「変身!」
大きな掛け声と共に、ザビーゼクターを装着したクロノの体を銀と黄色をしたアーマーが包んでいく。
そして変身すると同時に近くのワームを殴り飛ばしてゆくザビー。
一匹、二匹と殴り飛ばしていくと、今度はワームが集団で襲い掛かってくる。こんな時、マスクドライダーならどうするか……?
「……キャストオフ。」
『Cast off(キャストオフ)』
左腕に装着されたザビーゼクターを回転させると、全身のアーマーが浮かび上がる。
そして、浮かび上がったアーマーは一気に弾け飛び、近くにいたワームは爆発する。
「ライダー……スティングッ!」
『Rider Sting(ライダースティング)』
クロノはザビーゼクターのフルスロットルを押す。同時に左腕を稲妻が駆け巡る。
鎌を振り上げて走ってくるセクティオワーム。そしてすぐ側で黙ってザビーを見るカブト。
「……ハァッ!」
次の瞬間、ザビーのレンジに飛び込んだセクティオワームの胸に華麗な左ストレートが突き刺さる。
そしてセクティオワームの体を稲妻が駆け巡り……
ドカァンッ!
大きな爆音と共にセクティオワームは爆発した。
「カブト……僕は時空管理局のクロノ・ハラオウンだ。アースラまで同行してもらえるかな?」
「……やはり、お前も時空管理局の者か。」
しばらく睨み合う二人。
「……僕たちも、目的はキミと同じだ。それにキミには色々と聞きたいことがあるからね」
ザビーは数歩歩いてカブトに近寄る。
「お前達と話すことなど何も無い。」
「そういう訳には行かない。キミはこの前、時間を巻き戻した。」
「…………。」
黙って空を見るカブト。
「訳があるなら、ちゃんと話して欲しい。抵抗しなければキミには弁護の機会がある。」
「……弁護だと?馬鹿馬鹿しい……」
「何だと……!?」
鼻で笑うカブトに苛立ちを露にするクロノ。
「俺の往く道は天の道。誰の指図も受けない。」
言いながら天を指刺すカブト。クロノも完全に呆れ果てている。
そして……
「なら仕方ない……ディレイドバインド!」
『Put On(プットオン)』
さりげなく詠唱を終え、カブトへとディレイドバインドを飛ばす。それに対しカブトはすぐにプットオン。
マスクドフォームのアーマーを身に纏った。
クロノが発動したディレイドバインドは一斉にカブトを捕らえる。それらに束縛されたカブトは一切の身動きを封じられた。
なんだ、この程度か。大口を叩いていた割にたいしたことないな……。
「これでも、そんな事が言えるのか?」
勝ち誇ったように言うクロノ。このまま転送してしまえばこちらの勝ちだ。
だが……
「……甘いな。所詮お前も星に過ぎない。」
『Cast off(キャストオフ)』
カブトが言うと同時にベルトのゼクターホーンが勝手に稼動。バインドに拘束されたアーマーが浮かび上がる。
「な……まさか、このために!?」
クロノはプットオンなんて便利なシステムを知らなかった。
カブトはバインドで拘束される所まで予測してプットオンをしたというのか。
ならば次に飛んでくるのは……
「(まずい……!)」
ザビーは咄嗟にガードの姿勢に入る。この近距離でのアーマーの直撃は避けたい。
『Clock Up(クロックアップ)』
カブトがいた場所から聞こえる機械音声。
次の瞬間、バインドごと弾け飛んだカブトのアーマーがザビーを襲う。
「……クッ!」
ほんの一瞬の出来事だ。ザビーは弾け飛ぶアーマーから身を守り、すぐに視線を戻すが、そこにカブトの姿は無かった。
ガードの為に目を離した一瞬の隙にクロックアップで逃げられたのだ。
「カブトッ……!」
クロノは悔しそうにザビーゼクターを「ガチャリ」と回転させ、変身を解除した。
「時空管理局……か。」
ヘルメットを被りながらぽつりと呟く天道。
どんな奴が相手でも関係無い。この道を阻む者が現れたのなら、倒すだけだ。
「早く帰らなければ樹花が心配するな……」
天道はそのまま自分の愛機であるカブトエクステンダーに跨がり、夕日が落ちつつある街を颯爽と駆け抜けて行くのであった。
