「いったい……何なんだよ?……てぇ!リンカーコア!!!」
しばらく呆然と仮面男をみていたが本来の目的を思い出すと、砂竜に目を向ける。
ビクビクと痙攣ていたが回収には問題なさそうだった。
「よかった……間に合った」
ホゥっと安堵のため息をつくと倒れた砂竜に近づきリンカーコアを回収した。
「あ……」
そこで気が抜けたのかヴィータは意識を手放した。
「む、いかん。トォッ!!」
ジャンプし少女をキャッチする

「どうみても人間の女の子だな……」



―――魔法少女リリカルなのはA's―S.I.C―帰ってきたV3―――第2話「仮面ライダーだった男」



彼は混乱していた。
いつものように当てもなくこの世界を彷徨い、砂竜を狩る
いつか自分を倒せるほどの個体と出会うこと
ここ最近はこのあたりで発生した新種を探していた。
ルーチンワークとなりかけた自分が期待していたのがヴィータと戦っていた巨大砂竜だった。
通常の固体よりも強い識別呼称『白い悪魔』
暴れた後には高熱によりガラス化した砂が残っていたことから
なんらかのエネルギーを使用した攻撃をすると予想された。
打上げたV3ホッパーからの情報を解析し最大の熱量を探し出し、現場に急行したときにはすでに戦闘が始まっていた。
自分の標的と戦っている者、その相手は可愛らしい衣装を纏った少女だったことに驚きつつも、
とうにこの世界で滅亡してしまった人類の姿をこの異常な事態のなかで目撃した。
「生き残りの筈がない。あんな地獄で……生き残れるはずが……」
核の炎が全てを吹き飛ばしたとはいえ、初めの頃は僅かな生き残りもいた。
しかし、激変した地球環境は人類に優しくは無かった。

”タスケテ”

”ナンデ オマエダケ?”

”クルシイ クルシイ”

”シニタクナイ”

怨嗟の声を上げながら死にゆく人々をみることしかできなかった自分。
あの地獄ですらこの躯を機能不全に陥らせることができなかった。
生命維持装置、パワー調整装置、その他いくつかの装置は正常に稼動し、平時と変わらないコンディションを保つようにしていた。
あのときほど自分の躯を呪ったことはなかった。
かつてない程の無力感を感じた。
何度倒されても諦めず戦い続けた
いくらかましになったとはいえ、今でもこの星は人類が生活できるような生易しいものではない。
そう、彼のような改造人間でもない限り。
だが、Oシグナルの反応では機械的な部分は関知できない 。
「普通の少女だというのか?しかしあの力は……む?これは…」
腕の中で眠る少女へセンサーを稼動させるとやはり違和感を感じた。
さらに精査を行おうとしたその時…

「ヴィータ!!」

桃色の髪を結わえた剣士と、何故か犬の耳が生えた筋肉質の男が宙に浮かんでいた。

シグナムは混乱していた。
定時連絡がこないのはいつものこと(蒐集に夢中になって忘れている)だったが、こちらからの連絡には応えていた。
しかし、今回はこちらがいくら呼びかけても反応が無い、ただでさえ管理局だけでなく妙なやつらもうろついているということが
焦りに拍車をかけていた。そのために念のためザフィーラとともにヴィータがいった世界へ向かっのた。

そこでシグナムが見たものは夥しい砂竜の屍の山と黒煙、そしてその中心にいる仮面男だった。
人間型の生命体が存在しないはずの世界にいる人型の存在。
この世界に人類はいないはずだった。正確にははるか昔に滅亡している。
ならばこれはいったい?この砂竜の屍の山をやつが築いたのか?
実際はほとんどヴィータがやったのだが、この状況ではやつが殺戮者にしかみえなかった。
ふと、その腕に抱えられている小さな姿に気づき思わず叫んでしまった。

「今日は千客万来だな」
「貴様!ヴィータに何をした!?」
仮面男の飄々とした態度にいらつきを隠せず怒鳴った。
「慌てるな、気を失っているだけだ」
言いながらヴィータの体を横たえた
「貴様いったい何者だ?」
「それはこちらが聞きたいな招かれざる客だというのは分っているのだろう」
「……ヴォルケンリッター、烈火の将シグナム」
「盾の守護獣ザフィーラ」

