魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER

第十六話「危機」

なのは達は広場を歩く。
綺麗な木々、心地よい木漏れ日と風。
けど自分達はその場所で狩りをしている。なのはの手には相棒「レイジングハート」。
背中に背負っているのはジェイから受け取った。「鬼神斬破刀」。

「死なないで…。」

涙をこらえて歩いた。
私達が去った今、彼はおそらく生と死の境をさまよっているはずだ。
できることなら狩りなんてやめて今すぐ彼の元へ走りたい。駆けつけたい。
でも戻ったら彼はなんて言う?おそらくどうして戻ってきた、と自分をしかりつけるだろう。
だから早く終わらせてあの人の所へ向かおう。命が途切れてしまう前に。

「…あまりそう悩みこんでいると、戦闘に支障がでるぞ。」

ヴィータちゃんがそう言い聞かせてくる。
顔を見るとやっぱり悔しいみたい。表情が歪んでいる。
スバルとティアナだって同じだ。…そうだ、気持ちは皆一緒なんだよね。
だったら皆で、力を合わせて終わらせよう。そして早く命を繋ぐんだ。
ふと地響きが響く。その先にはティガレックスの姿があった。…さぁ、始めようか。


大きな咆哮。それはティガレックスもこちらを確認したということだ。
すぐさま突進。なのはが手で散らばって、と合図をするとスバル達は一斉に四方八方に逃げた。
横を通り過ぎたと思うと足でブレーキをし、またこちらに突進してきた。それも避ける。
それを数回繰り返すとやっと止まる。自然にティガレックスは囲まれる形に。

「一斉攻撃!!」

まずティアナとなのはが射撃、続いてヴィータとスバルが突進するという単調なもの。
しかしこの囲まれた状態だと避けるのも一筋縄には行かない。問題はティガレックスがどう動くか、だ。
ティガレックスは跳躍してティアナとなのはの攻撃を避ける。ここまでは予想範囲内。宙で無防備になっている巨体を狙うのが目的。
ここからの動き、なのは達の予想を超えた。
スバルがウィングロードを展開させてリボルバーナックルを唸らせる。

「うぉおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

突き出した拳を、ティガレックスは受け止めた。そして握り、後に突進してきたヴィータの方へと遠投。
二人とも巻き込まれ地面へと落ちた。

「うわぁぁぁっ!?」
「あぁぁぁぁぁ!!」

ティガレックスが着地する寸前にティアナとなのはが攻撃。しかしそれもダメージを与えることはなかった。
着地の寸前に腕を軸にして体を回転させて双方からの攻撃を綺麗に避けたのだ。
数回回転してから止まり、なのは達に軽く咆哮をあげた。
ふたたび砲撃を繰り出すが跳躍して避ける。しかしなのはは宙に舞うティガレックスの真下へと潜り込み

「ディバイィィィィィン…バスタァァァァァァッ!!」

太い桃色の閃光、ディバインバスターを放った。ティガレックスはそれを回避すること叶わず。
巨体は閃光の中へと飲み込まれていった。だがこれで終わったわけではない。それはなのは達も十分にわかっていることだし
何より相手の力量から見て、残念だがこれぐらいでティガレックスがやられるとは思わない。
後方に地響き。その方向に向くと身体の所々が赤くなり、鼻息を荒くさせたティガレックスの姿。もう一度、ヤツの逆鱗に触れた。
だが怯まず、二度目のディバインバスターを放つが今度はバインドボイスで生み出された衝撃波とぶつかり合い、消滅した。
ティガレックスはディバインバスターとバインドボイスのぶつかった衝撃てダメージを受けているみたいだが、
この状態になると魔法による攻撃はダメージは与えられるがそれほど期待はできない…と考えたほうがいいだろうか。
しかし、今の自分に魔法以外の攻撃なんて……否、ある。顔を横に向けて背を見るとそこには鬼神斬破刀。
…かけてみるしかない。鬼神斬破刀に手をかけ、ゆっくりと鞘から引き抜いて構えた。

「…まいったな。意外と重いんだね。これ。」

苦笑して自分の手に握られている太刀を見る。
今度はレイジングハートを見て

「悪いけど、鞘に入っててもらえるかな?」
「All right(了解しました。)」

レイジングハートをストン、と鞘に収めて鬼神斬破刀を両手で握る。
ヴィータが心配そうに見つめてくるがなのははニコリと微笑んでからティガレックスを睨むだけ。
…もう、やるしかないんだ。そう心の奥で誓うように。
まず地面を蹴って前進。後ろでスバルやティアナ、ヴィータが自分を呼ぶ声が聞こえるが、振り向かない。
自分は剣など扱ったことはない。だけど今は引き返せない。ジェイが剣を振っている姿を脳裏で思い出した。