ACT.11「Try this Δform~トライディスデルタフォーム」
「で、ザビーに変身したはいいけど天道総司には逃げられてしまったのね……」
数時間後、ハラオウン家。
リンディは少しがっかりした表情でクロノの報告を聞く。
「……はい。次は絶対に捕獲して見せます。」
「わかったわ。」
報告しながらもクロノは悔しそうな顔をしていた。あんなにも馬鹿にされたような態度を取られたのは初めてだ。
「クロノ君……大丈夫?」
「ああ……」
数分後、リビングのソファに座ってザビーブレスを見つめるクロノに、エイミィがお茶を出す。
「そんなに強かったの?カブト……」
「いや、戦う前に逃げられた……が、おそらくそれなりに強いんだろうな」
クロノは言いながらリモコンのボタンを押す。同時に宙に表示されたカブト・ハイパーカブトの映像。
モニターの中でもその強さは変わる事無く、どんどんと敵を切り倒している。
「で、こっちがハイパーカブトだよね」
カブトの横に映っているハイパーカブトの映像を指差すエイミィ。
「ああ。おそらく時間を巻き戻したのもそいつだ。」
「……にしても、なんで時間なんて巻き戻したんだろうねぇ」
「解らない。だがどんな理由があろうと時間を巻き戻したりしていいはずが無い……!」
クロノはザビーブレスを握りしめる。都合が悪いからと言って時間を巻き戻すなんて、許されるはずが無い。
エイミィはクロノの悔しそうな、ただならぬ雰囲気に気付き、話題を変える事に。
「いやぁ、それにしても……まさかクロノ君がマスクドライダーシステムに選ばれるとはねぇ……」
「僕も驚いてるよ……」
驚いてると言うが、やはり冷静な顔だ。
「何か選ばれる条件とかあるのかな……?」
「さぁ……僕はただッ!?」
喋り出したクロノの言葉はつまり、突然胸を押さえ悶え出した。
本当に苦しそうにソファをのたうちまわるクロノに、エイミィも心配そうに声をかける。
「ど……どうしたの?大丈夫、クロノ君!?」
「う……胸……がぁッ!」
クロノは胸を押さえて苦しんでいる。エイミィは咄嗟にクロノのシャツをめくった。
「コレは……!?」
「なんだ……!?」
クロノの胸に大きく描かれていたのは、ハチのようなマーク-ザビーの紋章-だ。
「ザビーの……紋章!?」
なんとか落ち着いたクロノは胸に描かれたザビーの紋章を見つめるのだった……。
同刻、海鳴某所。
三人で暗い路地裏に寝そべっていた地獄兄弟達。
「うッ……!?」
「どうした、相棒?」
しかし、影山が突然胸を押さえて苦しみ始めたのだ。
矢車に言われ、恐る恐る胸を見る影山。
「そ……そんな……!?」
「だから何なんだよ?」
浅倉も苛立ちながら質問する。
「ザビーの紋章が……消えた。」
悲しげな顔で言う影山。確かにゼクターを天道に奪われ、変身は不可能になったが資格まで失った覚えは無い。
そんな影山を見て矢車は「ヘッ」とあざ笑う。
「別にいいじゃねぇかそんなもん。俺なんてとっくの昔に消えちまってるよ……」
「……うん。そうだよね……」
一瞬ショックを受けたが、すぐに立ち直る。
「(そうだ……今の俺には兄貴や浅倉がいる。ザビーなんて……)」
影山はまた明るい表情に戻った。まぁ「ザビーなんていらない」とハッキリ言い切る事はできないが……。
ゆっくりと顔を上げる影山。
そんな影山の目に止まったのは、一台のバスだった。
数分後、バス内部。
一人の男が席に座りながらヘッドホンで音楽を聴いている。
男の外観は、黒いTシャツを着て、首には黒いバンダナ。
頭には黒いキャップを深く被っている。
さらにその上からかけたヘッドホンから聞こえるのはヒップホップ系の音楽。大音量で聴いている為に音漏れしているのだ。
この時間帯になると乗客もそれなりに多い。男の目的は『それ』だった……。
「(トンネルか……。)」
やがてバスは暗いトンネルに入る。トンネルはいくつかの電気に照らされているだけで非常に薄暗く、近くに他の車がいる気配も無い。
男はトンネルに入ったのを見計らい、ポケットから一つの折り紙を取り出した。中々上手に折られている。
