのだ。
「そうだよ、ほらイッキくん自己紹介!」
ポンと背中を押され、アリサ、すずかと相対するイッキ。
なんだか話が進むたびにこんな状況に出くわしているような気がする。
「えーと、俺はイッキ。天領イッキだ。よろしくな」
「ふ~ん、変わった髪形ね・・・アリサ・バニングスよ。よろしく」
少し気の強い性格だな、とイッキは推測した。アリカみたいだなと記憶が述べる。
初対面でそういうとこに着目するんだ、とすずかは苦笑しながら
「確かにチョンマゲは珍しいね。月村すずかです、よろしくねイッキくん」
「おぅ・・・そんなに目立つのかな~、俺のチョンマゲ」
自分の頭に手を乗せ、チョンマゲをポンポンと触る。
「まぁ少なくとも、こっちの世界の男子にそんな髪型のやつはそういないわね」
腰に手を当ててアリサは言った。
さらに言うとイワノイのような極端なやつはもっといないだろう。
『○ーモン閣下ヘアーなんて小学4年生のすることじゃないっす!!』
「ん?」
「どうしたの?イッキくん」
「え、あー、いや・・・空耳かな」
ふいに明後日の方向を見上げたところを不思議に思ったのか、すずかが訊いた。
その問いになんでもないと応え、視線を戻しながらも、
「それにしても何故にカガミヤマの声が?」とイッキは頭を捻る。

「さてと、挨拶も済んだことやし買い物スタートや! まずはイッキくんの服やね」
ほな行くで~、と先頭をきって歩き出すはやてを見てアリサは「?」を浮かべる。
「あ、昨日は言ってなかったけど今日はイッキくんの服を買うのも目的なんだ」
そんなアリサの表情を見て、なのはは歩きながら説明した。
「服?」
と言ってからしばらくしてポンッと手を打ち、ジッとイッキの赤いシャツを見るアリサ。
砂汚れは相変わらず残っている状態だ。
洗濯してもよかったのだがクロノの服を借りるのはイッキ自身が受け付けなかった。
「確か砂漠で見つかったって言ってたっけ?・・・あらホント、汚いわね~」
「悪かったな! 好きで砂漠に落ちたわけじゃないからな」
遠慮のない言われ様に、イッキは露骨にイヤな顔をした。
ほどなくして服飾関係の店が並ぶフロアに到着した一行。
はやてがメンズショップを見つけ、みんなでアレコレと物色を開始した。
「イッキく~ん、これはどう?」
「んー、ちょっとカワイ過ぎないか?」
「じゃあイッキ、これは?」
「センスはいいと思うけど・・・ごめん、俺のイメージとは少し違うんだよな」
「イッキくん、これ着てみてくれへん?」
「はやて・・・絶対おもしろがってるだろ」
「それじゃコレなんかどうですか?」
「うっ、これは・・・! シャマルさん一体どこからこんなものを!?」

総出で物色しているにも関わらず服の好みはなかなか合致しない。と、
「さっきからあーだこーだ言ってるけど、あんたはどうなのよ」
半袖シャツを見ていたアリサが口を挟む。
「俺?」
「そうよ、ほら。あんたシャツ好きみたいだし、自分でも選んでみたら?」
「いや、特に好きってわけじゃ・・・」
「あーもうグダグダ言わない! さっさと選ぶ!」
苛立った口調の彼女に気押され、イッキは「分かったよ」と渋々シャツを見始め・・・
しばらくしてハンガーにかかった一枚の服を引っ張り出した。
襟元が少し特徴的な赤いシャツ。ポロシャツに分類されるだろうか。
「・・・これ、かな」
「普通ね、っていうか今着てるのとあんまり変わんないじゃない」
「ぐっ、うるせぇな。俺の好みなんだから仕方ないだろ」
「まぁまぁアリサちゃん、元々はイッキくんの服を買いに来たんだし」
すずかが仲裁に入り、「それに似たのを探せばいいんじゃない?」と提案した。

