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悪を断つ剣


夜の森は暗い。
微かに漏れる月明かりはあまりに頼りなく、枝の濃い地域はほぼ完全な無明状態となる。
そこを歩くのは、左目に傷を持った男――記憶喪失を騙る、通称Dボゥイ。
その手に握っているのは、何やら一振りの奇妙な日本刀。
本来刃である箇所が峰であり、峰である箇所に刃があるのだ。
本当にこんなものが使えるのか?
最初はそうも思ったのだが、どうやらこれは峰部分の強度もかなりのものらしい。
…本当に何故繊細な日本刀がそんなに丈夫なのかは不明だが。

(俺は間違いなく、アックスのボルテッカに飲まれたはずだった…)

今でもはっきりと思い出せる。
フェルミオンの眩い光が、アースラごと自身を包んでいくさまが。
それが何故か今こうしてここにいる。ふざけた爆破ショーを見せられて。

(何故、人間同士で殺し合わねばならない…!)

歯ぎしりと共に、左の拳が固く握られる。
見ず知らずの人間と命を奪い合えとほざく、馬鹿げた2人組。
自分にラダムの――あの憎むべき悪魔の真似事をしろというのか。

「俺は…心までラダムになりはしない。必ずこのゲームを止めてみせる…!」

命を弄ぶ者達への烈なる怒りを込めて。
望まぬ殺戮を強要された人々を救うため。
殺すのは自分だけでいい。そして自分が殺すのはラダムだけでいい。

「ッ!」

がさり、と。
背後で草の音がなる。
反射的に振り返ると、Dボゥイはその手の逆刃刀を構えた。
油断はできない。このゲームに乗った人間も、いないとは限らない。

「そう身構えるな。俺はお前の敵ではない」

野太い男の声が響いた。
闇の中に溶け込むことなく、堂々とした尊厳をもって、その声はDボゥイの耳に届く。

「…今の、聞いていたのか」
「これだけ静かだからな」

銀髪の武人・ゼンガー=ゾンボルトが答えた。
右手には、ところどころ彫金が彫り込まれた銃剣付ライフルを持っている。
彼はこの異常事態の中にあって、幾分か平静を保っている様子だった。
着ている服を見る辺り、管理局に所属している人間らしい。
そして顔立ちからも、修羅場をくぐって積み重ねられてきた年季が漂ってくる。
…彼はまだ29歳なのだが、Dボゥイには知る由もない。

「アンタも、この殺し合いを止めるつもりなのか?」
「無論だ」

古風な言い回しに揺らぎはない。
むしろ落ち着いている人間には敵の方が多いのでは、と感じて再確認したのだが、どうやら杞憂に終わったようだ。

「あのような連中を許すわけにはいかん」

ゼンガーは確固たる意志と共に言葉を発する。

「俺も、アイツらに好き勝手は――」

Dボゥイが言いながら近寄った瞬間、

――ずどん。

「ぐぅっ!?」

灰色に光る銃撃が、肩を撃ち抜いた。
ゼンガーからではない。明らかに方向が違うし、何より彼の様子を見れば分かる。

「何奴ッ!」

周囲全体に響き渡るような、ゼンガーの怒声。
強烈な覇気と共に放たれた誰何の絶叫は、森の木々を震わすかのようだ。
銃撃音の反響が、水を打ったのように静まり返った。
静寂。
そしてそれを引き裂く足音。

「もうしばらく隠れていたかったが…」

現れたのは、漆黒のコートを身に纏った大男。
ゼンガーと同じ銀色の髪をロングにし、瞳は暗闇の中でなお妖しく光るように錯覚させる。
顔は至って端正。相当な美形だ。両手に握られた得物は、ガンズモードのクロスミラージュ。

「今のうちに食糧を調達しておきたくてな」

にやりと余裕たっぷりに微笑みながら、青年は言い放つ。
遂にこの男が――セフィロスが動いたのだ。

「…お前はこれを持って逃げろ」

セフィロスの姿を睨み付けながら、ゼンガーはDボゥイへと自身の銃を渡す。

「その代わり、その刀をよこしてくれ」
「っ…そんな無茶な…!」

撃たれた右肩を抑えながら、Dボゥイが口を開く。
どう考えても、彼の持っている銃剣の方がこんな逆刃の刀よりも強力なはずだ。
魔力の弾丸を放つピストル相手に、扱いづらい鉄の棒で戦うのは不利。

「そちらの方が慣れている」

しかし、ゼンガーはそれを一蹴した。
有無を言わさぬ強い口調は、Dボゥイの反論を許さない。
そして、恐らく殺人鬼と化したであろう男を前に、これ以上の口論は危険だ。
ついでに言えば、傷を負ったDボゥイは、今や足手まといでしかない。

「分かった…どうか、無事でいてくれ!」

せめてペガスがいれば。あの赤と白の魔人――テッカマンブレードになることさえできれば。
そんな苦々しい思いを抱えながら、Dボゥイは互いの武器を交換すると、全速力でその場を駆け出す。
ゼンガーはそれを見届けると、手にした逆刃刀をセフィロスに向けて構えた。
誇り高き武人の瞳に、鋭くも熱い眼光が宿る。

「いい度胸だ」

木の葉が舞った。
瞬時にダガーモードへと左の銃を切り替えたセフィロスが、疾風のごとき踏み込みでゼンガーへと迫る。
素早く、そして強烈な一撃。
鈍い灰色の輝きをたたえたダガーが、ゼンガーの逆刃刀へと振り下ろされた。

「ぬぅぅぅぅっ!」

凄まじい剣圧。
ゼンガーの両足が大地を踏みしめ、渾身の力と共に受け止める。

(ええい…鬼か魔物かこの力!)

