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第二話「とらと魔法と次元世界」

「とら……?」
理解が追い付かず、エリオはおうむ返しに呟く。
「おうよ」
「人間、じゃありませんよね……」
「そうとも、わしは妖(バケモノ)さ。妖怪っつった方が分かるか?」
「妖怪?使い魔ではなくて?」
「使い魔だぁ?あんな陰陽師共の使いぱしりと一緒にすんじゃねーや。わしは大妖だぜ」
「??」
エリオは陰陽師や大妖といった言葉の数々に頭を悩ましている。

「んなことよりもえりお」
「あ、はい。なんですか?」
「何か食いもんは持ってねぇか?わしゃあさっきからハラがへってしょうがねぇのよ」
片手を腹に当てて空腹を表すとら。

「食べ物ですか?非常用の固形食料ならありますけど」
ポケットから小さな包みを取り出し、封を開けて差し出すエリオ。
とらはそれを口に入れて咀嚼する。

「あんましうめぇモンじゃねぇな」
「あくまで非常用ですから。でもお腹が空いてるんでしたら、ベースキャンプに戻れば食べ物がありますよ」
「べえすきゃんぷ?そこに行きゃ食えるんだな?」
「はい」
「じゃあわしをとっととそのべえすきゃんぷに連れてきな」
「あ、ちょっと待って下さい。一応先に連絡を入れておかないと」
そう言ってエリオは通信画面を虚空に開く。
だが、それを見て仰天したのはとらである。

「おおっ!??何もねえトコに「てれぴん」みてえなもんが出たぞ!?」
元いた世界の文明にもあれこれ驚いていたとらの事だ。驚くのも無理はない。
目の前で起きた事象に、文字通り目を丸くしていた。
ちなみに、「てれぴん」とはとら特有の訛りで、テレビの事を指している。

「ああ。すいません、初めて魔法を見たんだから驚きますよね。通信が終わったら説明しますから、待ってて下さい。」
言いながらキャロへの通信回線を開くエリオ。

「キャロ、聞こえる?」
「あ、エリオ君。聞こえるよ。こっちは今丁度タントさんとミラさんに報告したところ。そっちの現場はどうだったの?」
「う、うん。えっとね……」
回線を開いてからエリオは悩んだ。
何と説明すれば良いのか分からなかったからだ。

『現場には妖怪がいたよ』
そんな事を言って向こうがすんなりと理解出来るとは思えない。
言い訳を考えてエリオが頭をフル回転させていると、
「おいえりお、わしにもそれ触らせてくれ」
エリオを押し退けてとらが横から割り込んできた。

「と、とらさん!」
「おおっ、こりゃあてれぴんとレンワキを合わせたようなもんなのか。でもそれにしちゃあキカイがどこにもねーな」
エリオにお構いなしで画面をいじくるとら。

「だめですって!離れて下さい!」
「いーじゃねーか。わしはおもしれえもんが好きなんだよ」
キャロそっちのけで騒ぐ二人。

「エエエリオ君!そそそその人だだ誰なの!?」
画面の向こうのキャロがパニクりながら言ってくる。
そりゃまあ体長がウンmもあって、人語を話す生物が突然出てくれば普通は驚くだろう。

「うん、詳しくは後で話すけど、この人はとらって言って、次元遭難者みたいなんだ。
事情聴取のために今からベースキャンプに連れて行くけど、お腹空いてるっていうから食事の準備して待っててくれない?」
「え、ええ。わかったわ」キャロはまだおっかなびっくりといった感じで頷いた。


「おい娘っ子」
不意にとらがキャロに話しかけた。

「ははははい!」
再度ビクッとなりながら返答するキャロ。

「おめえ、はんばっかは作れるか?」
「はんばっか?……何の事ですか?」
「二つの「ぱん」の間に焼いた肉がはさまっとるりょーりのコトよ」
「ひょっとしてハンバーガーの事ですか?近いものなら今ある材料で作れると思いますけど…」
「そんじゃあ20コくれえ作っといてくれや。わしが着くまでに出来てなかったら……」
とらはこの上ない程凶悪な笑みで言う。

「おめぇがわしのメシだ」
「ッ!!!!! いい急いで作りますうっ!!」
画面からキャロの姿が消え、同時に通信も切れた。

「とらさん……今の本気ですか……?」
訝しげな目付きで尋ねるエリオ。
「いやいや、じょおくだよ」
胡散臭そうな表情で返すとら。

「なら良いですけど……」
「半分本気だがな」
「絶っ対にダメですよ!!!」
鬼気迫る勢いで言うエリオ。
「わーったよ。(うしおにバレたらまた槍で刺されるしな)」

とんでもない拾い物をしてしまったと、エリオは心底うんざりしながら思うのだった。


「それじゃあ何か、ここはわしがいたトコとは違う世界だってのか」
ベースキャンプに戻る道の途中、エリオの頭の上に乗ったとらはそう聞いた。

「はい。譬えを用いて話すと、世界というのは一つだけではなくて、時空という大海の中にあるたくさんの島々みたいなものなんです。
そして各世界を管理・統治している組織が時空管理局で、その管理局の手が及んでいる世界が管理世界、そうでないのが管理外世界です」