同時に左手でマッチを取り出し、右手の指先に持った折り紙を燃やし、捨てる。
バス内で段々と灰になってゆく折り紙。
男は折り紙が完全に燃え尽きる前に、ゆっくりと立ち上がった。
………………
…………
……。
その日、そのバスの中で大量の人間の悲鳴がこだまし、それと同じ数の人間の命が失われた。
やがて、トンネルの中からヘッドホンで大音量の音楽を聴きながら男が歩いて来る。
男の背後では運転手を失ったバスが壁に激突し、無惨な姿になっていた。
もちろん、そのバスから誰かの声が聞こえる事はもう無い。
ただ、男のヘッドホンから音漏れしたノイズ音が聞こえるだけだった……。
翌日、海鳴市のとあるファミレス。
草加、真理、里奈、恭介、新井、太田……。
今、ここには『澤田亜希』と『三原修二』を除く残りの流星塾生が集結していた。
「……で、河内の最期の言葉通りなら……今デルタギアを持ってるのは澤田なんだな?」
冷静に状況を纏める草加。
「ああ。澤田の奴……俺のデルタギアを……!」
「何言ってんだ!デルタギアは俺のだ!」
またデルタギアの所有権を巡って言い争いになる恭介と新井。草加も見てられないと言わんばかりに溜め息をつく。
「ちょっと止めなよ二人共!」
誰にしたってこんな光景見てられない。見兼ねた真理が止めに入った。
「昔はあんなに仲良かったのに……皆どうしちゃったの!?」
「こうなったのも澤田が悪いんだろ!」
「あいつが勝手に俺のデルタギアを持ち出すからだ!」
無茶苦茶な事を言い出す恭介と新井。デルタギアを一度でも使ってしまうと、その力に溺れてしまうのだ。
「俺達流星塾生の絆も……怪しくなったもんだな。」
「草加君……。」
この険悪な空気を破るように呟いた草加。それにより一同は黙り込む。
「真理……澤田の事で話があるんだ。」
数分後、その沈黙を破ったのは恭介だった。
「何……?恭介」
「ちょっと来てくれ……」
そう言い、真理を連れ出した恭介。さらにそれに続くように新井も席を立った。
草加はそんな二人の行動に不信感を抱くのであった。
一方、私立聖祥大附属小学校。
「キャンプ?」
「うん♪もうすぐ中等部と合同でキャンプがあるんだって」
嬉しそうになのは達に伝えるフェイト。
どこから聞いた情報かは知らないが、最近楽しいイベントに恵まれなかったなのは達にとっては嬉しいイベントだ。
「キャンプか……」
「ん?どうしたの、剣くん?」
いきなり不敵に笑い出した剣に、今度は何を言い出すのかと身構える一同。
……まぁ、剣が言うことなどだいたい想像がつくが……。
「キャンプなら俺に任せて貰おう!なんせ俺はキャンプにおいても頂点に立つ男だからな!」
胸を張って言う剣。一同は一瞬シーンとするが……
「さすがだね、剣くん……」
「絶対言うと思っとったわ……」
「毎回それだもんね……」
それぞれに「あはは……」と軽く笑いながら返答を返す。毎度ながら剣の言葉は返答に困る。
だが、楽しくキャンプに行く前になのは達には一つ、懸念事項があった。
「(天道さん……どうなるんだろう?)」
「(やっぱり……犯罪者扱いだろうね……)」
なのはとフェイトは念話で話始めた。今は天道にどんな処分が下されるのかが一番気になる。
しかも当の天道は犯罪者になりつつあるというのに今日も堂々とパンを売っているという。
それも管理局をナメている証なのか、それとも……
数時間後。
ここは海鳴市のとある廃墟、地下。
「ちょっと、これ外しなさいよ!」
誰もいないはずの廃墟に、真理の声がこだまする。声からしてかなり怒っている様子だ。
「これで本当に澤田は来るのかよ?」
「ああ……なんせ澤田は誰よりも真理が好きだったからな」
床に横たわる真理の言葉を無視し、見下ろしているのは恭介と新井だ。
真理は両手と両足を縛られ、身動きが取れない状態にされている。こうすれば間違い無く澤田は来る。
つまり真理は澤田をおびき出す為の餌として誘拐されたのだ。
『真理を助けたければデルタギアを持って来い』
それが二人から澤田に送られたメールだ。もはやこの二人の頭にはデルタギアの事しか無い。
