妄想戦士リリカル・ヤマモト 第二話 「関西弁萌え!!」

「いやあああああああああ!!!!!」
次元航空艦アースラの内部で悲鳴を上げながら逃げ惑うのはフェイト・テスタロッサの使い魔アルフ。
「犬ミミっ娘、萌ええええええええええええええ!!!!!!!!!」
そして萌えと叫びながら彼女を飢えた野獣のような気迫と血走った目で追いかけるのは萌えの申し子、山本一番星である。

山本一行はロストロギア闇の書に関する事件を追っていたアースラの魔道師フェイトに出会い時空遭難者としてアースラに連れて来られたのだ。
しかしそこでアルフを見た山本が萌えのスイッチが入り暴走状態に入ったのだ。


「なんであたしを追いかけんだよ~!?」
山本の凄まじい迫力に涙目になったアルフが逃げながら叫ぶ、その問いへの山本の答えは彼女の理解を超えるものだった。
「犬ミミ萌ええええええ!!!! 犬シッポ萌えええええええ!!!! 一緒にボール遊びをしてくれえええええ!!!!!」
血走った目で最高に狂ったことを言いながら山本は手にボールを持ってアルフを追いかける。
アルフはその山本の眼光に本能的な恐怖を感じ、とても止まるに止まれない。

「こうなったら、チェーンバインド!!」
アルフは追いすがる山本の恐怖に遂に魔法を行使して彼の動きを止める。
本来なら魔道師でもない一般人に魔法を使うなんて事は絶対にしないのだが山本の放つ萌えに対する異常な気迫に負けて拘束魔法を使ったのだ。

「ぬおおおお!! なんじゃあこりゃああああ!!!」
山本はアルフのチェーンバインドでぐるぐる巻きに拘束され身動きを封じられる、やっと山本の脅威から逃れられたアルフは一息ついて落ち着いた。
「ふ~、これでやっと…」
しかしアルフの安心など脆く崩れ去る、萌えの絡みの時に発揮される山本の力は常人の想像など及びもつかないのだ。

「犬~ミミ~萌えええええええええええええ!!!!!!!!!」
叫びと共に山本はチェーンバインドを引き千切った、その光景にアルフは目を丸くする。
魔法を使わない人間が拘束魔法を力で破壊するなど常識ではありえないのだ、まあ山本に人間の常識は通用しないのでなんとも言えないが。

「さあ犬ミミっ娘~。俺と心行くまでボール遊びのうえ、そのシッポをフリフリしてもらおうか~。ぐへへへへへへへへ」
山本は全身からドス黒い萌えオーラを放ちながらアルフにゆっくりと近づいていく、アルフはあまりの恐怖に腰を抜かしてハウハウと怯えて泣き出す。

「山本、いい加減にしろ!」
そこになのはフェイトを連れた山本軍団唯一の良心、松下が現われた。
「うっせええええぞ! めがね坊やは黙ってろおおおおおお!!!」
「ひいっ」
「はうぅっ」
だが山本は殺気を込めた血走った目で睨む、その迫力になのはとフェイトは怯えて思わず悲鳴を漏らす。
だが松下には山本の戦闘能力を封じる秘策を持っていた。

「なのはちゃん! フェイトちゃん! アレを言うんだ!!」
「は、はい! それじゃあフェイトちゃん言うよ」
「うん」
「「やめて、山本おにいちゃん!!」」

「ぐはあああああ!!!!」
なのはとフェイトのセリフを受けた山本は何故か苦悶の表情で血を吐いて倒れた。その光景になのはとフェイトは思わず山本に駆け寄る。

「だ、大丈夫ですか山本おにいちゃん?」
「げはああ!!」
「大丈夫? おにいちゃん」
「ぐほおお!!」
なのはとフェイトの言葉を聞く度に山本は血を吐いて悶え、遂に意識を失った。

「あ、あの松下さん…これでいいんですか?」
「ああ、こいつはこれくらいしないと止まらないからね」
「でも、どうして“おにいちゃん”でダメージを?」
「こいつは実際に妹がいるから妹萌えが理解できないんだってさ…」
「へっ? あの…よく意味が分からないんですが…」
「分からない方が良いよ…」
松下の言葉になのはとフェイトは不思議そうな顔をする。

