「ボイス!どういうことだよ、これは!?」
新メンバーの面接ということで誰が来るのかと思いきや、現れたのは小さな子供。真墨でなくとも、驚くのは当然だろう。
「ブラック君。そう怒らないでほしい。彼女達はサージェス・ヨーロッパからの推薦なんだよ」
「サージェス・ヨーロッパの紹介!?あのガキが!?」
指を指された少女はムスッとした顔で、真墨を睨んでいる。反対に隣の女性は全く表情を変えず、涼しい顔だ。
「まあまあ、いいじゃないですか。僕としてはメンバーの女性比率が高いのは大歓迎」
「菜月も可愛い子が一緒なのは嬉しいよ」
「お前らそういう問題かよ!」
蒼太と菜月が真墨の両肩を叩く。
最初は二人とも驚いていた癖に、いつの間にか不満思っているのは真墨だけになっていた。この二人は比較的こういったことに無頓着なタイプである。いつもつっこみ役だ。
(やれやれ……。さくら姐さんがいたなら俺と同じことを言っただろうなぁ……)
真墨は宇宙に旅立ったボウケンピンク――西堀さくらを思い出した。
「ともかく、能力に関しては問題ない。そこら辺は実際にミッションで確かめてもらうしかないね」
ミスター・ボイスがこう言うなら真墨もあまりしつこくは言えないのだ。さて、あの二人がどれほどのものか――真墨は一抹の不安を隠せなかった。

――命懸けの冒険に今日も旅立つ者がいる。秘かに眠る危険な秘宝を守り抜くために、あらゆる困難を乗り越え進む冒険者達――

魔法少女リリカルなのはVS轟轟戦隊ボウケンジャー

ExtraTask02 隠されし術

周囲に張られてた結界は消え、今は気配も感じない。ユーノと映士は、カース達と戦った場所でお互いの情報を簡単に交換した。
アシュはユーノの知るどの世界にも存在しない。だが、不思議と各世界に伝わる伝説や伝承に登場する魔人や鬼の類と彼等のイメージは重なった。
ユーノは砕かれたカースの欠片に目をやる。欠片を取り、目を閉じてしばらく意識を集中させ、微かな魔力を感じ取る。
「何やってんだ、ユーノ?」
後ろから映士がそれを覗き込んだ。知らない彼からすれば不自然に見えるのだろう。
「高岡さん。これは石に魔力を注ぎ込んで形を形成した後、仮初めの命を与えたものですね。」
「ああ。古代ゴードム文明の大神官、ガジャって野郎が使ってたもんだ。」
「はい、この破片からは魔力を感じます。でも、高岡さんの話だと、ガジャは海の底……」
ユーノは口に手を当て考え込む。これを形成した魔法がこの世界のものなのか、それとも他のものなのか――それはわからない。
この世界には魔法は存在しないとなっているが、映士から聞いたアシュの術やガジャの術、そして高岡の術。管理外のこの世界で、かつて魔法が存在した可能性は十分にある。
それも管理局の全く知らない魔法体系――
「おい……おい!」
「うわっ」
突然、眼鏡を弾かれ仰け反るユーノ。一瞬視界が歪む。
眼鏡を直すと目の前には映士の顔があった。どうやら声を掛けられていたのに気付かなかったらしい。
「ったく、さっきからずっと呼んでるのに気付かねぇのか?」
「すいません……それで高岡さん、アシュについては大体わかりました。それじゃあ肝心の百鬼界の封印を解く方法はあるんでしょうか?」
今度は映士が考え込んでしまった。教えていいものか、といった様子にも見える。
「俺様も全部を全部受け継いでる訳じゃあねぇしな……。だが、アシュの封印に使った神器を奉納してる寺なら知ってるぜ」
「それじゃあすぐに行きましょう。あまり時間はないかもしれません」
そう言って駆け出そうとするユーノだったが、襟首を映士に掴まれた。
「まあ待てよ。このことはサージェスに報告しとかねぇとな。アシュが関わっているならなおさらだ」
「ですが――」
あまり時間がないというのは、あくまで憶測の範疇を出てはいない。
それに、ユーノが急ぎたがるのは――正直なところ、憧れが大きかったりする。
発掘者の一族として多くの遺跡を発掘し、古代の遺産に触れてきた。ジュエルシード等、いいことばかりではなかったが、それでも発掘が好きだと今は思う。
無限書庫の司書になってからは数多の知識に触れ、想像と思索を繰り返してきた。
未知の術や世界は、彼の知的好奇心を刺激するには十分すぎるものだった。それを目の前にしては、走り出そうとするのも無理はない。
「わかりました。それじゃあそのお寺の場所を教えてください。僕は先に行ってますから、高岡さんは後から追いかけてきてくれれば」
ユーノの言葉に映士は頷き、寺の地図を渡す。
「爺さんと孫の二人だけだ。俺様の名前を言えば多分わかるだろ」
「ありがとうございます。それじゃあ――」
と、数歩走り出したところで足を止め、振り向く。
「あ、それと……今回の件ですが、まだ確実な段階でないことや、情報が漏れることを考え、管理局から魔導士の存在は極力明かさないよう言われています。ですからボウケンジャーの皆さんにも、今はまだ秘密にしておいてください」
それだけ捲くし立てて今度こそ走り出した。映士が後ろから呆れ半分の笑みを浮かべていることにも気付かなかった。