デルタギアを手に入れるためなら例え幼なじみであろうと利用するのだ。
そうしてしばらく待っていると、二人の耳にヘッドホンから音漏れしたかのようなノイズが聞こえてくる。
「「澤田か!」」
咄嗟に身構える二人。
廃墟の階段をゆっくりと下ってくるのは、黒いキャップを深く被り、音楽を聞いている男-澤田亜希-だ。
「澤田くん!?」
縛られた真理も驚いて澤田を見る。
当の澤田はずっとヘッドホンで音楽を聴きながら、何も喋らずに佇んでいる。
「澤田……デルタギアは持って来たんだろうな!?」
「真理を助けたければデルタギアを渡せ!」
恭介と新井は澤田に向けて叫ぶ。
それに対し、ゆっくりと顔を上げる澤田。
「俺は真理を助けに来たんじゃない……」
恭介と新井は澤田の顔を見る。「何を言い出すんだコイツは」と言いたげな表情だ。
「……俺は真理の命を奪いに来たんだ……」
「……!?」
震えた声で言う澤田に、その場の一同が言葉を失った。
「な……デルタギアはどうしたんだ!?」
だがそれでも質問を続ける新井。
すると、澤田は黙って新井の足元にアタッシェケースを放り投げた。
「俺はデルタの力の代わりに新しい力を手に入れた……」
澤田は言いながら二人に歩みよる。
「今の俺とお前らじゃ圧倒的すぎる……デルタギアはお前らにやるよ……」
不気味な雰囲気で近寄る澤田に、恭介と新井は一斉に片手を振り上げた。
「……!?」
刹那、二人の手から赤い閃光が走り、澤田は奥の壁に激突する。
「一度でもデルタの力を使えばその力は体に残るんだよ!」
吹っ飛んだ澤田を嘲笑うかのように言う恭介。
しかし勝ち誇るのもつかの間だ。次の瞬間、澤田の姿は変わっていた。
「澤田……おまえ!?」
「オルフェノクになったのか!?」
澤田の姿は蜘蛛のような外観をし、片手に巨大な八方手裏剣を持った『スパイダーオルフェノク』へと変わっていたのだ。
真理も「そんな……!?」と言いたげな、とにかく驚いた表情をしている。
相手がオルフェノクならばためらう必要は無い。
『Standing by(スタンディングバイ)』
恭介はすぐにデルタギアを装着、そして……
「変身!」
『Complete(コンプリート)』
次の瞬間、恭介の体は青白い光に包まれていた。
全身を伝う白いトリニティストリームが特徴的だ。
デルタはすぐに腰に装着されたデルタムーバー片手にスパイダーオルフェノクへと突進した。
「うぉおおおッ!」
デルタは一気にスパイダーオルフェノクのレンジに入り、強力なパンチを撃ち込む。
しかしそれがスパイダーオルフェノクに当たる事は無く、逆に八方手裏剣での反撃を受ける。
「クッ……うわッ!」
「…………。」
一瞬のけ反ったスキに、スパイダーオルフェノクはデルタを滅多斬りにする。
澤田は例え相手が幼なじみといえども容赦無く斬り続け……
「死ね……」
そしてトドメの一撃をデルタへと放つ。
「が……ぁ……ッ」
胸部のデルタラングを貫くような勢いでスパイダーの八方手裏剣が突き刺さっている。
「さわ……だ……」
そしてそのまま恭介の体からデルタギアは外れ、最期に澤田の名を呟き、青い炎に燃え尽きた。
「クソ……澤田ッ!」
目の前で恭介が死ぬ瞬間を目撃した新井は、悔しそうに唸る。このままでは自分まで殺されてしまう。
「(真理……!)」
その頃、草加は真理を助けるために恭介と新井がいる廃墟の階段を駆け降りていた。
「澤田君っ!」
そんな草加の耳に聞こえて来たのは、真理の叫び声。
「真理ッ!」
真理の緊迫した声に気付いた草加は急いで階段を駆け降りた。
「……ッ!?」
そして目の前で繰り広げられる光景に、言葉を失う草加。
澤田と思しきオルフェノクが新井の命を奪った瞬間だ。さらにそのすぐ側では燃え盛る恭介の死体も転がっている。
「澤田……貴様ァアアアアアッ!!」
大きな声で叫んだ草加はすぐにカイザフォンに変身コードを入力。
『Complete(コンプリート)』
「うぉおおおおおッ!!」
