ひよっこどものお遊戯の日々。
先の見えない隊長どもと言われたとおりにするばかりのひよっこども。
端から端まで失望して、機械のように日々を過ごす。
たった1人まともな女がいてくれてほっとしたのも束の間、
機動六課に出動がかかった。
場所はホテル・アグスタ。
任務内容は骨董美術品オークションの会場警備と人員警護。
そういえば防衛戦はやったことがなかった。
いつだって殲滅戦と消耗戦だけの毎日だったのだから。
魔法少女リリカルなのはStrikerS―砂塵の鎖―始めるか。

第7話 ホテル・アグスタ防衛、泣き叫ぶ心

――ミッドチルダ・首都南東地区――
ローター音を響かせる1機のヘリの中に機動六課メンバーが揃っていた。
はやてが現在まで分かった情報と今日の任務についてのブリーフィングをしている。
しかし、ローターが回っているのにインカムもなしに会話できるなんてすごいものだ。
これも魔法っていうやつか。
さて、はやての説明を端折って簡単にまとめれば、ガジェットドローンとかいう
あの木偶人形とレリック収集をやっている主な人物が
違法研究で広域指名手配されているジェイル・スカリエッティ。
これから行うのはホテル・アグスタとかいう場所で会場警備と人員警護。
しかし、取引『許可』の出ているロストロギアときたか。
『誰が』なにを考えて許可を出したのか是非とも聞いてみたいものだ。
なんにせよたいしたことないか。
それに情報の共有は当然だからはやてのこれはこれでいい。
ひよっこ連れでもフルメンバーで来ているのだから問題らしい問題もないだろう。
これで隊長達が抜けるとかほざいたら大笑いしそうだが・・・・・・。
さて、疑問に思っていたことを口にするとしよう。

「あー、八神隊長殿。質問いいか?」
「なんや、はんた。」
「ジェイル・スカリエッティが賞金首ということは分かった。
違法な研究をしている人間だということも。それで『どのあたり』が違法な研究なんだ?」

俺がそう言った途端、全員の視線が集中する。
正気で言っているのか?と言わんばかりの表情と共に・・・・・・。
まったくどうしたんだ、揃いも揃って・・・・・・。
どこが悪事と呼ばれる部分なのかわからないから聞いただけなのに。
たかがクローニングと武器の材料集めと人体改造とその他適当ぐらいだろう?
しかし、本当にいったいどこが違法なんだ?
どこか戸惑った様子でフェイトが口を開く。

「あ、あのね。はんた君。任務が終わったらいくらでも答えてあげるから・・・・・・。」
「別に構わない。要はそのスカリエッティが賞金首だということだろ?
それで、今日の任務はどの程度まで許されるんだ?」
「どの程度?」
「片っ端からSearch and DestroyのDead No Aliveでいいのか?ってことだよ。」
「人は殺したらあかんよ。」

無意識に視線がザフィーラのほうに向いた。
人・・・・・・獣型・・・・・・。

「前言撤回や。機械以外殺したらあかん。絶対に非殺傷設定を解除したら駄目やからな。」
「・・・・・・了解。」

これで周辺全部が平地や荒野じゃなくて森なんて言ったら、
魔法が発達したこの世界じゃ相手に攻めてくださいと言わんばかりの環境だな。
ああ、もういいや。
『指示がなかったから』で全部押し通すとしよう。


「この手の大型オークションだと密輸取引の隠れ蓑になったりするし、
いろいろ油断は禁物だよ。」
「現場のほうは昨夜からシグナム副隊長とヴィータ副隊長他、数名の隊員が張ってくれている。」
フェイト隊長とはやて部隊長の言葉を聞きながら傍らに置かれたトランクが気になった。
いったいなんだろう?
さっきもはんたさん、とってもびっくりする質問していたし。
出動するんだから、なにか起こるって思って準備しておかないと。
それに、はんたさんを今度は怒らせないようにしないと。
この前は本当に怖かったな。
ヴォルテールとどっちが怖いかな。
ううん。
今はそんなことよりも疑問を投げかけるほうが重要なんだ。
はんたさんは気軽に質問できる状態を作るためにあんな質問をしてくれたんだろう。
きっとそうだ。

「あたし達は建物の中の警備に回るから、前線は副隊長達の指示に従ってね。」
「「「はい!!」」」
「あの、シャマル先生。さっきから気になっていたんですけど、その箱って・・・・・・。」

なのはさんの言葉に皆が返事をする中、私は疑問を口にした。
その言葉にシャマル先生が驚いたのと同時に視界の端ではんたさんが笑った(?)のかな。

「うん?ああ、これ?隊長達のお仕事着。」
「まさかドレスが入っているとでも言いだすのか?それとデリンジャー・・・・・・は
まずいんだったな。装身具で通せるナックルダスターあたりが入っているんだろう?」

シャマル先生の言葉に、はんたさんが横から口を挟んだ。
でりんじゃー?なっくるだすたー?
装身具って言ったから指輪みたいなものかな?
そんなはんたさんの言葉になのはさん達とシャマル先生がひきつっている。
ええと・・・・・・つまり・・・・・・本当にドレス?

