「そう、良かった。今どこ?」
デュークがグレンダイザーを受け取ったのと同じ頃。
ハラオウン家にいるエイミィは、なのはの受けたダメージが完全回復したという知らせを受けていた。
その顔には嬉しそうな笑みを浮かべ、ユーノからの通信を受け取っている。
「二番目の中継ポートです。あと10分くらいでそちらに戻れますから」
「そう、じゃあ戻ったら、レイジングハートとバルディッシュについての説明を……あっ!?」
ユーノからの答えに対し、エイミィも上機嫌。
そのまま帰ったらデバイスの新機能について説明すると言おうとしたが……中断された。
大音量のアラートが響き、モニターには「CAUTION」の文字。どう考えても緊急事態である。
急ぎ端末を操作し、そのエマージェンシーの発生源を捜索。
そして、すぐに発見。海鳴市の上空に、ヴィータとザフィーラの姿があった。
「ああっ、こりゃまずい! 至近距離にて、緊急事態!」
エイミィの報告の直後、リビングにいたリンディは局員からの報告を受けていた。
『都市部上空にて、捜索指定の対象二名を捕捉しました! 現在、強装結界内部で対峙中です!』
報告によると、どうやら堅い結界を張り、それによって閉じ込めている最中らしい。さて、どう動くか……
相手は闇の書の守護騎士。おそらく相当の腕利きでなければ対抗はできまい。
ほんの一瞬だけ考え、そして今動かせる「腕利き」がいる事に思い至った。
そこから素早く次の指示を出す。
「相手は強敵よ! 交戦は避けて、外部から結界の強化と維持を! 現場には、執務官と甲児さんを向かわせます!」
そう言うと、同じように後ろで聞いていた甲児へと目を向ける。なるほど、リンディの選択は確かに適切だ。
まずはクロノ。今回のメンバーの中でも最大戦力の一角である彼ならば対処も可能だろう。
そして甲児。元の世界での戦闘経験と、マジンカイザーの性能があれば、守護騎士にも引けをとらずに戦えるはず。
……だが、今甲児の手元にはカイザーは無い。異世界の物品がデバイスに変化するという事例は珍しいらしく、現在はそのサンプルとして本局で解析の真っ最中である。
ならば必然的にクロノが先行し、甲児がマジンカイザーを受け取ってから向かうという形になる。そう考えながら、甲児へと言った。
「甲児さん、聞いての通りよ。マジンカイザーは今、本局でマリーが解析しているわ」
「マリー……ってぇと、あの人か」
そう言われ、甲児の頭に浮かぶのは本局メンテナンススタッフのマリーの顔。彼女とはマジンカイザーを渡す時に面識がある。
その後すぐにリンディの言わんとしている事を理解し、確認のためにそれを聞き返す。
「それじゃあ、本局でカイザーを受け取ってから、あの守護騎士の所に行けばいいんだよな?」
「ええ。急いで!」
第五話『新たなる力、起動!』
数分後、海鳴市上空ではヴィータとザフィーラが局員に囲まれていた。
その数、およそ十。数では局員の側が遥かに有利だ。
小さく舌打ちし、ザフィーラがぼやく。
「管理局か……!」
「でも、チャラいよこいつら。返り討ちだ!」
そのぼやきに対し、ヴィータが返答する。
数は多いが、それでも一人一人は大した相手ではない。というより、むしろ多くの魔力を得る好機。
そう考えたヴィータは、まとめて倒すべくグラーフアイゼンを構える。
だが、戦端は開かれなかった。局員たちがすぐにその場を離脱したのだ。
「え……?」
「上だ!」
その意味が分からず、呆けた声を出してしまうヴィータ。捕らえに来たのなら、何故離れる?