草加は走りながらカイザへと変身し、カイザブレイガン・ブレードモードを振り下ろす。
「……クッ!」
「はぁッ!!」
またしても目の前で仲間を殺された事にブチ切れたカイザは凄まじい勢いでスパイダーオルフェノクを斬りまくる。
だがスパイダーオルフェノクも並のオルフェノクでは無い。
「……草加っ!」
最初はブレイガンの猛攻に耐えていたが、すぐに反撃を開始。
「うわッ……!」
手に持った八方手裏剣でブレイガンを弾き返し、そのままパンチやキックを打ち込む。
それにより吹っ飛ばされたカイザは瓦礫の山に埋もれる。
「ク……澤田ぁ……!」
だがこんなことで負けてられない。カイザはすぐに立ち上がり、前方を見据える。
だがそこにいたのは、すでにカイザのレンジに入ったスパイダーオルフェノクだった。
「フン!」
「うぉあ……ッ!」
スパイダーオルフェノクは巨大な八方手裏剣でカイザを突き飛ばし、再び吹っ飛ばされたカイザは廃墟の壁に激突する。
「草加ーッ!」
そこに遅れてきた巧が駆け付ける。
巧の目の前で壁にたたき付けられたカイザが地面へと崩れ落ち、さらにその奥では身動きを封じられた真理が横たわっている。
「巧ッ!」
「真理!」
真理は「やっと来てくれた」というような目で巧を見る。巧もすぐに真理に駆け寄り、真理を縛っていたロープを解く。
「澤田ァーーーーッ!!」
叫びながら起き上がるカイザ。全身埃まみれで、ボディが少し白くなっている。
カイザはすぐにカイザブレイガンのレバーを引き、スパイダーオルフェノクへと光弾を放つ。
「……ッ!」
同時にスパイダーオルフェノクは全身を駆け巡る黄色い光に身動きを封じられ、さらに前方に「Χ(カイ)」の形に似た光が現れる。
『Exceed Charge(エクシードチャージ)』
そしてカイザはブレイガンを持ち、腰を低く構え……
「さァわだァァァーーーーーーッ!!」
「……うッ!?」
刹那、カイザの身体は黄色い閃光となり、スパイダーオルフェノクを貫通。
カイザの必殺技、「ゼノクラッシュ」だ。
「……うッ!?」
やがてスパイダーオルフェノクの体に黄色く輝く「Χ」の紋章が浮かぶ。
だが澤田はそのまま灰になることは無かった。
かろうじて致命傷を避けた澤田は、胸を押さえながら立ち去ってしまった……
「真理!」
澤田が立ち去るのを見た草加は、すぐに真理へと駆け付ける。
「澤田君が……澤田君が!」
「落ち着け真理!」
草加はショックの余り錯乱する真理を宥める。
巧は「おい、アレ……」という目付きをしている。
草加は巧と一瞬目を合わせ、同時に側に転がったデルタギアを見た。
これで三本のギアが揃ったということになるが……。
数日後、アースラ。
「では、これより正式に天道総司への対応を発表します」
リンディの言葉に、息を飲む一同。なのは達も呼び出されている。
「まず、なんとかして天道総司を捕獲します。それから、尋問して事情を聞こうと思います」
その発表を聞いた一同は、予想通りと言った感じの反応だ。
「でも、そう簡単に捕まるかな?」
「ああ……捕まえてみせるさ」
クロノは、「絶対に捕まえてみせる」といった表情で言う。
一方、剣崎も真剣な表情でモニターに映ったカブトを見る。
「どうしたん、剣崎くん?」
剣崎ははやてに質問され、目線をカブトから外す。
「いや……一応あいつも俺と同じ仮面ライダーだし、何か理由でもあるのかなって思って……」
「……どうかな?」
天道を信じようとする剣崎にクロノが言う。
「あいつはただカブトの力を楽しんでいるだけかもしれない……」
「そんなこと……!」
「はいはい落ち着いて!まだ話は終わって無いわ」
また険悪な雰囲気になりつつある剣崎とクロノをリンディが宥める。
「カブト捕獲命令には管理局製の試作型ライダーにも参加してもらう事になったの」
「「試作型ライダー!?」」
驚いて声を揃える一同。
エイミィはピッとボタンを押し、画面を切り替える。
「管理局が開発した試作型ライダー、その第1弾……通称G-3だよ!」
画面に映った青いライダーの説明をするエイミィ。それなりの自信作らしいが……?
