昨日、ミッドチルダの臨海地区にて火災が発生した。
近隣の陸上・航空全部隊に召集がかけられる、ミッドチルダ史上最大規模の空港火災。
事態の鎮圧は困難を極め、局員達も相当の苦闘を強いられていた。
しかし……突如として現れた一人の天才により、事態はひっくり返された。
その天才の名はL。
世界最高の頭脳と称されていた、異世界からの来訪者である。
~L change the world after story~
第二話「ミッドチルダ」
「ミッドチルダ……魔法……時空管理局……」
Lは今、ホテルの一室でノートパソコンを操作していた。
昨日の空港火災鎮圧後、Lはゲンヤの計らいで近くのホテルに宿泊していた。
本当ならばすぐにでも話をしたい所だったのだが、何分かなりの大事故である。
色々と事後処理にも時間がかかる為、一日だけ待って欲しいと言われたのだ。
勿論宿泊費はゲンヤが出しており、彼曰く「事件に協力してくれた礼」との事である。
Lにとってこの事態は、当然想定の範囲内であり、そしてその中では一番理想的な展開でもあった。
御蔭で、ゆっくりと情報を整理する事が出来る。
それに何より、ノートパソコンの貸し出しサービスを利用出来るのが大きかった。
異世界だからと思ってはいたが、自分の世界と同じサービスがあったのは行幸だった。
インターネットにさえ繋げられれば、幾らでも情報を得る事が可能である。
(デスノートや死神も、十分人知を超えた存在ではありましたが……
どうもこの世界は、それ以上の様ですね)
時空管理局、魔法、魔道士、デバイス。
ミッドチルダにおいては一般常識と言える知識も、Lからすれば何もかもが非常識であった。
異世界だからと覚悟はしていたが、それでもやはり驚かずにはいられない。
大きく溜息を付いた後、Lはクッキーを一枚口に運ぶ。
一通りの事は頭に叩き込んだが、それでも覚えるべき事はまだまだある。
ちなみに今、Lの目の前には御菓子が幾らか入った籠がある。
全て売店で購入したものであり、その費用もゲンヤが出してくれた。
(一切の常識が通用しないというのも、中々厄介なものですね。
……こういう時、月君ならどうするでしょうか)
―――さようなら、L……確かにお前は、新世界の神キラの相手に相応しかった
Lの脳裏にふと浮かんだのは、彼にとって最大の強敵であった一人の天才。
デスノートを武器に、新世界の神になろうとした男……キラこと、夜神月。
彼は決して許す事の出来ない殺人鬼だが、それでもその実力は本物だった。
自らの命を犠牲にするという選択を取らなければ、彼には勝てなかった。
それでも、大切なパートナーであるワタリを失うという失敗を犯してしまった上での、ギリギリの勝利だった。
唯一人、Lが完全な勝利を収めることが出来なかった最強の存在。
一体彼ならば、この状況下で何を思い、どう動こうとするだろうか。
そんな風に、ふと考えてしまったのだが……
(……いない人の事を考えても、意味が無いですね)
Lはすぐに、頭を切り替えた。
今ここにいない人物の事を考えても、何の意味もない。
重要且つ大切なのは、今の自分に何が出来るかである。
そしてそれが何であるかは、Lには勿論分かっている。
時空管理局の者達が来るまでの間、出来る限りの知識を得る事。
それが、今の自分が為すべき事である。
Lは作業を再開すべく、キーボードに手を伸ばす……すると、その時だった。
コンコン
「はい、どうぞ。
ドアなら開いてますよ」
ドアをノックしてきた何者かに対し、パソコンの画面を見つめたまま返答する。
