新暦75年。
次元震の地球への影響は著しかった。
環境の激変や生態系の破壊が起こり、唯一の望みである魔法技術も殆どが失われ、復興も絶望的な状況となった。
度重なる次元震の余震や治安の悪化も手伝い、人々に安息が訪れることはなかった。
だが、それでも人は生き続けた。
……いや、生きねばならなかった。
戦後15年、地球環境はようやく安定期に入った。
次元震の余震もだんだんと形を潜め、禁止されていた次元世界間移動も解禁された。
その際、アフターウォーからミッドチルダへの移民が続出し、ミッドチルダでも受け入れへの対策が本格的に始まってきていた。
しかし、アフターウォーに暮らす人々に比べると、移民者の数はまだまだほんの一握りに過ぎなかった。
皆、自分の生まれ故郷である地球を見捨てることが出来なかったのである。
アフターウォーに残った人々は来たるべき時代に望みを託して、『今日』を必死で生きている。
そしてここにも、『今日』を生きる人々が作った街があった。
灼熱の日が注ぐ砂漠の中にある小さな街。
建造物はどれもボロボロであったが、街には人々が溢れていた。
そして人々には笑顔があった。
その姿は、今の時代の惨状を忘れさせるほど輝かしいものだった。
「前の戦争で、超能力を使う兵隊がいたという噂を聞いたことがあるだろう? あれは根も葉もない流言、デマの類かというとそうではない!」
そんな人が賑わう街の中、二人の男を囲む小さな人だかりが出来ていた。
大道芸でも始まるのかと期待しているのだろう、男の長々しい前口上に人々は真剣に耳を傾けていた。
二人の男の片方、汚らしい軍服を着た小太りの男は更に声を張り上げ、観客に向かい話を続ける。
「実はこの男こそ、超能力兵士の生き残り。かの戦いでは、自分と二人で15隻の戦艦を沈めたというのだから間違いない! 人は我らのことを『赤い二連星』と呼んだ!」
「私こそ、新時代を迎えた人類の進化すべき姿」
小太りの男が話を一旦止め、黙って座っているだけだったもう片方の男が口を開いた。
観客の視線が今度はそちらに移動する。
男は額に傷があり、如何にも歴戦の兵士と言った雰囲気を醸し出していた。
小太りの男……もとい赤い二連星の太い方は掴みに確かな手応えを感じ、更に話を続ける。
「この混迷の時代、我らの力こそ必要なのである! どうだろう!? 我々を雇うなら今しかないぞ!」
「さぁっ!」と、赤い二連星の太い方が急かすように付け加える。
が、彼の口から『雇う』という単語が出た途端、観客の間には落胆したような微妙な空気が漂った。
目を輝かせていた子供達ですら白い目で二人を見ている。
「なんだぁ? 新手の職探しかよ」
観客の一人がそう呟いた。
それに釣られて他の観客も苦笑いを浮かべ始める。
しかし、赤い二連星の太い方はその言葉が癪に障ったのか、演説の時よりも声を張り上げ反論を始めた。
「な、何を言う! 今はこう汚い身なりをしているが、いざとなれば……」
と、これから話が本題に入ろうとした時だった。
突然耳を貫かんばかりの爆音が街中に響いた。
なんと赤い二連星の二人が演説をしていた後ろ建物の看板がいきなり爆発したのである。
赤い二連星の声はその音と眩い光に遮られ、ギャラリーは何が起きたのか分からず狼狽えている。
そして、大通りいた誰かが大声で叫んだ。
「ま、魔導師だっ!」
次の瞬間、街の入り口付近から放たれた砲撃魔法により、街は再び爆音に包まれた。
第一話 「月は出ているか」
「ヘッヘッ、今日はイイ仕事が出来そうだぜ」
砲撃魔法で街を破壊した張本人、趣味の悪いバリアジャケットを身に纏った流れの魔導師・クロッカは上機嫌だった。
それというのも、襲撃した同業者から時空管理局武装隊専用のストレージデバイスを仕入れたからだ。
武装隊専用と言うだけあり、デバイスには様々な魔法が記録されていた。
早速どこかで一仕事と意気込んでいた時、ちょうど見つけたのがこの街だったのだ。
「さぁて、どこから漁るか」
クロッカは杖を構え、街の中を品定めするように見回す。
だが、街を破壊された人々も黙ってはいなかった。
「クソぉお! 野党め!!」
「街から出てけっ!」
拳銃、ライフル銃、マシンガン、極めつけはロケットランチャーと、時空管理局が禁止している質量兵器の数々を人々は構えた。
自分の身は自分で守る。
アフターウォーで生きてゆく為には、質量兵器を使ってでも戦わなければならないのだ。
質量兵器を構えた人々は、それが当然のことのように引き金を引いた。
一気に弾丸が発射され、クロッカを襲う。
「おい」
『Protection』
弾丸がクロッカに着弾する直前、彼を覆うように現れたバリアが、降り注ぐ弾丸から彼を守った。
