魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者

        第四話


  • 海鳴市

時刻は夜の8時頃、三日月の光りが周囲を優しく照らす冬の夜。夕食と入浴を終えたすずかは
数匹の子猫と一緒に、自室でアリサとの会話を楽しんでいた。
今日の学校での出来事や、最近始まったドラマやアニメの評価などの雑談、
そして、今度訪れるフェイトについての話に、二人とも時間を忘れて夢中になる。
「フェイトがこっちに来るって聞いて、なのは本当に嬉しそうだったもんね」
机に無造作に並べてある自分達やフェイト写真を見ながら、電話越しにすずかに話すアリサ。
彼女の左右で寝息を立てている犬の頭を撫でているその表情は、フェイトと合える事への嬉しさに満ち溢れていた。
そして話は弾み、3人仲良し組のリーダ的存在であるアリサは『フェイトのお迎えイベント』を企画。
その案に、すずかも声を弾ませながら賛成。『プレゼントに何送ろうか?』『場所は翠屋』なと、とんとん拍子で話しが進む。
「ふふっ、今から楽しみね・・・そういえば、ガンダムは何してるの?」
ソファから立ち上がり、近くの窓に向かって歩きながら、アリサは尋ねる。
主人が離れた事に眠りについていた犬は起き、アリサの方に顔を向けるが、窓の近くで立ち止まったため再び寝息を立てる。
『ガンダムさん?今は部屋で勉強してると思うよ』
「勉強?なんでまた?」
『ほら、ガンダムさんこの世界の事知らないから・・・・・・外に出た時に見たもの全てに驚いちゃどうしようもないからって』
「なるほどね~」と呟きながら、アリサは窓のガラス越しに冬の夜空を見上げる。
窓から見る夜空は、あの時の様に満天の星空で輝いていた。
「・・・・・・・だけど、もしかしてガンダムって始めて『テレビ』見たとき、『ひ・・人が小さくなって薄い板の中で動いてる!!!』とか
いったんじゃないの?・・・ははははは冗談よ冗談!!」
「・・・・・・・・よくわかったね、アリサちゃん』
数秒の沈黙が続く。電話越しから子猫の鳴き声が聞こえる。
「あ~・・・・・だけどまぁ、なのは達にも早く会わせたいわ。その時はやっぱり、『ロボット』ってことで通すの?」
『うん。ガンダムさんの要望でもあるんだ。だからアリサちゃん』
「分かってるわよ。このことは二人だけ・・じゃなくて、月村家の皆さんと私だけの秘密って事でね。ふふっ、なのはとフェイトには悪いけど」
二人がガンダムを見たら、どんな顔をするのだろうと思いながら、アリサは再びソファに座り、すずかとの会話を楽しんだ。


  • 結界内

すずかとアリサが会話に花を咲かせている頃、勉強中と思われていたナイトガンダムは
「くっ!!」
上空から降り注ぐ鉄球攻撃を必死に避けていた。
なのはを助けた結果、ヴィータと戦う事となったガンダム。だが、始まってみれば戦局は一方的なものであった。
「おらぁ!!」『Schwalbefliegen』
ヴィータは目の前で軽く投げはなった小さな鉄球を、ナイトガンダムに向かってグラーフアイゼンで叩きつける。
叩きつけられた鉄球は、赤い光り纏った砲弾と化し、道路を走るナイトガンダムに迫る。
その攻撃を盾で防いだり、剣で斬り払うなどして、どうにかやり過ごすが、そのたびに新たな砲弾が迫り来る。

ヴィータとナイトガンダム、この二人の致命的な差は、『空が飛べない』という事であった。
仮に飛行能力が無くとも、弓矢などの射撃系の武器や、射撃魔法を使えば、反撃する事が出来るが、ナイトガンダムはそれらの武器や魔法を使うことが出来ず、
相手が接近戦を仕掛けたときに反撃しようという考えも、ナイトガンダムが飛べないと解った以上、ヴォルケンリッターの中で唯一射撃系魔法が使えるヴィータが、
そのような手段をとる筈がなかった。
そのため、空中で攻撃を行なってくるヴィータに攻撃する事が出来ずにいた。