このタイミングで自分を訪ねて来る者は、凡そ見当が付く。
時空管理局の局員が、事情を聞きにやってきたのだろう。
そして恐らくその局員は、自分と面識があり話を進めやすい人物である可能性が高い。
適任なのははやてとリインフォース、ゲンヤの三人。
ならば、この三人の中で最も可能性がありえる人物は……
「おはようございます。
やはりあなたでしたか、はやてさん」
「あらら……分かってはったんですね」
Lはドアの方へと振り返り、部屋へと入ってきたはやてへと視線を向けた。
はやてが来る事を、Lは完全に確信できていた。
まず、立場上かなり忙しいであろうゲンヤが、自分の元へと来る可能性は低い。
ならばはやてとリインフォースの二人がということになるが、リインフォースが来るというのは、Lには考え難かった。
もしも自分が時空管理局の局員ならば、はじめてミッドチルダに来た人物の元に彼女を寄越したりはしない。
初めて死神を見た自分達の様に、驚くなり興奮するなりして冷静さを失い、話にならない可能性があるからだ。
そうなれば、もはやはやてである事は明らかであり……そして、彼女に同行者がいるという事も想像の範囲内だった。
二人程、彼女と同年代であろう女性局員がその傍らに居るが……彼女等の顔に、Lは見覚えがあった。
「おはようございます、Lさん。
えっと、こちらの二人は私の友達の……」
「時空管理局のエースオブエース、高町なのはさん。
そんななのはさんと互角の実力を持つ凄腕執務官、フェイト=T=ハラオウンさん……ですよね?」
「え……?」
はやての側に居た二人―――高町なのはとフェイト=T=ハラオウンが、驚き声を失った。
いきなり初対面の人間、それも昨日異世界から来たばかりの者に名前を言われれば、当然な反応である。
そして、はやてもまた同様の反応に至っている。
二人に比べれば、度合いこそ低いようではあるが。
「え、えっと……Lさん?」
「はい、何ですか?」
「どうして、私となのはの名前を……?」
「さっき時空管理局に関して検索をかけた時に、お二人の名前と写真を確認できました。
雑誌の取材とかも時々あるみたいですし、結構有名人なんですね」
「あ……」
ここで二人は、机の上に置かれているノートパソコンの存在に気付いた。
どうやら、あれを使って自分達の事を知ったらしい。
確かに彼の言う通り、自分達は管理局内じゃ有名人の部類に入る。
ネットで検索をかければ、簡単なプロフィールぐらいは入手可能である。
三人とも納得し、苦笑してしまう。
尤も、Lが二人の事を知っていたのはそれだけではないのだが。
「まあ、昨日の一件でもお二人の事は見ていましたよ。
空港内に取り残されていた、ゲンヤさんの娘さん二人を見事に救出してましたよね。
ゲンヤさん、お二人に感謝してましたよ」
「あ、そういえばあの時の二人って……」
「まあ……不思議な縁もあるものですね」
Lは昨日の空港火災でも、なのはとフェイトの顔を見ていた。
空港内に取り残されていた、最後の要救助者―――スバル=ナカジマとギンガ=ナカジマを救出したのは、彼女達である。
ゲンヤはその時、自分の娘達が無事助かった事に対して大いに感謝していた。
それもあって、Lにはなのはとフェイトの事が印象深く残っていたのだ。
流石に、はやてが二人と友人関係にあるというのまでは分からなかったが。
不思議な縁もあるものだ……そう思いながら、Lはティーカップを三つ机の上に並べ、順に紅茶を注いでいく。
「さて……そろそろ、本題に入りましょうか」
「そうですね……それじゃあ、まずは簡単な自己紹介からしてもらえますか?