その答えは、ザフィーラによってすぐに明かされた。上に何かがいるという事実に。
上を見ると、遥か上空にクロノがいた。愛用のデバイス『S2U』を振り上げ、周囲には無数の剣を出して。
「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!」
その咆哮とともに、S2Uを振り下ろす。
動作に連動し、周囲に浮かぶ無数の剣を流星のように降らせて。
無数の剣で滅多刺しにする魔法。処刑(エクスキューション)とはよく言ったものだ。
ザフィーラがすぐに防御魔法を展開し、受け止める。攻撃範囲が広いので、展開するサイズは必然的に大きくなる。
そして着弾と同時に一斉に起爆。その煙がクロノの視界から二人を隠した。
「ハァ、ハァ……少しは通ったか?」
それを上空から見ているクロノ。あれだけやったのだから、疲労だって当然ある。
だが、それだけの効果はあったはずだ。その疲労に見合うだけの威力は確かにあるのだから。
煙が晴れた所には、無傷のヴィータと剣が三本ほど刺さったザフィーラ。
しかし、その刺さった剣もどうやら浅いらしく、大したダメージは無いようだ。
「ザフィーラ!」
「案ずるな。この程度でどうにかなる程……ヤワではない!」
そう言うとザフィーラは腕に力を込め、刺さった剣を落とす。
対するヴィータも、ニヤリと笑って答えた。
「……上等!」
そう言うと、ヴィータは敵意を全開にしてクロノを睨み付けた。
その頃、時空管理局本局。
転移を終えた甲児が、本局の廊下を全力疾走している。
時たま「廊下で走るな!」という怒号が聞こえたが、今はそれを聞き入れている場合ではない。
だが、ある程度走った所でふと気付く。彼はどこにマジンカイザーがあるか知らないのだ。
解析しているという事は技術部だろうが、その場所が分からない。全くのタイムロスである。
戻って見取り図を探そうと、反転。すると、そこにマリーがいた。よく見ると、息が上がっている。
「甲児さん、マジンカイザーの解析終わりました! いつでも使えます!」
そう言って、マリーがスタンバイモードのマジンカイザーを渡す。どうやら届けに来てくれたらしい。
わざわざ届けにきた事といい、おそらく事情は聞いているのだろう。
これは甲児にとっては嬉しい誤算。わざわざ見取り図を探す手間が省けた。
「サンキュー、マリーさん!」
甲児は笑顔で礼を言い、マジンカイザーを受け取って転送ポートへと駆け出す。
その後姿を見送るマリー。だが、今の彼女には疑問……というか、気がかりな事があった。
「でも、いくら別の次元世界のロボットが変化したからって、あんな高性能すぎるデバイスになるものなの……?」
それは、マジンカイザーの異質さである。
そもそも、全身に纏うデバイス自体が珍しく、その上にかなりの高性能。
おそらくストレージデバイスとしては、現在開発中の『デュランダル』にも匹敵するだろう。
まあ、この高性能はベースとなったマジンカイザーが凄まじい性能を誇っていたと考えれば納得がいくが。
……それだけならまだしも、マジンカイザーには二つのブラックボックスが存在している。
一つは例の暴走スイッチだとしても、もう一つは一体何なのだろうか……
『武装局員、配置終了! オッケー、クロノ君!』
「了解!」
エイミィの通信を受け、了解の意を返すクロノ。その顔には、ヴィータが今浮かべているもの……敵意が浮かんでいた。
だが、相手は今の所二人。それに対し、こちらはクロノ一人。状況は不利だ。
『それから今、現場に助っ人を転送したよ!』
その台詞に、クロノの顔から敵意の色が薄れる。
来たのは一体何者か。そう思って周りを見ると、なのはとフェイトの姿があった。その近くにはユーノとアルフの姿も。
そしてなのはとフェイトは、甦った自身のデバイスを掲げ、叫んだ。
「レイジングハート!」
「バルディッシュ!」
『セェーット、アーップ!』
声に反応し、レイジングハートとバルディッシュが光を放つ。ここまでは前と同じ。
だが、ここから先は前のものとは違う。光の帯がなのはとフェイトの周りを螺旋状に走り、それに呼応するかのようにレイジングハートとバルディッシュが喋り出す。
「え? こ、これって……」
「今までと……違う?」
その差異は、少なからずなのはとフェイトを驚かせる。
これは一体何事だろうかと思っていると、エイミィからの通信が入った。
