第六話「宿命」
12月6日 0910時
海鳴市 聖祥大学付属小学校
「フェイト・テスタロッサです。よろしくお願いします。」
壇上に立ちクラスのみんなに自己紹介をするフェイト
そう、ここはなのは達が通う小学校
今日からフェイトは、この小学校に通学することになったのだ。
時間は3日前に遡る。なのはの両親がやっている喫茶店で自分となのは、すずかとアリサと
一緒に雑談をしていると、ランディがやって来て制服と生徒手帳などの道具一式を手渡された。
かなり混乱したけど、それがなのは達の学校の制服だと分かりリンディ提督の所へ行く。
「月曜日からなのはさん達のクラスメートね」
なぜクラス編成をもう知っているのか不思議だったが、そこは敢えて言わないことにした。
だって友達が同じクラスにいると分かるだけでも学校生活に対する不安がだいぶ消えるし
なにより初めてできた同い年の友達と一緒にいたいと思うのはいけないことだろうか?
「えっと、その、ありがとうございます。」
そうして翌日からなのは達と一緒の学校生活が始まった。
「ねぇねぇ、テスタロッサさんってどこの国の人?」
「それはお前、テスタロッサという名前なんだからイタリアに決まってるじゃないか」
「え、じゃあイタリア語とか喋れるの?」
などとクラスメート達が質問してくるが、ちんぷんかんぷんである。
第一イタリアって、どこなんだろう?
フェイトはトマトを使わせたら世界最強である長靴の形をした国を知らなかった。
「ほらほら、一度に聞いたら混乱しちゃうでしょ?一人ずつ聞きなさい。」
姉御肌のアリサが野次馬と化したクラスメートを纏めてくれる。
だいぶ質問も分かりやすくなったので、事前にクロノやエイミィが作ってくれた
カヴァー・ストーリーを話した。自分はアメリカで生まれたけど、すぐに日本に来て
それからずっと日本育ちだということ、だから日本語と英語以外は喋れないということも話した。
ただこれは、ミッドチルダ語が英語と非常に類似しているから話せるということになっているだけである。
多分クロノたちがアメリカを選んだのもそういう理由なのだろうとフェイトは一人で納得していた。
登校初日が終わり、なのは達と一緒に下校する。
今日は初体験ばかりだ。特に大勢の人の中で勉強するということの体験はとても新鮮だった。
学校というのは、こうも楽しいものだったのかとフェイトは感動した。
(・・・いけない、いけない。私はなのはの護衛も兼ねてるんだ。バルディッシュもいないんだし、もっと周りに気を配らなきゃ)
しかし初めての学校が楽しくて楽しくて、ついついフェイトの気が緩んでしまうのであった。
同日 1530時
海鳴市 海鳴市立総合病院
また週に1度の定期健診日という陰鬱な日がやって来た。
2ヶ月前に自分の新しい担当医になった石田先生はいい人で自分のために
いろいろな治療方法を試してくれるが、もう自分の足については諦めていたりする。
「それではやてちゃん、具合はどう?」
「いいえ、特になんともないです」
はやては検診が早く終わるようにお決まりの台詞を言った。
だが、石田先生はそれを予想しており先手を打っていたらしい
そのまま、説明があり精密検査室に連れて行かれるはやて
「はい。しばらく、そのままにじっとしていてね。」
「・・・はい。」
しょうがないのでしばらく、ぼーっとしていたがこの精密検査装置はいつも40分ぐらいかかる。
しかもこの機械の駆動音がやたら規則的で、あたかも催眠術にでもかかったように眠くなってしまうのだ。
そうこうしているうちに本当に眠くなり始め、はやては睡魔抗うことができず眠りに落ちてしまった。
「主・・・主はやて・・・」
自分を呼ぶ声がする。・・・もう検査は終わったのだろうか?
目を開けてみるとそこは何も無い真っ黒な空間だった。
「ここは・・・?」
「ここは『闇の書』が作った仮想空間です。普通なら完成していない『闇の書』に
この深度まで潜るのは不可能なのですが・・・、貴女は歴代のどの主達よりも私と交感しやすい体質のようですね。」
「貴女は誰?」
「私は『闇の書』の意思、いわば管制人格です。主はやて。」
「貴女が『闇の書』?」
目の前の幸薄そうな女性が『闇の書』だと言う。
そういえば漠然とではあるが以前にも声を聞いたような・・・?
