立ちこめる暗雲、乾いた大地。
そして、おびただしい数の、死体。
どこまでも暗く、鬱屈した雰囲気の漂う、戦場。
その戦場の中央に、周囲の暗闇よりもなお暗い闇と、それを包囲する影の群れがあった。
永きに渡り対峙していた闇と影であったが、
突如、闇を包囲していた影の群れから八つの影が飛び出すと、正八角形の陣形を描いた。
すると、陣形が眩いばかりの光を放ち始めた。その陣形の中央に向け、一つの影が突っ込んでいく。
影は闇に向けて手にした剣を振りかざし、そして、光の陣形の中心を通った瞬間、激しい閃光と共に……消えた。
リリカルSD戦国異伝
プロローグ 『転移! 激戦の果てに』
一瞬の静寂の後、徐々にナニかの形をとり始めていた『闇』が、口を開いた。
『貴様ラ…一体ナニヲシタノダ!?』
「知れた事!貴様を滅せんがために…我らの希望を送り出した!唯其れだけのことよ!」
闇と対峙し、そう言い放ったその影は、正八角形の陣形よりもなお美しい光を、その身から放っていた。
「兄者!いや、大将軍様!我らのかねてからの悲願…ようやく!」
「ああ…だが、我らの仕事はまだ終わってはいないぞ?足止めをしなくてはならんからな。」
大将軍と呼ばれた輝く影は、闇を油断無く睨みつける。
何しろ彼らの目の前に在る『其れ』は、彼らが八人掛かりで行った儀式の力を、
其の身一つで賄うことができるほどの存在なのだから。
『オノレ…オノレオノレ己おノれオノれオノレ御のれオノレおのれぇえええッ!
忌々しい…ムシケラ共めガぁッ!!』
憎しみを込めた、聞くもおぞましい声で『闇』が咆哮する。
その姿は既にはっきりとした輪郭を取り、本来の姿を見せ始めている。
『貴様ら虫ケラ共のちっぽけな策略などに!乗せられるものかァアアッ!』
そう叫ぶと、正八角形の陣形を形作っていた影達を其の巨腕でなぎ払った。
そして、先ほど影が飛び込んでいった辺りをその爪で思い切り切り裂くと、空間が割れ、穴が開いた。
『あの若造が貴様らの希望だというならば…ワシ自ら、その希望を断ってくれようぞ!』
「そうはゆくものか!皆の者、これが我らの最後の仕事だ!」
穴へと飛び込もうとする『闇』の前に大将軍と無数の影が立ちはだかる。
だが、『闇』はそれらをなぎ払おうと腕を振るい、歩を進めていく。
やがて、『闇』に対峙するものは大将軍一人だけとなった。
『グハハハハ!これであとは貴様だけだ、大将軍!大人しくそこを通すがいい!』
「断る!今は亡き先代の大将軍様のためにも、この世を二度と闇に包ませはしない!」
なおも穴へと向かおうとする『闇』を押し返そうと奮迅する大将軍。
しかし、少しづつ押されていき…ついには、『闇』の穴への侵攻を許してしまう。
「クッ…ここまでか!?」
『これで終わりだ!大将軍め!』
「…いや、まだだ!影荒駆主!」
大将軍の叫びに応え、姿を現す一つの影。
それは、先ほど陣形に飛び込んでいった若者と似た男。影武者・影荒駆主であった。
大将軍は額に手を当てると、光り輝く結晶を取り出し、其れを影荒駆主へと投げ渡した。
「大将軍様!?これは!」
「荒駆主が無事戻ったならば、その頑駄無結晶を渡しておいてくれ…頼んだぞ!ハァッ!」
『何ッ!?』
穴へとその身を埋めようとする『闇』に割り込むように、大将軍は空間に開いた穴へと身を躍らせる。
すると穴はその形を歪め始めた。無理矢理に通ろうとしたために、オーバーロードを起こし始めたのである。
『大将軍、貴様ッ!こんな事をすれば、貴様も時の嵐に巻き込まれるぞ!』
「承知の上よ…!私と共に、逝くが良い!闇よ!」
穴の中へと大将軍と『闇』が消えると、穴は急激に縮み、閃光と共に消えた。
「大将軍様!大将軍様ぁあああーーッ!!」
戦場から、全ての命が消えた。
そして後に残ったのは、影荒駆主の悲痛な叫びのみであった……
}次回を待て!{
最終更新:2008年01月29日 19:57