昨日はバタバタしてて、ロクに出来ませんでしたし……」
「ええ、分かりました」
まずは自分の事について話して欲しい。
Lはこれに対し、とりあえず話しても大丈夫そうなだけの事を話す事にした。
幾ら異世界といえど、そうそう自分の正体を明かすことは出来ない。
万が一、それこそキラの様な力を持つ者がいたとしたら、取り返しの付かない事になるからだ。
「私はLと言います。
ゲンヤさんにはお話しましたが、探偵をやっていました」
「探偵ですか……えっと、Lさんの名前って……」
「ええ、Lは私の通称です。
本名というわけではありません……申し訳ないですが、本名は明かせません。
キラの様な存在がいたら、厄介ですからね」
「……キラ?」
Lが零した『キラ』という聞きなれない単語に対し、三人とも疑問の色を顔に浮かべた。
その反応を見て、Lはやはりと感じる。
インターネットで検索をかけても引っかからなかったし、何よりLの名を知らない時点で確信は出来ていた。
だが、念には念を入れてあえて口にしてみたのだ。
結果は見ての通り……三人とも、キラの存在を知らない。
「……やはり、キラはこの世界にはいないようですね。
私の世界だけの存在であり、そしてこの世界にそれを知る者もいない。
ちょっとだけ安心しました」
「えっと、Lさん。
そのキラって言うのは……?」
「私の世界にいた、最強最悪の殺人犯の名前です」
その後、Lはキラに関する話をし始めた。
キラとは、世界中の凶悪な犯罪者を片っ端から殺害していき、世界から犯罪を無くそうと目論んだ神気取りの殺人鬼。
そして、自らの邪魔をする者もまた悪であると断定し、殺害していった悪魔である。
キラの武器は、名前を書き込んだ者の命を奪う死神のノート『デスノート』。
ただ命を奪うだけではなく、死の前の行動を操れ、死因も可能な範囲ならば自由に出来るという、最強最悪の殺人兵器である。
「……そんな……とんでもないものが、Lさんの世界にあったんですか……!?」
「……ええ。
信じられないかもしれませんが、事実です」
はやて達は、信じられないという風な表情のまま、言葉を失っていた。
Lが嘘を言っている様子は一切ないし、嘘をついても意味が無い状況なのは分かっている。
キラとデスノートの話は、紛れも無い事実なのだろうが……ならばデスノートは、どんな魔法やデバイスよりも危険な武器である。
名前を書き込めば、誰だって殺害できる……もしも管理世界内に存在していたとしたら、最大級のロストロギア扱いに違いない。
いや……これはロストロギアなんてレベルにとどまらない、もっと恐ろしい何かである。
「しかしキラは、誰でも殺害できるというわけではありません。
デスノートで人を殺すのに必要なのは、その者の顔と本名。
顔を見たことの無い人物の名前を書き込んでも効果は発揮できませんし、名前が分からない場合も同様です」
「それで、名前を隠していたんですか……」
「ええ、御蔭で死神の目を持つ第二のキラ達にはかなり梃子摺らされました」
「死神の目って……もしかして、顔を見たら名前が分かる目とかですか?」
「正解です、なのはさん」
デスノートには、その持ち主である死神が憑いている。
その死神と取引すれば、相手の顔を見ただけで名前を知ることが出来る『死神の目』を手にする事が出来る。
取引の代価は、己の寿命の半分。
Lにとって、この死神の目というのはかなり厄介な相手であった。
死神の目を持つ第二・第三のキラが現れてしまったが為に、多くの犠牲を出してしまった。
自分自身も、殺されかけたのだ。
「……相手の顔を見ただけで名前が分かる魔法とか、そういうのはありませんよね?」
「私達が知っている限りではですが、そんな魔法は一切ありません」
「そうですか、それを聞いて安心しました。
私はキラだけに関わらず、大勢の犯罪者から命を狙われる立場にありますからね。
ですので、極力人前に顔は出さないようにしてますし、名前も一切隠しているんです。
万が一そこから調べがつけられましたら、かなり危険ですからね。
どうしてもというなら、L=竜崎なり、リンド=L=テイラーなり、適当にそちらで偽名をつけといて……