基本防御魔法であるプロテクションを発動したのだ。
弾丸は全てプロテクションに防がれ、パラパラと地面に落ちる。
プロテクションの強固な守りは、ロケットランチャーの弾丸さえ防いだ。
そして、攻撃されている当の本人は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「ちっ、何も皆殺しにしようって訳じゃねぇんだが……そっちがその気なら容赦しないぜ!!」
弾丸の雨が止んだ一瞬を見計らい、クロッカはプロテクションを解いた。
その刹那、デバイスの杖先から直射型の魔力弾が放たれる。
放たれた魔力弾は直撃と同時に爆発を起こし、街の被害を拡大させていった。
非殺傷設定が解除されているのか、その破壊力は無慈悲としか言いようがなかった。
着弾点には大怪我を負って動けなくなってしまった人が転がっている。
街の人々はクロッカの猛攻を止めようと必死で抵抗を続けるが、弾丸は魔力弾により打ち消され全く意味を成さなかった。
「くうぅぅ! お、おい! どうにかしろよ! 赤いなんとかなんだろ!?」
地面に伏せ、先程赤い二連星の話を聞いていた男が二人の方を向く。
が。
「ひいいぃっ!」
「た、助けてくれえ!」
今がいざという時だというのに、肝心の二人は既に遠くへ逃げていた。
次の瞬間には魔力弾の餌食になっていたが。
「くっ……魔法が使えれば何でもありかよ! せっかく街も軌道に乗ってきたっていうのに……!」
クロッカから少し離れた建物の中に、子供や老人、怪我人など戦えない人々が避難していた。
大通りからは陰になっている為気付かれてはいないが、時間の問題だろう。
外の惨状を歯噛みしながら見つめるしかないことに憤りと、いつ襲われるか分からない不安が人々を包む。
それでも彼らにはどうすることも出来なかった。
その中にいた一人の少年を除いては。
一方屋上では、赤ん坊を背負った初老の女性がスナイパーライフルでクロッカを狙っていた。
横にはもう一人彼女の子供がおり、不安げにライフルを見つめている。
「いくら魔導師でも、砲撃の隙を狙えば……」
スコープを覗きながら砲撃の隙を伺う。
魔力チャージ、まだ撃てない。
魔力弾を放った、隙は出来ない。
レンズの中心点にクロッカの眼球が来たとき、砲撃後の隙が生じた。
「喰らえっ!」
ライフルから鋭く尖った弾丸が撃ち出される。
そのまま頭を貫き、クロッカは絶命……する筈だった。
しかしライフルの弾はクロッカに当たらず、彼の一歩手前でバリアに弾かれ、地面に虚しく転がった。
「なっ!? オートガード!?」
女性もここまでは予想していなかったらしい。
気付かれまいとライフル銃を引っ込めるが、今の一撃はクロッカに居場所を知らせてしまった。
クロッカのデバイスが親子に向けられる。
誰もが撃たれると思った次の瞬間、避難場所にいた少年が一人、クロッカに向かって駆け出した。
「ん……?」
少年に気付いたクロッカが、デバイスをそちらに向ける。
しかし先に動いたのは少年の方だった。
手に持った小瓶をクロッカへ思い切り投げつけたのだ。
当然オートガードが働き、少年が投げた小瓶を防ぐ。
瞬間、小瓶が破裂し、目を焼かんばかりの光がクロッカを襲った。
「うわあぁっ!? め、目があ!!」
フィールド系の防御魔法でない限り、光を防ぐことなど出来ない。
それに目だけはどうやろうとも鍛えられないのだ。
少年の狙いはまさにそこだった。
「く、くぅ……や、野郎っ!! いったい誰が!?」
「俺だよ!」
「うぉっ!」
視力がまだ回復仕切らぬクロッカの後頭部に、黒く冷たい鉄の塊が押し付けられた。
もちろん拳銃である。
引き金に指を掛けているのは、先程の少年だった。
「へへん。いわゆる『ホールドアップ』ってやつ?」
「こいつ……いつの間に!」
「おぉっと、動かない。この距離なら、魔法を使うよりこいつを撃つ方が早いよ? きっと」
少年が引き金に掛けている指に力を込める。
強く押し付けている為、そんな小さな動作さえ事細かに伝わった。
クロッカは観念したのか、抵抗する素振りを全く見せない。
「……へっ、気に入ったぜ、小僧。なんだったら俺の仲間にしてやっても……」
「寝呆けたこと言ってないで、ホールドアップだってば」
「ひっ」
クロッカの後頭部に更に強く銃を押し付ける少年。
今度こそ観念したのか、クロッカはデバイスを手放した。
同時にバリアジャケットが分離し、下からこれまた趣味の悪い服が現れる。
「オッケー。じゃ、解放っと!」
「うわぁっ!」
少年はバリアジャケットの分離をしっかり見届けてから、クロッカの尻を思い切り蹴飛ばした。
バランスを崩し、地面につんのめるクロッカ。