「当然布切れのドレスじゃないんだろう?とりあえず鋼鉄製のガーターベルトと
0.01mm径の鋼糸で編んだストッキングは基本として、鋼鉄製のコルセットか
ブラジャーも当然つけるよな。あとは・・・・・・メイド服もありだな、
なんせ戦車砲だってはじきとばすし。」
「ちょ、ちょ、ちょ、はんた。どこにそんな代物売ってるんや?」
「・・・・・・ないのか?」
「「「「「「「「そんなものどこにあるんだ!!!!!」」」」」」」」

皆が一斉にはんたさんに突っ込んだ。
けれど、気のせいかな?
皆は冗談だと思ったみたいだけど。
はんたさん、少しも冗談を言っているように見えないんだけど・・・・・・。


「でも、今日は八神部隊長の守護騎士団全員集合か。この前以来だね。」
「そうねー。あんたは結構詳しいわよね?八神部隊長とか副隊長達のこと。この前?」
「(あー、ティアはバトー博士のときのことを忘れてるんだっけ:6.5話参照)
うん。父さんやギン姉から聞いたことくらいだけど、八神部隊長の使っているデバイスが
魔道書型で、それの名前が夜天の書っていうこと、副隊長達とシャマル先生、ザフィーラが八神部隊長個人が所持している特別戦力だってこと。で、それにリイン曹長を合わせて6人揃えば無敵の戦力ってこと。まぁ、八神部隊長達の出自や能力の詳細は
特秘事項だからあたしも詳しくは知らないけど・・・・・・。」
「レアスキル持ちの人はみんなそうよね。」
「ティア、なにか気になるの?」
「別に・・・・・・。」
「そう、それじゃまた後でね。」

六課の戦力は無敵を通り越して明らかに異常。
八神部隊長がどんな裏技を使ったのか知らないけど、隊長格全員がオーバーSランク。
副隊長達でもAAランク。
他の隊員達だって前線から管制官まで未来のエリート達ばっかり。
あの歳でBランクまで取っているエリオとレアで強力な龍召還師であるキャロ。
2人ともフェイトさんの秘蔵っ子。
危なっかしくはあっても潜在能力と可能性の塊で、
優しい家族のバックアップもあるスバル。
性格に難がある狂人でも飛びぬけた戦闘スキルを持ったはんた。
やっぱりうちの部隊で凡人はあたしだけ。
どうしてこんなエリート部隊にあたしがいるのか。
だけど、そんなの関係ない。
あたしは立ち止まるわけにはいかないんだ。


眼下に広がる森を前にバリアジャケットを見にまとった俺は呟いていた。

「ここまで思ったとおりだと呆れを通り越すな。」
「マスター。装備はどうしますか?」
「このまま空より爆裂弾で片っ端から吹き飛ばすか?
それとも使用する弾種として通常弾、あるいは強化炸薬弾がいいか?」
「近接戦闘員の中でシグナムだけが88mm砲弾種爆裂の効果を回避可能です。
可能性の問題として通常弾をお勧めします。」
「それ以上の口径および別の弾種を使用した場合は?」
「大口径になるほど未熟な人間の損傷確率が上昇します。
弾種もナパームおよびエレキを使用した場合、戦闘効率の向上が望めますが、
高確率での森林火災誘発および未熟な人間が巻き込まれた際の、
飛躍的な損傷確率上昇が予想されます。」
「誰とは言わない辺り奥ゆかしいな。他の装備で候補は?」
「近接装備の場合、敵が広域にわたって展開されると樹木に邪魔され殲滅率の低下が
考えられます。同様に7.7mm機銃を初めとする副砲全般においてもやはり樹木が
邪魔となり、殲滅率の低下が予測されます。
候補としてタップダンサーを始めとした広域殲滅用の装備をお勧めします。
ただし、弾幕密度の関係上撃ちもらしが考えられます。」
「3連装にすれば?」
「マスター。申し訳ありませんが、3連装にする機能は現在搭載されておりません。」
「今度、バトー博士に取り付けてもらうとしようか。」
「了解しました。マスター。」