「次の作戦では、G-3・ブレイド・ザビー、それとなのはさん達による共同作戦で、カブトを捕獲してもらいます。」
リンディの言葉に力強く頷く一同。
この時剣崎は、BOARDのライダーであるギャレンの存在を完全に忘れていたという……
同刻、バークローバー。
「葦原さん。貴方にはデルタギアの奪還をお任せしたいのですが……」
「デルタギア……?」
涼に『デルタギア』の奪還を依頼する村上。
「はい。我が社が開発したマスクドライダーシステム……その第1号です。」
村上はまた初心者には解りづらい説明を始める。しかし……
「デルタギアの奪還には僕が行きます。そんな新入りに任せられる仕事ではありませんからね」
「琢磨さん……」
そこに割り込んだのはさっきまで黙って話を聞いていた琢磨だった。
しかも今からデルタギアの奪還に行くつもりらしく、既に立ち上がっている。
「……弱りましたね。では葦原さんはどうすればラッキークローバーの一員として認められるのでしょうか……」
「それなら調度いいのがあるじゃない」
カクテルを作りながら冴子が口を開く。
「なんでしょうか……影山さん?」
「裏切り者のオルフェノクの抹殺よ……」
質問された冴子は不敵に笑いながら一枚の写真を涼に見せた。
「これは?」
「木場勇治……彼は裏切り者なの。だから倒して欲しいんのよ……」
冴子の言葉にしばらく悩む涼。
そして……
「アンタ達が何をしようとしてるのか俺は知らない……」
おもむろに口を開いた涼。村上達も黙って聞く。
「だが、アンタ達には助けて貰った借りがある。」
「では……引き受けてくれるのですね?」
「ああ。コイツを倒せばいいんだろ?」
嬉しそうに確認する村上。冴子もニヤリと不敵に笑っている。
「木場勇治を倒せば貴方も立派なラッキークローバーの一員……これは私からの前祝いよ」
冴子は励ますように言い、涼にカクテルを差し出した。
「デルタギアは戻ってきたけど、俺達がバラバラになったままじゃ意味無いよ……」
呟く太田。
ここは海鳴市の少し大きな公園で、猫や小鳥といった動物達がたくさんいるのが特徴だ。
「でも、今は戦い続けるしか無いわ。そのためのデルタギアなんだから……」
一緒にいる里奈がデルタギアが入ったケースを握りしめる。
もう流星塾の生徒も残り少ない。今は二人だけで公園に来ている。
だがそんな二人の前に眼鏡をかけたインテリ風な青年-琢磨-が現れる。
「デルタギアを渡して貰いましょうか」
「何……!?」
咄嗟に身構える太田。
「大人しく渡せば命までは取りません」
言いながら琢磨は百足のオルフェノク-センチピードオルフェノク-へとその姿を変えた。
「オルフェノクか!?」
太田もすぐにデルタギアをケースから取りだし、装着。
「変身!」
『Complete(コンプリート)』
走りながらデルタへと変身した太田はすぐにセンチピードオルフェノクに殴り掛かる。
「うわぁああーーーッ!」
デルタはがむしゃらなフォームで、とにかく相手を殴りつける。
「く……このッ!」
最初は驚いたが、センチピードオルフェノクも防戦一方という訳にはいかない。すぐにムチを取り出し、応戦する。
それから数分が経過した。
「はぁッ!」
流石ラッキークローバーだ。センチピードオルフェノクが放つムチ攻撃に、太田が変身したデルタは防戦一方だった。
「太田くん!」
里奈も物陰に隠れながら太田の名を叫ぶ。その時だった……
ドゴオオオオオオオンッ!!
凄まじい爆音と共にセンチピードオルフェノクの足元を黄色の閃光が焼いた。
「ヒィッ……!」
「何だ……?」
二人は閃光が飛んで来た方向を見る。
そこにいたのは黒いマントを身に纏ったまだ10歳にも満たない少女。
「な……何ですか貴女は!?」
「時空管理局嘱託……フェイトテスタロッサ……!」
言うが早いかフェイトは一気にセンチピードオルフェノクに接近。
そのままバルディッシュ・ハーケンフォームを振り下ろす。
「く……貴女のような子供に!」
だがセンチピードオルフェノクはギリギリでそれを回避。
逆にムチを飛ばすが、フェイトにはあっさりと回避されてしまう。
