第一話「昼と夜」
12月1日  0730時
海鳴市   高町家リビングルーム

朝早く起きて、街を見渡せる丘の上で魔法の練習をするのは
半年前から続くなのはの日課だ。今日はディバイン・シューターの制御練習をして
レイジング・ハートから80点をもらったので、なのははとても上機嫌である。

「なのは、お前宛に海外郵便が来てるぞ」

兄の恭也が手に大きめの茶封筒を持ってリビングに入ってきた。

「お兄ちゃん、ありがとう。宛名は・・・やっぱりフェイトちゃんだ」

「その文通も結構続いてるよね。私は筆不精だから手紙書くのは苦手だなぁ。
 あ、もしかして今回もビデオレター?」

半年も続く文通に感心した姉の高町美由紀がなのはに尋ねる。

「うん、そうみたい。そうだ、返事のビデオにお兄ちゃんとお姉ちゃんも入る?」

「お、いいね。それなら私でも大丈夫そうだよ」

美由紀は快諾し、朝ごはんを食べる為に席に着く。
なのはも同じように美由紀の隣に座り朝食をとり始めた。

学校に登校する途中、海鳴市の街並みを見渡すなのは。
この半年でジュエルシードの暴走で受けた傷跡は、徐々に癒え始めている。
巨大な木の根で破壊された道路もきちんと整備され、
高波で壊れた港も今は大きなタンカーが入港できるくらいに修復拡張された。
街は市や県の特別復興予算もあり、確実に以前の姿に戻ろうとしている。
そういう感慨にふけていると、背後から耳慣れた親友二人の声が聞こえてきた。
今日も、いつもの日常が始まってゆく。

同日  1034時
時空管理局所属巡航L級8番艦「アースラ」

アースラの№2であるクロノ・ハラオウンは食堂でPT事件の最終的な後始末である
フェイト・テスタロッサの裁判の打ち合わせをしていた。

「次で最後の裁判になるわけだが、これまでの経過を鑑みれば、まず間違いなく保護観察処分を
 勝ち取れるはずだ。それでも最後で躓くわけには行かないので一応、この書類通りに証言してくれ。」

渡した書類にはPT事件に関わった経緯、反省の意思があることなどの裁判の大体のシナリオが書かれていた。
金髪の少女フェイト・テスタロッサは、頷き真剣に渡された書類に目を通してゆく。
隣のアルフは、めんどくさそうだが主のために目を通している。
さらに隣にいるフェレットもどきには証言者としてこちらに有利な証言をしてもらう予定である。


ブリッジでは、艦の責任者たるリンディ提督が本局の監査部を預かっているレティ提督に
アースラの整備についての相談と情報交換をしていた。

「明日で今回の巡航任務が終わりね。この艦もちょうど定期整備の時期だわ。
 今のうちに書類を作っておいたほうがいいかしら?」

『そうね。今、L級を整備できるドッグはいっぱいだから早めに揃えてくれたほうが整備部も助かるわ。』

L級巡航艦は管理局が保有する高性能戦艦である。その整備には本局の専用ドッグが必要で
現在2番艦、6番艦、9番艦が定期整備しており、残りの空きは一つしかなかった。

「それはそうと、本局は今どんな感じなの?」

『よくないわ。人員不足は以前から言われてることだけど、ここ三ヶ月前から起こってる
 連続魔導師襲撃事件のせいで武装隊、捜索隊は予備役を召集することになったわ。
 死者がまだ出てないのが、唯一の救いね。』

「それって襲われた後にリンカーコアが極端に小さくなると言う、あの事件?」

『それよ。今、あなた達が巡航している付近を中心として起こってると予測されてるから
 もしかすると一悶着あるかもしれないわよぉ?』

本気半分、冗談半分といった感じでレティは、リンディをからかう。
ため息をつきリンディは、そうかもねと返す。
フェイトの裁判を控えてるのに、面倒ごとにはなるべく巻き込まれたくなかった。