視界にはアルファの収集した情報が片っ端から奔り続けている。
さて、どうしたものか。
この間のように予想耐久力を示すか。
いや、やめておこう。
ひよっこどもにはいい勉強になるし、なんせ相手は賞金首だ。
それなりに名前が売れているヤツだから前と同じ敵を出すような馬鹿ではないだろう。
うん?
レーダーレンジに敵影確認。

「アルファ、通信を管制およびシャマル、シグナム、ヴィータに繋げろ。」
「了解しました。マスター。」

通信が繋がる。
顔を映さないで音声のみにしているあたり、実に戦闘用だ。

「どうしたの?」
「そっちのレーダーレンジに引っかかっていないのか。」
「なにが?」
「敵以外になにがいる。」
「っ!!クラールヴィントのセンサーに反応。」
「来た来た。来ましたよ。ガジェットドローン陸戦1型機影30、35、
陸戦3型2,3,4。」

通信担当のシャーリーから『なにが?』ときたよ。
ひよっこ部隊なのか。
この機動六課って・・・・・・。
シャマルの声に慌てて管制官(名前はなんと言ったか)が慌てて読み上げているようだ。
なんだかいつも後手にまわるのは気のせいか?
それともこれが普通なのか?

「だそうだ。シグナム、俺は射程に入った敵を端から吹き飛ばすよ。
巻き込まないように気をつけはするが・・・・・・。」
「はっ、てめぇの出番なんかねぇよ。」
「ヴィータ!!はんた、お前の考えなら相手はどう攻める?」
「とにかく物量押しでシグナム達が悲鳴上げるまで続ける。あるいはシグナム達を
前線に引きずり出してその後ろで伏・・・・・・召還という便利なのがあったな、を使って
ひよっこどもを奇襲、ホテルへの強襲もあり。
会場にいる人間かオークションの出品物に重要なものがあるのなら、
さらにそれらも囮にしたうえで高機動機群あるいは高性能機による強襲か強奪か。」
「エリオ、キャロ、お前達は上に上がれ。ティアナの指示でホテル前に
防衛ラインを設置する。」
「「はいっ!!」」
「ザフィーラは私と迎撃に出るぞ。」
「心得た。」
「ザフィーラって喋れたの?」
「びっくり・・・・・・。」
「バトー博士には内緒にしてくれ。それより守りの要はお前達だ。
空にハンターもいるが、しっかり頼むぞ。」
「う、うん。」
「がんばる。」
「前線各員。状況は広域防御戦です。ロングアーチ1の総合管制と合わせて、
私シャマルが現場指揮を行います。」
「シャマル、指揮できたのか?片っ端から吹き飛ばすような殺し合いより気がついたら
首を撥ね飛ばされていたとか毒殺なんかを好む人間だとばかり思っていたが。」
「はんた。前線に私とヴィータが出るから広域の情報把握と指揮に手間取るのと、
シャマルのデバイスである『クラールヴィント』が現場指揮向きの能力なんだ。」
「ハンター1は先ほど提案したとおり火力支援をお願いします。また、奇襲時はもとより、強襲があった場合、単機での行動を認めます。最後にあなたのデバイスと情報を
直結させると管制室とクラールヴィントが悲鳴を上げるので、逐一報告願います。」
「ハンター1。了解。しかし、シャマル。どこぞの隊長達より話が分かっていい女だな。
それと、シグナム達が前線に出る前に敵を削っておくか?」
「・・・・・・?削れるのなら負担を減らすためにもお願いします。」
「了解した。アルファ、タップダンサー、1トリガー、88mm砲弾種通常。」
「了解しました。マスター。」

通信が終わった。
いつでも連絡ができるように回線は繋げっぱなしだが。
さて、変形を指示したアルファが右腕で金属音が鳴り響かせ続けると、
やがて特異な形状を取った。
形としては・・・・・・ボーリングの玉を思い浮かべてくれればいいだろう。
冗談のように巨大で、穴の部分にレンズがついているが・・・・・・。
さて、これはどのような武器なのか。
なぜタップダンサーと呼ばれるか。
それはこの武器が引き起こす光景を見れば一目で分かる。