だが彼への天罰はまだ終わらない。
気が付けば、彼は手に手に鈍器を持った住人達に囲まれていた。
「野郎……!」
「分かってんだろうなぁ?」
「うわわわ……た、た、た、助けてくれええぇ!!」
この後、彼は血祭りに上げられる。
因果応報、悪いことはどんな世界であっても出来ないものだ。
それはさて置き少年はというと、住人達にクロッカとは違う意味で囲まれていた。
「やるじゃねぇか、ガキ」
「へっへっへ~。ブイッ!」
街を救ったヒーローに賞賛の言葉を浴びせる住人達。
その言葉にすっかり気を良くしたのか、少年は満面の笑みで受け答えをしていた。
「ガロード・ランさんですわね?」
「あん?」
ふと、少年――ガロード・ランは、自分を呼ぶ声に気が付いた。
声がした方を見ると、メガネを掛けた女性が彼に向かって愛嬌たっぷりに微笑んでいた。
「やっぱりそうですわぁ。私はクアットロ、あなたをずっと探していたんです」
「仕事の話?」
「はい」
「だったら後にして」
並の男ならば、こんな台詞を女性に言ってもらったらドキリとするだろう。
しかしガロードの目に今映っているのは、美しい女性ではない。
クロッカが持っていたデバイスだった。
「こいつを金に変えるのが先だぁ!」
デバイスを拾うと、ガロードはあっという間に流れメカ屋の方へ走っていった。
「それにしても勿体無いですわねぇ。せっかく手に入れたデバイスを売ってしまわれるなんて」
流れメカ屋にデバイスを売ったガロードは、クアットロと名乗る女性と共に喫茶店へ入っていた。
店の窓からは、壊れた建物を修理する人々の姿が見える。
「でもないよ? 結構イイ値で売れるしね」
コーヒーカップを傾けながら、クアットロの言葉に軽く答えるガロード。
しかしクアットロは満足していないのか、眉間に小さな皺を寄せた。
「そうじゃありませんわ。あなたは魔法を熟知していらっしゃる。魔導師としても相当な使い手の筈ですわよぉ?」
クアットロの言葉に、今度はガロードが皺を寄せた。
「お断りだね! 確かに魔導師はいい商売だし、腕が良ければ管理局で雇ってもらえるけど、代わりに命も狙われるでしょ? まっ、デバイスは戦争の残した最高のお宝だからね」
そこまで言って一端話しを切り、窓の外へ視線を向ける。
重傷人を乗せた担架が、寂れた医療施設へと運ばれているところだった。
それを見て、ガロードの表情は更に厳しくなる。
「それに、魔導師同士が相手のデバイス狙って戦うっていうんだろ? ミッドはミッドで軍人紛いのことやらされるらしいし。あんな物持ってたら、命が幾つあっても足んないよ。それに………」
窓の外を眺めていたガロードの表情が更に曇る。
そして少しの間があって。
「さぁて、仕事の話しよっか?」
物憂げな表情を見せたガロードに、クアットロは疑問符を浮かべた。
しかし次の瞬間にはガロードに笑顔が戻っていた為、詮索しようとはしなかった。
何事も無かったかのようにモニターを起動させ、ガロードに一枚の写真を見せる。
「ヒュー♪」
写真を目にしたガロードは、天使の絵でも見せられたのかと思った。
それほど写真に写っている少女は美しかったのだ。
写真の少女は白い透き通った肌をしており、栗色のしなやかな長い髪を後ろで結っている。
対照的な色合いだが、それが彼女の整った顔立ちを美しく魅せていた。
顔に表情は無かったが、吊り気味の目が少女の清楚なイメージをより一層引き立たせている。
ガロードの今の状況は、俗に言う、一目惚れだった。
写真に見入るガロードを横目に、クアットロは仕事の説明を始めた。
「詳しい理由は言いません。聞かれても言えないですけど。この少女、ティファ・アディールを助け出して欲しいのですわぁ」
「助け出す……?」
写真から目を離したガロードが、クアットロに注目する。
クアットロは小さく肯くと、鋭い目を光らせながら事の次第を説明し始めた。
「彼女は……バルチャーに捕らわれてしまったのですわ」
満月の下、整備のために森に鎮座する一隻の白い船があった。
時空管理局本局次元航行部隊所属、XV級大型次元航行船・『フリーデン』である。
主にロストロギアの探索やアフターウォー関連の事件を担当し、通常時は第15管理世界の管理などを業務とする船だ。
今回も時空管理局第15管理世界支部局の査察を終え、本局へ帰還しようとしていたところだった。
査察の他に、一つの非公式な任務を終えて。
「ふぅ……」
フリーデンの艦長室で、艦長のジャミル・ニート提督は小さく溜め息をついた。
余程疲れているのか、サングラス越しにもその疲労の度合いが伺える。
シートに身を預け、そのまま仮眠を取ろうと目を瞑った。
その時、扉が二、三度ノックされ、彼の眠りを妨げた。