12月2日  0115時
海鳴市   セーフハウス

『0115時、ケルビム、ヴァーチャーがペットの犬を連れて外出と・・・
ウルズ6、7!行きなさい。ここは私一人で十分だから』

「へいへい」

「ウルズ7、了解」

M9に搭乗しているマオがセーフハウスで待機しているクルツ、宗介に指示を飛ばす。
二人は、マガジンと薬室を確認をしてから八神家から出た二人の後をつけて行く。

「しかし、どこ行くのかね。犬の散歩にしては時間が遅いし、大体昼間の買出しのときに
 犬もついて行ってたんだろ。」

「肯定だ。だが、そこまで気にすることではあるまい。俺もシロを散歩させるときは必ず深夜だ。」

「虎の散歩と一緒にするなよ。」

と、クルツは突っ込み前を歩いてるポニーテールの女と赤毛の少女を見る。
ポニーテールの女と赤毛の少女―――自分達はケルビムとヴァーチャーと呼んでおり
八神はやてをセラフィム、金髪の女をドミニオンというコードネームをつけられている

「情報部の援軍がいるとはいえ深夜に移動されると、やり難いったらありゃしねぇ。」

「それも肯定だが、文句を言っても仕方あるまい。狙われているかどうかも
 よく分からない状況でそう多くの人員をかける訳にはいかんだろう。」

「そりゃ、そうだけどよ。情報部から来たのが男というのもなんかなー。」

ケット・シーというコールサインを持つ情報部からの援軍――黒髪の東洋系の男だったが――は
初日に顔をあわせてから自分達とは別の場所から護衛、監視をしている。
それが情報部員の強みだからだそうだ。

「気にいらなそうだな」

「護衛対象が美人だからまだいいけどよ。周りが男ばかりだと息がつまりそうなんだよ」

「よく分からんが、情報部の変装技術はそれなりに進んでいる。
 もしかすると性別を偽っている可能性もあるぞ。」

宗介はそういって、今もかなめの護衛をしてるだろう性別不祥な情報部のエージェントを思い出す。
クルツもそういうことには期待してないらしく、そうだなーと投げやりな答えを返した。
そうしている間に、尾行対象が二手に分かれた。

「おい、二手に分かれたぞ。気付かれたか?」

「分からん。お前はケルビムを追え。俺はヴァーチャーのほうに行く。」

12月2日  0223時
海鳴市   オフィス街

シグナム、ザフィーラと別れたヴィータは単独で魔力反応を探している。
昨日は突然、はやてが発作を起こし魔力蒐集ができなかった上
闇の書が、まだ半分も完成していないことに焦り、イライラしていた。
それでも気付くことができたのは、追跡者の偽装がチョロ過ぎたためである。

「ち、誰だ?あたしの後をつけるのは」

振り返ると2人の男が立っていた。
その手には音叉状の杖らしきものを持っている。
間違いない。管理局の捜索隊だ。

「見つかっちまったか。まだ管理局にあたしらの顔がばれるわけにはいかねぇんだ。
 わりぃけど、ぶっ潰させてもらうぜ!」

そう言って、一瞬でグラーフ・アイゼンを起動して間合いを詰める。
捜索隊の二人は、最初からデバイスを起動していることが、アドバンテージになっていると思っているようだが
その程度の戦術的優位性は、この近距離でしかもベルカの騎士相手には通用しない。
ましてや、この程度の魔力資質なんざ・・・

「でやああ!」

気合をのせ一息で二撃の攻撃を放つだけであっさりと勝負はつき
反撃する間もなく捜索隊の二人は地面に倒れ伏した。

「雑魚いな。次があるなら、相手の力量ぐらい測れる様になりな・・・
 たいした足しにもならないだろうけど、闇の書の糧になってもらうぜ。」

だが、ヴィータは気付いてなかった。後をつけているのが二人だけではなかったということを

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最終更新:2007年08月14日 12:03