プレシア・テスタロッサ事件、通称P・T事件は暴走したプレシア・テスタロッサが失われた伝説の都アルハザードへ行く
ために危険なロストロギア――ジュエルシード――を用いた事件であり、その核心には第97管理外世界の地球に住む
魔法文明のない世界いた唯の少女こと高町なのはが偶然にも魔法に触れ、華々しく天才魔法少女として活躍した出来事
と管理局には認識されている。
この事件後、ジュエルシードの影響が地球及んだ可能性があるため、数ヶ月による地球担当に当てられた次元航行艦
アースラの厳重警戒が行われていた。
しかし、アースラの計器には何の反応もなく、空間は極めて安定状態であったため警戒レベルを通常の管理外世界の
監視レベルまでに落とされていた。
だが、P・T事件で起こったジュエルシード暴走は管理局の監視している地球ではなく、そこからズレた位相に存在する
"管理局の監視外の地球"との両間の異次元の距離を極端に縮めてしまっていた。
管理局がまだ知らない地球では、星の寿命を削る激しい戦闘が繰り広げられていた。
一方は金色に光る眩い気に包まれ逆立った金髪の男、もう一方はピンクの肌に太い触覚のようなものを頭に生やした化け物。
ピンクの化け物は名を魔人ブウと呼ばれる凶悪な存在である。
その魔人ブウの発する気は地球上、いや宇宙のあらゆる存在をも恐怖させ絶望させる程の邪悪な強大なものであった。
しかし金髪の男である最強のサイヤ人――ベジット――は、そんな魔人ブウすら超絶するほどのパワーを持ち、まるで
大人が子供をあやすかのように戦っていた。
足場の無い空中に佇む二人。
その静寂を破り、魔人ブウが目視不可能なほどの速度でベジットに対して直突きを放った。
さらに、そのパンチから無駄のないコンビネーションにより繰り出される蹴り。
しかし、ベジットは胴体への直突きを避け、蹴りを防いだ反動を利用して頭部に蹴り返した。
もはや二人の戦いは両者のみを対象とせず、各々から繰り出されるパンチとキックはその場の空気すら切り裂き衝撃波とな
って荒れ果てた地球の大地を削り取り爆音を奏でていた。
この激しい動きによるためなのか、両者は時折休憩するかの様に距離をとり相手を警戒しあう。
激しい戦闘だが、衣服や肌に傷を彫っていくのは魔人ブウだけでありベジットは衣服すら乱さず姿を見せる。
これは戦闘というよりも唯サンドバックを殴るだけの一方的な展開。
「な・・・にぃ・・・・・・っ」
魔人ブウは呼吸すら乱して思わずそうこぼした。
それに対してベジットは
「重要なのは気の強さや動きを掴む事だ。
貴様は目で追うから俺の動きについてこれないんだ」
と、嘲るように言う。
「ぇ・・・・・・偉そうにぃ!」
ベジットの言葉に魔人ブウはそう吐いて捨て、右腕を振りかぶりながら突撃しようとする。
が、ベジットはそれを許さずカウンターで顎に一撃を入れた。
この一撃に魔人ブウは大きく仰け反るが、そのままの体制で僅かばかりの抵抗であるのか蹴りをベジットの胴体に放つ。
しかし、この不用意すぎる蹴りは当然ベジットには効かず、そのまま足を抱えられてしまい魔人ブウは身動きが取れなくなった。
その直後、魔人ブウは体が引きちぎられるかのようなGを感じた。
ベジットが地上へ向けて降下し加速したである。
「ハハアァ!!」
ベジットの気合とともに爆発的に気が高まり一瞬の加速で空気の壁を突き破ってマッハを遥かに超えた速度で降下する。
魔人ブウの体は必死に元居た場所に居ようとするが、圧倒的なパワーと慣性の法則によりその身は引きずられるように持っていかれていく。
そしてベジットは大地に衝突する間際に魔人ブウの足を離し地表に叩き付けた。
魔人ブウの質量がそれ程なくても速度の自乗に比例する運動エネルギーは莫大であり、魔人ブウの体を地中に押し込むには十分過ぎるほどであった。
また、それでも使い切らなかった余分なエネルギーは地球の大地を割り、まるで地球が嘆くかのように轟音を立てながら地表を隆起させた。
今までの戦闘のオーケストラによる騒音は消えさり、大気は静寂を取り戻す。
そんな中、ベジットは地上を上空から見据えながら僅かな気配をも逃さぬように様子を窺っていた。
それから数秒の時が流れ、ベジットがすっとゆっくり腕を上げ魔人ブウが埋もれた大地に指をさす。
その指先には気が集中し初め一瞬で光りの槍が形成され地表へ向けて突き出される。
光の槍は隆起した岩を邪魔だと言わんばかりに吹き飛ばし、地中深くへと突き進んでいく。
手探りで見えない中にある物を探すようにベジットは指先にかかる力に集中していた。
すぐに何か目当ての物を見つけたのか、ベジットは唇を喜の感情によりニィと歪ませた。
そしてベジットは光の槍を維持したまま腕を持ち上げ自分の正面へと持ってきる。
この光の槍の先には、まるでトカゲが串に刺されたかのように見っとも無い姿をさらした魔人ブウがあった。
「ふん・・・・・・無様だな」
ベジットの言葉が表す通りに魔人ブウは頭を下に向けながら四肢を死にかけのゴキブリのように痙攣させている。
犬のように魔人ブウは口から唸り声を上げベジットを睨み付けるが、そんなものはベジットには嘲笑の対象にしかならない。
まるで言葉を忘れたかのように唸り声しか発することの出来ない魔人ブウ。
「どうした、ずいぶん無口になったな。
それにしてもこれじゃちっとも面白くない・・・・・・もっと本気でやって欲しいなぁ。
それとも本気でやってこのザマなのかな?
