第二話「激突」
12月2日 0720時
セーフハウス 寝室
故郷のヘルマジスタンの冬に比べれば、なんと言うことはないが外気の肌寒さで
宗介はベットの下で目を覚ました。
昨夜の尾行から帰投し、仮眠をとったのだ。
(それにしても深夜のあれは、なんだったのだ?)
いきなり、護衛対象である6~7歳ぐらいの少女がごつい金槌を取り出し、成人男性二人を殴り倒した現場を
目撃したときは、どっちが護衛対象なのか分からなくなった。
話を聞くとクルツは対象を見失ったらしい。
大事をとって遠回りして帰ってきたが尾行されてる気配はなかったという。
現在クルツは見失った罰としてマオの代わりとしてASに搭乗している。
「おはよう、ソースケ。よく眠れた?」
「肯定だ。それで対象に動きはあったのか?」
「ないわ。3時過ぎに帰宅してから寝てるみたいよ。それにしても尾行を撒かれるとはね・・・
気付かれたか、単に見失っただけか。どっちだと思う?」
思案げな顔をしてマオは宗介に意見を求める。気付かれたのならこれからプランに支障が出る上に
対象からも警戒され護衛しにくくなる。
「判断に困る。マンションの屋上で見失ったなど普通ならありえないことだ」
「そうなのよ。いくら問いただしてもそれしか言わないし、嘘を言う必要もないわよね。」
結局その場では結論が出ず、一応これまで通り続けるということになり
状況を余計混乱させない為、宗介は昨日見たことを報告しないことにした。
同日 1346時
八神家 リビングルーム
昼食を食べ終わり、はやての手伝いとしてシャマルは台所で食器を洗っている。
(シャマル・・・)
(シグナム、どうしたの?)
わざわざ思念通話で話しかけられたシャマルは怪訝そうに聞き返す。
(少し、相談したいことがあってな)
思念通話を使っている以上聞かれては困る類の話なのだろう。
隣にいるはやてに悟られないように、食器を洗う作業を続けた。
(ブラのサイズが合わなくなったとか?)
いきなりボケる泉の騎士に烈火の将は、すぐさま否定した
(違う!・・・主はやてと我々の近辺のことだ。最近変わったことはないか?)
(うーん、この家に張った警報魔法と結界魔法には何も反応がないわ。
このあたりは治安がいいわね。)
(何か、見られてる感じはしないか?)
(・・・管理局かしら、それとも・・・ストーカー?)
(前者は考えられんでもないが、襲った相手が見た我々の顔の記憶はきちんと消したはずだ。
さすがに3ヶ月も隠蔽することは無理だったが、主のことも闇の書のことも管理局は
まだ確証を掴んでないはずだ。後者は・・・・・・分からん)
シグナムは昨日、闇の書の蒐集に出たときにヴィータがこの世界で
管理局の捜索隊に遭遇したと言っていたことを思い出した。
(私は特には感じないけど・・・ザフィーラ)
シャマルは何かに気付いたようにザフィーラに話を振った。
(どうした。シャマル)
(何か最近変わった事はない?視線を感じるとか。)
(お前なら我々が見落としていることにも気付けるかもしれん)
(・・・臭いがする)
シグナムとシャマルが同時に聞き返すとザフィーラは鬱屈した声で答える。
(この半年間なかった臭いが、ここ数日ほど前からするようになった。
お前達は感じないかもしれないが酷い刺激臭だ。)
鼻が曲がって死にそうだとばかりに言うザフィーラに、その臭いを感じることのできない
二人はなんと声をかけていいか悩んでいる。
(ザフィーラ、その臭いは今もしているの?)