山本一番星、全ての萌えを愛するが実際に妹がいる為に妹萌えが理解できない事が唯一の弱点であった。


「…という訳であなた達の会った魔道騎士は私達の追っている闇に書と呼ばれるロストロギアのプログラムだったんです」
山本が落ち着いた所で彼らはリンディ以下、アースラのみんなに事件の説明を受ける。
松下はそして最初に見た戦闘の経緯を知り改めてここが魔法の存在する世界だと知った。

常識的思考の松下はこの事実に不安そうにリンディに尋ねる。
「えっと…リンディさん、それじゃあ俺達は一体どうすれば…」
「大丈夫ですよ、あなた達の出身世界が見つかるまでは私の家で面倒を…」

「あ~はっはっはっはっは!!!!!」
だがリンディのセリフが言い終わることは無かった、そこに山本の高笑いが響き全員の視線を釘付ける。
そして山本はトンデモないことを言い出す。

「つまりそれまで俺達に事件解決の手伝いをしろと言いたいのだな!?」
「へっ?」
「なに気にするな!! 魔法少女の手伝いを断るほど俺達も萌道を踏み外しちゃいない!!!」
「ちょっ! 山本! その“俺達”ってなんだよ!? 俺か? 俺も入ってんのか!?」
「当たり前だ、この貧弱な坊やが!!! 魔法少女の手伝いなんて滅多に無いんだぞ!? それを見過ごしてなんの妄想戦士か!!!」

その山本のセリフにさらに南雲と渡辺も加わる。
「山本殿の言うとおり。このまま行けば敵サイドにめがねっ娘が現われるかもしれんしな!」
「人間に興味は無えが……新しいフィギュアの発想にはもってこいだしな、俺も付き合うぜ山本!」
「結局俺も一緒かよ…」
松下の嘆きは無視され、山本の暴走は突き抜ける。
もちろんだがアースラにいるまともな人間には彼は止められなかった。


「でだ! さっそく俺達も昨日の敵を探すことにした!!!」
「“した”じゃねえよ!! 俺達じゃ魔法なんて使えねえから無理だろうが!!! 第一ここじゃ見つかんねえよ!!」
何故か山本達はなのは達の住む海鳴の町に来ていたのだ、もちろんだが常識的に考えてこんな所に昨日の犯人がいる可能性はゼロに近い。

だが山本は自信満々で答える。
「分かってねえなあ松下、こういう話は“意外と近くにいました”ってオチに決まってんだよ!!」
「そんなメチャクチャな…」

松下は呆れるが、山本は含みを込めた笑みで懐から何か取り出した。
「それに昨日の女に発信機を付けたしな」
「それを先に言えよ!!!」
山本は松下のキレ突っ込みを華麗にスルーして発信機を頼りに海鳴の町を歩く、そして一軒の家にたどり着いた。

「ほう~八神…か。萌える魔法少女がいるか必見だぜ!」
「めがねっ娘はいるんでしょうか…」
「っていうか人間に興味は無え!」
山本・南雲・渡辺の相も変らぬ発言を聞いて松下は“人から見たら俺もこいつらの同類なのかな…”なんて思えて泣けてきた。

そして玄関から車椅子の少女と昨日のポニーテールの女性、それに金髪の女性と赤毛の少女に青い大型犬が出てきた。

普通なら尾行なりするところだが、もちろん山本は普通ではないのでそんな事はしなかった。

「てめええらあああ!!! 誰が魔法少女かさっさと吐きやがれえええええ!!!!」

あろうことか山本は叫びながら彼女達の前に躍り出たのだ、さらに南雲と渡辺も飛び出す。
「めがねッ娘がいねえええええ!!! 誰かめがねを掛けてくれえええええ!!!!」
「全員人間だああああああ!!!! フィギュア魔法少女はいねえのかああああ!!!!」
もう隠れる気なんて微塵もない3人に松下はあきれ果てて声も無かった。

突然現われた昨日の管理局側らしき4人の男にシグナムが他の守護騎士に即座に念話を送る。
(こいつらは昨日の敵だ!)
(ホントなの!?)
(でもここで戦ったらはやてが…)
(もしもの時は俺が食い止める! お前らは脱出の準備を…)
すぐに応戦の準備に入ろうとする守護騎士4人だが、時既に遅くその謎の男がはやての目の前に来ていた。

「お嬢ちゃん…君が魔法少女かい?」
「へっ? 魔法って…もしかしてヴィータ達の知り合いなんですか? それとも闇の書の事を?」
山本の質問にはやては彼がヴィータ達守護騎士の知り合いか闇の書の関係者と思ったのだ。