だったら失礼なこと言って悪かったな、謝るぜ」
そんなベジットの発言に言葉を思い出したかのように魔人ブウは
「ォ、オノレェエ!!」
と、呪詛を吐き出すように搾り出し、光の槍から体を抜こうと足掻き出した。
肉体を変動させ無理やり体を槍から外した魔人ブウはズタズタになった服と体を再生させながらベジットを睨む。
そんな魔人ブウを鼻で笑うベジット。
「ワ・・・・・・笑ったなぁあ!
高が人間の分際で、この俺をォオ!!」
魔人ブウはそう切れながら雄たけびを上げつつ体を細く細長く変化させて行く。
突如変化した魔人ブウがいったい何をするのか分からないはずにもかかわらず、ベジットは見上げるだけである。
そして、魔人ブウはそのままベジットに向かって飛び、軽く開いた口を押し開きながらベジットの体内に侵入していった。
そのまま、みるみると魔人ブウの体はベジットの中へと収まっていき、ベジットの体は極度の肥満体のように膨れ上がっていく。
そんな人体に寄生するようなこの世のものとは思えない見るに耐えない過程経てベジットの体は通常の3倍以上の大きさになった。
ベジットの膨張が終わると、体の中から反響するように魔人ブウの声が響いてくる。
「フフフッ、アッハハハ!
どうだ、貴様の体の中に入り込んでやったぞ!!
どんなにパワーアップしようが、これでは如何し様もあるまい!!!」
魔人ブウは高らかな笑い声を上げながら、ベジットの肉体の中を這いずり回る。
その魔人ブウの体内移動は、ベジットの体の表面が膨れ上げられるのを外から見られるほどに奇怪であった。
「覚悟するんだなぁ。
貴様の体を内から破壊してやろう!」
そう魔人ブウは言い、さらにベジットの内側を動き回る。
常人ならその恐怖に慄き意識を失うであろう感覚にすらベジットは冷静であった。
ベジットは手を握り、指先までに意識を集中して自身の状況を正確に把握していく。
そしてベジットは自分の体が乗っ取られた訳ではないことを確信した。
それが分かるや直ぐにベジットはいつもの不敵な笑みを浮かる。
「覚悟するのは貴様の方だ・・・・・・」
と自信に満ち溢れながら言い放つ。
それに対して魔人ブウは疑問の声を上げるが、ベジットは気にもかけずに気を練り始めた。
刹那、とてつもない気の量がベジットの体を駆け巡りはじめる。
「ァァァァァァアアアアアアアア!!!」
ベジットの気合を上げる声と共に大気は振動し始めた。
膨大な気の奔流がベジットの周囲を吹き荒れ、スパークする。
それは傍から見て、あたかもベジット本人がプラズマ化するかのように激しく大気を刺激する。。
さらにベジットの巨大過ぎる気は大気のみならず次元までも揺るがすほどであった。
この時、乾いた枝を圧し折るような世界の軋む音が微かに響いていた。
その音を聞くことの出来る者は居ない。
この地球に存在する生命はベジットと魔人ブウを除いて地球の神であるデンデと格闘技世界チャンピョンのMr.サタンの二人だけである。
この二人はベジット達の近くにいるために気付かない。
世界が小さな悲鳴を上げた事には。
「ダダァァアアアア!!」
叫び声と共にベジットの気は安定化し、ベジット自身の体は通常の状態に戻った。
ベジットは静かに自分の体を探る。
そして異変が感じられた個所に視線を向けると、間を置かずにその部分が膨れ上がった。
瞬間、ベジットは殴りつけ、そこから魔人ブウの悲鳴が上がる。
魔人ブウはそこから逃れるように移動するが、ベジットはその場所が分かるかのようにそこに向けて手刀を振るう。
幾度となくベジットの攻撃から逃れようと魔人ブウは移動するが、その度にベジットは自分の体に容赦のない攻撃をした。
その攻撃から逃れるために魔人ブウは体の構造上絶対に攻撃できない背中へと移動するが、ベジットは意に介さず自身を大地に叩き付けた。
「ぁ・・・・・・っ・・・・・・はぁ・・・・・・。
何故だ、何故思うように動けん!?」
魔人ブウは思わず口に出してしまうが、ベジットはそれに対して
「当然だ、俺の気で貴様の動きを封じているのだからな。
俺の体の中に居る限り自由には動けん・・・・・・どうする、続ける気か?」
と平然に答える。
それに観念したのか、魔人ブウはベジットの口から外へ逃げ出すように這い出た。
ベジットの体内から、口からピンクの物体が中に逃げ出していく様は気味の悪いもので
「フンッ、悪趣味な野郎だぜ」
ベジットは口を腕で拭いながら言う。
「しかし、あれだけ色々合体してその程度とはな・・・・・・。
期待はずれもいいとこだぜ」
魔人ブウの失態に対してベジットは馬鹿にするように発した。
この時、ベジットの言葉で、そして今までの戦闘のせいで魔人ブウの感情は苛立ちとムカツキで頂点に達しようとしていた。
「き、期待ハズレだとォ!