「ヴォルケン、リッター……ドイツ語?」
かみ締めるように呟いた。
「そんなことより貴様は何者だ!」

ククク、と笑い声を上げる
シグナムは怪訝な顔で男を見た
「悪いな、”人”と会話をしたのは久しぶりでな、この世界でのただ一人の生き残りとしては、歓迎すべきかせざるべきか……俺の名はV3、か…いや、ただのV3だ」

「V3……?」

「なるほど、見た目どおりただの人間ではないか、存外、戦闘能力も高そうだ」
こちらを品定めをするような様子で見た。
「ちょうどいい、久しぶりに戦い甲斐ののありそうな相手だ……俺と戦え!」

「なにっ!?」
「くっ! ザフィーラ!ヴィータを頼む。私はこいつを抑える!」 

「トオオォッ!!」
雄叫びを上げ一直線に電光石火のパンチを打ち込む。
軌道を剣で逸らし、返す刀で切り込むが
「オオオオオオオッ!」
続けざまに打ち込まれる拳をレヴァンティンでいなす。
「V3ィ!」
エネルギーを左腕に集中させる。
「電熱チョップ!!」
赤熱化した左腕を振るいレヴァンティンのガードを弾いた。
「V3パァンチッ!」
がら空きになった胴体めがけて繰り出された拳を辛うじて左腕で防御する。
が、
「ああああああああ!!」
ガードした右腕ごとシグナムは弾き飛ばされる。
「ヤアアアアッ!」
その隙を逃さず、キックを繰り出すが、シグナムは長剣レヴァンティンを振って弾き飛ばした。
V3は弾かれた反動を加えて跳ね、体勢を整えると身を翻して再度蹴りを叩き込む。
「V3ィ!反転キック!」
「がああああああ!」
衝撃を受けきれず、シグナムは砂漠に叩きつけられた。

V3は追撃せずに待つ。
「どうした?この程度か?」

もうもうと噴きあがる砂煙の中から声が聞こえた。

「レヴァンティン、カートリッジロード!」
「Jawohl.(了解)」
レヴァンティンを鞘に収めカートリッジを消費する。
「Nachladen. (装填) 」
ガシュンと使用済みカートリッジが排莢された。
「Schlangeform.(シュランゲフォルム)
砂煙の中から飛び上がったシグナムは変形して連結鎖刃形態となったレヴァンティンから必殺の一撃を放つ。
「はあぁっ! 飛竜一閃!!」
莫大な魔力を纏った炎の蛇の突撃は最早突きではなく砲撃だった。
上空から迫るその一撃を避けることができず真正面から食らってしまった。
「オ、オオオオオッ!!」
大音響と共にV3は爆炎で包まれた。
「はっ!はっ!危なかった。が、これでお終いだ……!?」
息を整え、せめて亡骸を確認しようと煙が晴れるのを待ったシグナムは信じられないものを見た。

爆炎が晴れた先にはV3はそこに立っていた。
両腕を交差させ、完全防御体勢をとっていたが

「馬鹿な!? 直撃だったはずだ!」

自分の技を喰らって魔力も持たないモノが無事でいられるはずがない。
シグナムは知らなかったがV3の躯は脳以外を全て機械化している。
そのため、純魔力攻撃では思ったほどのダメージを与えることができなかったのだ。
思わず呆然としてしまったシグナムに構わず、V3は防御をといて次の攻撃に移った。

「今度はこちらの番だ!決めさせてもらう……ハリケーン!!」

ブオオオオオオオオオオオンンッ!!!