その日、ボウケンジャーのサロンの空気は最悪と言ってもよかった。
主な理由は新人のシグナムとヴィータにある。
紹介の後、シグナムは一言も喋らずサロンに座っている。蒼太が何やらモーションをかけているが、ほぼ無反応だ。
ヴィータの方はもっと問題だ。菜月も彼女と打ち解けようと頑張ってはいるが、当たり散らしては不機嫌そうにしている。
このままではまずいか――真墨はそう思い、シグナムとヴィータに話し掛けた。
「なあ、なんでお前らはボウケンジャーに入ったんだ?」
彼なりに親睦を深めようとの質問だったのだが――
「それが命令だからだ」
と、シグナム。
「はやての頼みじゃなきゃこんなとこ……」
と、ヴィータ。
彼女らの答えを聞いた真墨は机を叩いて立ち上がった。サロン内にその音が響き、険悪な空気が漂う。
睨み付ける真墨の視線を二人は無言のまま真っ向から受け止め、見えない火花を散らした。
そのまま固まる時間。沈黙は菜月や蒼太にも広がる。
数十秒ほどなのに、それは随分長く感じられた。
「チッ!」
先に動いたのは真墨だった。軽く舌打ちしてサロンを立ち去る。
蒼太と菜月も顔を見合わせ、後を追いサロンを出た。

「ねえ、真墨。ちょっと言われたからって気にするなんてよくないよ?」
廊下を歩く真墨に菜月が駆け寄る。それでも歩みを止めないと、真墨の前に立ち塞がった。
「そうそう蒼太。彼女達もまだ慣れてないんだと思うけど?」
菜月に遅れて蒼太もゆっくりと近づいてくる。
「そんなことはわかってるんだよ。ただ……俺達はみんな理由はそれぞれ別でも、自分の意思でボウケンジャーに入隊したんだ。明石も言ってただろ?俺達は皆なにかを求めて冒険しに集まった、って」
それ故に、嫌々ここに来たような口振りの彼女らについ腹が立ってしまった。
歩くうちにいつの間にか外に出ていた。真墨は腕を頭の後ろで組み、空を仰ぐ。太陽が眩しくて目を細める。
「やっぱり明石のようには行かねえな――」
前ボウケンレッドの明石暁から受け継いだチーフの位置。これまでは知ったメンバー同士で問題なくミッションも遂行できたが、新人の相手はこれが初めてである。
最初からこれで大丈夫だろうかと不安にもなるというもの。
「でもさぁ、ヴィータちゃん達にここに来るように言った人って誰なんだろうね?」
「はやて、って言ってたね。ボウケンジャーの仕事を知ってて、サージェスに顔が利く人なのかな?」
それは真墨も気になった。だが、聞いたところで教えてくれるだろうか?
彼女達にはなにやら秘密がある――真墨の勘がそう告げていた。