慢心があったわけではない。
ただ冷静に、客観的に、彼は己の力量を評していた。
しかし、まさかただの斬撃で、自分を追い込むような腕力を持った人間がいるとは思いもよらなかった。
ゼンガーの角張った頬を冷や汗が伝う。
そして、それだけには留まらない。
ガンズモードを保っていた右側に魔力が収束される。複数の魔法陣が、さながら照準のように浮かび上がった。

「ファントムブレイザー」

冷たい声が発せられた。
同時に撃ち込まれる、魔力の奔流。

「うぉぉぉっ!?」

ゼンガーの身体が宙を舞った。

(この威力…ディバインバスターにも並ぶかっ!?)

思い出されるのは、あの白いバリアジャケットの幼女。
その思考と共に、彼の身体は地に叩きつけられる。
猛烈な砲火に、ゼンガーは完全に虚を突かれた。
セフィロスが一度に注ぎ込めるだけの魔力を乗せたファントムブレイザー。
確かにそれは、ゼンガーが何かの折に資料で見た、10年前のなのはの砲撃に匹敵する破壊力。
しかし能力制限がなければ、10年後の彼女のエクセリオンバスターにさえ近付くだろう。
そして、新人のティアナが扱うことを前提にしたデバイスは、その威力には耐えられない。
能力制限がクロスミラージュを救っていた。

(せめて、斬艦刀さえあれば…!)

立ち上がるゼンガーの瞳が、苦々しげにセフィロスを睨む。
対するセフィロスは、彼を嘲笑うかのようにその様を見下ろしていた。
こいつは相当な手練れだ。条件が同じでなければ、不利な方が負ける。
すなわち、自分が殺される。

(…否)

そうではない。
いつから自分はそんな腑抜けた考えをするようになった?
武人は自問する。
自分を守る魔法の力がなければ戦えないのか?
斬艦刀がなければ何もできない腰抜けなのか?

――否。

断じて否!

「…非殺傷設定を使ったな」

射抜くような眼光が、ゼンガーの瞳から放たれる。
その先に立つのは、あの双銃を携えし男。
セフィロスのファントムブレイザーは殺傷設定ではなかった。
もろに食らったゼンガーに未だ外傷がないのが、その証拠。
殺す気がないとは思えない。
すなわち、遊んでいる。この一撃で決まっては面白くない、と。

「間抜けだな…そこまで言える余裕があるからには、この余裕につけこんでみればよかったものを」
「笑止!」

一喝する。
大地を揺るがすかのような、強く、気高き声で。
古の兵(つわもの)を統べる武将のごとき絶叫が響き渡った。

「本力でかからずして何のための戦いか! その程度の覚悟で、他者の命を奪おうなどと笑止千万!」

嘲笑するセフィロスに向け、ゼンガーは雄叫びを上げる。

「どっちなんだ」

やれやれと言った様子でセフィロスが言った。
殺し合いがしたいのかしたくないのか、と。
要するにゼンガーは、殺したいなら本気でやれと言っているのだ。対主催者側の立場を名乗ったというのに。

「貴様が殺す側に回るのは勝手だ。…しかし! その道を行くのならば、俺は貴様を連中同様の『悪』と見なす!」

ゼンガーは構えた。
一分の隙もなく、全身の随所に神経を走らせ、その闘志を研ぎ澄ませて。
逆刃刀の斬れぬ刀身ですら、彼にかかれば剣呑な刃と化す。

「悪? この狂った地で善悪などと…」
「黙れ!」

セフィロスの言葉を、強い語気をもって遮る。
最早問答は無用。たとえ相手が自分より強かろうと、自分は自分がそうと信じる悪と戦うだけのこと。

「そして聞けッ!」

悪にかける情けなどない。
勝てぬ戦であろうとも、悪に退く脚など持たぬ。

「我はゼンガー=ゾンボルト…」

故に、叫ぶ。

「――悪を断つ剣なり!!!」


【一日目 AM1:41】
【H-1 森林】

【ゼンガー=ゾンボルト@スーパーリリカル大戦(!?)外伝 魔装機神】
[参戦時間軸]17話終了後。ラミア達が「向こう側」のヴォルケンリッターの元へ向かった頃
[状態]健康
[装備]逆刃刀@魔法少女リリカルなのはStrikerS―時空剣客浪漫譚―
[道具]支給品一式・ランダム支給品0~2個
[思考・状況]
基本 全ての悪を斬り伏せる
1.無為に他者の命を奪うのを、言葉で咎めはせん。ただ倒すだけのこと!

【セフィロス@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
[状態]健康
[装備]クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]支給品一式、「治療の神 ディアン・ケト」
[思考・状況]
基本 事態を静観し、潰し合うのを待つ
1.ひとまず今だけは食料を奪うためにこいつを殺す
2.随分喚く奴だ。拠点を移さねばならんな
3.向かってくるのならば、六課の連中だろうと容赦なく殺す

【Dボゥイ@宇宙の騎士リリカルBLADE】
[参戦時間軸]8話。アースラがボルテッカを食らった時
[状態]右肩を撃ち抜かれている。止血はまだされていない
[装備]冥銃剣・逢魔ヶ刻@リリカルスクライド//G.U.
[道具]支給品一式・ランダム支給品0~2個
[思考・状況]
基本 この馬鹿げたゲームを止める
1.あの人…頼む、無事でいてくれよ…!
2.そういえば、身体の調子が…?
[備考]
※テックシステムに蝕まれた肉体は回復しています

025 本編投下順 027

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最終更新:2008年02月20日 22:09