いえ、リンド=L=テイラーの方はやっぱりやめといてください」
「どしてですか?」
「死刑囚の名前ですから」
Lは世界中の警察組織を動かせるという、とてつもなく大きな地位にいた。
犯罪者達からすれば、彼の存在は最大の邪魔者なのだ。
それ故に、命を狙おうとする者も少なくない……Lはそんな者達への対処として、名を隠しているのである。
三人とも、その理由には納得をする。
そもそも本名を知らなければいけないという決まりも無いし、上にはこのままLという名前で報告したので構わない。
「じゃあ次に、Lさんがどんな状況から、ミッドチルダに来たかを教えて欲しいんですが……
ゲンヤさんから聞きましたけど、Lさんは自分が時空漂流者やって、分かってたんですか?」
はやては次に、Lがミッドチルダへと飛ばされた時の詳しい状況について聞こうとする。
ここで気になったのが、Lは自分が次元漂流者であると分かっていた点だった。
彼ほどの推理力の持ち主ならば、気付いてもおかしくはない。
それでも、実際はどうなのかが気にはなったので、尋ねてみたのだ。
Lはチロルチョコレートを一つ口の中へと放り込んだ後、その問いに答える。
「はい、95%の確率でそうであると思っていました。
最初に目が覚めたらいきなり見知らぬ場所にいた時には、色々な可能性を考えましたが。
しかし、貴方達時空管理局という名前を聞いて、もしやこれは時空を越えたのではないかと」
「それで……でも、それにしてもえらい順応が早いですね。
普通やったら、それなりに驚くもんやのに……」
「確かにそれが普通の反応でしょう、しかし。
貴方方の言う次元世界、それに近い存在を私は一つだけですが知っています。
ですから異世界というものを、すんなりと信じられたのでしょう」
全ての発端となった死神達が住まう、死神界。
その存在を知っていたからこそ、Lは異世界という概念をあっさりと信じられた。
逆に言えば、死神界の事を知っていなければここまで冷静にはいられなかっただろう。
怪我の功名とでも言うべきか。
「それで、私がミッドチルダに来る直前の話なんですが……
私は先程言ったキラ事件を解決した後、ある大きな事件の捜査をしていました。
キラ事件ほどではないにしろ、色々と大変ではありましたが……何とかそれも片付ける事が出来ました。
その後、少し疲れたので眠りについてたわけなんですが……」
「目が覚めれば、何故かミッドチルダにいたと……」
「はい、そういう事です」
Lは、自身がミッドチルダを訪れる直前の出来事についてを三人に話した。
ただし、この話には一つ大きな隠し事があった。
それは、キラ事件解決の代償として己の命を犠牲にした事。
自らデスノートに名前と死亡時刻を書き込み、そして死亡時刻となった時……気がつけばミッドチルダにいたという事。
これを話さなかったのは、余計な混乱を避けるため。
何より自分に対して、嫌な印象を持ってもらいたくなかったからである。
「う~ん……だとしたら、Lさんがミッドチルダに来た原因ってのが検討つかへんな」
「死神の仕業っていう可能性はありますか?」
「いえ、それはまずないでしょう。
死神達にそんな事をするメリットがありません」
Lにとっても全く見当がつかないのは、自分が何故ミッドチルダに来たのかであった。
死神達ならばとも考えはしたが、彼等にはそうするメリットが無い。
リュークが月にノートを拾わせた時の様に、退屈しのぎとして行ったという一番ありえるだろう可能性も、限りなくゼロに近い。
もしもそうだとしたら、自分の側に死神が憑いていないのは不自然である。
最大の特等席である自分の側に、何故いないのかという話になってしまう。
まあ、これに関しては今は考えていても仕方ない……チロルチョコをもう一つ口の中に放り込んだ後、Lは話題を変えた。
「……ネットで調べた情報と、ここまでの話を聞いてる限り。
私のいた世界は、はやてさん達の出身地である97管理外世界『地球』とは別物らしいです。
恐らくは、似て非なるパラレルワールドといったところでしょうが……見つけられますか?」
「勿論、かならず見つけてみせますよ。
こういったケースは、確かに今までに例はないですけど……Lさんの事、このまま放っておけませんもん」