シグナムとヴィータは二人、サロンに取り残されていた。
「なぁ、シグナム……なんであたし達二人なんだろうなぁ?」
だが、今のシグナムにその疑問に対しての答えは持っていなかった。なにしろ彼女自身もそれが気になっているのだから。
――時空管理局、次元世界の管理をする機関に彼女達は所属している。
管理局はロストロギアと呼ばれる危険な古代遺産の確保に力を注いでおり、彼女達がここにいるのも、その調査のためである。
だが、本来二人はこういった任務をすることはほとんどない。それにそれぞれが別の部署に仕事を持っているのだが、何故かロストロギアの潜入調査に選ばれてしまった。
"彼女"から任務のことを聞いた時は正直、驚きを隠せなかった。なにせ現地の組織に短期間とはいえ素性を隠して所属しろというのだから――

「シグナムとヴィータに行ってもらいたいねん。うちが二人を推薦しといたから」
それは八神家のリビングでのことだった。
八神はやて――ロストロギア『闇の書』もとい『夜天の魔導書』の主であり、同様に自分とヴィータの主でもある少女。かつては足の麻痺に苦しんでいたが、今ではそんなことは感じさせず中学校にも通っている。
「何故、我々なのですか?」
確かそう聞いたはずだ。確かに自分達は生身での運動能力にも優れている方だし、生半可なことではやられはしないだろう。
だが、それでも彼女があちこちに根回ししてまで、自分とヴィータを派遣する理由にはならない。その疑問はヴィータも同じだった。
「そうだよ。なんであたし達なんだ?そもそも管理局の仕事はどうするんだよ」
「それについては心配せんでええ。上手く埋め合わせしてくれるはずや」
彼女はニコニコしながらお茶を啜っている。この笑顔で頼まれると正直断りにくい。
「わかりました。ですが……任務を終えた際はその理由を聞かせてもらえますか?」
彼女は笑みを絶やさず、しかし、その眼はまっすぐにこちらの眼を見ている。長い付き合いで自分もヴィータもわかっている。それは誤魔化しなどでは決してなく、彼女は自分達を信頼して言っているのだ、と。
「行けば解るはずや。二人ならきっと――」