「ファイエル・・・・・・。」

巨大な玉が高速で回転を始め、レンズ部分から上空高くに向かって
魔力スフィア(塊と言ったほうがいいくらいに巨大だが)が打ち上げられて上昇を続ける。
永遠に上昇し続けるわけではないそれは、やがてその上昇を終える。
上昇を終えたその魔力スフィアは分解を始め、当然のように降下を始める。
ただ、魔力スフィアとしてではなく、広範囲にわたって降り注ぐ魔力弾の雨となって・・・・・・。
あの荒野において1,2を争う安価な車載のS-E(特殊装備)と呼ばれる広域殲滅兵器。
絶え間なく激しく続く軽快な着弾音がタップダンスに聞こえる。
その様からついた名前がタップダンサー。
手に入れた頃は洒落た名前だと思い、そのネーミングセンスに感服した。
もっとも、それ以上に引き起こされる壮絶な光景に感動(いまだにこの表現が正しいか
自信が無い)して、毎日馬鹿みたいにぽんぽん撃っていた。
本家はレーザーが降り注ぐが、こっちは魔力弾で再現されている。
本当に俺が知っている限り、再現可能なのだな。
これの運用の欠点は上昇をしてから降り注ぐまでの時間。
その過程で産まれる数秒を長いと思うか短いと思うかは場面次第だ。
もっとも3連装で降り注がせられればそんな時間なんて関係ないほどの
弾幕を広域にわたって展開できる。
やはりバトー博士に3連装の展開が可能になるよう改造を頼むとしよう。

「管制。こっちだと13機撃墜を確認したが?しかし森が邪魔だな。
ナパームでも撃ち込んでしまいたいな。本当に・・・・・・。」
「ハンター1。絶対にだめですからね!!!!!!」
「多芸だな。はんた。」

シャマルが警告してきて、シグナムがなにか(たぶん褒め言葉)を言った。
今思っていることはたった1つ。
無意識に呟くなんてミスをするんじゃなかった。
『指示が無かった』で済ませて森を全部焼き払うつもりだったのに。
これじゃナパーム弾を撃てないじゃないか。
それでもタップダンサーで多少マシになったからいいか。
しかし、欲求不満なのだろうか、俺は・・・・・・。
そんな思考を奔らせながらも、右腕は既に敵のほうへ構えられていて、
変形はタップダンサーからの魔力弾が降り注いでいる間に完了していて、
後は88mm砲のトリガーを引くばかりだった。


「スターズ3、了解。」
「ライトニングF、了解」
「スターズ4、了解。」

そう叫んで駆け抜けながら、クロスミラージュからアンカーガンを射出して
ホテルの上に上る。

「シャマル先生。あたしも状況を見たいんです。先生のモニターもらえませんか?」
「了解。クロスミラージュに直結するわ。クラールヴィントお願いね。」
「Ja.」

そう言うと、シャマル先生は快く了解してくれた。
ただ、気がつけば唇を噛んでいるあたしがいる。
血が滲むほどに強く・・・・・・。
この目の前の降り注ぐ魔力弾の雨を前にして。
なんなのだ。
このあまりにもでたらめな能力は・・・・・・。
威力が劣りこそすれ、多くの広域魔法を笑い飛ばすような展開速度と範囲。
それを持っているのがなんであんな狂人・・・・・・。
ギリリと奥歯が鳴った。

「シグナム、ヴィータちゃん。」
「おう。スターズ2とライトニング2、出るぞ!!」
「デバイスロック解除。グラーフアイゼン、レヴァンテイン、レベル2起動承認。」
「グラーフアイゼン!!」
「レヴァンテイン!!」
「「Anfang.」」

シャマルからの呼びかけに答え、私はレヴァンテインを起動。
騎士甲冑を展開する。
ヴィータも展開が終わったようだ。
天井に開いた採光窓から私達は飛び出す。

「新人どもの防衛ラインまでは1機たりとも通さねぇ。速攻でぶっつぶす!!」
「お前も案外過保護だな。」
「黙れよ。」
「だが、お前よりも過保護がいるみたいだぞ。」
「なんだって?」

視線の先で文字通り森が吹き飛んでいく。
ガジェットドローンの残骸と共に・・・・・・。
素晴らしい性能の砲撃魔法だな。
詠唱時間、魔力弾の速度、範囲、射程のいずれも高いレベルだ。
特に詠唱時間が限りなく0に近いことが飛びぬけている。
おそらくあれでも手加減しているのだろう。
ひよっこどもの援護をする場合も兼ねて・・・・・・。
現に、はんたは少しも動こうとしていない。
しかし、敵も一定以上から近づくことがまったくできていない。
単独でこれほど見事な前線構築ができるとは驚くばかりだ。