「ありがとうございます」
はやては、必ずLのいた世界を見つけてみせると告げた。
Lはそれを聞いて、少しだけだが安心する。
死の一日前、自分はもう少しだけあの世界で生きてみたいと思えるようになれた。
あの世界に対する未練自体は、一切無いが……正直言えば、戻りたいという気持ちはある。
「そうなると、後の問題は私の衣食住ですね。
ゲンヤさんに迷惑はかけられませんから、最低でも明日の朝にはこのホテルをチェックアウトしないといけませんし。
一応形式的には、私は保護扱いなんでしょうが……どういう風になりますか?」
「管理局が用意した、それ用の施設に入ってもらいますね。
ああ、施設いっても単なるアパートの様なものですから安心してください。
特に厳しい縛りとかはありませんし、補助金とかも出ますから」
「成る程……」
Lははやての話を聞き、少しばかり考える。
自分がこういう待遇になるであろう事は、十分予想出来ていた。
別に待遇自体に関しては、文句という文句は無い。
しかし……ただ援助を受けて生活をする立場というのは、どうにも好ましくなかった。
何から何まで世話になるというわけにはいかないし、何よりそんな生活には面白みが無い。
「しかし、ずっと保護を受けっぱなしというのも複雑な気分です。
自分でもそれなりに……そうですね、それこそ以前の様に探偵でもやれればいいのですが……」
「あの、その事なんですけど……Lさん、時空管理局に入るつもりってあります?」
「……それはつまり、私の昨日の活躍が評価されたということですか?」
「はい、皆Lさんの腕を褒めてましたよ。
Lさんなら、いきなり部隊を一つ任せても問題ないって発言した人もいるぐらいですし」
時空管理局からの勧誘。
やはり来たかと、Lは溜息をついた。
確かに今の状況下では、この申し出は渡りに船である。
管理局入りすれば、手に入る情報等は今の比ではなくなるだろうが……
「申し訳ありませんが、遠慮させていただきます」
「え……Lさん?」
「確かに、管理局からのスカウトというのは魅力的な申し出です、ですが。
一つの組織の一員になると、これまで私が行ってきた様にはいきません。
行動の制限がついて、自由に動く事は出来なくなります……それは私としては、あまり好ましくないんです。
それに、私はこの世界に来て間もありません。
時空管理局入りするにしても、せめて色々とミッドチルダについて知ってからにしたいです。
そうしないと、行動に支障をきたしかねませんから」
時空管理局に入る事で、行動が制限されてしまう。
ミッドチルダに関して学ぶ時間も勿論減るだろうし、マイペースに動く事は厳しくなる。
それがLにとっての、管理局入りの最大のデメリットであった。
三人とも、それを聞いて少しがっかりとする。
しかし……Lとて、管理局入りのメリットを見逃すのは惜しいと考えていた。
(管理局に入る事で得られるメリットも、確かに大きいものはある。
それを見逃すのは惜しい……ならば、今は保留するというのが一番か)
Lの判断。
それは、管理局入りは保留扱いにして欲しいというものであった。
元の世界に戻るまで、もしかしたら戻れない可能性もあるが、それまで一切管理局に頼らないというのは無理である。
ならばここは、自分が思い通りに動ける様な状況を作った後に管理局入りするのが最善である。
これまで同様、探偵として多くの事件を解決していく事で、実力の程を認めてもらう。
そうした上で管理局入りをする、もしくは管理局と協力体制を築けば、自分は自由に動く事が出来る。
時間はかかるだろうが、これが今の状況ではベストの案である。
「まあそれでも、このまま蹴るというのも惜しい話ですし……保留という事で構いませんか?」
「あ……はい。
それでも、勿論全然大丈夫ですよ!!」
「それを聞いて安心しました。
まあそれまでは、探偵事務所でも開いて気軽にやってみたいと思います。
それじゃあ、お話は以上ですね?」
「はい、ありがとうございます。
施設へは明日の朝に改めて案内いたしますから、荷物の整理とかをそれまでにしといてもらえますか?」
「何でしたら、今日にでも構いませんよ?