次の日、ボウケンジャーはミスター・ボイスによってサロンに集められた。シグナムとヴィータも昨夜は他のメンバーと同様に、与えられたサージェスの個室で休んだらしい。
「それで、どうしたんだボイス」
真墨の問いにモニターに写ったCGが答える。
「うん。先日、サージェスヨーロッパのプレシャスバンクから、『バジリスク』の化石が盗まれた。石化し、複数の部位に分かれたものだ。それが日本に渡った可能性がある」
「バジリスクって……何だ?」
ヴィータが首を傾げた。真墨が昨日確認した限りでは、彼女達は身体能力はずば抜けている。もしかするとボウケンジャーのメンバー以上かもしれない。だが反面、サバイバル能力や地理、宝や伝説についての知識は著しく欠如していた。
「バジリスクっていうのは、伝説上の魔物でね。八本足のトカゲで猛毒を持ち、睨んだ生き物を石に変える。色々伝説はあるけど、大体こんな感じ」
蒼太がパソコンを開いてヴィータに説明した。
「へぇ~、そんな生き物がいるんだ」
ヴィータは蒼太のパソコンを見て目を輝かす。真墨には、その仕種は歳相応のものに思えた。
「バジリスクの眼球だけは、過去に日本に渡ったとされている。化石とはいえ、ものがものだ。瞳は特にハザードレベルが高い。大まかな場所は調べてあるから、君達には先に眼球を確保してもらいたいんだ」
「ものがもの――か。探すのも十分注意が必要だな。ボウケンジャー出動だ。早速現地に向かうぞ!」
「了解!」
真墨の号令に菜月と蒼太が応じる。
「ああ、ちょっと待ってください」
中年の男性がサロンに入ってきた。ボウケンジャーの装備やビークルの開発やメンテナンスを担当しているメカニックの牧野森男だった。
プレシャスの解析も行う、ボウケンジャーを支える最も重要な裏方といえる。
「ヴィータ君とシグナム君のアクセルラーです。持っていって下さい」
そう言ってアクセルラーを手渡す。
――アクセルラー。携帯電話型のそれは、アクセルスーツの装着のためのアイテムであり、その他にも通信や各種のツールが仕込まれた、いわばボウケンジャーの証とも言える。
だが、真墨に言わせれば、それは『ボウケンジャー』の証でこそあれ、『冒険者』の証ではない。
この出動は彼女らの入隊テストも兼ねている。真墨は心の中で気を引き締め直した。

ボウケンジャーが出動し、サロンには牧野とボイスのみが残った。
彼らを見送った牧野は誰にともなく呟く。
「行きましたか……」
「牧野さん……。シグナム君とヴィータ君の身体データ……牧野さんならわかりましたね?」
ボイスから牧野に話しかけた。普段とはまるで違う、ひょうきんでもなければ事務的でもない。どこか憂いを秘めた口調。
「ええ、やはり彼女達……」
「牧野さん、それ以上は――」
ボイスが牧野の言葉を遮った。
「失礼しました」
牧野もすぐにその意図を察して軽く頭を下げる。
「何かが起ころうとしているのは確かでしょう。ダークシャドウも侵入できないプレシャスバンクから痕跡も残さず、複数の場所に分けて保存してあるバジリスクをほぼ同時刻に盗み出す――プレシャスを超える古代遺産と魔法でもなければ不可能な芸当……」
「彼女達の入隊も当然関係しているのでしょうね……」
牧野も、ボイスも、そしてボウケンジャーも。今はただ、災いの影を照らす術を模索していた――

雄大な山々が幾つも連なる、未だ自然を多く残した山脈。霊峰と呼ばれるような山もある。
その麓からボウケンジャーの3人とヴィータ、シグナムは見上げている。
「この山のどこかにバジリスクの瞳があるのか……」
「絞り込んであるとはいえ、探すにはちょっと骨が折れるなぁ」
「でもでも、その方が冒険らしいじゃない」
ボウケンジャーの三人がそれぞれの感想を述べる中、シグナムとヴィータは無言で付き従う。
「とりあえず俺と蒼太、シグナムは東側から、菜月とヴィータは西からそれぞれ調査だ。近くまでくれば反応があるだろう。」
シグナムとヴィータは無言で頷く。昨日ほどは不機嫌でもないようだった。