馬がいななくようにあたりにエンジン音が響く。
長年連れ添った相棒。長い戦いの末に共に改造を受け続けたハリケーンは主の呼び声に応え、
砂地をアスファルトと変わらぬ速さで駆けてくる。
「トオッ!!」
V3とハリケーンは同時にジャンプ、高速回転するタイヤに足をつけ反撥。
V3自身の体を高速回転させ超スピードで目標に向かっていくが、シグナムはその軌道を読み回避した。
「甘い!」
しかし、V3はOセンサーで正確に居場所を探り、軌道を変えて直撃コースに載せ変えた。
「なっ!?」
今度は避けきれなかった。
「V3ィィィイ!!!マッハァッ!!!キィィィィィィィィィック!!!!」

猛特訓の末に編み出しツバサ一族の長、死人コウモリを葬り去った文字通りの必殺キックがシグナムの腹部に炸裂した!
その瞬間両者は弾かれ、砂の大地に叩きつけられていた。

「………くっ!なんて威力だ…!」
騎士甲冑で軽減されたとはいえ
腹部に手を当ててよろめきつつもシグナムはまだ立っていた
バリアジャケットはボロボロになっていたがその役目はしっかりと果たしていた。
本来ならば改造人間を真っ二つにするほどの威力を秘めた一撃を大きく減衰させたのだ。
それでも無視できないダメージを与えられてしまった。

まさかここまでとは……!
シグナムは驚愕を隠せなかった。
スピード、パワー共に強力
一撃一撃が、単なるパンチやキックでは無く、自分の体を知り尽くした上で数々の修羅場を潜り抜けてきて鍛えあげた技だ。
リンカーコアは持っていないようだがその不利を補って余りある、いや不利にならないほどの強さだ
この男は魔法を使えない、それでもかつて戦ったフェイト・テスタロッサどころか、
自分たちヴォルケンリッター以上の戦士であるかもしれない。
ヴィータはザフィーラに任せたのは正解だった。
言いたくは無いが気絶したヴィータがいてはザフィーラとの2対1とて危なかっただろう。
そんなことを考えていると人影が見えてきた。やはりあの程度では倒せなかった。

砂煙で隠されていたV3の姿が顕になった、胸の装甲が斜めに切り裂かれている。
「ハハ」
V3は笑いを堪えられなかった。
キックのタイミングにあわせてカウンターを仕掛けてきた!
彼女ならが俺の望みを叶えてくれるかもしれなかった。

この永遠の躯に終止符を打ってくれるかもしれない
どんなに苦しくとも自殺はできなかった、最後まで戦士であるためだ。
それは、自分の信じたもののために戦った自分の最後を誰かに見届けて欲しいという願望だった。
もう”仮面ライダー”とは名乗れないのだから。

世界の平和と人類の自由を守るために戦う戦士が仮面ライダーだ
己自身の自殺のために戦う今の自分に"仮面ライダー"を名乗る資格はない
そして、仮面ライダーは無敵でなければいけない
だからこそ自分は戦士"風見志郎"として戦い、死ぬしかないのだ。
そこで、ふと思い出す。かつて恩師との会話を

“ オヤジさん・・・だめだ あの怪人は強過ぎるんですよ ”
“ でも俺は精一杯やっ ― あっ っううっ― ”
“ 俺は無理な事を頼んでいるんだ! ”
“ 仮面ライダーV3は無敵で在って欲しい! ”

仮面ライダーは無敵である
唯一絶対の約束を守って今まで生きてきた。

「……わかってるさ、オヤジさん。俺は……仮面ライダーV3は無敵『だった』。だから……もう、いいよな?」

「いくぞ!俺を………殺して見せろ!!!!……騎士よ!!!」
「来い!戦士V3!!」
仮面ライダーだった男、V3! 風見志郎は死ぬために戦う!

両者は再び構える。
次で勝負が決まる。
どちらも自身の最大の技を繰り出す構えを取ったのだ。

だが、そのときだった。

「何!?」
「馬鹿な!?…こいつらは!!」

GLUUUUGAAAAAAA!!!!!

奇怪な雄叫びが砂漠に木霊する。
10や20どころではない、100にも届こうかという数だ。
この世界においての”古代の遺物(ロストロギア)”

ミイラの改造人間、不死身の兵たちが砂の中から出現し、2人の周りを取り囲んでいた。

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最終更新:2008年03月17日 20:48