妄想戦士リリカル・ヤマモト 第一話「嗚呼! 魔法少女は今何処!?」
どこにでもある普通の高校にその“最高に普通じゃない男”はいた。
人は彼をこう呼ぶ萌えの申し子、妄想戦士と。
「魔法少女に会いてええええええええ!!!!!!」
ある少年が学校の屋上で空に向かって喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。
その様子をメガネを掛けた同級生の少年が呆れた様子で眺めていた、彼にとってはの光景は日常的なものだったので特に狼狽することなど無かったのだ。
「またいつもの発作か? 山本」
「松下ああああ!! てめえは魔法少女に会いたくねえのか!?」
先ほど叫んでいた少年の名は山本一番星。萌えの探求者にして妄想戦士ヤマモトと呼ばれる男。
そして彼に呆れているこのメガネを掛けた少年は山本の下僕…いや違った同級生にしてなんというか微妙な男、山下悟郎である。
「おい! 誰が下僕だ! っていうか微妙って言うな!!」
「おい松下、何言ってんだ? おめえは微妙だろうが! そんな事より魔法少女に会う方が大事だ!!」
「…やっぱ微妙なのか……それより魔法少女なんて現実にはいないだろうが」
「ぎゃ~はっはっはっは~!! 甘いぞ松下、俺がなんの準備も無しに話を切り出すと思っていたのか!?」
その松下の言葉に山本は不敵な笑みを見せながら高らかに笑う、そして眼下の校庭を指差す。
「アレを見ろ!」
「なっ! あれは一体?」
山本の指差した校庭には奇怪な模様、いわゆる魔法陣と呼ばれるものが描かれていた。
「これからあれを使って魔法少女に会う!!」
「はあ!? そんな事できる訳ねえだろ!?」
山本の唐突な電波的発言に松下は思わず突っ込む、だが松下の突っ込みに山本は鉄拳で答えた。
「こんの馬鹿野郎おおおおおお!!!!」
「あべしいいい!!」
山本の鉄拳に松下は吹き飛び屋上のフェンスにぶつかって鼻血を激しく撒き散らす。
その松下に山本が凄まじい怒気を込めた眼光と叱責を飛ばす。
「出来る、出来ないの問題じゃねえ!! やるか、やらねえかの問題なんだよこのメガネ坊やがああああ!!!」
山本はそう叫ぶと松下の頭を掴んで無理矢理に校庭に引きずって行った。
「ではこれより魔法少女と会う為の儀式を行う」
そう言う山本と共に校庭の魔法陣の中心に立つのは先の山本と松下。
そしてメガネを掛け妙な法衣らしき服(背中に“田村ひより”と書かれている byらき☆すた)を着た男と長髪に学ランのポケットにフィギュアを入れた男がいた。
メガネと法衣の男は南雲鏡二。めがねっ娘教団の教祖にしてこの世の全てのめがねっ娘を愛する戦士(変態)である。
学ランのポケットにフィギュアを入れている(服の下にも大量に仕込んでいる)のは男は渡辺流星。フィギュアをこよなく愛し人間に興味の無い(つまり完全に狂っている)孤高のロマンチストである。
「ええ山本殿、私も早くめがね魔法少女に会いたくてしかたがありませんよ」
「俺は早くフィギュア魔法少女に会いてえぜ」
「…もう、どうにでもしてくれ」
さっそく南雲と渡辺の狂った発言が飛び交い松下はこの狂人の宴からはもう逃げられないと諦めていた。
「よ~しお前ら、では儀式を始めるぞ、俺の言う呪文に続けろ。リリカルマジカルメカリルウィッシュ!」
「「「リリカルマジカルメカリルウィッシュ」」」
4人が言葉を放つと共に凄まじい閃光が周囲に満ち、次の瞬間には4人の姿が消えていた。
砂だらけの世界で二つの影が交錯する。一方は鎌のような得物を持った金髪の少女、もう一方は剣を振るう桜色の髪の女性。
少女の名はフェイト・テスタロッサ、女性の名はシグナム。後に闇の書事件と呼ばれる事件の渦中においてぶつかり合う二人の戦士の姿であった、だがそこに場違いな声が響く。
「おい見ろよ、あれが魔法少女か!?」
「マジかよ……本当にいるのか…」
「しかし、めがねっ娘ではありませんぞ山本殿」
「っていうか人間には興味無ええええ!!!」
それは先の魔法陣でこの世界にやってきた山本達であった。
「あれは一体?」
「民間人の人?」
戦闘中そはいえフェイトとシグナムの動きが止まる、突然民間人らしき人間が現われたのだから無理も無い事だった。
そして驚愕する二人の下に学ランの男、山本が悠々と近づいてきた。
「あ、あの…ここは危ないですから民間人の方は早く別の空間に転移を…」
「そこのお嬢ちゃん……君が魔法少女かい?」
「へっ?」
フェイトの言葉を切って山本が口を開く、戦いを邪魔されたシグナムは怒りを感じて山本の肩を掴み割って入った。
「おい貴様! 今私はこの者と戦って…」