菜月とヴィータはアクセルラーを片手に山中を進む。山の緑はちょうど色濃くなる時期で、むせ返るような精気を放っている。
「なあ……」
「菜月だよ、間宮菜月」
名前を思い出せなかったのを察したのか、菜月から自己紹介をした。
「菜月はなんでボウケンジャーなんてやってんだ?昔の映像や資料には入隊の時に目を通したけどさ。大変だし、何度も死にかけてるだろ?」
「う~ん、やっぱり……楽しいからかな」
「楽しい?」
「元々菜月はね……自分の過去を探すために入ったんだ――」
菜月は自らの出自をヴィータに話し出した。
10万年前の古代レムリア文明の生き残りであること――
生れ落ちてすぐにプレシャスの力で老化を遅らせながら眠っていたこと――
真墨に拾われトレジャーハンターをしながら過去を探していたこと――
そしてボウケンジャーに入って過去を知ったこと――
彼女は辛い過去だっただろうに、まるでそれを感じさせない。むしろ大事そうにゆっくりと語った。
「何ていうか……大変だったんだな」
「でも今は皆と冒険するのが楽しいよ。それに思い出があったから、真墨や蒼太さんや映ちゃんが大事に思えるもん」
かつては使命しかなかった。だが、今は家族がいて仲間がいる。
ヴィータは菜月に、どこか自分と似たものを感じた。
「それに今度は、ヴィータちゃんとシグナムさんも一緒に冒険できるよ」
「な、なに言ってんだよ!」
ヴィータは赤らんだ顔を隠すために顔を背けた。
何故、彼女はこんなに素直に笑えるのだろう。――少し彼女が羨ましい。
「それにいっぱい不思議なプレシャスに会えるよ。物を大きくする小槌とか、動物の言葉が解る指輪とか、どんな姿にも変身できる反物とか」
「すげ~、本当か!?」
打出の小槌、ソロモンの指輪、虹の反物――。菜月の話す冒険譚にいつしかヴィータは引き込まれていた。

東側からは真墨と蒼太、シグナムが黙々と山上を目指していた。
「ところで何て呼べばいいかな?シグナムさん?ちゃん、って感じじゃないよね」
真墨、シグナム、蒼太の順で、真墨は二人よりやや先を歩いている。
「シグナムでいい……」
シグナムは少々うんざりしていた。さっきから蒼太が何かと話しかけてくる。それでもこちらが不機嫌そうにすると、すぐに引き下がるあたり、かなり手馴れている。
「それじゃあシグナム。昨日も真墨が聞いてたけど、ボウケンジャーにはあんまり興味が無いのかな?」
「私は主から言われてここに来ただけだ。宝探しには興味は無い」
シグナムの言葉に、前を歩く真墨が振り返った。
「おい!俺達の任務は単なる宝探しじゃない。プレシャスってのは危険な物なんだ。それを利用して世界制服や滅亡を狙う連中までいるくらいにな。
何も知らない癖に勝手なこと言うんじゃねえっ!」
激昂する真墨を、蒼太が無言で片手を出して止める。
「シグナム、確かに僕達のやってることはただの宝探しだよ。でもプレシャスに限らず、宝を探すのは大抵が危険と隣り合わせ。これでなかなか大変なんだ。」
穏やかな口調。だが、その目は笑ってはいない。
「ならば何故、何を求めてお前達は冒険をしている?」
蒼太は頭を掻いて、少し困った素振りをする。
「僕は前はスパイをやっててね。スリルはあったんだけど、楽しんでたのは僕だけだった。
幾つも国や企業を崩壊させて――僕の情報が多くの人を悲しませてるのに気付いて、それからスパイを辞めた。皆の笑顔を守って、僕自身も笑顔でいたかったから、ボウケンジャーに入ったんだ」
シグナムは
「そうか……」
としか答えられなかった。
そして己の勝手な先入観を恥じた。気楽な宝探しなどではなく、彼らにも譲れないものがあったのだ。
「まっ、何を求めてるかは、皆それぞれ違うよ。前のチーフが言ってた、"俺達は皆、自分だけの宝を探して集まった"ってね。君には無いのかい?」
「宝なら既にある。命に代えても守るべきものが――」
宝、という表現が正しいのかはわからない。だが、最も大切なものは一つしか思いつかなかった。
「私達にここにくるよう言った人――私とヴィータの主人だ」
真墨が再び振り返る。表情にはもう怒りは無い。
「大事な宝が一つじゃなきゃいけない、なんてことはないんだぜ?形のあるものでなきゃいけない、ってこともな」
「形の無い宝……?」
「お前らが何か目的があってきたのは大体察しがつく。でもな、他の宝を探すのもいいんじゃないか?」
「そんなものがあると?」
「さあな。それに関しては、俺は命令しない。自分で考えてみろ」
それだけ言うと、また歩き出した。
虫や鳥の声がする。耳を澄ますとせせらぎも聞こえてきた。
見回すと近くに沢が流れていた。見たこともない魚が泳いでいる。
振り向くと眼下には街が広がっている。
(風が気持ちいい……)
この景色を見れば、きっと主はやても喜ぶだろう。いつか皆でピクニックに来るのも悪くない。
(私がこんなことを思うとはな……)
考えてみると可笑しくなり、自然と笑みがこぼれた。