「過保護で悪いな。巻き添えを考えて強化炸薬弾や爆裂弾が使えない。
ナパームとエレキはさっき禁止された。」
「聞き耳立てるなんて趣味悪ぃぞ!!」
「あまりに大声だから聞こえたんだ。」
「やっぱりてめぇは気に入らねぇ!!あたし達だけで十分だ!!」
「私が大型を潰す。お前は細かいのを叩いてくれ。はんたは・・・・・・臨機応変だ。」
「了解。臨機応変だな。巻き込まないようには注意するよ。」
「巻き込んだらまじで殺すからな!!」

会話している先から森が吹き飛んでいくことにヴィータは気がついているのだろうか。
案外、はんた1人でこいつら全部落とせたのかもしれないな。
魔力リミッターなんて物もかかっていないようだし・・・・・・。
むしろ私達を巻き込むことが枷になっているんじゃないだろうか。
まさかな。
役立たずなどと思われるより先に、さっさと片付けてしまうとしよう。
地上に降り立つと同時に、レヴァンテインから魔力カートリッジが排莢される。

「紫電一閃!!」

掛け声と共に、目の前の大型ガジェットドローンをその腕ごと切り裂いた。


「ここは通さん。せりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

私は鋼の軛をガジェットドローンの群れに向けて展開する。
本来これは拘束用に分類される魔法。
しかし、使い方次第では攻撃にもなる。
大地から次々と突き出した拘束条が、ガジェットドローンを貫いていく。
両端が切り立った崖となっているのも防衛する私に味方してくれる。
やつらがここを通るには私を撃破するしかないからだ。
同時に私はどこからでも鋼の軛が展開できる!!

「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

左右の崖からも鋼の軛を展開し、ガジェットドローンを穴だらけにすると
耐え切れなくなったガジェットドローンは火を噴きだし、爆音を轟かせた。


「副隊長達とザフィーラ、それにはんたさん、すごーい。」
「これで能力リミッター付き・・・・・・。」

シャマルさんに直結してもらった情報をウィンドウに表示すると、
各地で巻き起こる爆発の光景が映っていた。
スバルは単純に驚いている。
けれど、あたしは・・・・・・。
無意識に拳を握り締めていた。


「ごきげんよう。騎士ゼスト、ルーテシア。」
「ごきげんよう。」
「なんのようだ?」
「冷たいねぇ。近くで状況を見ているんだろう?あのホテルにレリックはなさそうだ。
だが、実験材料として興味深い骨董が1つある。少し協力してくれないかな?
君達なら実に造作もないことなんだが・・・・・・。」

ああ、なんて白々しい言い回しだろう。
どうしてルーテシア達があそこにいるか当然知っている。
その上で、私からの頼みを断れないと知っていてこう言っているのだから。
おっといけない。
つりあがりそうな唇を自制する。

「断る。レリックが絡まぬ限り互いに不可侵と決めたはずだ。」
「ルーテシアはどうだい?頼まれてはくれないかな?」

ゼストが断るのは分かりきっていたことだ。
そしてルーテシアにこう言ったなら、どんな返事が帰ってくるかも分かっている。

「いいよ。」
「優しいなぁ。ありがとう。今度是非お茶とお菓子でもおごらせてくれ。
君のデバイス『アスクレピオス』に私が欲しいもののデータを送ったよ。」
「うん。じゃぁ、ごきげんよう、ドクター。」
「ああ、ごきげんよう。吉報を待っているよ。」

白々しくそう言って通信を切断した。
ああ、なんて健気なルーテシア。
人質に取られた母親のためにこんなに素直に言うことを聞いてくれるなんて。
笑いが止まらないじゃないか。


「あっ!!」
「キャロ、どうしたの?」
「近くで誰かが召還を使っている。」
「クラールヴィントのセンサーにも反応。だけどこの魔力反応って・・・・・・。」
「お、大きい・・・・・・。」
「驚いている暇があったらさっさと指示をくれないか。
殺していいならさっきからずっと動かない2機がいるんだがね。
キャロ、召還で呼び出せるものにはなにがいる?」
「虫でもドラゴンでも機械でもなんでも呼べます!!」
「詠唱中断させれば?」
「召還は止まります。」
「そういうことだ。シャマル、射程内だが殺傷許可は?」
「・・・・・・だめです!!」
「それなら召還されたものを片っ端から潰すしかないじゃないか。なんて無様!!
アルファ、88mm弾種爆裂。」
「くっ・・・・・・。」

はんたさんの言葉にスラスラ答えられた私に驚いた。
シャマル先生は悔しそうな声をあげる。
しかし、本当にはんたさんは躊躇いがない。
怖いほどに・・・・・・。
抜き身の刃物の刃を素手で握らされているような感じを私は覚えた。


