第五話「邂逅」
12月3日  1103時
市立図書館近くの道路

M9の存在に気付いている?
宗介は、ポニーテールの護衛対象が見えないはずのASにじっと視線を向けていることを不審に思った。

(ECSに造詣でもあるのか?しかし、先ほどの会話を聞く限りAS全般の知識がないようだったが・・・)

M9が拾った護衛対象同士の話を聞いた宗介は、そう判断した。
犬を連れているということで、ECSが看破された可能性を考慮したが
それならば、あの犬はオゾン臭に反応して吼えるはずだ。

「なあ姐さん、さっきから護衛対象がそっちを見てるんだけど?」

宗介と一緒に護衛しているクルツが通信をマオに入れる。

『ECSは正常に作動中よ。犬がいるのが不安だけどバレてはいないはずよ』

マオもクルツと同じこと考え、その場をじっとしている。
宗介は護衛対象が見ている先――M9がいる所より先――を見たが、特に何も無い。
そうこうしてる内に、対象とペットの犬は歩き始め曲がり角の先に消えようとした。
宗介も後を追おうするが・・・・

「おい、そこのお前ら」

突如、声を掛けられ宗介とクルツは反射的に身を翻し背後の相手に銃を突きつけた。
相手を確認して愕然とした。
先ほど曲がり角の向こうに行ったはずの護衛対象がそこに立っていた。

「物騒だな。で、そんなものを持ってるお前達は何者だ?」

「・・・・」

「言わないか。では、その物騒なものをしまってくれないか?
 見てのとおりこちらは非武装だからな。」

妙にリラックスしたその姿に、宗介は警戒をしてグロッグ19をしまうのを躊躇ったが
通行人に拳銃を所持してることを見られるのは得策ではないと判断したらしい
クルツが銃をしまうのを見て自分もそれにならい腰のホルスターに拳銃を収めた。

『なんでケルビムがそこにいるのよ!?』

通信機からマオの声が聞こえてくる。さっきまで角の向こう側にいたはずなのに
いつの間にか宗介の背後にいるという摩訶不思議なことが起き、マオは少しばかり驚いていた。
だが、生身で空を飛ぶような相手に常識など求めても仕方ない。

「ここでは話し辛いか。では、どこかの別の場所にでも行くか?
 お前達も我々に聞きたい事があるのではないか?」

罠か?そういう考えが宗介の頭を掠めた。
護衛対象との接触は完全に禁止されてはいないが、それなりのリスクも存在する。

『・・・6に7。これはチャンスでもあるわ。』

少し間をおきチームリーダーであるマオが決断する。

「マオ?どういうことだ?」

「姐さん?」

いきなり喋ったことにケルビムは怪訝としたが何も言わなかった。

『この非常識中の非常識の事態に関する情報が必要だわ。人が空を飛んで、光線が飛び交うのよ?
 ほんのわずかでも状況を知る必要があるわ。
 当事者が話してくれるって言うんだからそれが一番手っ取り早いわ
 罠だとしてもこっちにはASがあるから心配はしないでよろしい』

宗介は警戒を解かなかったが、チームリーダーの判断を尊重した。

「提案は了承する。だが、その前に・・・なぜ分かった?」

この9ヶ月で平和な日本の社会に溶け込めるように努力はしてきたつもりだ
しかし、こうもあっさり看破されると認識を改める必要がある。

「勘だが敢えて言えば、この辺りの人間とは程遠い身のこなしだな。
 ・・・では、どこかの店にでも行くか。」

そう言って歩き出すケルビムと犬について行く宗介とクルツ、その頭ではどうやって情報を
聞き出すかという算段が組み立てられている最中であった。

同日   1145時
海鳴市  闇の書事件対策本部

アースラは定期検査で15日間の整備が決まっている。その間長期稼動できる別の艦は
2ヶ月先まで予定が埋まっている。本部から第97管理外世界はかなり離れており
中継ポートを使わなければいく事はできない。緊急時に置いて非効率なので、ある手段を使うことにした。

「たまたま、こういう物件があるなんて運がよかったですね。」

「そうね、日当たりもいいし。でも指示したとは言え、なのはちゃんの家にも都心にも近い
 この物件を探すの苦労したんじゃないの?。」

「そうですね。探すのには苦労しましたよ?主にランディとアレックスが・・・」

エイミィは、さらっと言い引越しの作業を続ける。
リンディも聞かなかったことにし、引越しそばを作ろうと準備を始めようとしたが
それに気付いたクロノが提督の暴挙を阻止し、なのは、フェイト、その友達と共になのはの家に挨拶に行かせた。