菜月、ヴィータ組は徐々に山頂に近づいていた。近くからは鐘の音が聞こえる。
「おい、菜月!あれ見ろよ!」
菜月がヴィータの指す方向を見ると、少し前を三人――いや、厳密には人ではない。
「ジャリュウ一族!」
恐竜の遺伝子により生まれた恐竜人類。赤いゴツゴツした皮膚に鎧を纏っている。
だが、一体見慣れないジャリュウが混じっていた。
皮膚は赤と緑の混ざった色、顔つきも全体的に恐竜よりもトカゲに近い。眼は鈍色でくすんでいる。だが、最大の特徴は頭頂部の鶏の冠に似た襞。そして両手、両足の他に、身体の中心から生える四本の腕だろう。
「なにあれ……」
思わず菜月が呟く。それはこれまでのジャリュウの中で最も異形なフォルムだった。
「どうするんだよ、菜月。あいつらバジリスクの目玉ってのを狙ってるんじゃないのか?」
「待って、ヴィータちゃん。とりあえず後をつけよう。真墨達にも連絡して」
アクセルラーを通じて連絡した後、二人は息を殺して付かず離れずの距離を保つ。
そのまま、10分程歩いただろうか。小さな洞窟の前で彼らは立ち止まった。
洞窟の前は開けた平地のため、これ以上は近寄れない。
会話に意識を集中し、なんとか聞き取ろうとする。
「ここに……バジリスク……確かなのか……」
やはり、狙いは『バジリスクの瞳』だ。
「菜月!」
声に振り向くと、真墨達三人が追いついてきていた。
「遅いよ、真墨!」
「悪い悪い」
軽口を叩き、五人が足を踏み出す。
「待て!ジャリュウ一族!」
尾行に驚くジャリュウ一族。だが、中心の邪悪竜だけは不気味に落ち着き払っていた。
「レディ!ボウケンジャー、スタートアップ!!」
同時にアクセルラーのタービンを左腕で滑らせる。
真墨は黒、蒼太は青、菜月は黄、シグナムはピンク、ヴィータは赤の光にそれぞれ包まれ、光が消えると、アクセルスーツを身に纏ったボウケンジャーが現れる。
「迅き冒険者!ボウケンブラック!」
「高き冒険者!ボウケンブルー!」
「強き冒険者!ボウケンイエロー!」
「深き冒険者……ボウケンピンク……」
「あ、熱き冒険者、ボウケン、レッド」
シグナムとヴィータを除く三人が思い思いのポーズを決めるが、シグナムとヴィータは恥ずかしいのか随分と動きが小さい。
一帯に静寂が流れる。
「ヴィータちゃん、ダメだよ!もっとはっきり言わなきゃ!」
「こんな恥ずかしいことできるかよ!」
「シグナム。恥ずかしがってると、余計に恥ずかしいよ?」
「とはいえ、これは……」
「お前らそんな場合か!」
ブラックによって、ようやく全員が戦闘態勢を取る。やはりつっこみ役か。
「貴様らがボウケンジャーか!俺は邪悪竜『バジーク』!」
他のジャリュウとは違う、中央のジャリュウが名乗った。口からは鋭く尖った牙が見え隠れしている。
「邪悪竜だと!?」
邪悪竜――同族との殺し合いで生き残ったジャリュウにリュウオーンが力を与えたもの。
リュウオーン亡き後、新たな邪悪竜や大邪竜は確認されていなかった。少なくとも真墨の知る限りでは。
「我らジャリュウ一族は新たな力を手に入れた!少々遊んでやるとしよう!」
バジークが指を弾くと同時に、茂みからカースが現れた。数は10体、少してこずる数だ。
ブルーとイエローでカースを。シグナムとヴィータでジャリュウを。そしてバジークの前にはブラックが立ちはだかった。
「アタック!」
ブラックの号令とともに全員が動く。
ブルーとイエローはサバイブレード――ボウケンジャーの標準装備。ビームガンのサバイバスター、剣のサバイブレードの形態を切り替えることができる――を抜き放ち、背中合わせに死角を補いつつカースを攻撃する。
シグナムとヴィータは一人ずつ、ジャリュウと戦っている。武器は同じくサバイブレード。
シグナムはジャリュウの剣を的確に捌きつつ、ヴィータは小柄な身体を活かし、ジャリュウを圧倒していく。
そしてブラック――サバイバスターを構え、機会を窺う。
バジークは六本の腕に剣を握っていた。それぞれの腕が別の意思を持っているかのように蠢く。
バジークは洞窟を背にして、ブラックはバジークを中心にして左右に動く。
「サバイバスター!」
意を決してサバイバスターを連射。オレンジの光線が銃口から放たれる。
「ふんっ!」
だが、全てのビームが六本の剣に防がれてしまう。
そして、ブラックがサバイブレードに切り替えた瞬間、既にバジークはブラックの懐にまで潜り込んでいた。
「ぐぁぁぁ!!」
サバイブレードが弾かれ、残った腕の斬撃で大きく吹き飛ばされた。
アクセルスーツからは激しい火花が散り、激痛に悶える。
バジークがブラックにとどめを刺そうと近づく。その時――
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
戦場に悲鳴が響き渡った。