いつにでもここを出れるよう、準備は既に出来ていますから」
Lは既に、いつでもホテルをチェックアウト出来る様にしていた。
その気になれば、今すぐにだって全く問題はない。
この準備の良さには、流石にはやて達も苦笑せざるをえなかった。
それからしばらくの間は、四人は軽い雑談を交わし合っていた。
そして、五分ほどした後……Lは頃合と見て、三人へとある話を切り出した。
「実は私から、一つ皆さんにお願いがあるのですが……構いませんか?」
「何ですか?」
「もしよければ私を、無限書庫という場所に案内してもらえませんか?」
「え……無限書庫にですか?」
「はい、色々とミッドチルダに関して知っておきたくて。
インターネットも確かに便利ですが、信憑性がいまいちな情報が多いのが欠点です、ですので。
ちゃんとした書物を見ておきたいと思ったんですが……今日すぐにとかは、無理ですか?」
Lはインターネットで検索をかけているうちに、無限書庫についての存在を知った。
ありとあらゆる書物が揃えられている書庫というのは、Lにとってかなり魅力的な存在だった。
是非とも利用したいと思い、そこで三人に話を切り出したのだ。
この程度の頼み事ならば、断られる事は無いだろうとLは予想していた。
今日すぐに、というのは流石に無理があるかもしれないとは思ったが……しかし、なのはが笑顔でこれに答えてきた。
「だったら、私が案内しますよ。
今日は私、本局に用事がありますし」
「そうですか。
なのはさん、ありがとうございます」
Lはなのはに対し礼をするが……この直後、ある事に気付く。
フェイトとはやての表情が、何かおかしい。
ニヤニヤして、なのはの事を見ている……彼女が何か、変な発言をしたのだろうか。
Lはすぐに考えるが……ここでふと、先程見たあるホームページの内容が頭に浮かぶ。
「……そういえばなのはさん。
ユーノ=スクライア司書長さんと、かなり仲が良いって噂らしいですね」
「あ……はい。
ユーノ君とは幼馴染で、昔からのお友達なんです」
「あらら~、なのはちゃん。
そこは、友達以上とちゃうの?」
「ふぇっ!?
ちょ、ちょっとはやてちゃん!!」
「ふふっ……なのは、顔真赤だよ?」
「もう、フェイトちゃんまで~!!」
「……成る程、そういう事でしたか」
Lは三人のやり取りを見て、やはりかと思う。
どおりで先程、なのはが随分と笑顔だったわけだ。
Lはポリポリと頭をかきながら、紅茶をティーカップに注いでいく。
そしてそこへと、どこぞの天パー万屋と互角かそれ以上の量の角砂糖を放り込んでいくのだが……
「……」
「……どうかしましたか?」
「あ、いえ……たくさん砂糖入れるんだなって思って」
「糖分は、脳に一番重要な栄養源ですから」
そういって、Lはマシュマロを一つ口の中に放り込む。
三人とも、その光景に何故か既視感を覚えた。
知り合い―――フェイトにとっては身内―――に一人、彼と似た行動を取る人物がいる。
彼女―――リンディ=ハラオウンは、抹茶の中に大量の角砂糖をぶち込んで飲むのだが……
(……リンディさんも、Lさんと同じ理由なのかな……?)
(母さんの仕事もかなり頭を使うし、だからあんなに甘いものを……?)
(だとしたら、リンディさんも結構考えてやっとるんやろけど……)
絶対に違う。
彼女は単に甘いものが好きなだけだと、三人はLを眺めながらそう思った。
最終更新:2008年03月15日 22:52