「急に動きが良くなった?」
「自動機械の動きじゃないな。」
「有人操作に切り替わった?」
「それがさっきの召喚師の魔法?」
「シグナム、上昇してくれて助かったよ。ファイエル!!」

ウィンドウ越しの私の視界の中で森が消し飛んだ。
先ほどまでは木が数本吹き飛ぶ程度だったが、
今度は地形ごとごっそり抉り取られたみたいに・・・・・・。
多少は目をつぶるしかないだろう。
使い放題の広範囲攻撃を持っているのがはんた君しかいないのだから・・・・・・。

「多少動きが良くなったところで範囲攻撃されればどうしようもないみたいだな。
それと、虫か?馬鹿みたいな数が表れているのにそっちだと感知できないのか?」
「表示されていません!!」
「アルファ、位置情報を管制に転送!!」
「了解しました。マスター。」
「嘘っ!?」

レーダーを埋め尽くすような数の機影に私は思わず息を飲んだ。

「ヴィータ、ラインまで下がれ。」
「はんたのやつが言ったとおりになりそうだ。新人達が襲われてもはんたが
どうにかするだろう。だが、やつの戦い方は殲滅戦のそれだ。防衛には根本的に向かない。」
「わ、分かった。」
「ザフィーラ。シグナムと合流して。それと、虫?みたいな敵影を見かけたら連絡を。」
「心得た。」


「やはり素晴らしいな・・・・・・彼女の能力は・・・・・・。」
「極小の召還獣による無機物操作シュテーレ・ゲネゲン。」
「それも彼女の能力の一端に過ぎないがね。だが、彼女も運が悪かった。
この間の砲戦魔導師、どうして管理局にいるんだ?どう考えてもこちら側の人間だろう。」
「あの男がなにか?」
「躊躇いもせずに森も人間も消す人間だよ、あの顔は。彼は・・・・・・。」

ジェイル・スカリエッティは爆音のたびに残骸へ変わっていく自分の作品を眺めながら、
淡々と吹き飛ばしていく男の姿に笑みを隠しきれなかった。
間違いない。
あれは私の同類だ。
なんて素晴らしい案件だろう。
プロジェクトFの残滓以外にこんなものまで手に入れる機会を得られるなんて。


「遠隔召還来ます!!」

口にしながらはっとした。
どうしてはっとしたのか分からないけれどおかげで生きている。

「スバルさんシールドを展開全力で!!エリオ君スバルさんの後ろで伏せて!!
ケリュケイオン、スバルさんに防御ブースト!!早く!!!!」
「いい判断だ。キャロ。」

私が飛び込むようにスバルさんの後ろに転がり込むのと、
エリオ君が伏せるのと、
スバルさんがシールドを展開するのと、
ケリュケイオンの防御ブーストが発動するのと、
はんたさんの声が響いたのはほとんど同時だった。
背後で物凄い爆音がたくさん響きわたる。
もうもうと巻き上がる土煙。
それが晴れたとき、そこにあったのはガジェットドローンの残骸と、
出来立てのクレーター。

「ちょ、それってありなの!?」
「動けないうちに叩くのは基本だろうに。キャロ、いい判断だ。」
「さっきのあれって召還魔方陣?」
「そうです。優れた召還師は転送魔法のエキスパートでもあるんです。
ええと・・・・・・さっきも言いましたよね?」
「『なんでも召還できる』ってたしかに言ったな。おかげで仕事が楽だった。」
「あたし達が巻き添えになることは?」
「揃いも揃って後手後手に回るから、失点を取り戻そうとしてるんだろうが!!!
纏まってくれてるんだから召還直後の硬直に範囲攻撃をぶち込むに決まっているだろ!!
爆風で土砂が飛んでくるくらい考えろ!!!ナパーム弾使いたいなぁ!!!
今度は出品物の搬入口か。シャマル、そっちの迎撃に行ってくる。
アルファ、9mmチェインガン。」

褒められたことよりも、別の思いのほうが強かった。
これは・・・・・・恐れ?
もしもスバルさんがシールドを張るのを躊躇したら、
もしも私が転がり込むのが遅れていたら、
私が気がつかなかったら・・・・・・。
考えたくない想像にぞっとする。
そして、はんたさんは全てを『だから?』とでも言って済ませてしまいそう。
今までいろんな人を見てきたけれど、命をここまで軽くみることができる人がいると
私は初めて知った。