何度目かになるシュワルベフリーゲンを放つヴィータ。
彼女にとっても、ナイトガンダムが空を飛べないという事は予想外だった。
あの時、自分の攻撃を難なく受け止めた時点で、ナイトガンダムが只者ではないと分かった。
彼女も一人の騎士である。あいつのような騎士との戦いはシグナムほどではないが嫌いではない。
今まで戦ってきた魔道師は全員たいした奴らでは無かったし、あの白い服を着た魔道師も接近戦に持ち込んだらあっという間に片付ける事ができた。
だが、あいつ『騎士ガンダム』は装備からして自分と同じ接近戦主体。自分のグラーフアイゼンとあいつの剣がぶつかり合う空中戦を期待していたのだが、
現実は彼女の期待を反した結果だった。

「(まったく・・・・・期待させやがって・・・・)」
内心で毒を吐きながらも、空中に浮いたまま攻撃を続けるヴィータ。その表情は正に『楽しみを奪われた子供』であった。

相手が空を飛べないと分かった時点で、ヴィータは『上空からの射撃魔法による攻撃』という戦法をとる事にした。
一個人としてなら、あいつに合わせて地上で戦う事も悪くはない。だが、今の自分ははやての騎士。絶対負けられない戦い。
今までの主だったら、効率や勝率など無視して自分勝手に戦っていたが、はやてのために戦う今は効率や勝率などを優先する必要がある。
ならやることは一つ、あいつの射程外から攻撃を行ない、時間を稼ぐ。仕留める事は無理でも、シグナム達が来るまでの時間を稼ぐには十分。
正直自分の性格には合わない攻撃手段だが、文句を言う事などできなかった。


「だめだ・・・・このままでは・・・・」
数度目となるシュワルベフリーゲンの砲弾を切り払ったナイトガンダムは、現状の打開策を必死に考える。
彼とて、今まで空を飛ぶ敵と戦った事が無いわけではない。だが、その様な敵が現れた場合は、
僧侶ガンタンクの魔法や妖精ジムスナイパーカスタムの矢などに頼っていた。
自身でも、ペガサスに乗ったり、剣や電磁スピアなどを投げるなどの荒技で対応していたが、この世界ではペガサスを呼ぶ事は出来ないし、
武器を投げるとしても、彼女『ヴィータ』が相手では、避けられるか切り払われるのが目に見えていた。
魔法も使う事は出来るが、彼女との距離を考えると、届くとは思えない。魔力を無駄にするだけ。
唯一届くかもしれない魔法も、詠唱時間がかかるため、詠唱中に餌食になるのが目に見えている。

「何か・・・方法は・・・・・・・・」
『ビル』という建物の屋上に上ったとしても、空を飛べる彼女は楽々と移動する事ができる。
登りきった途端に場所を移動されてしまえば意味がない。
「せめて・・・・ヴィータの高さまで飛ぶ事ができれば・・・・・・ん?」
ふと、打開策を考えるナイトガンダムの頭に、今日アリサとやったゲームの映像が浮かび上がった。
そのゲームは、様々な障害物や敵を乗り切り、自分が操るキャラを目的地まで連れて行くというゲームだった。
その中に、普通のジャンプでは飛び越える事ができない絶壁を飛び越えるために使う『ジャンプ台』という、撓る細長い板があったことを思い出した。
「・・・・・・やってみるしかない・・・・・・・・」
頭の中で大まかな作戦を練ったガンダムは早速行動に出た。
迫り来るシュワルベフリーゲンを切り払った直後、ナイトガンダムは信号の近くに止められいてる車に向かって全速力で走り出す。
その行動に、ヴィータは多少不審な顔をするも、鉄球を形成、シュワルベフリーゲンを放つためにアイゼンを振り被る。
だが、それより早くナイトガンダムは目的の車に近づき、勢いをつけてジャンプ。車の屋根に勢い良く着地した瞬間、
再びジャンプし信号機の上で着地。そして直に背中に背負っていた電磁スピアを近くのビルの壁目掛けて投げる。
上手い具合に電磁スピアが刺さった事を確認したナイトガンダムは、それ目掛けて三度目のジャンプを行い、電磁スピアの持ち手部分にバランスよく着地する。
その瞬間、ビルの外壁に刺さった電磁スピアはジャンプ台の様にガンダムの体重により撓り、
結果、電磁スピアは即席としてだが、『ジャンプ台』としてその役目を果たし、ナイトガンダムを一気にヴィータのいる上空まで導いた。