(ああ、臭いの元は分からんが)
普段から口数が少ない守護獣は臭いのせいか、さらに口数が少なくなっていた。
(とにかく、シグナムも敵意や殺気は感じないんだからすぐにどうこうなるものじゃないわ。
もしかすると勘違いの可能性もあるんだし)
(そうかもしれん。とりあえずヴィータにはまだ言うなよ。あいつの耳に入ると
怪しそうな奴(ヴィータ基準)が片っ端から殴り飛ばされることになるからな)
(ええ、ザフィーラもお願いね)
ザフィーラは返事をせず、頷くだけであった。
同日 1945時
海鳴市 市街地
「どうだヴィータ。なにか感じるか?」
ビルの屋上でザフィーラは探査魔法を駆使しているヴィータに声をかけた。
「いるような、いないような。ときどき妙にでかい魔力反応を感じるんだけどすぐ消えちまう。」
「そうか、では二手に分かれて探そう。闇の書は預けた。」
「オッケー、ザフィーラ。管理局の連中に気をつけろよ。」
「心得ている。」
そういってザフィーラは、去っていく。
ヴィータは、これから使う魔法について頭の中でリスクとリターンの計算をして決断した。
「しゃーねぇな。バレる可能性も高くなるが・・・・封鎖領域指定」
ヴィータの足元に紅い光を放つベルカ式の魔法陣が現れる。
『Gefangnis der Magie(ゲフェングニス・デア・マギー) 』
相棒たるグラーフ・アイゼンが宣言をし、より正確に探知できる能力が付与された結界魔法が起動する。
不可視の壁が広がっていき、ヴィータを中心に半径20kmの範囲が通常空間から隔離されてゆく。
「・・・・・・・魔力反応。大物見っけ!」
ヴィータは、ビルの屋上から飛び出し魔力反応がするほうに飛び出していく。
この魔力資質なら軽く20ページは埋まる。そして、はやてを救うことができる。
ヴィータは逸る気持ちを抑え、速度を上げた。
同日 同時刻
海鳴市 高町家 なのはの部屋
『Caution!Emergency!(警告、緊急事態発生)』
「え?」
数秒後、なのはは自分の存在がごっそり切り取られたかのような違和感を覚えた。
「これって・・・・結界魔法!?」
『Yes, master and it approaches at high speed.(対象、高速で接近中)』
それを聞き少し逡巡した後、なのははレイジング・ハートを手に取り、家を飛び出す。
結界魔法・・・しかも魔力資質を持ってない人をはじき出すような類のものだ
こんなものを起動するということは自分に用があるに違いない。
しかし、一体自分に何の用があるのだろう?穏やかなことでありますようにと祈りながら
レイジング・ハートが示す方向に走っていき、市街地の中心から少し離れたオフィス街にあるビルの屋上に上った。
同日 2000時
海鳴市 オフィス街
『it comes!(来ます)』
あたりをキョロキョロと見渡すなのはにレイジング・ハートが警告する。
目を凝らすと正面から赤熱する物体が高速でなのはに向かっていた。
『homing bullet.(誘導弾です)』
身構え、シールドを正面に展開し赤熱するボールのようなものを受け止める。
しかし、誘導弾の勢いは衰えずシールドとの摩擦により激しい火花が飛び散る。
一発だけ・・・?
そう不審に思っていると背後から気合の入った声が降りてくる。
「こっちは囮!?」
「テートリヒ・シュラーク!!」
すんでの所でシールドの展開が間に合ったが相手の一撃は異様に重く、なのはの体は沈んでいく。
踏ん張りきることができず、吹き飛ばされ、ビルの屋上から落下してしまう。
このまま落下してしまえばまず命がないだろう。
やるしかないの?。
躊躇いを持ちながらもレイジング・ハートに命じる。
「レイジング・ハート、お願い!」
「Stand by. Ready. Set up.」
首から下げているインテリジェンス・デバイスに文字が浮かび上がりなのはの周囲は桜色の光で覆われた。
ヴィータは、狙った相手が自分の主と同じくらいの少女であることに驚いた。
が、そんなことで手を緩めるほど甘い覚悟など最初から持っていない。
この高さでも魔導師ならば何ら問題にならないと判断したヴィータは
墜落してゆく蒐集対象に、さらなる攻撃を加えるために追撃をしようとする。
手の上に新たなシュワンべフリーゲンの弾を発現させ、狙いを定める。
大規模な結界魔法の使用によって管理局に気付かれる可能性も高い、ちゃっちゃと決着をつけるのが一番だ。
『Schwalbefliegen(シュワルベフリーゲン)』
アイゼンの声と共に発射される鉄球のような弾丸は、ツインテールの少女に一直線に進んでいく。