悲鳴はバジークの背後――洞窟の入り口から。そこには幼い少年が顔を青ざめ、腰を抜かしていた。
何故こんな山奥に少年が?何故洞窟から?
誰もが一瞬動きを止め、状況を認識する時間を必要とした。
最も早く回復したのはシグナム。だが、彼女の手が少年に届く前に、バジークは素早い動きで少年を締め上げ、剣を突きつける。
「動くな!!」
シグナムは急ブレーキをかけ、ブルーとイエローはカースから飛び退く。
「言わずともわかるだろうが……動けばこのガキはどうなるかなぁ……」
「くっ……!」
少年はバジークの腕の中で泣きじゃくっている。
ボウケンジャーを睨んだまま、洞窟に入ろうとするバジーク。
だが、銃声と同時にその足元に火花が散り、土煙が舞い上がる。
「どうも騒がしいと思ったら……やっぱりネガティブだったか!」
その声は高岡映士――ボウケンシルバーのものだった。その手にはサガスナイパーが握られている。
再びの硬直――そして最大の好機をシグナムとヴィータは見逃さなかった。
「もらった!」
「そこだ!」
シグナムがサバイブレードで、少年を掴んだ腕を斬る。同時にバジークの肩をヴィータがサバイバスターで狙い撃つ。
バジークの体液が飛び散り、少年の腕に付着する。バジークの腕は外れ、少年はシグナムによって助けられた。
だが――