この俺が!?
宇宙最強のコノ俺が!!
馬鹿にするのもいい加減にシロ!!!」
キレた魔人ブウは堰を切ったように言葉を吐きつづける。
そんな魔人ブウに、ベジットは鼻で笑うだけであった。
その嘲笑が全ての歯車が狂いだす原因となった。
嘲笑は魔人ブウの感情のダムにヒビを入れ、怒りの感情が溢れんばかりの巨大な、とてつもない気と成って決壊した。
「ゥゥゥゥゥゥヴ、ウウヴヴウウウウウ!!!」
魔人ブウの腹の底から搾り出すような雄たけびと共に邪悪な気が大気という太鼓を叩く。
その瞬間、激しい突風がベジットの体を吹き飛ばした。
体制を立て直したベジットが見たものは、理性の限界にきているキレた魔人ブウ。
「バかニしやガっテ!
こノォレを、コノオレヲ!!
ッグァアアァΙ Χ く・くδ;';,'' ソY | Γ↑Π Ψ | |Δ↑Λ B・彳ト・↑|┤Fδ;';,'' ソY | ,'' ソ:彳ト・┼Λ↑F!!!」
もはや言葉にすら成らない位理性を失った魔人ブウは、その邪悪なとてつもない気を開放するだけで、ベジットの事すら目に入っていなかった。
魔人ブウから放たれた気は雲を突き抜け、大地を削り、海を割り、地球に甚大な被害を与えていった。
それでも止まらない魔人ブウの気の嵐は終に次元の壁にまでも影響を与えだした。
怒りに我を忘れた魔人ブウのパワーは周りの次元壁を歪ませていく。
あまりの出来事にベジットは呆然としていたがハッと気付き
「マズイ、あいつ、完全に頭に血が上っちまってる!
止めねえと異次元にこの宇宙が押しつぶされちまう!!」
再度自分に事の重大さを言い聞かせるように呟きながら、魔人ブウのもとへ飛んでいく。
全速力で飛んでいっているベジットだが、魔人ブウの圧倒的なパワーに押されてスピードが出ない。
それでも普通に速いのではあるが、ベジットにはこの僅かな差異に神経が削られるような焦りを感じていた。
「ダダァアアアア!!」
ベジットも気を上げながら魔人ブウへ突撃していくが、魔人ブウの張るバリアのようなもので遮られ辿り着くことが出来ない。
しかし、さらに気を奮い上げさせながらベジットは突撃し、徐々に、非常にゆっくりとだが魔人ブウとの距離は狭まっていく。
だがそれは余りにも長く、この地球が存在する宇宙を守るにはどうしようもないほどの険しい壁であった。
それでも諦めないベジットの力は魔人ブウとの距離は残り拳一個分も無いほどまで縮めていた。
「なッ!!?」
それは誰が上げた言葉だろうか。
ベジット、いやデンデ、または地球より遥か遠く離れた聖域に居る老界王神やキビト神なのかもしれない。
この言葉が意味するのは、後数センチの所でベジットの隣に次元の裂け目が出来てしまったためであった。
「クソッタレェエ!!!
吸い込まれちまう!!!
バリ」
ベジットは最後まで言葉を発することが出来ず、そしてこれが"コノ世界"での最後の言葉となってしまった。
ベジットが消えてしまった今、魔人ブウによる次元の揺らぎを止めることの出来る者は存在しない。
何秒、何分、いや何時間たったか分からない。
魔人ブウは我を忘れたまま終に次元の壁を壊してしまった。
そして、出現した異次元は原因の魔人ブウごと押しつぶし地球は消滅した。
「・・・・・・これでこの宇宙は終わってしもうたな」
この状況を聖域で見ていた老界王神はあることを悟ってそう呟いた。
これは老界王神がまだ若かった遥か遥か遠い過去に伝承で知った創生のビックバンと同じ現象であることを。
「宇宙はビックバンにより生まれ、ビックバンによって死す・・・・・・か。
まったく、ゴクウのばかたれぇ!!」
そう文句を言った後、聖域は消滅した。
今、一つの次元世界が消えてなくなった。
最終更新:2008年02月17日 13:27