「はんたさんが離れます。敵、増援来ます!!」
「なんでもいいわ。迎撃いくわよ。」
「「「おうっ!!!」」」

キャロの言葉を聞き流し、クロスミラージュに魔力カートリッジを装填して
フォワード3人に告げると返事が返ってくる。
今までと同じだ。
証明すればいい。
自分の能力と勇気を証明して・・・・・・。
あたしはいつだってやってきた。
新たに現れたガジェットドローンにシュートバレットを3連射。
だが、たやすくかわされてしまう。
悔しさに奥歯がぎりりと音を立てた。
視界の奥で、ガジェットドローンがミサイルを撃ってくる。
迎撃しないと・・・・・・。

「Ballet, F.」

熱源感知の弾が左のクロスミラージュに装填される。
あんなのろまなミサイルを撃ちもらすはずが無い!!
ミサイル3基を迎撃に成功。

「ティアさん!!」

キャロの声に振り向くと、いつの間に回りこんだのかガジェットドローンが2機。
撃ち放たれるレーザーを跳んで回避。
着地と同時に応射。
あたしのシュートバレットは狙い違わずに直撃。
でもAMFによってかき消されてしまう。
なんで!!
苛立ちばかりが募る。

「防衛ラインもう少し持ちこたえていてね。ヴィータ副隊長がすぐに戻ってくるから。
はんた君に単独行動を許可するんじゃなかった。」
「守ってばっかじゃ行き詰ります。ちゃんと全機撃墜します。」

シャマル先生の言葉にあたしはそう言っていた。
どうしてヴィータ副隊長達やはんたなんかを頼りにするんだ!!
なんのためにあたし達がいるんだ。
あたしは証明しないといけないんだ。
こんなところで足をとめちゃいけないんだ。
あたしがやらなくちゃいけないんだ。

「ティアナ、大丈夫?無茶しないで・・・・・・。」
「大丈夫です。毎日朝晩練習してきてるんですから。」

なんのために訓練してきたかわからなくなるじゃないか。
証明しなきゃ、証明しなきゃ、証明しなきゃ・・・・・・。

「エリオ、センターに下がって。あたしとスバルのツートップで行く。」
「は、はい。」
「スバル!!クロスシフトA、いくわよ!!」
「おう!!」

スバルがウイングロードで先行してガジェットドローンの注意を引いてくれる。
今のうちにあたしは魔力を充填していく。
証明するんだ。
特別な才能やすごい魔力が無くたって、一流の隊長達のいる部隊だって、
どんな危険な戦いだって・・・・・・。

「あたしは・・・・・・ランスターの弾丸は敵を撃ちぬけるんだって・・・・・・。」

あたしの周囲の魔力スフィアが形成されていく。
足りない、まだ足りない、ぜんぜん足りない!!!
必死で制御して作り出した魔力スフィアは16個。

「ティアナ、4発ロードなんて無茶だよ!!それじゃティアナもクロスミラージュも!!」
「撃てます!!」
「Yes.」

シャマルさんがなにか言っているけど気にするもんか。
証明しないといけないんだ。
クロスミラージュもできると言ってくれている。
絶対にやってみせるんだ!!

「クロスファイアシュート!!!」

あたしが声を上げると同時に16発の誘導弾が一斉にガジェットドローンに襲いかかる。
あたしの攻撃に気がついたみたいだが、もう遅い。
次々にあたしの誘導弾にガジェットドローンが撃ちぬかれていく。
さらに追撃のシュートバレット。
あたしは叫び声をあげながらトリガーを引き続けた。
だけど、いったいなにが悪かったのだろう。
神様、あたしがなにかしましたか?
ガジェットドローンを狙ったはずのたったの1発の魔力弾。
それがかわされた先にスバルがいるなんて・・・・・・。
かわされた弾丸の軌道は間違いなくスバルへの直撃コースで、
気がついたスバルは凍りついた表情をしていて・・・・・・。
あたしの頭の中は真っ白になった。

「ヴィータ副隊長!!」

スバルに直撃するはずだった魔力弾がヴィータ副隊長によって地面に叩き落された。
スバルが驚きと安堵の混ざったような声を上げる。
息を切らしているヴィータ副隊長は本当に急いで前線から戻ってきてくれたんだろう。
だけど、あたしはそんなことも気にすることはできず呆然とするばかり。

「ティアナ!!この馬鹿!!無茶やった上に味方撃ってどうすんだ!!」
「あの・・・・・・ヴィータ副隊長、今のもその・・・・・・コンビネーションのうちで・・・・・・。」
「ふざけろタコ!!直撃コースだよ、今のは!!」
「違うんです!!今のはあたしがいけないんです・・・・・・。」
「うるせぇ馬鹿ども!!もういい。後はあたしがやる。2人まとめてすっこんでろ!!」

