プロローグ「なるみ」

 日本特有の和室、虎がわが子を崖から落とす絵の掛け軸が壁にかけられていた。
その部屋にいるのは3人。煌びやかな和服で身を包んだ少女、その横に直立不動で立つ風車を首に下げている男性。
それと少女が座る前に頭を下げている男性。頭を下げている男の名前は“八神”。
八つの神社の祭神を祭る一族の末裔、その一族の一番下の青年であった。

「この度はこのような席を設けていただき、女教皇には感謝しきれません」
「よい、八神。なれもしない敬語を使うぐらいならいつもどおりはなしてくれないか? 私もそちらのほうが話を聞きやすい」
「しかし・・・」


 少女は子供とは思えないぐらいの気配を身体から出している。その気配は決してまがまがしい物ではなく、むしろ神々しい物。


「八神、女教皇もそうやって言ってるんだよな。いつもどおりはなしてみたらどうだよな?」
「しっしかし、斎字…」
「お前も、今日でココを離れるんだよな。もう、お前がココの仕来りに縛られる必要がなくなるんだよな」


 女教皇と呼ばれる少女の顔はまるで動かない。
ただ、その目は鋭い目から優しい目に変わっていた。

「八神、貴方には世話になりました」

 少女は頭をゆっくりと下げた。

女教皇! 貴方が私程度の者に頭に下げられるなど…」
「八神、私は感謝を意味して下げたのです。ソレを素直に受け止めてください。最後ぐらい、教皇としてではなく神崎火織として貴方の前に立たせてください」


 そういうと少女は八神に向けて微笑んだ。八神はソレを見て涙を流しながら頭をもう一度下げ、立ち上がりそこを去った。


 八神、彼は後の八神はやての父である。これから4年後、彼は最愛の妻と共に最愛の娘を一人残し交通事故で他界してしまう。そして一人だけになってしまった少女は、父が八神家から完全に離れてしまったことにより、身よりも何もかもを失ってしまい一冊の本に出会う。


不幸か、幸運か


その出会いが彼女の人生を変える―――――



487 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/01/05(土) 11:00:26 ID:MuyxyNVJ
●  イギリス


「神裂、手紙が届いている」


 神裂はイギリス清教の女子寮にある洗濯機の前で腕を組んで立っていた。その目線は洗濯機。唸る彼女はボタンのどれを押せば良いのか悩み続けているのだ。

「またですか? これをポチっとすればすぐに始まるですよ」

 手紙を持ってきた少女の横からひょろっと現れた三つ編みの少女がとことこと現れてボタンをぽんと押していった。

「なっ!?」
「神裂、人に頼りたくないのはわかるが今はこっちが先です。天草式のほうからの手紙ですよ」


 そういわれて、頭を下げながら落ち込んでいる神裂はとぼとぼとしながら手紙を受け取って中身を見た。中身を見て、彼女は動きを止めてぼそりと小さな声でつぶやいた。その声は誰の耳に入らず彼女自身だけが聞き取っていた。

「鳴海…」


● 時空管理局・巡航L級8番艦「アースラ」


「管理局本部からの紹介?」

 そういわれてクロノは疑わしい目でリンディのほうを見ていた。リンディは息子が怪訝な目で自分を見るのに軽くため息をついて弁明をした。

「しょうがないじゃない。本部からのごり押しだったのだから」
「でも、この時期におかしいじゃないか。今は闇の書の事件があったばかり出し、先日だってなのはがッ・・・」
「“なのはちゃんがやられたから”が正確にはこの本部からの移動の原因ね。アレだけの力をもち、前回の大きな事件の立役者、その立役者がやられるほどの実力者、それに対抗するには私たちだけじゃ心もとないってことよ」
「でも、この二人はそこまで力が強いわけじゃない。魔力が高いわけでもなく、後ろ盾しかない奴らを入れて役に立つとは思わない!」
「クロノ、何も魔力だけが戦いに必要なわけではないでしょ? その二人は援助、すなわち幼いフェイト、なのはちゃんの手助けをメインにしてもらうのよ。それにはあの世界出身のその二人が最適なのよ」

「最適? 写真を見て思うけど、僕はこんな人をあの世界で見たことがない! 金色の髪の毛に派手な服。色眼鏡をかけて写真を撮るような人や、赤い髪でこんな大男が最適?! ばかばかしい!」

「それでも渡し立ち寄りはふさわしいわ。それにこれには別のいとも含まれるのと私は考えてるのよ」
「別の意図? 僕たちの監視・・・ですか。ロストギアと関りすぎる僕達に力が偏ることを防ぐ処置とでも?」
「多分その通りよ。前回の事件に続き、大きな事件に関りそうな私達に対するけん制。さすが私の息子ね。だからこれを受け入れないとこちら的にもいろいろと大変なのよ」
「確かにそうですね・・・」
「そういうことで、そっちの大きな男の子は私たちと一緒に住むことになっているわ。もう一人の子は翠屋のアルバイトとしてなのはちゃんの近くにいることになっているわ」

クロノは黙る。もう既に決まっていることは彼の地位では変えようがない。ましてやこれを決めたのは上層部の誰か。その誰かを追及できもしない。彼はココで引くことしかできないのだ。

● 学園都市 

 土御門は手に持っていた手紙を暖炉に投げ入れた。内容は以下のとおり。


『時空管理局なる組織の一部の人間と共に任務についてもらいます。
魔導書“夜天の魔導書”、5年前に行方不明になっていた魔導書であり、禁書目録の知識の中にもあるものです。
これ自体が危険な代物によるのでこれの封印、又は破壊を目的で活動してもらいます。
この任務には神裂、ステイル、土御門です。貴方の任務はある人物の監視と護衛。
そして、夜天の魔導書の暴走時の抑止力の援助。くれぐれも無理はしないように。
また、監視対象、護衛対象には正体はばれないこと。また―――――』


 土御門はちらりと料理をしている自分の妹をみた。そして、軽いため息。

「…しょうがないことか」

 玄関に向けて歩いていく。兄が突然外に向かっていくのを不思議そうに見る妹、それに足して土御門は笑いながら、

「友達のところにいってくるよ。すまん! メシ食えなくいなった!」

 「えーっ!」という妹の声を無視して彼は扉の外に走っていった。

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最終更新:2008年01月07日 21:40