『二人とも、落ち着いて聞いてね。レイジングハートもバルディッシュも、新しいシステムを積んでるの』
「新しい……システム?」
『その子たちが望んだの。自分の意思で、自分の思いで!』
そう、レイジングハートもバルディッシュも、先日の戦いで主を守りきれなかったことを悔やんでいた。
その悔しさは、本来インテリジェントデバイスに組み込むようなものではないシステムを組み込むよう、管理局へと要請する程。
そして、その結果は……今のように、新たなる力を得たという事である。
『呼んであげて……その子たちの、新しい名前を!』
その強化の結果、デバイスの名も変化している。まるで力を得たという証のように。
その名は……
「レイジングハート・エクセリオン!」
「バルディッシュ・アサルト!」
『Drive ignition.』
一方、結界の外。
騎士甲冑を纏ったシグナムが、空から結界を見据えている。
その手に握る剣はレヴァンティン。そのデバイスとともに、今の状況を察した。
「強装型の捕獲結界……ヴィータ達は閉じ込められたか」
『行動の選択を』
シグナムはレヴァンティンにそう言われるが、最初から取る手段は決まっている。
彼女の中には、ここで引くなどという選択肢は無い。そうなれば、必然的にこの選択となるだろう。
「レヴァンティン、お前の主は、ここで引くような騎士だったか?」
『否』
「そうだレヴァンティン。私は、今までもずっとそうしてきた」
そう言いながら、レヴァンティンを構える。
レヴァンティンからはカートリッジが排出され、それがシグナムの魔力と合わさって炎と化す。
シグナムの選択、それは結界をぶち抜いて突入するというものだった。
「紫電一閃!」
咆哮とともに、結界へと突撃。そのまま渾身の力で炎を纏った斬撃『紫電一閃』を見舞う。
だが、堅い。全力での紫電一閃を叩き込んでも破れない。
やむを得ず一度離れ、もう一撃叩き込もうとするが……それは突然の声に中断させられた。
「シグナムさん!」
彼女にとってあまりにも聞き覚えのある声。
何故今その声がするのかと疑問に思い、声の方へと振り向く。
すると、そこには一体の人型の何かがいた。
これは一体何者だという念がすぐに浮かぶが、先程の声とあいまってすぐに正体を察した。
「その声……まさか、デュークか?」
視点は再び結界の中へと移る。
なのはとフェイトがセットアップを終え、ビルの屋上へと着地する。進化したデバイスには、カートリッジシステムが搭載されていた。
彼女ら曰く、戦いに来たのではなく、闇の書を完成させようとする理由を聞きたいだけらしい。
それに相対するヴィータは、腕を組んだままこう返した。
「あのさ……ベルカの諺にこんなのがあんだよ。『和平の使者なら槍は持たない』」
急に言われたベルカの諺に、意味が分からず困惑するなのは。
フェイトの方を向いて「意味、分かる?」と目で聞くが、どうやらフェイトにも分からなかったらしく、首を横に振る。
そしてヴィータが武器を向け、その真意を告げた。
「話し合いをしようってのに武器を持ってやって来る奴がいるかバカって意味だよ。バーカ」
「いきなり有無を言わさずに襲いかかって来た子がそれを言う!?」
両者ともごもっとも。
「それにそれは諺ではなく、小話の落ちだ」
「うっせぇ! いいんだよ細かい事は」
敵味方双方からのつっこみを受け、逆ギレするヴィータ。間違いを指摘されて逆ギレとは、どうやら気が短いようだ。
というか、諺と小話の落ちとの違いは細かいことではないと思うが……
と、その時である。
ズッガァァァァン!
轟音。それとともに、上空から二筋の光が降ってくる。
光は同じような轟音を立てて近くのビルに着地。それとともに巻き上げられた埃がその光の正体を隠す。
そして埃が晴れた時、そこにはシグナムともう一人の姿があった。
本人とシグナム以外は、そのもう一人……デュークの存在を疑問視する。こいつは一体何者だろうかと。
そしてその直後、なのは達の近くのビルに転移魔法陣が現れる。そこから現れたのは甲児だ。
「遅かったな、甲児」
「悪ぃ悪ぃ、あっちでちょっと手間取っちまってな」
甲児とクロノがちょっとした軽口を叩く。
その「手間」とは無論、マジンカイザーを探して走り回ったあの時の事である。
と、甲児の目にデュークの姿が映った。いや、正確にはデュークの纏っているグレンダイザーが。
(ありゃあ……まさか、俺のカイザーと同じだってのか?)
最終更新:2008年02月23日 19:37