部長より次の任務を伝えられた後、八神はやては自分のデスクへと戻った。
「お帰りなさいですぅ~。・・・って、はやてちゃん、どうしたですか?」
明らかに暗い顔をするマイスターにリイン2が話しかける。
「・・・あんな、休暇で温泉は無理そうやわ・・・」
「な、何でですか!!」
はやては理由を話し、分厚い封筒を机の上に置く。
それを聞いたリインは頬を膨らませ両手を振り抗議の声を上げる。
「こんな事案は潜入捜査官の仕事ではないですか!?」
「そうもいかんのやろ、今度の任務はちょっと複雑な事情のある地域やからな・・・」
「??」
リインの頭の上に?マークが大量に浮かぶ。
「今度、みんなを集めて話し合おうな。リイン、早く報告書を仕上げてセテウア世界群に
関する情報を集めておこな」
「温泉行きたかったですぅ・・・」
「まったくウチもや・・・」
その日、資料の請求を緊急扱いとして無限書庫に依頼されたため、司書長は残業、
教導官と娘との食事の時間に遅れてしまい、娘の砲撃の標的にされてしまう。
それはまた違うお話・・・。

次の日、ミーティングルームを借切って八神家の家族会議、ではなくはやてとその守護騎士による
次の任務のためのミーティングが行われていた。
朝はやての作った軽食とポットに入れたお茶を持ち込み不退転の決意―用は終わるまで帰宅する事はかなわない―
で八神一家によるミーティングは行われる。
「セテウア世界群は多数の次元世界の中でも古参の部類に入りますね」
守護騎士筆頭、烈火の騎士・シグナムが読んでいた資料より目を上げて発言する。
「そうやな、その元を辿ればヤドリス世界群にも行き着く古い世界群や」
「しかし規模は違えど両世界群とも世界間戦争真っ最中ですか・・・?」
「管理局は介入はしないんですね」
こちらは湖の騎士シャマル、あまり目立たないが彼女の情報処理能力ははやての守護騎士:ヴォルケンリッターにおいて
必要不可欠なものである。
「ヤドリス世界群のはザーディッシュ内の内戦として手を出しかねとる。まあ、管理局としては別に理由があるんやけどな」
「「??」」
「ヤドリスの主戦力は単独で次元世界間を移動できる艦艇を中心とした艦隊や。正面からぶつかれば海の艦隊と片手でやりあえる
数で内戦しているところにノコノコ乗り込んでもえらい目にあうのがオチやからな」
「なるほど・・・、セテウアに関しては資料では数度にわたり介入していますね」
「八年前に“ムバンダカ”、“ジール”両管理世界の内戦に介入してちょっとした事件を起こして撤退してる」
管理世界の中で番号が割り振られていないのは歴史上早い段階で次元世界間の移動手段を獲た事を表す。
つまり管理局の黎明、もしくはそれ以前に発展していた世界ということ。スミカ・ユ(ry
「あら?報告書にはそんな事書かれていませんよ?」
「最終報告書はまだ公開されておらんのや。おそらく公開はされんやろ。十年前のG.O.A大統領暗殺未遂事件の後、
管理局は被害者のG.O.A側寄りの介入をしたんよ」
「G.O.Aは事件を八惑星連合による陰謀だとして軍事・経済の面で制裁を加えていますね」
「当然のことだと思いますが・・・?」
守護騎士の二人はそれが当然と考えている。はやてもまたそう思っている。
「管理局が“ムバンダカ”に介入していた時、難民キャンプで暴動があってな?手違いでG.O.A兵が発砲、多数の死傷者を出した」
「混乱している状況では良くあることです」
「しかもその場にいた管理局の部隊は権限の問題でそれを止める事が出来なくてな、見ているのしか出来んかった」

