第一話:英雄との出会いなの?

高町なのはは、11歳の小学5年生である。
見た目には平凡な小学生であるが、実のところ、彼女は魔法少女なのである。
複数の大きな事件にかかわり、小規模な事件にも同様に関与し、この若さ、というよりも幼さで優秀な魔道士と評価されており、
嘱託魔道士としては異例の扱いである。
「…………」
バリアジャケットに身を包み、カートリッジシステムを搭載した杖状のインテリジェントデバイス『レイジングハート』を左手に持ち、左右に視線を揺らしている。
それとともに、栗色の髪が揺れ、その後に熱を孕んだ風が彼女の髪をなびかせる。
目には困惑の色が色濃く、杖をぎゅっと握り締める。
『Master?』
不安げななのはにレイジングハートが問いかける。
それを聞いているのか居ないのか、なのはは独り言を呟く。
「……ここは、どこなんでしょうか……?」
眼前には一面の砂漠。朽ち果てたビル群が立ち並び、砂礫が埋め尽くす。
空を見上げれば、容赦の無い日光がなのはの露出した肌を焼く。
眼前には一面の砂漠。朽ち果てたビル群が立ち並び、砂礫が埋め尽くす。
空を見上げれば、容赦の無い日光がなのはの露出した肌を焼く。
なのはは少し試してみたが、参った事に、通信もまるで通じない。
食料と水は、恐らくは短時間ですむであろうことから一食分がザックに収められているだけ。
飛ぶことも考えたが、どこなのか分からない以上、迂闊に動くのは危険だと判断したのか、とことこと歩いて廃ビルの陰にちょこんと腰を下ろす。
近くには幹線道路が通っていたが、エンジン音すら聞こえない。余りにも静かで、なのはは気が滅入りそうだった。

―――10時間後

しかし、一食分ではもつはずもなく、彼女は空腹を抱えて眠りについた。
昼の灼熱地獄とは対照的に寒すぎ、どうにか非常時用の装備の中からブランケットを探し出し、それに包まって寝る事になる。
石がごつごつして痛い。そう思いながらも、なんとか目を閉じて眠ろうとする。月が顔を出し、日本では見ることも敵わない量の星がなのはを照らす。
レイジングハートはそれを見て、星の配置は第97管理外世界と酷似しており、恐らくは北米地域であろう、と告げた。それに対して、なのはは連絡する手段も持たない。
泣きたいのを堪えながら目を閉じた。いかに魔砲少女などと言われながらも、彼女はまだ11歳である。
ふいに、昼間は全く聞こえなかったエンジン音と、砂を蹴立てて進むタイヤの音がする。
それはだんだんと速度を落としながら、なのはの目の前で止った。
なのははブランケットから頭だけ出し、ヘッドライトの明るさに目を細める。
トレーラーの後ろ側には、シートで覆われた、巨大な『物』が横たわっている。
ちらと目の端に捉えられたのは曲線を多用した赤い装甲。
レイジングハートに聞いてみるが、傀儡兵に似た人型の『兵器』である。という事しかわからないと言う。
『軍人さん、ってこと?』
『I don’t know. Master』
なのはの問いに、レイジングハートはわからない、と返す。そうこうしているうちに、トレーラーの左側のドアが開く。中から浅黒い肌をして、布を重ねた衣類を纏った男が降りてきて、なのはに話しかける。
なのはの問いに、レイジングハートはわからない、と返す。そうこうしているうちに、トレーラーの左側のドアが開く。
中から浅黒い肌をして、布を重ねた衣類を纏った男が降りてきて、なのはに話しかけた。
「ここで何をしている」
短いが強圧的とも取れる威厳のある口調のその男は、右手を背中に回しながらそう聞く。
ぱちん、とフラップを外す音がなのはの耳にも届き、不審な行動を取ろうものなら射殺する。
という意思表示を受け取り、なのはは両手を挙げて、涙目になりそうな気分ながらも答えた。
「え、えっと……はぐれちゃって……」
嘘は言っていない、実際、管理局の部隊からははぐれたのだから。
だが、男の眉間のしわはより深くなり、不信の目を向けている。答えが不味かったらしい。
「う、うそじゃありません!私、本当に……」
「近くに人の住んでいるコロニーは無い。企業連中の基地もな」
コロニー?企業?頭の中で、意味はもちろん分かるが、この場合なにを指しているのか意味不明な単語を聞いて、なのははより混乱する。
男がため息をついて、右手を後ろから出したのをなのはは見る。
「立て」
そう短く言い、なのはに男は手を差し出した。その手をなのははじっと見る。
ごわごわとした手で、爪は一部割れている。他の爪も、形が崩れており、男の精悍さとは反対の印象。
そう、病人のような印象を抱かせる。
いぶかるような視線を再び感じ、なのはは足元の辺りにまとわりつくブランケットを払い、男の手を取って立ち上がる。
「あの、私。高町なのはっていいます」
「……」
なのはがそうな名乗ると、男は考え込むような様子を見せ、黙る。しばらくした後、なのはに向けて男はこう言った。
「……アマジーグだ。それでいい」
ベルベル人の自称であり、高貴な出自の人、自由人と言う意味のある言葉を、男は名乗った。
誰が知ろう。
この男こそがホワイトアフリカの英雄と讃えられ、マグリブ解放戦線に所属する『テロリスト』であり、
イクバール標準機ベースのイレギュラーネクスト『バルバロイ』を駆る、繋がる者。