しばらくそれを繰り返し、フェイトがムチを回避する度に木やベンチ、小鳥の巣等が破壊されてゆく。
フェイトはその時はまだ、特にそれを気にしてはいなかった……。
「はぁ……最近なんか変なんだよなぁ……」
良太郎は買い物袋をさげて家に帰る途中だった。
最近やけに記憶が無くなったり、体が勝手に動いたりすることが多い気がする。
できることならこれ以上トラブルに巻き込まれたくは無い。そう思った良太郎は家路を急ぐ事にした。
だが……
「なに……アレ?」
100mほど先で白い何かと灰色の何かとマントの少女が戦っているのを目撃してしまった。
言わずもがなだが、できることなら目撃したく無かった。
さらに良太郎の意識も遠ざかってゆく
「あ……アレ……また?」
こうして良太郎はまたしても気を失った。そして……
「俺、参上!」
次の瞬間、良太郎の髪の毛は逆立ち、瞳は赤く輝いていた。
「おいおい、何だか知らねぇが盛り上がってんじゃねぇかよ!」
良太郎は笑いながら三人が戦う場所に赴こうとした、その時だった。
「ん……何だ?」
「にゃぁ~……」と、猫の震える鳴き声が聞こえる。
良太郎は……いや、正確には良太郎に取り付いた何かは猫を見る。
「なんだ……急に……ッ!」
言いかけたが、次の瞬間には再び意識が飛んでいた。
そして良太郎の目は紫に輝き、公園を破壊しながら戦う三人を睨んでいた。
「今だ……!」
デルタはフェイトに翻弄されるセンチピードオルフェノクに不意打ちを仕掛けようとするが……
「邪魔ですッ!」
「ぐぁ……!?」
すぐにムチで搦め捕られ、次の瞬間にはムチで滅多打ちにされてしまう。
「フン!」
そのままムチで引き寄せたデルタを蹴り飛ばすと、デルタは数メートル吹っ飛び装着していたデルタギアも外れてしまった。
そのまま10mほど飛んだデルタギアは「ガチャン」という音をたてて地面に落下する。
「は!?デルタギアが……!」
琢磨も飛んでしまったデルタギアを追おうとするが……
「ハァーッ!」
「ヒぃッ……!」
フェイトがそれを許してはくれない。
かろうじてバルディッシュの魔力刃から逃れたセンチピードオルフェノクは、まずはフェイトからなんとかすることに。
「私の目的はデルタギアの奪還だ。邪魔をしないで頂きたい!」
センチピードオルフェノクの影に映った琢磨はフェイトに向かって言う。
デルタギア?あの白いベルトの事か……
「なら貴方はデルタギアをどうするつもりなんですか!」
「そんなことまで教える必要はありませんね!」
「ならアレは渡せません!」
センチピードオルフェノクのムチ攻撃を華麗に回避しながら叫ぶフェイト。
ただ、この陰湿なムチ攻撃はなかなか欝陶しい。フェイトもこんな相手と戦った事は無かった。
さらにフェイトが回避すればする程公園は傷付いていく。そろそろ何とかしないと……!
フェイトがそんな事を考えていた、その時だった……
イージャン! スゲージャン! イージャン! スゲージャン!!
突如として聞こえてくるラップ調の音楽。
「何……コレ!?」
「一体どこから……!?」
フェイトもセンチピードオルフェノクも周囲を見渡す。
こんな所で、しかもこんな戦闘中に音楽が聞こえるなんて明らかに不自然だ。
すると、音楽に合わせて10人程の少年がブレイクダンスを踊りながら接近してくる。
「ここは危険です!民間人の方はすぐに逃げて下さい!」
フェイトも慌てて叫ぶが、彼らはフェイトの指示に従うつもりは無いようだ。
少年達は尚も踊り続け、やがてヘッドホンを付けたリーダー格の少年が踊りながら前へ出る。
茶色いキャップを被り、髪の毛には紫のメッシュが入っている。
少年-良太郎-は踊りながらさりげなくデルタギアを拾い上げる。
「それは……!」
「それは貴方のような子供が持つ代物ではありません。こちらに渡しなさい!」
フェイトも琢磨も既に少年達に目が釘付けだ。
そしてサビに入った音楽に合わせ、少年達のダンスもより息の合った華麗なダンスへと変わって行く。
まさにクライマックスだ。
クライマックス クライマックス クライマックスジャンプ!!