その提案を取り、イッキが自分の好みで選んだものを参考に、服選びは再開。
Tシャツ、パーカー、半ズボンなどを数種類の他に最小限の下着や靴下も購入した。
(シャマルの選んだものには彼女の個人的意図が感じられたため却下された)
ふとメダロッチに目をやると時刻は午後1時過ぎ。同時にお腹の虫が鳴いた。
思わずイッキは顔が赤くなってしまった。それを見たはやてはカラカラと笑う。
「あはは、そういえばお昼ご飯まだやったな~」
「朝ご飯トーストだったしね。私もお腹すいた、かな」
フェイトもお腹をさする。彼女の今日の朝食はトースト2枚と目玉焼きだったが、
食パンはハラ持ちが悪いのだ。(というのは作者の勝手な意見である)
ちょうどお食事処フロアが近くにあるということで、昼食はそこで取ることにした。

―――ー

「美味しかったね~」
「そうね、デパートもなかなか捨てたもんじゃないわね」
散々迷った挙句にチェーン店の定食屋に入り、食事を済ませて出てきた一同。
それぞれ食べたメニューの話題で盛り上がりながら意気揚々と暖簾をくぐった。
ある一人を除いては。

「・・・”こっち”にはカツカレーうどん定食がないなんて・・・」
イッキは大いに落ち込んでいた。
うどんの出汁でカツが絶妙に湿ったあの食感を味わえないことを酷く嘆いた。
「いつまで落ち込んでんのよ、たかが昼食でしょ?」
情けないわねー、と頭を垂れてトボトボ歩くイッキに呆れ顔をするアリサ。
(第一そんな語呂合わせみたいな大盛りメニューがあるわけないじゃない)
心のうちで突っ込んだがこれ以上言うのもバカみたいだと思い、口に出すのはやめた。

その後、はやての希望で買出しのために生鮮食品コーナーへ向かったイッキたち。
「そういえば、なのは。昨日あんた言ってたわよね?メダ・・・何とかがどうとか」
はやてとシャマルが献立のことで話し合いながら野菜をカゴに入れている隣で、
アリサは口を開いた。
イッキと一緒に時空を越えたメタビーのことはアリサたちにも伝えてあった。
最初のうちは二人とも「本当だろうか」と疑っていたが、徐々に興味が湧いたようだ。
なのはが嘘をつくような人間でないことはよく知っているし、何より彼女の仕事の話を
聞くうちに大抵のことでは驚かなくなっていた。
「メダロット、だよ。メタビーくんっていうんだけど、会ったら驚くよ~」
「へぇー、そんなによく出来てるもんなの?フェイトも会ってるんでしょ?」
「うん、まるで人間みたいみたいなんだ」
フェイトは頷いた。一日過ごしただけでもメタビーは色々と印象に残っていた。
「あいつの場合は『人間臭い』って言う方が合ってると思うけどな」
白のパーカーのポケットに手を突っ込んで歩いていたイッキが口を挟む。
ちなみに、服を買った後そのままの格好でいるのは汚いとアリサ他多数に
指摘されたためイッキは試着室に強制連行され、
現在の白いパーカーと青いズボンに着替えさせられたのだった。
と、
「それで、いつ会うのよ?そのメタビーってのには。ここにはいないみたいだし」
ごく当然の疑問が出た。目の前にいない者と『会う』ことは不可能だ。
「イッキくん、転送ってどこでもできるの?」
今朝聞いた『メダロット転送機能』が気になっていたなのはは、その所持者に尋ねた。
その問いにイッキは「どうかな・・・」と少し考え、
「俺のいた世界では、よっぽど電波が弱いとこじゃなければどこでもできたけどな」
ま、たぶん大丈夫、と曖昧に答えた。

と、集団の後ろのほうを歩いていたすずかが急に何かを思いついたかのように
ポンッと両手を合わせ、
「それじゃあ、はやてちゃんのお買い物が終わったあとに私の家に行こうよ。
うちのお姉ちゃんメカとか好きだし、そんなにすごいロボット見たら喜ぶと思うの」
「忍さんに?」
「うん、ダメかな、なのはちゃん?」
両手を合わせお願いのポーズを取る彼女を見て、ひとまず思考するなのは。
はやての買出しはもう間もなく終わりそうだ。自分もこのあと特に用事はない。
とりあえず周囲に意見を求めることにし、
「フェイトちゃんはどう思う?」
訊いてみるとフェイトからは「いいと思うよ」との返答が来た。
次にアリサに視線を向けると、
「ま、珍しくすずかがこう言ってることだし、いいんじゃない」
と首を縦に振った。そっか、と頷き今度はイッキに意見を求める。
訊かれたイッキは腕を組んで黙考し、応えた。
「ん~・・・しばらくはこっちにいるんだし、俺もすずかの家は見てみたいな」
ここじゃメタビーを転送するのもアレだしな、と付け加える。