「……どうぞ」
シートに腰掛け直し、扉の向こうの相手に入室を促す。
「失礼します」という声と共に扉が開き、管理局の制服を着た女性が2人入ってきた。
片方は焦茶色のショートがよく似合う穏やかそうな女性。
もう片方は吊り目とポニーテールが印象的な女性だった。
「お休みのお邪魔でしたか?」
「いや、大丈夫だ……今回は忙しいところをわざわざ同行してもらって済まなかったな。礼を言わせてもらおう、はやて二等陸佐。そしてシグナム二等空尉」
はやてと呼ばれた穏やかな印象の女性は、手を振りを加えてそれに答える。
「そんな、私等も前から一度来たいと思うとったんで、ちょうどよかったです。今までは規制やらなんやらでなかなか来れへんかったんで」
「それは『夜天の主』として、かな?」
「まぁ、そんなとこです」
ジャミルの口から『夜天の主』という言葉が出たとき、シグナムと呼ばれた女性の眉が少しだけ吊り上がった。
しかし悪気がないと悟ると、直ぐに表情を元に戻す。
どうやらこの言葉を聞くと、体が無意識に反応してしまうようだ。
守護騎士の性、というものだろう。
対するジャミルはさして気にした様子もなく、はやてとの会話を続けた。
「それで、用は何だ?」
「あ、せやせや。今回は私の協力依頼を受けてくれて、ホンマありがとうございます」
「いや、カリムからも協力するよう頼まれていた。それに、私も君には依頼を請けてもらっている。持ちつ持たれつというやつだ」
「流石ジャミル提督、話の分かるお人や」
ジャミルの返答に満足げに微笑むはやて。
はやてがジャミルにした依頼とは、ジャミルを含むフリーデンクルーの新設課への協力。
それに伴う船艦フリーデンの貸出許可だった。
そもそも古代遺物管理部に所属するはやては、ロストロギア探索を業務とするフリーデンクルーと仕事を共にする事が多かった。
その為ジャミルとは繋がりがあり、今回の協力依頼に踏み切った訳だ。
しかしタダでと言うわけにはいかず、ジャミルからもはやてに一つの依頼を出していた。
依頼と言うのは、ジャミルが長年探し続けている『ある物』への捜査協力だった。
本人曰わく、『現在存在しているかどうかも判明しておらず、見つけたとしても保護出来るか分からない』らしい。
今回の同行も協力の一つで、やっと見つかった『ある物』の護衛の為だった。
それが何なのか、はやて達は知らされていないが。
「ジャミル提督、一つよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
はやてが粗方用事を伝えた後、今まで黙っていたシグナムが口を開いた。
因みに、今回の査察には八神家一同が参加している。
彼らのフリーデンクルーとの仕事は初めてであり、フリーデン搭乗時が初対面であった。
しかし、守護騎士達はジャミルの顔を見たときから、何か違和感を感じ続けていた。
「前に……お会いしたことがありませんでしたか?」
守護騎士が感じた違和感とは、既視感。
初めての筈なのに、前に会っている様に感じるというものだ。
この時、サングラスに隠れていた為シグナムは気付かなかったが、ジャミルの瞳には動揺の色が見え隠れしていた。
「なんやシグナム。ジャミル提督に逆ナンか?」
ぶち壊しである。
主にシリアスな雰囲気が。
流石のジャミルも椅子からずり落ちそうになった。
言葉の爆弾を投下した本人は、ニヤニヤと意地の悪い笑みでその顔を湛えている。
シグナムは必死ではやての言葉を否定しているが、意地悪い笑みが消える事はなかった。
その隙にジャミルは冷静さを取り戻し、サングラスを掛け直す。
「初めてで間違いない、安心してくれ」
「そ、そうですか」
「失敗かぁ……残念やったな、シグナム」
「だから違います!」
まだやるのか。
ジャミルは心の中で呆れ気味に呟いた。
はやてのこういったセクハラはフリーデンでも健在で、既に通信主任のトニヤ・マームと副官のサラ・タイレルが被害に遭っている。
蛇足だが、はやてによると二人とも見事に成長しているらしい。
「……コホン。主はやて、そろそろヴィータ達が待ちわびている頃かと」
「あぁ、そやね。それじゃあ、私等はこのへんで」
「ああ。他の騎士達にも宜しく言っておいてくれ」
「伝えておきます」
二人はジャミルに軽く会釈し、艦長室から去っていた。
「………ふぅ」
先程よりも大きな溜め息をつき、ジャミルは背もたれに寄りかかった。
何故か疲れが更に溜まった気がするが、気のせいだろうと思い直す。
そして瞼をゆっくりと降ろし、今度こそ仮眠に入った。
ふと浮かんだシグナムの先程の問いに、正しい答えを述べてから。
「……はやて二等陸佐が主人の君に会うのは、だがな」