あたしはただ・・・・・・証明したかった・・・・・だけなのに。


「荷物を確保してきて。ガリュー、気をつけていってらっしゃい。」

マスターの命令。
命令に従ってワタシは荷物を確保するべく、車両の荷台を壊す。

「誰かいるんですかー?ここは危険ですよー?」

ニンゲンがそう声をかけながら明かりを荷台に向けてくる。
既にワタシはそこにいないのに・・・・・・。

「ああ!!なんだ、これ・・・・・・。」

思ったよりマヌケなものなのだな。
ニンゲンとは・・・・・・。
警備していると言っておいてこんなに簡単に盗まれるのだから。

「ガリュー。ミッションクリアー。いい子だよ。
じゃ、そのままドクターのところまで届けてあげて。・・・・・・ガリュー?」

マスターの声が聞こえたが気にしていられない。
震えが止まらない。
今、ワタシの目の前にいるコレはなんなのだ?
マスターの言うドクターがまともに見えるほどに生命体として狂っているコレは?
本能と忠誠心がせめぎあう。
本能は叫び続けている。
任務なんて捨てて全力で逃げ出せと・・・・・・。
だが、マスターへの忠誠心が叫ぶ。
任務を果たせと・・・・・・。

「残念、機械じゃないのか。」

目の前のバケモノがそう言った次の瞬間、
ワタシは全身に襲い掛かる絶え間ない衝撃にさらされていた。


「おし、全機撃墜。」

ガジェットドローンの残骸の中であたしは宣言した。

「こっちもだ。召還師は追いきれなかったがな。」
「だが、いると分かれば対策も練れる。」

シグナムとザフィーラの言葉にも一理ある。
だが、はんたのやつが『殺せないから攻撃できない』って言ったのが、
今でも妙に気に掛かっていた。
管理局にいる以上は捕まえないといけない。
けれど、捕まえられなかったらさらに被害が増える。
ならば・・・・・・。
いや、こんな馬鹿な考えあるはずがねぇよな。
『たら』とか『れば』で話はしちゃいけねぇって言うもんな。
シグナム達に同意の言葉を返しながら、顔ぶれを確認する。
あれ?

「ん?ティアナは?」
「はい。裏手の警備に・・・・・・。」
「スバルさんも一緒です。」

エリオとキャロがそう報告してくれる。
どうして裏手の警備?
それ以上に、いったいティアナのやつどうしちまったんだ?
なにをそんなに焦ってやがるんだ?
そんなことを考えているときだった。

「起こるべくして起こった事故以外、なにかあったのか?」

はんたが歩いてくるのが視界に入る。
そういえばこいつもいたんだったな。

「起こるべくしてって・・・・・・いや、それよりお前いったいどこに行ってやがった。」
「シャマルから聞いていないのか?搬入口に侵入者ありでその迎撃だ。それとお土産だ。」

放り投げられたそれを反射的に受け取る。
手元におちてきたそれは血の滴る・・・・・・。

「なななな、なんだよ。こりゃぁ!?」
「侵入者の腹の肉。なにかを盗まれたよ。警備の人間を投げつけられたせいで
追撃しきれなかった。警備の人間を殺せば動作に無駄が減って侵入者もそのまま
殺せたんだが。殺せないのがこんなに不便だなんて想像以上に苦痛だったよ。」
「だって、お前、これ、どうみても・・・・・・。」
「『機械以外は殺すな』なんてどこかの誰かが言った。サディスト設定を絶対外すなとも。
『人と獣以外』と言ってくれれば爬虫類だったから遠慮なく殺せたのに・・・・・・。
おかげで死なない程度に素手で抉るしかなかったんだ。」
「あ、あの、はんたさん。警備の人って・・・・・・。」
「ああ、生きてるよ。投げつけられた人間をそのまま切り裂いてしまえば、
侵入者のほうの絶命させられて全部終わりだったのに・・・・・・。」

心の底から悔やんでいる言葉。
だが、悔やんでいるのはなにに対してか。
そしてキャロの問いかけで確信を得る。
価値観があたし達と正反対の人種だと今更気がついた。
本来の人間はなにか目的や理由があって戦いに望む。
守るために戦う人間、戦いたいから戦う人間、戦わざるをえないから戦う人間。
事情はいろいろだろうけどそれだけは変わらない。
だけどこいつはそうじゃない。
目的もそこに至る過程も理由も全て完結しちまってる。
管理局にいること事態がおかしい人間。
唾棄すべきありかたの人間。
こいつは裁断機と同じだ。
そこには区別なんて無くて、ただ送られてきたモノを切刻んで引き裂くだけの・・・・・・。

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最終更新:2008年01月24日 21:09