3人の意見を聞いたところで、はやての方向に目を向ける。と、
「話は聞いてたで。うちは夕ご飯の用意があるさかい、先に帰らせてもらうわ」
今日の献立はちょっと時間がかかるねん、と言いはやては時計を見る。
女性の買い物は長い・・・というわけではないが、すでに午後4時を回っていることは
事実だった。
「そっかぁ、毎日大変だよね」
「あはは、まぁ長いことやってるし今は楽しんどるんよ。
特にヴィータはよく食べてくれるからなぁ」
「そうそう、はやてのメシはギガウマなんだーー!! ってよく言ってるよ?」
管理局の仕事で同行することの多いヴィータが事あるごとに言っていたのを
なのはは思い出した。
はやては嬉しそうに「ホンマに?じゃあ今日は腕によりをかけなアカンな~」と言って
自分の右腕をポンポンと叩いてみせた。

ほなまたな~、と手を振ってレジへと向かったはやて、シャマルと別れ
仲良し4人組+イッキはすずかの家へ向かうべく路線バスに揺られていた。
「さっきも言ってたけど、すずかの姉さんってそんなにメカ好きなのか?」
背もたれの後ろから聞こえたイッキの質問に、すずかは
「うん。私はよく分からないんだけど、機械相手に色々やってるとこをよく見るんだ」
席から少し身を乗り出して応えた。
ふーんと相槌をつくイッキ。
よくよく考えればメダロットはもの凄い技術の結晶なので、メカ好きの忍が見れば
大いに驚きと興味を示すだろう。
「あたしも最近忍さんには会ってないのよね、あと猫たちにも」
窓際の席で外を眺めていたアリサが独り言のように言った。
月村邸では、その広大な敷地を利用して大量の猫を飼っている。
ノラ猫がこっそり入っていてもバレないのではないかと思えるほど庭が広いので
何匹いるかは家主さえも把握できていないだろう。
「猫の数には私も最初は驚いたなぁ。イッキもたぶんビックリすると思うよ?」
「へぇ、そんなに沢山いるんだ」
フェイトの話に耳を傾けると同時に頭の隅で記憶を探るイッキ。
(俺の世界でそういう家を持ってるのはコウジとかカリンちゃんだな)
みんなどうしてんのかな、と向こうでの友人たちのことを思い出した。

間もなくバスは最寄の停留所に到着し、5人はステップを降り歩き始めた。
すずかの家までは2、3分といったところだ。
他愛もない話をしながら歩道を歩くイッキたち。
やがて、周囲の民家とは大きくかけ離れた立派な建物が見えてきた。
「ほら、見えてきたよ。あれが私の家」
「うっわ~! デカいな、まるで家じゃないみたいだ」
イッキの正直な感想になのはは思わず微笑した。
自分が初めて月村邸に抱いた感想とまったく同じだったからだ。
「あれが見えてきたってことは、もう少しだね。忍さん元気かなぁ」

1分後、日本の民家にはほぼ存在しないであろう巨大な門をくぐり、
イッキは広大な庭へ足を踏み入れていった。
しかし、この「月村邸に行き、メタビーとみんながご対面」という
流れそのものが、後々に大きな誤算をはらんでいることに誰一人として気付くことは
なかった。

―――ー
メ「なーんかオレの出番がまったくなかった上に、次回は嫌な予感がすんだけど」
な「気のせいじゃない?」
フェ「確かに今回はイッキのストーリーがほとんどだったね」
メ「やれやれ。おいイッキ、次回はどうなんだ?」
イ「ああ、次回は『激走!メタビー大逃走』の巻、だってさ」
メ「なんだそりゃ? やっぱりいい予感がしねぇ・・・」

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最終更新:2007年12月27日 11:43