「あ、そや」
艦長室を出て直ぐ、はやてはもう一つ尋ねようと思っていた事があったのを思い出した。
「どうかされましたか?」
「さっき支部局で女の子を船に乗せてたやろ? あの子は何なんか聞くの忘れてもうた」
「ああ……確か、アフターウォーでも有数な企業の研究所から保護したらしいです。人体実験に利用されていたとか……」
「……最近多いな、そういうん」
「そうですね……」
現在明るみになり始めた命への冒涜行為を思い出し、二人は沈んだ表情のまま自室へ続く廊下を進んだ。
静かになった廊下に館内放送が響き、出航時刻まであと10分であることを告げた。
時は遡り、ジャミルがはやてと会談していた頃。
フリーデン艦内を彷徨いている一つの人影があった。
管理局の制服も着ておらず、本局の船艦に乗るには全くそぐわない風貌。
人影の正体は、クアットロの依頼を請けたガロードであった。
フリーデンを整備する船員達の目を盗み、非常口から侵入してきたのだ。
「へへっ、ちょろいもんだぜ。こんな簡単に侵入出来ちゃうなんてさ。……にしても、これ本当にただのバルチャー艦? 外装はともかく、中は新型その物じゃん」
ガロードの疑問は尤もだった。
大体のバルチャー艦は、たくさんの船員を乗せて航行を繰り返している。
そのうちに船内外の至る所が汚れ傷つき、年代を感じさせる物になっていくのだ。
しかしこのバルチャー艦の船内は年代など全く感じさせず、アフターウォーには不似合いな清潔感さえ漂っている。
艦内の至る所に最新の設備が見受けられ、とても一塊のバルチャーの所有物とは思えなかった。
「ま、それだけ儲けてるって事かな」
だが、残念ながら(あるいは幸運にも)ガロードは思慮深い性格ではなかった。
自分が乗っている船が時空管理局の物とも知らず、船内探索を続行した。
「ん?」
早速先へ進もうとしたガロードだったが、左手にある部屋の前で立ち止まった。
プレートにはミッドチルダ語で『保管室』と書かれている。
その時、ガロードの野生の勘が宝の臭いを嗅ぎ付けた。
「……へへへっ。こんなに儲けてるバルチャーの船だもんね、御零れの一つも頂かないと」
善は急げとばかりに意気込むガロード。
ジャケットのポケットから自前の怪しげな装置を取り出すと、それを扉にくっつける。
すると装置が起動し、今まで厳重にされていた扉のロックがあっという間に解除された。
「よしっ!」
装置を仕舞い、すぐさま部屋の中へ入る。
保管室にはクロッカが持っていた物と同型のデバイスがズラリと並び、思わず舌なめずりしてしまう様な光景が広がっていた。
こんなお宝がどれでも選り取り見取り……というのは一瞬の儚い夢だった。
デバイスの一つ一つに持ち出せないようロックが掛かっており、無理に取り出せないようになっていた。
「ちぇ、やっぱり泥棒対策は万全か……ん?」
落胆しながら部屋を出ようとした時、ガロードは部屋の中心にある装置の上に何かが乗っている事に気がついた。
近づいて見てみると、それはガロードの掌より二回り程小さいデバイスだった。
恐らくこれは待機モードなのだろう。
『X』を象った銀色に輝く反射板の様な形をしており、裏には小さな文字で『GUNDAM X』と刻まれている。
幸い装置は起動しておらず、このデバイスだけが置き去りにされていた。
「おおっ! なんだか知らないけどラッキー! 有り難く頂戴するよっと」
デバイスを素早くポケットに忍ばせ、意気揚々と部屋を出るガロード。
その時、廊下に放送が響いた。
『発進まであと10分です。総員、至急持ち場に就いてください』
「まぢぃな……早くしないと……」
寄り道した事を少しだけ後悔しながら、ガロードは走り出した。
―……ラ、ララ…ララ……―
「はっ……!」
しかし、またすぐに足を止めた。
どこからか透き通った美しい歌声が聞こえてきたのだ。
歌声に導かれるように歩みを進めると、一つの部屋に辿り着いた。
声は確かに中から聞こえてくる。
ガロードは意を決し、扉を開けた。
扉の先で、天使が歌っていた。
写真よりも美しい少女――ティファ・アディールの容姿に、ガロードは思わず目を奪われた。
月光を浴びて歌う彼女の神々しい美しさを前に、見とれる事しか出来なかったのだ。
「………」
ふと、ティファが歌うのを止めた。
ガロードの方を向き、二人の視線が重なる。
正面からみたティファの顔に、ガロードはまたも胸が鳴った。
「あ、いやー……あっ、おっ、俺ー……え、そのー……」
いざ何かを言おうとするガロードだったが、なかなか言葉が出て来ない。
そうこうしている内に、彼を怪しんだティファは少しだけ身を引いた……ようにガロードには見えた。