「知り合いっつーか昨日そこの女戦士とバトルを繰り広げたな」
はやての言葉に山本はあっさりと答える、っていうか守護騎士達が蒐集のことを必死に隠してきたのを一瞬で破壊するような返事だった。

「へっ? バトル?」
「いやっ! そのはやてちゃん! えっと…この人たちはシグナムの行ってる剣道場の関係者で…つ、つまりバトルっていうのはそういう事なんです!!」
「そ、そうです主! 断じて勝手に蒐集などしていません」
「そうだぞはやて! あ、あたし達は別に何も隠してなんかないぞ!」

守護騎士女性陣は必死になって取り繕う、その様子になんとなく状況を察した“妄想戦士最後の良心”こと松下も話を合わせる。
「そ、そうなんだよ。昨日ちょっと試合をして……実は俺達も魔法の事とか知ってるから…だよな山本!?」
「何を言ってんだ松下? 俺達は…ムグゥ!!」
松下は空気を読まない山本の口を無理矢理塞いで守護騎士達と目を合わせた。
なんとなく互いに“このまま穏便にすませよう”という意思を交わす。

そして山本達、4人の、妄想戦士は八神家に招きいれられた。
松下は話をややこしくしない為になんとか山本達に口裏を合わせて昨日の戦いの話はNGにする。

「む~しかし、なかなかの素材だな」
「めがねがあれば素晴らしいんですが…」
「今度、フィギュアのモデルにするか…」
山本・南雲・渡辺はヴィータを視線だけで呪い殺しそうな勢いで見ている、その異様な気迫に歴戦のベルカの騎士であるヴィータも背筋に冷たいものを感じた。

「な、なんだよおめえら! こっち見んなよ!」
「うはぁ! この反応は正にツンデレ強気系キャラ! それに縞々ニーソと絶対領域がまた素晴らしい!!」
「お嬢さん! 是非このめがねを掛けてくれ! 頼む、この通りだ!!」
「いいから、身体の寸法測らせろおおお!! そしてフィギュアとなって俺に愛でさせろおおおお!!!」

「ひいっ!」
山本達の反応にヴィータは思わず悲鳴を漏らす、なんと言うか本能的に感じる危機で山本達のヤバさを悟ったのだ。

そんな感じで山本たちは八神家で存分に萌えや妄想を堪能しながら、はやての出したお菓子を食べてる。
「しかしこのクッキー美味いな」
「そうですか? 今日のは結構自信作なんですよ」
「なに! 君が作ったのか?」
「そうですよ」
はやての話を聞き、山本の中で方程式が成り立つ。
(関西弁系キャラ+病弱属性+お料理上手=激萌え!!)

「うおおおお!!! 関西弁系の萌えっ娘だあああああ!!!!」
「へっ!?」
はやては突然の山本の咆哮に狼狽する。無理も無い、彼女は生まれてこの方まともな人間としか接してこなかったのだ。
山本のような萌えに全てを捧げている超次元生命体など見るのは初めてであった。

「魔法少女でなかったのは残念だが最高に萌えたぜ! ありがとうはやて!!」
「え~っと……よう分からんけど、どういたしまして」

魔法少女はいなかったが山本は存分に萌えを堪能してすっかり当初の目的を忘れて帰る準備をする。

「それじゃあ、さようならはやて」
「はい。また遊びに来てくださいね山本さん」
はやての見送りを受けて山本達は八神家を後にする、そしてしばらく歩いていると彼らの目の前にシグナムが待ち構えていた。

「貴様らは管理局の人間か? もしこの家の事を管理局に漏らすのなら…」
「言わねえよ」
シグナムの言葉を遮って山本が口を開いた。

「あんな萌える子をどうこうしようなんて思わねえよ。俺を誰だと思ていやがる!? 萌えの申し子、山本一番星だぜ!!!!!」
言葉と共に投げかけられた山本のギラギラした瞳にシグナムはこの男の吐く信念の言葉の重さを感じた。
山本一番星。彼は全世界のあらゆる萌えを極めんとする男である、萌えを前に言った言葉に一片の曇りなどなかった。

「分かった。騎士としてその言葉を信じよう」
「ああ。それにもしもの事があったら松下を殺していいしな」
「おい!! 勝手に殺すなよ!!」
「分かった。もしもの時にはその男の命で償って貰おう」
「って!! そっちも了承するなよ!!!!」


こうして妄想戦士と守護騎士は事なきを得た。だがこの後、彼らは再びめぐり合う…闇の書の発動の時に。

続く。

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最終更新:2008年01月02日 09:31