「くそっ!こうなれば……!」
バジークは背を向け、洞窟の中へと駆け込んでいく。誰も追うことはできなかった。
何故なら、助けられた少年の顔は真っ青に染まり、顔中に汗を掻いているのだ。
「どうした!大丈夫か!?」
シグナムが少年の肩を揺さぶってみても返事はなく、苦しそうに頭を振るだけだった。
「シグナム!後ろだ!」
ヴィータの声に振り向くと、ジャリュウがシグナム目掛け剣を振りかぶっている。
「くっ!」
咄嗟にサバイブレードで受け止める。ブルーもイエローも、そしてヴィータも目の前の相手に精一杯のようだった。
シルバーとブラックの二人で少年を診ている。だが、会話の全てを聞き取ることはできない。
「どうだ……映士」
「真墨……多分……しかないぜ」
「本気か?……子供を……するなんて」
「経験者……だ」
真墨はしばらく何か考えていたようだが、しばらくして叫んだ。
「全員!撤退だ!」
「ええ!?」
その言葉にブルーやイエローも振り向く。驚きの声を上げるが、少年の顔を見てすぐに理解したようだ。
「早くしろ!ヴィータとシグナム、お前らもだ!」
「プレシャスはどうするんだよ!?」
「俺は既に命令した!!」
ヴィータはまだ何か言いたそうにしていたが、しぶしぶ走り出す。シグナムとシルバーも無言で従い、ブラックも少年を担ぐとその後を追う。
ブラックやシグナムよりも洞窟から遠くにいるイエローとブルーが、カースとジャリュウに向けサバイバスターを乱射する。撤退の援護だろう。
ビームは地面に着弾し、激しく土煙を上げた。逃げるにはちょうどいい。
だが、ブラックだけは洞窟を向いたまま、動かない。まるで洞窟から何かが出てくるのを待っているかのように。
土煙の向こう――洞窟の暗闇から『それ』は現れた。
赤と緑の混ざり合ったどす黒い皮膚――邪悪竜バジークだ。
唯一違ったのは、鈍色だったはずの瞳は金色に輝き、怪しい光を放っている。
シグナムは直感的に危機を感じ、身を隠す。
バジークの視線はしばらく宙を彷徨い、ゆっくりとボウケンブラックへと向けられた。
その時、ブラックの取った行動に、シグナムは己の目を疑った。
彼は――ブラックは抱えていた少年を盾に視線を防ぎ、その陰からサバイバスターを撃ったのだ。
視線を受けた少年は手足から徐々に色を失ってゆき、やがて苦悶の表情もそのままに完全に石へと変わってしまった。
「何やってんだ!早く逃げるぞ!」
重さを増した少年を担ぎなおし、ブラックは斜面を滑り降りていく。
「何なんだよ……!危なくなったら子供を盾にして逃げるのが冒険だってのかよ!ボウケンジャーなのかよ!!」
シグナムの横を走るヴィータが叫ぶ。どうやら彼女も見ていたらしい。
その声には怒りと悔しさ――悲しさが込められていた。
「主はやて……何故あなたは我らを……」
もう幾度となく呟いた台詞――それでも思わずにはいられなかった。
聞こえなかったのか、それともヴィータもまた答えを持たないのか。
その問いに答える者はいなかった。

次回予告

「子供を盾とするのが貴様らの冒険か!」
「無能な管理局に何ができる……」
「僕は食べられませんよ~!」
「あたし達にはあたし達の戦い方がある!」
「ヴォルケンリッターが将、シグナム!参る!」
「全車、轟轟合体だ!!」

ExtraTask03 「新たなる冒険者」

おまけ

はやて「それにしても……あの二人は今頃どないしてるんやろか?」
シャマル「サージェスは家からは通えませんもんねぇ。そういえば、どうしてあの二人なんですか?」
はやて「う~ん。ほら、あの二人は頑丈やし、身体を動かすのも得意やん?」
シャマル「でもそれならザフィーラでも良かったんじゃないですか?」
はやて「せやけど、ザフィーラやと色が被ってまうやんか」
シャマル「はやてちゃん……髪の色は多分関係ないんじゃないかしら……」
はやて「え……?」
シャマル「もしかして一番の理由って……それなんですか?」
はやて「…………」

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最終更新:2007年12月10日 02:25