「ちっ! 違うんだ!! ……って、何が違うんだぁ? あ、あれ!? お、俺、何言ってんだ!?」
喋る度に頭の中が混乱するガロード。
今の彼は底なし沼にはまって沈んでいくような気分だった。それでもティファは何も言わず、ガロードの顔をじっと見つめ続けている。
「ああっ、あのっ、えっ……だから………そうっ! 俺、助けに来たんだ!!」
ガロードは漸く底なし沼から這い上がり、なんとかそれだけを言うことが出来た。
心臓は未だに早鐘を打っているが、混乱は少しだけ収まっている。
「本当に、助けに来たんだ」
今度は力を入れ、言葉をしっかりと口にする。
ティファに伝わるようはっきりと。
ティファもそれが分かっているのか、心無し表情が柔らかくなったようだ。
そして、堅く閉じられていた口を開く。
「……待って」
「えっ?」
「待って、いました」
「……うん!」
ガロードはただ一言だけ。
ティファから初めて掛けられた言葉に、大きく頷いた。
数分後。
発進予定時刻を迎えたフリーデンクルーは持ち場に就き、ジャミルもブリッジへ上がって来ていた。
横には是非ブリッジを見学したいと、はやてとリインフォースⅡの姿もある。
「メインエンジン起動! フリーデン、発進します!」
「待って! 非常用の転送システム、作動しています」
「なに? 転送先は?」
「モニターに表示します」
サラがキーボードを叩くと、メインモニターに映像が映し出された。
一台のバギーに一組の少年少女が乗っており、森へ向かって疾走している。
バギーの搭乗者が拡大された時、ジャミルの表情が変わった。
「あれは……!」
「あの子、確か支部局で乗せてた……」
はやては記憶の片隅に留めておいた映像を思いだそうとした。
が、その時船が大きく揺れ、またも映像は記憶の片隅に追いやられた。
「きゃああぁ!?」
「な、なんや!?」
「8時の方向から魔力反応! 魔導師4! バルチャー艦1!」
「くっ……! フリーデン、急速発進!」
魔導師の攻撃を避ける為、ジャミルはフリーデンを発進させる。
その間にも砲撃は止むことなくフリーデンに降り注いだ。
「バルチャー同士の抗争? ま、好都合だけどね。しっかり掴まってろよ!」
魔導師に攻撃されているフリーデンを尻目に、ガロードはバギーのアクセルを強く踏み込んだ。
そのまま森の中を走っていると、少しだけ開けた場所に出た。
ガロードがクアットロと待ち合わせをした場所である。
既に一台のトラックが止まっており、トラックの前にはクアットロが立っていた。
「流石ですわねぇ、時間ピッタリですわぁ」
「ま、仕事だからね。さっ、ティファ」
バギーから降り、ティファを降ろそうとガロードは手を差し伸べる。
「あ……ああ………」
しかしティファはクアットロを見た途端、怯えるように体を震わせた。
「ティファ?」
「さぁ、ティファ」
クアットロは痺れを切らしたのか、一歩ずつティファに近付いて行く。
彼女の表情は笑顔だが、心の底では怯えるティファを見て楽しんでいた。
「ティファ、早く」
「い、嫌……」
「あなたの居場所はこちらですわよぉ?」
「嫌ああぁぁぁ!!」
「うふふ……」
あからさまに拒絶するティファを見て、クアットロは思わず腹黒い笑みを浮かべた。
それは確かに笑顔だった。
しかし、その顔からは凍てつくような冷たさしか感じない。
アフターウォーで生きてきたガロードが、この『危険な人間のサイン』を見逃す筈がなかった。
「やっぱりこの話無かった事で!」
すぐさまバギーに飛び乗り、全速力でクアットロを横切る。
夜の森と言うこともあってか、ガロード達の乗るバギーはすぐに見えなくなった。
しかし二人を逃がしたというのに、クアットロの顔にはまだ冷たい笑みが貼り付いていた。
「逃がしませんわ」
ぼそりと呟き、二人が逃げていった方向を指差す。
するとクアットロの後ろに止まっていたトラックからカプセル型のメカが飛び出し、飛行しながら二人を追った。
そうとは知らないガロードは早々に森を抜け、視界の利く荒野を走っていた。
雲のせいで月は隠れているが、バギーのライトで充実走行できる明るさだ。
「これでいいんだな、ティファ!?」
ティファは少し頷いただけだったが、ガロードにはそれで充分だった。
「まっ、しゃーねーか! 後はなるように……うわぁっ!!」
突然バギーが大きく揺れた。
バギーがたった今通った所は地面が抉られ、煙が立ち上っている。
追っ手の魔導師が来たのかと思い、ガロードは後ろを振り返った。
だか、煙の中から出てきた物体は、魔導師とは程遠い姿をしていた。
「な、なんだありゃ!?」
二人を追ってきたのはカプセル型のロボットだった。
センサーと思わしき黄色い部分が不気味に光り、そこから魔力弾を連射している。