「なっ!!?」
自分に向かって猛スピードで迫ってくるナイトガンダムに、ヴィータは驚きながらもシュワルベフリーゲンを放つ。
放たれた鉄球は、真っ直ぐにナイトガンダムに向かうが、
「はぁ!!!」
その攻撃を、ナイトガンダムは右手に持った剣で一閃、すべて破壊しスピードを落とす事無く上空のヴィータまで近づく。そして
「はぁあああ!!!」
気合の声と共に、ヴィータに横一文字の斬撃を繰り出した。
迫り来る斬撃をヴィータは咄嗟にアイゼンの柄で防ぐ。ぶつかり合った瞬間、
硬い物がぶつかる音が辺りに響き渡り、互いの武器の接触部分に激しいスパークが発生する。
こうなれば後はただの力比べ、互いに互いを押し切ろうと力を込める。だが、
「・・・・・くっ・・この・・・・・」
ナイトガンダムの勢いをつけた特攻に対し、自分は不意を付かれた上に空中に浮いていただけ、
徐々にアイゼンが押されていく事、自分が力負けしけいる事に、ヴィータは隠す事無く顔を顰める。そして
「はぁ!!」
そのままナイトガンダムはヴィータを横一文字に切り払い、道路目掛けて吹き飛ばした。
勢いを無くし、自由落下をするナイトガンダムに対し、力の限り投げつけたボールの様な勢いで地面に向かって落下するヴィータ。
だが、彼女とて騎士の一人。そのまま落下するような事は断じてしない。
「なめんな!!」
落下をしながらも、ヴィータは即座に飛行魔法を使い、勢いを殺しならも態勢を整える。
靴底でアスファルトの道路を削りながらも、道路に『落下』ではなく、どうにか『着地』することが出来たヴィータは途中、
信号機で一度着地しながらゆっくりと降りてくるナイトガンダムを睨みつける。

「・・・・・へっ・・・・やっぱり、おめぇには、こんな姑息な手は通じねぇみてぇだな・・・・・アイゼン!!!」『Raketenform 』
獰猛に微笑ながら、アイゼンのカートリッジをロード、ラケーテンフォルムに変形させナイトガンダムに向ける。
その姿を見たナイトガンダムも、再び立てと剣を構え、ヴィータの攻撃に備える。
「・・・・・一つ聞きたい・・・・何故君は戦っているんだ・・・・・」
「はぁ?そんなんテメェに関係ねぇだろ?」
「いや、君の瞳からは悪意邪な欲望が感じられない・・・・・目的を話してくれないかい・・・・・」
「・・・・へっ、会ったばかりの相手になぁ・・・『アタシらの目的は~です』なんて言えるかってんだ!ボケェ!!!」
アスファルトを蹴り上げ、一気にナイトガンダムに迫るヴィータ。だがその時