「まず…!」

彼は敵の隙を狙う。ティガレックスは前脚を振り上げた。それでできた隙を狙えばいい。
鬼神斬破刀を横になぎ払い脇を切り裂く。その次に突き、肉を穿つ。
それだけではなく深く突き刺さった刃をゆっくりと横へ、横へ。腕が震えてるのは中々斬れない、という証拠だ。
ようやく動き出したティガレックスはその巨体を回転させる。吹き飛ばされるなのはだがすばやく体勢を立て直し、名を叫ぶ。

「スバル!」
「でぇぇぇぇぇやぁぁぁぁぁぁっ!!」

なのはのすぐ横を鋼の疾走者、スバルが通り過ぎる。ティガレックスの横を走り、スバルを追わんと視線もそちらの方へ向く。
スバルも、名を叫ぶ。

「ティアナ!」
「クロスファイア・・・・シュート!!」

ティアナの放った魔法弾が先ほどなのはが傷つけた箇所へ直撃、爆発を起こす。激痛に怯むティガレックス。
今度はティアナが、叫ぶ。

「ヴィータ副隊長!!」
「いけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

怒りの鉄槌、グラーフアイゼンがティガレックスの背中に振り下ろされる。よほどの衝撃に地面が砕け、巨体が完全に地に沈む。
そして最初に攻撃していった者の名を。

「なのは!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

鬼神斬破刀の刃を振り下ろした。刀身が深く傷へめり込んでいる。動かなくなる巨体を前になのはは少し離れて様子を見る。
数秒、数十秒、一分。やはり巨体は動かない。ここにきてやっとなのはは深呼吸して肩の力を抜いた。
そう、終わったのだ。と。今まで与えたダメージが重なって相手も疲労し、満身創痍だったのだろう。
やはり生命を絶ってしまった不快感はどうやっても拭えない。ちょっとでも紛らわせるために早く彼の元へ向かおう。
安堵感に満ち溢れている皆の顔を見回す。

「じゃあ、早くジェイさんのところに行かなきゃね!」

こうしては居られない。皆一歩踏み出した瞬間、足元が暗くなった。
後ろを振り向くともう動けないはずのあの巨体。妖しく、赤く光る目でなのは達を睨む。
驚くのもつかの間、ティガレックスがなのは達へと、飛びかかってきた。
ざわめいていた木々から鳥達が一斉に飛立つと、不気味なほどの静寂がその場を包んだ。

一方、先ほどの広場から離れた場所にて
「…これで完了ニャ。まったく、あの状態でいきなり調合するとは思わなかったニャ!!」
「すまないなぁ。相変わらずいにしえの秘薬はすごいよ。あんな酷い怪我が数分で治っちまった。」
青年、ジェイはストレッチをしていた。血まみれでひどい有様だった腹は完全に回復していた。
彼が使ったのは『いにしえの秘薬』。飲むと回復薬とは比べ物にならないような回復力を持つ薬だ。
これを飲むと怪我が完全に回復する上にスタミナまで完全に回復、しかも以前よりも増加しているという驚くべきもの。
それゆえに入手方法は難しく、調合でできるとしてもかなり成功率は低い。
幸い彼は調合を上手くできるようになる本、調合書を最後の一冊、達人編まで持っていたためかろうじて作れた…というわけである。

「はい、これが完成した『アレ』ニャ。」
「へぇー…。思っていたよりも綺麗にできてやがる。さ、防具防具。アカムト装備壊れちゃったからね。」

アイルーが差し出した二振りの剣を握り、軽く振るう。何度も頷いて吟味した後防具を要求。
しかしアイルーは非常にやりづらそうな表情をしている。

「どうした?早くくれよ。」
「それが…シャーリーさんに興味がある、調べさせて欲しいって言われたからジェイのマイセット1の装備をしばらく貸してて…
返してもらったらこうなってたニャ…。」

アイルーが箱から取り出した装備はかつての防具の姿とはあまりにもかけ離れ、機械的に改造されていた。
ジェイは無表情で口をあんぐりあけながら数秒見つめる。
その後頬を何度も叩いたりつねるなどのリアクションをして、もう一度その装備を見るが変わるわけがない。

「OK,これが俗に言うデバイスってやつ?」
「そ…そうみたいだニャ…。」

ちなみに、彼らはデバイスとはどういうものかイマイチわからない。

「帰ったら一発ぶん殴っとくか。でもま、今は感謝しようじゃないの。」

今はわがままを言っている余裕はない。さっさとその装備をつけて双剣を背中に背負う。
アイテムポーチの中に入っているアイテムを確認するとアイルーに別れを告げ、走り出した。
なんでも、彼の走りは以前のよりもかなり速度が上がっていた…とそのアイルーは言う。

「自分で決めたんだ…最後までやるさ…!!」

自分に向けたのか、それとも他の誰かに向けたのかわからない。
だがその言葉を口にした彼の目は、自信に満ち溢れていた。

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最終更新:2008年03月03日 21:07