「問題はこの後や。管理局が傍観していたって言うのがセテウア中に報道されたんで反管理局感情が爆発、お決まりの排斥運動やな」
「その後少数の監視隊を置くだけで殆んど不干渉を決め込んでいますね」
シグナムがデータを読み込みながら喋る。
「同じようなことを“同時期にジール”でもやってもうた。資料を見るとここでは「ゲトロール」って言われる魔道兵器用の高効率の燃料が
産出されるらしいんやけど、G.O.Aが緩衝地域にも手を付けてそこにいた住民の強制疎開させるのを、また権限も問題から傍観」
「まぁ・・・」
「しかも“ジール”は八惑星連合を支持してる住人が多い。おかげでテロの標的にされてもうた・・・」
「それで撤退ですか・・・」

そんなこんなで資料を精査し疑問点を洗い出し必要なものをリストアップしてゆく。
「あ、そうや、ウチちょっと明日から講習受けてこないとあかんから暫く家に帰れんわ」
「講習?なんのですか?」
「セテウアの主力兵器は人型のA2と呼ばれるアサルトアーマー、それで一応潜り込むのに用意してくれたのが士官の階級やからな。
あっちのフロント行きの士官は一応適性がある限り必ず操縦技能が求められるのが普通らしいからな」
「それで操縦資格を取るために?」
「そう、ミッドチルダ軍の方に調整して貰ってな。あっちで運転しないとも限らんやろうからな」
「しかし仮の身分というのは・・・」
シグナムが机の上に広げられた資料の山から用意された身分証を探し出す。
どんな世界地域でも殆んど共通のサイズとデザイン、カード形式で写真を貼り付けるスペースのある身分証。
「どれどれ・・・、はやて・Y・R・グレアム?グレアム元提督の名前使ったんですか?」
「八神はやてと言う名前は知られすぎたからですか?」
「そういうこと。階級も降格された少尉さんや」
偽名は昨日の内にリインと相談の上で決めたことである。
「あら?でもはやてちゃん、身分証もう一組ありますよ?」
シャマルが山の中から未記入の身分証を見つけ出す。
「あー、それか?もう一人連れて行くことになっとる」
「主、それなら私が・・・。戦場でもお守りしてみせますが・・・」
バトルマニアのシグナム、滅多にする事が出来ない集団戦、しかも死線を渡り合う戦闘、おそらく想像だけで今から血が滾っている。
「それなら治療系スキル持ちの私が行ったほうが・・・」
戦場における衛生兵役は多いに超したことはない。それが自衛手段を取れる衛生兵ならなおのこと。
「シグナム、シャマル、悪いけどもう決まってるんよ」

なお、ヴィータ、ザフィーラにリイン2・アギトの一人と一匹と二体はどうしたのか?
ヴィータはこのような話し合いは柄じゃないといって殆んど参加しない。
ザフィーラは参加はするが狼形態で殆んど発言しない。だが、必要なことは聞いているので問題はない。
他の二体は?
「へん!!バッテンチビよりあたしの方が純正の融合騎だからな。ベルカ式の騎士とのユニゾンならどいつとも上手くやってやるよ」
「むー!!リインだって誰とでもユニゾンできますよ-だ!!」
「どーだが!!八神隊長とか守護騎士とかとしかユニゾンしたことねーくせに」
「二人とも静かにしてくれないか・・・?」
顔を合わせればほぼ間違いなく喧嘩する。
しかも二体が顔を合わせて喧嘩するのは大体ザフィーラの体の上である。

ところ変わってセテウア世界群。
構成世界のひとつである“ガエッデ”にて強襲旅団・“赤い蠍”はキャンプを張っていた。
戦況は芳しくなく撤退が噂され、しかも部隊長が変わるという事態になっていた。
「オヴァン隊長、次に来る新入りの資料です」
旅団付の通信小隊の隊員が送られてきた資料を差し出す。
「わかった。そこに置いておけ」
オヴァンといわれた男はそう言うとコーヒーに口をつけ置かれた資料を手にとって目を通す。
資料には二人分の資料が挟まれていた。
一人は八惑星連合正規軍から送られてくる連絡士官、はやて・Y・グレアム。
もう一人は傭兵派遣の斡旋業者を通じて来る少女、ディエチ・S・ナカジマ。
片や士官、もう一人は書類上は戦闘経験を持つ少女。

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最終更新:2008年01月19日 14:14