しかも数は一機だけではなく、更に後ろに二機がついていた。
このロボットは管理局が『ガジェットドローンⅠ型』と呼んでいる個体なのだが、ガロードがそんな事を知る筈もなかった。
「げぇっ! これってかなりヤバイって感じぃ!?」
ガロードはアクセルを再び全開にし、バギーを全速力で走らせた。
それでもガジェットとの距離は全く開くことはなく、攻撃の手が緩むこともなかった。
終わりの見えないデッドヒートを続けているうちに、無数の魔力弾の一発がバギーに迫った。
交わそうとガロードがハンドルを切ろうとする。
その時ティファが思いもよらないことを口にした。
「このまままっすぐ」
「えぇっ!?」
「まっすぐ!」
「んなこと言ったってぇ! うおぁっ!?」
渋るガロードを押しのけ、ティファはハンドルを握り締めた。
ついに魔力弾が頭上にまで迫る。
しかし、魔力弾は軌道から外れ、バギーの左手に着弾した。
「逸れた!?」
確実にこちらに来る弾がティファの言う通り逸れた事に、ガロードは驚きを隠せなかった。
しかし自分達の置かれている状況をすぐ思い出し、ティファからハンドルを取り返す。
疑問を思い過ごしだと整理し、逃げることのみに専念した。
だが、その後も不思議な出来事は続いた。
ティファが右と言えば左に魔力弾が着弾し、左と言えば右に魔力弾は墜ちるのだ。
一度目ならば偶然で片付けられるだろう。
だが二度三度と続けば、それが偶然ではないとガロードにも理解できた。
(すげぇ……。いったいどうなってるんだ? ……そっか! もしかすっと、みんなこの力が狙いで……)
そこまでガロードの考えが至った時、バギーの目と鼻の先にガジェットが現れた。
如何にティファの力が強力でも、浮遊するガジェットとバギーの性能差を埋めることは出来なかったのだ。
「うわああぁっ!!」
避けようとハンドルを切るが時既に遅し。
バギーはガジェットに激突し、二人は地面に投げ出された。
幸い二人に大した怪我はなかったが、バギーは大破し使い物にならなくなっていた。
「くっ……ううぅ……」
投げ出された衝撃で痛む体に鞭を打ち、ガロードは立ち上がる。
周りを見回すと、ティファがすぐ近くに倒れていた。
「ティファ!? ティファ!!」
駆け寄って体を揺するが返事はない。
一瞬最悪な場面が脳裏を掠めるが、息は微かにしていた。
どうやら頭を軽くぶつけてしまったらしい。
安堵の表情を浮かべるガロードだったが、三体のガジェットはすぐ後ろにまで迫っていた。
バギーが激突した一体は、ボディが凹んだ程度で未だ機能している。
ガロードはティファを抱えると、近くにあった大岩の後ろに隠れた。
頭が良くないのか、ガジェット達は二人が隠れた岩に何発も魔力弾を放つ。
「畜生っ! あんなのどうやって倒せば……そうだ!」
ガロードはポケットに手を突っ込んだ。
中を漁り、そして目当ての物を掴み出す。
取り出したのは、フリーデンからせしめた銀色のデバイスだった。
「こいつで……って、あ、あれ?」
早速起動させようとデバイスを弄るが、全く反応がない。
「なんだこれ!? 壊れてんのか!? 動けよ! おい!」
デバイスを叩くが、反応する気配すら見られない。
後ろではガジェットの攻撃が激しさを増し、遂に二人を守っていた大岩に亀裂が走った。
「クソっ! 俺はティファを守るんだ!! だから動けよ! この野郎っ!!!」
自棄糞になり、ガロードはデバイスを地面に思い切り叩きつけた。
カツンと音を立て転がるデバイス。
その時、ガロードの願いが神に通じた。
『.....Standby, ready』
「やった!!」
今の衝撃で魔力回路が復活し、機能停止していたデバイスが蘇ったのだ。
奇跡としか言いようがなかった。
これからは神様を信じようと心に誓い、ガロードはデバイスを拾い上げ高らかに叫ぶ。
自分の運命を変えるデバイスの名を。
「ガンダムX! 起動!!」
『Yes, master! GX-9900 GUNDAM X, Drive ignition!』
響くデバイスの起動音。
同時にガロードの周りから青白い光の柱がそびえ立った。
光の柱は空まで伸び、雲を突き破って月を現す。
ガジェットも異変に気がつき光の柱へ近付くいて行く。
だが次の瞬間、柱が弾け、ガジェット達は吹き飛ばされた。
そして柱があった場所、その中心には様変わりしたガロードの姿があった。
体は白を基調としたバリアジャケットに包まれ、カラーリングはかのエースオブエース・高町なのはを連想させる。
背中にはガロードの身長程もある巨大な砲身を背負い、手には青い操縦桿が握られていた。
魔導師ガロード・ラン、ここに誕生である。