「ふう、甘党の提督が作ったらどんなことになることか。」

それを聞いたエイミィが、あははと渇いた笑い声を出す。
リンディ提督は他人に自分の趣味を強制はしないが、たまに本当にたまにだが
甘くしてはいけない食べ物を激甘にして他人に薦めてくる。

「それはそうと、エイミィ。ASについて何か分かったことあるか?」

「ん~、ええと大体のことなら調べたよ。詳しくはあとで文書に纏めて提出するけど・・・」

そういって、モニターに映像が映し出される。
そこには昨夜現れたポニーテールを持つASが発煙弾を使い姿を消す瞬間が映し出されていた。
発煙弾を使った後、自分達が使う幻影魔法と同じ効果のようなものを使って姿を隠蔽しているようだ。
アースラの技術仕官の話ではどういう方式か詳しく分からない限り探知は難しいとのことだった。

「この世界で一般的なのは第二世代ASって言うらしいんだけど。現場に現れた二機は構造とかが違うの。
 でも片方の機種名ならわかってるよ。この頭からアンテナが伸びてるのはM9<ガーンズバック>って言うみたい。
 なんでも現在、米国って言う国が開発している次世代ASで性能も従来とは比べ物にならないらしいよ?」

「ちょっと待ってくれ。開発中と言ったのか?なら、なぜここにそのASがあるんだ?」

「それは分からないよ。私が調べたこの世界の雑誌にはそう書いてあっただけだもん。」

そういってモニターを消すエイミィは引越し作業に戻る。

「もう片方は分からなかったのか?」

「それがM9っていうのに比べると極端に情報が少ないんだよね。
 香港での無差別破壊事件の1件ぐらいしか見つからなかったよ。」

存在しないはずのASと謎のASか・・・・
この二機の狙いが闇の書であるのは間違いないはずだ。
だが魔法のないこの世界で、あれを手に入れてどうする気だ?
―――――魔法のない?

「エイミィ。この世界には本当に魔法文化は存在しないのか?」

「それは間違いないよ。なのはちゃんみたいな突然変異はいるけど
 それでもユーノ君と出会わなければ普通の女の子をしていたはずだよ。」

「じゃあ、なんでこの2機は結界内に入ることができたんだ?」

魔法を当たり前のように使うが故、見落としていた盲点・・・
この世界に魔法文化がないのならどうやって結界内に侵入できたのか?

「確かにそうだよね。結界を解析したユーノ君の話では、魔力資質を持つ人だけ
 結界内に残す設定だったと聞いたけど。」

ということは搭乗者が魔力資質さえ持っていれば入れるわけか・・・。
その可能性と別のもう一つの可能性を考慮し、クロノはエイミィの引越し作業を手伝うことにした。

同日    1150時
海鳴市  喫茶店「翠屋」

「お互いに情報は必要なはずだ。素直に知ってることを話せ。
 そうすれば、こちらもそれなりの情報は出そう・・・。
 で?改めて聞くが、お前達は何者だ?なぜ我々を監視している?」

シグナムはオープンカフェの席で一緒に座っている宗介に問う。
ザフィーラは机の下に身を伏せ、丸まっている。
宗介は、どう答えたものかと考え最後の疑問だけに答える。

「俺達の任務は君達の護衛だ。」

「護衛?」

「ああ、不特定多数の機関に君達が狙われているから護衛しろと命令されて来た。
 俺達はそこまでしか聞かされていない。それで俺達はM9を持って来て護衛についている。」