「ほお~、んなもんがあったなんてなぁ。全然知らなかったぜ」

「普通は管理外世界の人々は他の世界の存在を知らないまま生活しています。
けど極まれに、何らかの原因で次元の壁を越えて別の世界に移動してしまう人がいるんです。
これが次元遭難者で、とらさんもこれに当たりますね」

「へぇぇ。そんじゃあさっきおめぇが使ったありゃ何だ?」
「さっきも少し言いましたけど、あれは魔法と言って、管理局が発祥したミッドチルダという世界で作られた技術です。
先程のは通信用のもので、他にも様々な方面に応用されています」
「まほーねェ……。法力とはちっと違うみてえだな」
「ホーリキ?」
「法力僧ってやつらが扱う術のコトよ。結界を張ったり、攻撃を逸らしたりできてな、なかなか厄介なモンなのよ」

ここで簡単に魔法と法力の違いを説明しておこう。
まず魔法はミッド式もベルカ式も、魔導士の持つ魔力収束器官〈リンカーコア〉により大気中の魔力素を吸収し、それを自らの魔力として身体や補助道具であるデバイスに通して使用するというものだ。
逆に法力は、人そのものが生来持っている一種の生体エネルギーを様々な修行により高め念とし、体内にて練り上げたそれを体外へと放つ術である。
また法力は、火水土木金、の陰陽五行の思想からきている為、その属性を敵対する妖に対して自在に変化させられる特徴を持つ。
水気の妖には土気、金気の妖には火気と、戦況を常に有利に運べるのだ。
しかし魔法のような汎用性はなく、法力による念話なども出来ない為、この点は魔法に分があると言える。

閑話休題
「ホーリキ、ですか。興味深いですけど、それはまた後程聞くとして、ベースキャンプが見えてきましたよ」
そう言ってエリオが指差す先には、まだ豆粒程の大きさだが、自然保護隊のベースキャンプが見えてきていた。
「お、あそこか?そんなら飛んでった方がはえーな。行くぞえりお」
「え、飛ぶ……ってうわっ!」
とらはエリオの体をひょいと持ち上げ、そのまま目にも止まらぬ速さで空を駆けた。
流石のエリオも、この事態には目を回した。

「とらさんて空飛べたんですか!?」
「あたぼうよ!わしにかかりゃあ山の二つ三つは一瞬さぁっ!」

ビュオオオオオッ!
「ひいやっほおお!!」
御馳走が待っている事もあり、ノリノリで飛行するとらだった。


「うん、前に食ったのとは味がちげぇが、なかなかいけらぁ」
ベースキャンプにやって来たとらは現在、ご機嫌でキャロ手作りのハンバーガーをぱくついていた。
ちなみに、とらがドアからではなく壁をすり抜けて入ってきたことで、室内がパニックになった事は言うまでもない。

「ああありがとうごごございます……」
震えて涙目になりながら答えるキャロ。
「キュウ~…」
胸に抱えたフリードもとらに威嚇を続けている。

「ぷぅ、うまかった。ハラァいっぱいだぜ」
20コ以上あったハンバーガーを残らず胃に収めたとらが口回りを舌で舐める。

「おい娘」
「ひゃいっ!!」
本日幾度目かの驚きと共に答えるキャロ。

「なかなかうまかったぜ。礼にわしが何かしてやろうか」
とら、意外と義理堅い性格である。

「い、いえそんな!」
「とらさん、あまりキャロを怯えさせないで下さい……」
げんなりとした口調で言うエリオ。

「んなに怯えんでも食いやしねぇよ。今はもうまんぷくだしな。
さーて、腹ごなしにちょっくらその辺を飛んでくるか」
首をゴキゴキと鳴らして立ち上がるとら。

「ってとらさん、まだ事情聴取が……」
「めんどいからそりゃ明日だ。心配すんな、ここには戻ってくっから」
手をひらひらさせてあしらい、そのままとらは壁抜けして出ていった。

「あーもう……」
とらの余りの奔放ぶりに頭を抱えるエリオ。
彼は今日が厄日だと信じて疑わなかった。


既に日が暮れ、星の出ている空をとらは一人飛んでいた。

(まほーの進んだ異世界か…。おもしろそうなトコじゃねえか。
あのえりおとかいうガキ、なかなか強そうだし、うしおみてえな目だったな。
くくく……うしおよ、おめぇは何してるよ?わしは今楽しくてしょうがねぇぜ!)

「はーはっはっはっは!!」
金色の大妖が高笑いするのを、満月と星々だけが見下ろしていた。

続く

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最終更新:2008年03月02日 15:56