―――リンクスであると。

アマジーグはハンドルを握りながら、助手席で寝息を立てているなのはの顔を見る。
なぜ襲撃される恐れがあるのに停車したのかも分からなかったが、なによりなのはの身なりが分からなかった。
綺麗過ぎるのだ。
銃に手をかけている間は、一瞬企業の人間かとも思ったが、この近辺には企業軍の基地すらない。
であればコロニーの人間か、とも考えた。
だが、よく洗濯され、整えられた服など、よほど富んでいるコロニーでもなければ子供に配給することなど不可能だ。
あまつさえ、彼女が着ている服は国家解体戦争以前のようなデザイン性も持っている。であれば、コロニー出身などではない。
テロリストかもと思ったが、余計に確立が低い。この子の目はチャイルドソルジャーのような暗さを感じさせない。
不思議に思ったアマジーグが、車両に這い上がったなのはにそう聞くと、首をかしげて違いますと言った。
挙句の果てにはアメリカ人なのに日本語が上手ですね、と来たのである。
「アメリカなどと言う国家はこの地上には存在していない、国家など、地球上のどこにももう無いからな」
鼻を鳴らしてそう答えると、今度はなのはと名乗った少女が今度は鳩が豆鉄砲を食らったような表情を見せる。
「ここは……地球、ですか?」
「当たり前だ、それがどうした」
当たり前の事を聞かれ、アマジーグは混乱する。宇宙人だとでもいうのか、この子供は。
 だが、実際には宇宙人よりシャレにならなかった。胸元の赤い宝石が燐光を発しながら喋り始めたのだ。
『Excuse me?』
「……通信機?」
『No. I’m called intelligent device. Is this year years at the Christian era how many?』
私はインテリジェントデバイスと呼ばれています、今年は西暦何年ですか?と来た。アマジーグは押さえた口調で年代を答える。
『I see. This world is the parallel world. Master』
「パラレルワールドだと?……馬鹿な」
「ええと……その……たぶん、そうだと思います。『国』が無くなったなんて話、聞いたこともないです」
高町なのはと名乗った少女は言葉を選びながらそう言う。
薬物でもやっているのか、分裂病にでもかかっているのかと疑うが、そういった雰囲気は無い。
若干でも狂気を感じられれば、アマジーグにとっては幸運であったろう。妄想だと切って捨てられたのだから。
視線には初めて会った人間に対する不信の成分が含まれているが、そのような気配は微塵も感じられなかった。
事実だ、と認めたくは無いが、嘘を言っているとは思えない。
その宝石は何だ、と聞いたが、上手くはぐらかされた。
気にはなるが、かといって追求をして逃げ出され、企業に情報を売られても困る。
 いずれ行う任務の事を、アマジーグはふと考える。
このアメリカの地を支配しているGAという企業の基地の襲撃が主任務であったが、このような子供を自分のようにコジマ粒子に晒したくは無い。
一瞬逡巡したが、暗号化通信機を立ち上げ、マグリブ本隊に連絡する。
「こちらアマジーグ。余計な荷物を拾った。一旦そちらに預けたい」
「こちらマグリブ第一大隊。了解アマジーグ。こちらとは距離が離れすぎているから、合流には一週間かかりそうだ。旧ピースシティエリア郊外で合流しよう」
「了解。交信おわり」
通信機を切る。だが、その通信がGAに傍受され、しかも暗号化が解読され、ある傭兵にピースシティ近郊で襲撃せよ。
という依頼が発されていたなどという事は、今の彼にはわからない。
そして、そのGAの動きに呼応して、対立を深めているGAのヨーロッパ法人が、アスピナに、バルバロイを支援せよ、などと言う依頼を発した事も。

アマジーグは車を止め、隣のなのはと同じようにシートを倒し、外で簡単に体を拭き、歯を塩で磨いて眠りについた。
さしものアマジーグも、限界に来ていたのである。

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最終更新:2008年03月05日 20:44