「M9?」

「両肩に盾、頭にブレード・アンテナがついているASのことだ。」

その答えを一つ一つ吟味するように聞くポニーテールの女

「そういえば、まだ名前も聞いてなかったな。」

「俺はクルツ・ウェーバー。で、こっちのむっつり君は相良宗介
 親しみを込めてクルツ君って呼んでくれ。」

「・・・そうか。私は」

「ああ、知ってる。シグナムちゃんって言うんだろ?」

「な!?」

こういうときクルツの軽さには助かる。こういう耐性のない相手のペースを乱し
自分のペースに持ち込むのは十八番なのだ。

「・・・・・聞きたいことがあるのではないかと言っていたな。
 では俺達の質問にも答えてもらう。お前達は何者で、なぜあんなことができる?」

主導権を握るために一番肝心な質問を対象にぶつける宗介

「我々はヴォルケンリッター、『闇の書』を守る守護者だ。
 そして我々は『闇の書』の完成を目指している。」

「『闇の書』?ヴォルケンリッター?」

「簡単に言えば魔法の話だ。我々はデバイス、私の場合は剣の形をしているが、
 それを駆使して魔法を使い空を飛び、炎を出したり、相手の攻撃を防いだりする。
『闇の書』は古代の魔法テクノロジーの貴重な産物だ。我々はそれを完成させるためにあの場にいた。」

魔法――――宗介やクルツだって、その名前を聞いたことはある。
実現不可能なことを可能にする力
だが、それは現実には存在しない。物語の中にだけ存在する物のはずだ。

「あまり驚かないな。」

シグナムはもっと驚くものと考えていたが目の前の男達は冷静そのものだった。

「非常識な極まりない光景なら、これまで何回も見て体験してきたからな。
 俺達の背後に急に現れたのも魔法か?」

もし自分が、愛機に搭載されているあの非常識な装置ラムダ・ドライバや
ウィスパードといった存在しない知識を引き出す人間の存在を知らなかったなら
自分は目の前の女の正気を疑っただろう。

「そうだ。あれは本来、高速移動と併用して敵を攪乱する魔法の一種だ。
 魔法に携わってるものなら、あれを看破するのは容易いが素人には十分効果があったようだな。」

「そんなに簡単に秘密をばらしちゃっていいのかよ?」

「言ってもお前達にはどうすることもできない。この世界で魔法を使える資質を持つ人間は極々僅かだ。
 しかし、そうなるとお前達はなぜ結界の中に入れた?」

「結界?」

「街を無人にした魔法のことだ。除去対象を決めれば、それを排除した空間を作り出すことができる。
 昨夜の除去対象は魔法が使えない者だった。だが、お前達に魔力資質は無いな・・・なぜ侵入できた?」

素朴な疑問を持つシグナム、だが魔法の存在を今しがた知った宗介達には答える術がない。

「分からんか、まあ当然と言えば当然か。では、最後の質問だ。
 私達を襲ってきたポニーテールのASは何だ?おかしな機能がついている様だが・・・」

「あれは・・・アマルガムという組織が保有する特殊な機材を搭載しているASだ。
 俺達はヴェノムと呼んでいる。」

「特殊な機材?効果はなんだ?」

「君には知る資格がない。仮に知ってしまったらその情報が陳腐化するまで
 拘束、または監視されることになる。」

「そんなことで折れると思っているのか?」

情報を引き出そうと睨むシグナム、しかし宗介も睨みかえし辺りの雰囲気が険悪になる
そこにクルツは先ほどから疑問に思っていたことを口にした。

「あの~それでよ、『闇の書』が貴重な物というのは分かるんだけどよ。どうやって完成させるんだ?」

シグナムは聞き出すのを諦めた様子でため息つきクルツの質問に答えた
それに一度見たことで大体どういう効果を発揮するのかは想像がついていた。

「魔法を使う者は必ずリンカーコアというものを持っている。それを闇の書に喰らわせる。
 そうして蒐集していけばページが増え666ページ全てが埋まれば完成だ。」

「人を襲うということか?」

宗介は目を細め、対象に問いただした。

「シグナム~!」

急にシグナムを呼ぶ声がして、宗介とクルツ、そしてシグナムは声のするほうに目をやる。
道路の反対側にこちらに手を振る車椅子の少女と金髪の女がこちらを見ている。
シグナムは、はやてに手を振りながら宗介の問いに答えた。

「そういうことになるな。だが、管理局が察知した以上これからは控えることになるだろう。
 リンカーコアを持っているのは、何も人だけというわけではないからな。
 それに全てが終わったら、けじめはつける。」

「待て、最後にもう2つだけ聞かせろ。なぜ『闇の書』の完成を目指す?
 それにお前達が昨夜戦っていた相手達は何者だ?」

席を立とうとするシグナムに最後の質問をぶつける宗介

「『闇の書』の完成を目指しているのは、主の為だとだけ言っておく。
 しかし、勘違いするな。主は我々の行動を知らない。これは私達の独断だ。
 ・・・戦っていた相手は時空管理局の魔導師だ。お前達は知らんだろうから簡単に言うと
 管理局は次元世界の警察のようなものだ。
 だが、お前達に管理局と戦えとは言わん。ただ我々の邪魔はするな。」