だがシグナムがセリフを言い終わる事は無かった。
「じゃかああしゃああボケ!!! 今は女戦士には用は無いんじゃああああ!!!! ヤマモトドリルパアアアアンチ!!!!!!」
「ぐわあああっ!」
山本が高回転するコークスクリューパンチをシグナムに見舞い吹き飛ばす。相手が女でも萌えの追及の邪魔になるなら平気で攻撃する、山本とはそういう男である。
「まったく邪魔しやがって……さあ嬢ちゃん、君が魔法少女なのか? そうなのか!?」
山本はシグナムを殴り飛ばすと目の前のフェイトの型を掴みガクンガクン揺らして問いただす。
もちろんだがフェイトは怯えまくってる、強敵であるシグナムを一撃で倒した見知らぬ男性が目を血走らせて詰め寄ったらそりゃあ9歳の少女には恐いだろう。
「あ、あ、あの。魔法を使う少女というなら…たぶんそうだと思います」
フェイトは怯えながらも涙目でなんとか答える、というか言わなかったら何か危険だと生物的な直感から言わざるをえなかった。
その答えを聞き山本は突然ブルブル震えだす。
「よっしゃああああああああ!!!!! 成功だああああああ!!!」
山本は手を高く突き上げて喜ぶ、そしてフェイトを指差して訳のわからない事を言ってまくし立て始めた。
「だがしかし!! その服装では魔法少女的じゃあねえ!! まずはフリフリの可愛らしいファンシーな服に替えろ!! そしてステッキをもっと魔法少女的なデザインに変更!! さらにそれっぽい呪文を言え!!! そうすれば君は完璧な魔法少女だ!!!!」
山本の叫びに南雲と渡辺も加わる。
「君、是非このめがねを掛けないか!? いや、掛けてくれ頼む!! この通りだ!!!」
懐からめがねを出しながら土下座してフェイトにめがねをかけてくれと頼む南雲。
「おいてめえ! フィギュア魔法少女はいねえのか!? おいどうなんだ!!!!」
完全に正気を逸した、狂った事を言っている渡辺。
その3人の鬼気迫る様子にフェイトは今にも泣き出しそうな顔で怯える。さすがにそれを見かねた松下がそこに割って入った。
「おいお前ら落ち着けよ……恐がってるだろうが」
松下は鼻息を荒くしている3人の前に立ってフェイトを庇う、フェイトは山本達の迫力に怯えて思わず目の前の松下の服の袖を掴んだ。
「あ、あの。ありがとうございます」
涙目、上目づかいで礼を言うフェイトに思わず松下はキュンとなって“裏松下”を発動しそうになった。
その様子に山本がキレて松下に掴みかかった。
「てめえ!! 勝手に魔法少女とフラグ立ててんじゃねえ!! このハタ坊がああ!!」
「何言ってんだお前は……普通に恐がってんだろうが」
その4人に先ほど吹き飛ばされたシグナムが踊りかかってきた。
「隙だらけだぞテスタロッサ!!!」
飛び掛るシグナムにフェイトはすぐさま戦闘態勢に移る。自身のデバイス、バルディッシュを振りかぶってシグナムの剣閃を受け止めた。
しかしその刃の交錯はごり押しの力で押し切ったシグナムに軍配が上がりフェイトは後方に大きく吹き飛ばされる。
「きゃああっ!」
「大丈夫か!?」
松下が吹き飛ばされたフェイトに駆け寄る。
「だ、大丈夫です…」
「………」
フェイトは心配して駆け寄った松下に声を返す、だが松下は固まって何も言わない顔も何故か真っ赤だった。
「どうしたんですか? って、きゃっ!?」
吹き飛ばされたフェイトは腰のスカートと前垂れ部分がめくれて食い込んだ股ぐらが丸見えだったのだ。
フェイトは思わず悲鳴を上げてスカートで慌てて隠し、松下を恨めしそうに涙目で睨んだ。
「み、見ないでください」
その時、松下の後方からシグナムが追撃の斬撃を見舞った。だがその攻撃は巨大な黒い腕に掴まれた。
「何っ!?」
松下の背後に鎖で封印された巨大な門が現われ、その門を破って褐色の肌を持つ筋肉質な松下が現われた。
それこそが萌を感じたときに現われる松下の隠された本性“裏松下”である(別名スタンド)。
「“恥らう美少女”萌えパアアアアアアアンチ!!!!!!」
「ぐわああああ!!!」
裏松下の攻撃を受けてシグナムは地平線の彼方に吹き飛ばされた。
その様子を見ていた山本は再び松下に食って掛かる。
「松下!! てめえ美少女の萌えシーンを独り占めた~良い度胸じゃねえか!!!」
「何だよ…魔法少女を助けたんだから少しは感謝しろよ…」
「うるせえええ!! 羨ましいんだよこんちきしょおおお!!」
その様子をフェイトは見て一人呟く。
「え~っと…あなた達は一体…」
「俺達か? 俺達は妄想戦士だ!!!!!」
この日妄想戦士が魔法少女の世界に下り立った。
続く。
最終更新:2008年01月01日 13:04