やがて音楽も終わり、良太郎達は踊りながら決めポーズ-ジャンプしてセンチピードオルフェノクを指差すという動作-を取る。
「これやったのオマエ?」
良太郎は破壊された小鳥の巣や壊れたベンチに隠れながら脅える猫達を見ながら質問する。
「何ですか貴方は……いいからデルタギアを渡しなさい!」
「オマエなんだ?」
言いながら華麗に一回転、さらにデルタギアを装着する良太郎。
「な……デルタギアを!?」
「じゃあボクちょっと怒るけど、いいよね?」
「何を言ってるんですか貴方は!」
これまた華麗なステップを踏み、センチピードオルフェノクを指差す良太郎。
琢磨からしてもこんなに訳の解らない少年は初めてだ。
……まぁラッキークローバーにも十分訳の解らない少年が一人いるが……。
「いいんだ?」
そうこうしてる内に勝手に返答を決められる。まぁどうせ倒すつもりなのだから構わないが。
『Standing by(スタンディングバイ)』
ステップを踏みながらデルタギアを起動させる良太郎。
そして……
「変身!」
『Complete(コンプリート)』
「デルタが……!」
倒れたまま良太郎を見る太田。かなり驚いている様子だ。
やがて良太郎の体を青白い閃光が走り、全身を白いフォトンストリームが駆け巡る事でデルタへと変身完了。
黒と白のボディに、赤い瞳が輝いている。
そしてまたブレイクダンスのようなステップを踏み……
「ちょっとオマエ倒すけどいい?」
「フ……できるものなら。」
「答えは聞かないけど!」
センチピードオルフェノクムチはデルタに向かって走り出す。
「フン!ハァ!」
そしてしなるムチを何度も振り下ろすが……
デルタは全てダンスのような振り付けでかわし、逆に踊りながらパンチやキックを入れていく。
「このぉ……!」
もどかしくなってきたセンチピードオルフェノクは、デルタに殴り掛かろうとするが、何度やっても同じだ。
踊るデルタには全く攻撃が当たらない。
「ク……!」
回転してはパンチ、回転してはキック。その繰り返しだ。
流石に博識な琢磨でもブレイクダンスがこんなにも厄介だとは思わなかっただろう。
そしてデルタは踊りながら腰に装備されたデルタムーバーを自分の顔に近づけた。
「ファイアっ♪」
『Burst Mode(バーストモード)』
次にデルタは華麗に一回転、そのままデルタムーバーの銃口をセンチピードオルフェノクに密着させ……
「ばぁ~ん!」
「ぐ……うわぁああッ!!」
零距離で連射。センチピードオルフェノクは一気に吹っ飛ぶ。
「ばぁん!ばぁん!ばぁ~んッ!!」
「うわわわわッ!」
さらにデルタは踊りながら乱れ撃ち。センチピードオルフェノクも必死にかわしているが……。
そのまま撃ち続け、デルタムーバーは弾切れを起こす。
「チャ~ジっ!」
『Charge(チャージ)』
だがすぐにチャージし、再び乱れ撃ちを開始。とにかく撃てばいいと思っているのか。
デルタは当たらない銃を撃ち続け、公園はさらに破壊されていく。これは本当に酷い光景だ。
「も……もういい加減にしてください!!」
見兼ねたフェイトはデルタを止める。
「あ、そっかぁ。猫達が驚いちゃうね」
言いながら連射を止めるデルタ。
センチピードオルフェノクも「ヒィィーーーッ!」等と泣き叫びながら必死に逃げている……
そして戦闘も終わり……
「コレ面白いね~!ボク貰うけどいいよね?」
嬉しそうに言うデルタ。
そのまま華麗なステップを踏みながら立ち去ろうとしている。
父さんが送ってきたデルタギアをあんな訳の解らない、しかも目茶苦茶な奴に任せられる訳が無い。
「ちょ……ダメに決まってるでしょ!」
急いでデルタに駆け寄る里奈。
「……ッ!?」
次の瞬間、デルタはまたしても華麗に一回転し、デルタムーバーを里奈の顔面に突き付けた。
「な……!」
固まる一同。今引き金を引かれれば間違いなく里奈は死ぬ。
「答えは聞いてなぁい♪」
そう言い、デルタは引き金を握る手をゆっくりと動かした。
次回予告
良太郎と名乗る少年に奪われてしまったデルタギア。
果たしてデルタギアはどうなってしまうのか……!
そして時を越える電車とは一体……!?
さらに新たなライダーを迎えた管理局はカブトを捕獲するため、本格的に動き出す!
次回、魔法少女リリカルなのは マスカレード
ACT.12「学校の怪談でG-3起動?」
に、ドライブ・イグニッション!
スーパーヒーロータイム
ハナ「なんで良太郎がデルタに変身しちゃったの!?」
村上「デルタギアはオルフェノクの王の為に作られたベルトです。それが同調するということは……」
オーナー「あぁるいは、良太郎君に取り付いたイマジンが無理矢理システムを同調させたの……かも」
ナオミ「もしかしたら特異点ってことが関係あるのかも!」
巧「って……デルタギアは誰でも使えるんじゃねぇのかよ!?」
最終更新:2007年08月14日 11:36