そう言ってシグナムは今度こそ席を立ちザフィーラと共に道路の向こう側で自分を待つ主の下に向かった。
宗介とクルツも勘定を払い、護衛を続ける為にセーフハウスに帰還する。
途中、小学三年生ぐらいの4人の少女の集団と
その保護者らしき人物とすれ違ったが宗介達は大して気に止めなかった。

同日  1715時
海鳴市のどこか

どこかの建物の一室―――真っ暗な中に2つの人影がある。
仕立てのいいスーツを着た中年の男は、モニターでなにやら映像を見ている。
それは昨日の戦闘だった。30ミリ砲弾を避ける少女、大型単分子カッターと切り合う女
おおよそ、この世の常識から外れた映像だった。
だが男は真剣にこの映像を見ている。やがて映像が終わり、部屋に明かりがついた。

「それで、どうだった?ファウラー」

「そうですね。まさか守護騎士があれだけの大物を蒐集せずに
 止めを刺そうとしたのは想定外でしたが思惑通りになりましたよ、ミスタCu」

部屋にいたもう一人の人影、リー・ファウラーは昨日の非現実的な出来事を思い出した。
期待した返答が返って来ないことに少し不機嫌になりながらも言葉を改めて中年の男は再度尋ねた。

「言葉が悪かったか。『闇の書』の完成度と守護者の戦力はどれくらいだと感じた?」

「完成度は正確には分かりません。あまり芳しくないようですね。
 ただ焦っているようです。あれだけ大規模の結界魔法を使用したのがその証左かと・・・
 戦力については歩兵単位で一般的なAS以上の火力があるのは驚きですが
 コダールがあれば恐れるほどではありません。」

連携を取って戦闘するなら話は別だが、ベルカ式は基本的に1対1である。
それならばラムダドライバを搭載するコダールが有利だ。
その上ベルカ式は実体を持つ攻撃が多い、ラムダドライバの斥力場も十分効果がある
そういう点で言えばミッドチルダ式のほうが厄介になるだろう。

「そうか戦力も今はコダールだけでも足りるとなると、こちらもあれの完成に専念できるな。
 それにしても進行状況は芳しくないのか。折角たきつけてやっているというのに無能どもが・・・」

中年の男―――ミスタCuは口から不満を漏らす。
それを見てファウラーは苦笑を浮かべた。

「しかし、貴方もよくやるものです。4ヶ月間、何もしなかった守護騎士をたきつけるために
 わざわざ八神はやてのカルテを改竄して深刻な症状が出ているように見せかけるとは・・・」

「ふん、いずれは確実にああいう症状が現れるのだ。それが遅いか早いかの差だ。
 本格的な侵食が始まるのは3年後だと私とミスタAg予想しておるが
 それまで待っておれんのだ。」

「すぐにバレそうなものですが、『闇の書』に魔力が溜まれば侵蝕のスピードが上がり
 カルテに書かかれたとおりの症状が現れることになる。
 守護騎士達はさらに焦って蒐集を急ぐと・・・貴方の策略には恐れ入ります。」

ミスタCuは、目の前のファウラーを見た。
ほっそりとした美青年、素人にはこの中国人がとても超人的な殺人技能を持つ傭兵であるとは思わないだろう。
2ヶ月前にミスタAgに相談して紹介してもらったのだが、なかなかにいい人材だった。
貧弱な実行部隊しか持たない自分にとってファウラーは非常に重要な存在になりつつある。
余談だが実行部隊を持っていない幹部はミスタKに依頼するという形で作戦を行うのだが
そのミスタKも先の香港事件で戦死してしまい、アマルガムの共同出資部隊はミスターKの後釜を決めてる最中だ。

「世辞はいらん。今後の方針に特に変更は無いがミスリルに情報が
 漏れたことが気になる。邪魔になるようなら消せ。」

「わかりました。では・・・」

そういって、ファウラー部屋を後にした。
出て行くのを確認しミスタCuは一人呟いた。

「11年前の事件以来、行方知らずの『闇の書』か・・・。」

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最終更新:2007年08月14日 12:08