『よろしくお願いします、マスター・ガロード』
「ああ! さぁて、今までよくも追い掛け回してくれたな?」
ガロードはGXを握り締め、三体のガジェットを睨み付けた。
対するガジェットはガロードの変身など気にも止めず、三体一気に襲いかかる。
「行くぜぇ!!」
『Slash form』
GXが変形し膨大な魔力が歪な刃を形成する。
ガロードは剣となったGXを構え、ガジェットに向かって駆けた。
それを認めたガジェット達は魔力弾を放ちガロードを牽制する。
しかし元から身軽なガロードは易々と魔力弾の間を縫い、一気に間合いを詰める。
そして一体のガジェットの懐へと入り込んだ。
「でえぇりゃあ!!」
一閃。
ガロード渾身の大振りがガジェットを斬り裂いた。
「もういっちょ!!」
間髪入れずに横にいたガジェットにも一閃をお見舞いする。
形は歪な刃だが、その斬れ味と破壊力は抜群だった。
ガジェット二体は真っ二つに割れ、黒煙を上げて爆発した。
「最後の一体!」
しかし最後のガジェットは形勢不利と踏んだのか、自身の周りにフィールドを張り巡らせた。
アンチマギリンクフィールド。
通称AMFと呼ばれる、魔力結合を強制的に解消する防御魔法だ。
手慣れしていない魔導師が挑むには危険すぎるフィールドであり、GXもすぐにガロードへ警告を発する。
『マスター、AMFです。ここは一旦退いて……』
「なぁ、GX」
『はい』
「歯ぁ食い縛れ!!」
『えっ?』
GXは最初、言われた意味が理解できなかった。
だが、ガロードが自分の警告を完璧に無視し、AMFに突撃して行くのを確認し、何となく理解した。
新しい主人はいきなり無茶をしようとしている。
『マスター!? 一体何を!?』
ガロードは臆することなくAMF内に入った。
GXから伸びていた魔力刃は消え、バリアジャケットの構成も危うくなる。
ガジェットはアンカーケーブルを振り回し、防御が薄くなったガロードに叩き付けた。
しかし、AMF内に入ったからと言ってガロードの素早さが失われる訳ではない。
ガロードは難なくそれを交わし、持ち手だけになったGXを握り……
「なめんじゃねえ!!!」
ガジェットのセンサー目掛け思い切り殴りつけた。
センサーは粉々に砕け、展開されていたAMFが解除される。
そしてセンサーにGXが食い込んだまま魔力刃が復活。
そのままガジェットの体を貫いた。
「おりゃあああああああ!!」
GXを握り思い切り振り下ろす。
ガジェットはセンサー部から両断され、爆散した。
「はぁ、はぁ、はぁ……や、やったか」
燃え盛るガジェットの残骸を眺めながら、ガロードはその場に膝を突いた。
張り詰めていた緊張感が解けたのか、足から力が抜けてしまったようだ。
危険が去ったのを察知し、GXもGコントローラー型デバイスフォームへと戻る。
『大丈夫ですか、マスター?』
「あ、ああ……それよりティファは?」
膝を地に着いたままガロードは辺りを見回す。
ティファはすぐに見つかった。
先程隠れていた岩陰に立っており、どこか遠くを見つめていた。
「ティファ! 良かった、気が付いたんだな!」
ティファが気がついた嬉しさに疲れを忘れ、ガロードは彼女に駆け寄った。
「………………」
「……ティファ?」
しかし、ティファはガロードが近付いても何も言わず明後日の方向を見つめ続けた。
そんなティファに疑問を覚え、ガロードは彼女に声をかける。
その時、四つの人影がガロード達の目の前に現れた。
「前方に魔力反応! ミッドチルダ式の魔導師です!」
一方、バルチャーを退けたフリーデンはティファの捜索を開始していた。
そんな中ガジェットドローンの反応をキャッチし、ティファの手掛かりになるかと反応を追っていたところだった。
「嘘っ……ガジェット、全機ロスト! 恐らく今の魔導師の仕業だと思われます!」
「……そうか」
トニヤの報告にジャミルは顔を俯けた。
何故なら、立ち上った青白い光の柱に心当たりがあるからだ。
浚われたティファ、持ち去られたガンダムX。
ジャミルは既に答えを出していた。
「月は出ているか?」
「えっ?」
ブリッジにいた全員の視線が一遍にジャミルに集まる。
はやてとリインもジャミルが何を言っているのか検討がつかなかった。
それでもジャミルは聞かずにはいられなかった。
「『月は出ているか?』と聞いている」
―PREVIEW NEXT EPISODE―
ティファを守るため、ガンダムXを起動させたガロードの前に、四人の魔導師と、彼らを狙うバルチャー達が立ち塞がった。
迫り来る無数の流れ魔導師。
ついにティファは、禁断のシステムを作動させた。
第二話 「あなたに、力を…」
最終更新:2008年02月08日 19:19