仮面ライダーリリカル電王sts外伝第二話
「貪欲なる捕食者」

ここは次元犯罪者ジェイル・スカリエッティのアジトの一廓。クアットロは目の前にある四人分の食事を一人で食べていた。ガツガツ、クチャ、クチャ、ガブ、ゴクン!という音を立てながら。

「チッ、足りねえなぁ」

瞬く間に皿の数は減っていく。全てを喰らい尽くすその様子はさながら、野獣の様であった。

『牙王様ぁ、どうですぅ?』
「足りねえなぁ、こんなんじゃあ」
『そうですかぁ』

一見、独り言のようだが確かに二人は話していた。時さえも喰らおうした男と一人の男の夢のカケラは。
順調に食べ続け、四人分の量を食べ終わった直後、クアットロは突如動きを止めた。

「チッ、時間切れか」

そう言うとクアットロの周りの野獣の様な雰囲気は突如消えた。

「今の牙王様が表に出られる時間はせいぜい五分、まだまだ全開というわけじゃありませんねぇ」
『フンッ、その程度なんてことねぇ。それより、ガオウライナーはどうした』
「完成度は82%ってところですわぁ」
『チッ、早く完成させろ』
「分かりましたぁ。ドクターにそう伝えておきますねぇ」

さて、こんな風に話をする二人の出会いについて、語ることとしよう。


二人の出会いはほんの数年前のことである。
その日クアットロは、自室にいた。何をするわけでもなく只、そこに居た。自分の見たものを、その気持ちを再確認をするために。
その日の朝、クアットロが自室から出て、ラボの中を歩いていると足元に四角い金色の物体を見つけた。
(何なのかしら)
そうクアットロは思った。あの光を見るまでは。
それは、突然現れた。禍々しい黒き光。その光は呟くように言葉を発していた。
足りねえ、足りねえ。
と。
その言葉はまるで呪祖の様に、繰り返し、繰り返し続けられていたのだから。

「喰らい足りねえ!」
クアットロはその様子をまるで引き込まれるように魅せられていた。
己を生み出した男。ジェイル・スカリエッティの様な狂わんばかりの喰らうことへの執着心。それでいて、ドクターとは違う野獣の様な猛々しきオーラ。
そしてその場を支配する圧倒的な存在感。
クアットロは動けなかった。いや、むしろ動こうとしなかった。ずっと見ていたかった。

「女、俺のマスターパスを返しやがれ」
「こ、これですの?どうぞ」

いつもの彼女なら皮肉を一つは言っただろう。しかし、彼女はこの光の前では何故か素直だった。
「それでいいんだ」

そう言うと光は消えた。クアットロはその部屋に戻り今に至る。
部屋に戻ったクアットロが考えるのはあの光のことばかり。そして、あの光のことを考えると胸が締め付けられる様に痛むのである。
(何なのよぉ、これはぁ)
そう考えながら眠りについたクアットロ。
彼女が感じたこの気持ちは、誰もが一度は経験したもの。そう、世間で言う、〈初恋〉と言うものなのだから…。

目を覚ますと彼女の前にはあの黒き光が鎮座していた。

「お前が俺を呼んだってことか」

黒き光はそう言った。

「呼んだぁ、私がですかぁ」
「確かに呼んだんだ。だから、奪う。お前の身体を、な」

そう言うと光はクアットロの身体へと吸い込まれた。そして、目を一瞬閉じ、再び開いた目は、黒き光に包まれていた。

「これで、また喰らいつくす。全てを時も、だ!」

確かに身体を奪うことは出来た。しかし、それはほんの一瞬。次の瞬間、クアットロは苦しみ倒れた。

「どうしたんですのぉ?」
『チッ、俺の力が弱ってるのか…』
「でしたら私の身体の中で休むと良いですわぁ。これからは私があなたと共にいますからぁ」
『お前は俺に尽くすってわけか。』
「えぇ、そうですわぁ」
『俺は牙王。俺は全てを喰らい尽くす』
「私は、ナンバーズNo4、クアットロですわぁ」

こうして、二人の男女は出会った。
男の名は牙王。時さえも喰らおうとした男。
女の名はクアットロ。無限の欲望に生み出されし女。
この二人の出会いが後の世界の終末と呼ばれたJ'S事件、最大最悪の悲劇『黒き空』を引き起こすことを一体誰が予想出来たであろうか…。

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最終更新:2008年02月22日 19:11