直撃すると共に込められた魔力が爆発し、煙を巻き起こすが手応えはない。
「ち、間に合わなかったか。」
爆煙の中から2つの光球が出てきたが、あさっての方向に飛んでゆく。
どうやら相手は煙で碌に周りが見えてないようだ。
ヴィータは、スピードを上げ煙ごと相手をぶん殴ろうとした。
「うらあああああ!」
しっかりと腰の入った一撃、しかしまたもや手応えはない。
ギリギリのところで敵は煙の中から離脱していた。こいつは、それなりにやるようだ。
「いきなり襲われるなんて、身に覚えは無いんだけど。どこの娘?なんでこんなことするの?」
と、なにやら言ってくるがヴィータは無視した。
半年間暮らして分かったことだが、この世界に魔法を
駆使するためのデバイスは無い、もしくは一般的に普及してないのだ。
つまり目の前の少女は時空管理局、もしくはそれに準ずる組織の関係者ということになる。
この問いかけも時間稼ぎの可能性がある以上、問答は無用。
避けることに主眼を置いているのなら、シュワルベフリーゲンで追い込みクロスレンジの一撃で確実に仕留めてやる。
「教えてくれなきゃ、分からないよっ」
相手の魔導師が手を振る。その間に自分は弾丸を二つ精製しようとしたが背後から魔力反応を感知し、反射的に振り返る。
そこには、唸りを上げて迫ってくる先ほどの二つの光球があった。
ヴィータは一発目の回避に成功したが、これは自分の回避ルートを限定する為の牽制目的のものだ。
一息遅れて本命の二発目がヴィータに襲い掛かる。
避けきれないと判断したヴィータはシールドを展開して、これを防ぐ。
先ほどから、こちらの攻撃を回避していることと、この攻撃でヴィータは悟る。
間違いない、この敵は戦い方を知っている。
やたらでかい魔力資質に戦闘スキルが備わっているのは厄介この上ない、しかも時間は相手の味方だ。
「く、この野郎!」
出鼻を挫かれ、焦ったヴィータは全力で間合いを詰めアイゼンで脳天を狙う。
その攻撃を高速移動魔法で残像を作りながらかわす相手魔導師
ちょろちょろと鬱陶しいんだよ・・・!
ヴィータのイライラのボルテージは急上昇していた。
「話を!」
再度距離をとった白い魔導師がデバイスの形を音叉状に変え、こちらに向ける
そのデバイスの先端にとんでもない量の魔力が集まってゆく。
「聞いてってば!」
その声と共に極太の光がヴィータ目掛けて放たれた。
直撃すればひとたまりもないが運良くそれは少し左に反れていた、しかし余波でヴィータはバランスを崩してしまう。
どうにか姿勢を安定させたが、そこで気付く。
帽子がない。はやてが自分の為に考えてくれた騎士甲冑が・・・!
必死に周りを探してみると敵の砲撃のせいでボロボロになりながら地上に墜落している。
それを見て怒りのバロメーターは一気に振り切れ、もはや敵をぶっ潰すこと以外のことはヴィータの頭から消え去った。
「アイゼン!カートリッジ、ロードッ!」
『Explosion(エクスプロズィオン)!』
アームド・デバイスに内蔵されたシステムが活性化し、瞬間的に膨大な魔力がヴィータに供給された。
それだけではない、鉄の伯爵が変形していきハンマーヘッドの両面に噴射口と鋭いスパイクが出現する。
敵は、そのことに驚いたようだが関係ない。
あたしは、ただこいつをぶっ潰す。
「ラケーテン」
その声と共に噴射口が点火し、アイゼンに猛烈な推力が生まれる。
それをうまく制御し、今までの比ではないスピードで敵に肉薄する。
スピードについて来れなかったのか、敵はシールドを展開し受け止めようとするが・・・
無駄だ。その程度の硬度なんざ、今のあたしとアイゼンに通用しない。
「ハンマー!」
相手の防壁を粉砕し、デバイスごと相手を吹き飛ばす。
敵は、背後のビルの窓を突き破り柱にぶつかってようやく止まった。
しかし、まだ敵には決定打を与えてないと判断したヴィータは追撃の手を緩めない。
「うらああああ!」
第二撃目を放ち、けなげにバリアを張る相手をカートリッジから供給された残りの魔力全てを使いねじ伏せる。
「ぶち抜けええええ!」
今度こそ、敵のデバイスとジャケットを破壊し決着がついた。
ヴィータは興奮した自分を落ち着かせるように何度も深い息をして、倒した魔導師に近づく。
驚くことに虫の息だが相手には、まだ意識はあった。それでも何かをできるわけではない
ただ無力に半壊したデバイスをこちらに向けるだけだ。
止めを刺すためアイゼンを持ち上げ、振り下ろした。
だが、しかし攻撃は乱入者によって阻まれた。
最終更新:2007年08月14日 12:04