そのことを目の前の女性に聞いてみると
「そうですね。声だけならこれまでも何度か交わす機会はありました。
ですが、面と向かって会うのはこれが初めてになります。」
「そうか~、変な感じになるけど初めましてやな。」
そう言って管制人格に近寄るはやて。
だが、なんとなく違和感を感じ自分の体を確認する。
「あれ、歩ける?」
「ここは仮想空間です。まして貴女は『闇の書』の主です。
貴女が望めば、ここでは大抵のことは叶います。」
「へぇ、すごいな~。」
「はい、ここならいろんなこともできます。
目が覚めるまでの間の暇つぶしにもなるでしょう。」
優しく微笑み暇つぶしを薦める管制人格
はやてはその顔に見とれてしまう。が、管制人格の提案は断った。
「そうやな~、それはまた今度にしよかな。それよりも私はお話がしたいんやけど。」
「・・・分かりました。会話はあまり得意ではありませんが。」
「その前に・・・抱っこや!」
満面の笑みを浮かべ管制人格に八神家の鉄の掟である抱っこをねだるはやてであった。
同日 1610時
海鳴市 クロノの部屋
クロノは自分の部屋で増援派遣の申請書の作製をしている。
アースラにはギャレット率いる捜索チームがいるが相手はこの世界だけでなく様々な世界で蒐集を行っている。
さらに、アースラに常駐している武装隊はない。フェイトやなのは、ユーノといった協力者がいても
結界の維持、犯人の足止めや戦闘の痕跡を消すのは大変なのだ。
ちょうどよく、レティ提督からそのことについての通信が入ってきた。
「こんにちは、クロノ。そっちはどう?」
「本格的な捜査は、この書類が出来てからになりますから。まだなんとも」
「そう。こっちはグレアム提督の口利きがあって、なんとかなりそうね。
ただ・・・・」
「ただ?」
何か悪いことでもあったらしく、口ごもる提督
クロノはレティ提督に続きを促した。
「ただ、タカ派の連中が妙なのよ。『闇の書』は、いくつもの文明や都市を
破壊してきた超危険物だって分かってるのに今回はやたらと消極的だわ。
いつもなら捜査に口出しや横槍を入れてきてもおかしくないのに・・・」
「グレアム提督が説得してくれた訳ではないんですか?」
「あいつらの思考はあなたも知ってるでしょ?人の話をこれっぽっちも聞かないのよ?
・・・ちょうど、別件の事件に出っ張ってるからとも思ってるけど
それでも不気味なのよね。」
その話を聞き、考え込むクロノ。もしかすると自分が考えていたもう一つの可能性を
もう少しよく吟味する必要があるかもしれない。
「提督、『闇の書』の主以外に今回の事件に第97管理外世界の人間が関わってるのは聞いてますよね?」
「聞いてるわ。ASとか言う傀儡兵みたいな兵器を保有してるらしいわね。」
「はい。これは個人的な考えでしかありませんが―――――――――」
クロノは自分が、さきほどから考えていたもう一つの可能性を提督の話し始めた。
同日
闇の書内の仮想空間
話し始めてからどの位たったのか、ここは時間の経過が曖昧になる。
管制人格が話す異世界でのことはとても面白く、熱中してしまうものばかりだった。
ただ、どの話でも必ず戦いの話になるのが少し悲しかった。
「そうか~、みんなはたくさん旅を続けてきたんやね。」
「はい。もう、どの位続けてきたか分かりませんが、きっとこれからもそうでしょう。
ですが、今の主は貴女です。我々はずっと貴女のそばにいます。」
「私が生きてる間?」
管制人格を困らせてみたくなり、ちょっと意地悪な質問をするはやて
予想通り管制人格はなんと答えたものかと考え込み
それから、淀みなく事実を話した。
「そうなってしまいます。それは『闇の書』にそうプログラムされていて
私にはどうすることもできません。」
「なるほどな~。そうやったら、そのときまでみんなが休める木の梢になれるといいんやけど」
「そのことでしたら大丈夫です。
すでに騎士達にとって貴女は平和の象徴になっています。」
「そうか?そんならええんやけど・・・」
はやては少し不思議そうに思う。
自分は本当にシグナムやシャマル、ヴィータにザフィーラにとって
そんな風になっているのだろうか?
むしろ、彼女達が自分の孤独を埋めてくれたことのほうが大きいのに・・・
「私は騎士達と精神面でリンクしています。私の思いは騎士達の思いでもあります。
どうか、これからも騎士達に変わりなく接してください。」
「それは、もちろんや」
「ありがとうございます、主はやて。・・・もうそろそろ目を覚ます時間ですね。
どうかくれぐれもお気をつけて『闇の書』は強大な力そのものです。
それだけで狙われるに足る十分な理由になります。
強い力を欲しがるものはいつの時代にもいるものです。」
そう管制人格が言ったのを最後に辺りは真っ白に染まり、はやての視界と意識がぼやけていった。
はやてが去った後、闇の書は一人泣いた。主をこんなにも愛しく思っていても自分には何も出来ない。
ただ自分が主を喰らうまでの時間を待つこと以外には・・・
最後の忠告も今ではなぜしたのか分からない。主は目が覚めればここであったことを覚えていないというのに
だが、それでも失われる定めの命ならば他人が奪うのではなく、せめてこの場所で安らかな眠りについて欲しいとそう思った。
最終更新:2007年08月14日 12:14