               「そこまでだよ!!!」

突如上空から聞こえた声と共に、ヴィータの手足に金色の輪が出現し、彼女の手足を締め上げた。
「・・・なっ!?バインド・・・・この・・・・くっそ!!!」
茂垣ながらも、自分を拘束したであろう相手を魔力反応と声から瞬時に見つけ出したヴィータは、険しい顔をしながら上空を見上げる。
その姿にナイトガンダムも釣られて空を見上げる。するとそこには、狼の尻尾と耳を持った忍と同じ位の歳の少女と
漆黒の服とマントに身を包み、右手には黒く輝く戦斧を携えた、すすかやアリサと同じ位の歳少女がいた。
「何モンだてめぇら!!」
「・・・時空管理局嘱託魔道師、フェイト・テスタロッサ。君は民間人への魔法攻撃を行なった。軽犯罪では済まない罪だ。
だけど、これ以上抵抗しないこと、名前と出身世界、目的を話してくれれば、君に弁護の機会を与える事ができる」
二人はゆっくりと地上に降りる。その内の戦斧を携えた少女はゆっくりとヴィータに近づき、
「あんただね、なのはが言っていたガンダムって」
狼の尻尾と耳を生やした少女はナイトガンダムの側に降りると。腰をかがめ、マジマジと見つめる。
「へぇ~・・・・ほんと、見た事がない種族だね・・・・何処の世界出身だい?っと、そんな事を聞くのは後だね。
私の名はアルフ。先ずはお礼を言わせておくれ。なのはを助けてくれて、ありがとう」
無邪気な子供のように微笑むアルフに、ナイトガンダムも自然と笑みを漏らす。
「いえ・・・・・あの、貴方達は・・・あの子の知り合いなのですか?」
「まっ、そんな所さ。ああ、なのはなら安心しな。ユーノが・・・ああ、アタシらの仲間が介抱しているから大丈夫だよ」
なのはを一人残した事を心配していたナイトガンダムは、アルフの報告を聞き、安心した事を表すように深く息を吐く。
そして彼女から聞いた『なのはを助けてくれて』という言葉から、なのはの仲間であると改めて確信したガンダムは、構えも説こうとするが、

                      「っ!いけない!!!」

場の空気が変わった事を理解したガンダムは、叫びながら反射手に地面を蹴り、フェイトとの距離を一気に縮める。
その突然の行動に、フェイトやアルフは勿論、拘束されているヴィータさえ何事かと驚くが、彼の行動の意味を直に知る事となる。
ナイトガンダムがフェイトの隣に来た瞬間、上空から急降下してきた人物が、ヴィータを尋問してたフェイトの真横に着地し、問答無用で右手に持っている
剣を横なぎに振るう。突然の事態に対応しきれないフェイト、だが、場の空気が変わった事を感じたナイトガンダムにより
フェイトに当たる筈だった一撃は、彼の盾によって防がれた。

「えっ?」
突然の事態に対応しきれないフェイト
「・・・ほう」
不意打ちの筈の自分の攻撃を察知した所か、見事に受け止められた事に、つい声を出して感心してしまう襲撃者。
ナイトガンダムはそんな驚いたり感心してる二人を無視し、盾で剣を受け止めたまま、右手の剣で襲撃者に斬りかかる。
下からの袈裟による斬撃を、襲撃者はバックステップで交わすと同時に、持ってる剣を空に向かって掲げる。
「・・・レヴァンティン・・・・カートリッジロード」『Explosion』
剣から鳴り響く電子音と共に、襲撃者が空に向かって掲げている剣から、薬莢が排出される。
その瞬間、突然発生した炎が、剣の刃の部分だけを包みこむ様に燃え盛る。そして
「紫電一閃!!」
叫び声と共に、襲撃者の女性の女性は地面を蹴り、ナイトガンダムに向かって突撃、
燃え盛る炎の剣『レヴァンティン』を容赦なく振り下ろした。迫り来る攻撃に、ナイトガンダムは先ほとど同様に、盾で防ごうとするが、
レヴァンティンが盾に直撃した瞬間、激しい衝撃がナイトガンダムを襲った。
「・・な・・・なんて・・・・・重い攻撃だ・・・・・」
先程のヴィータの金槌を越える衝撃に、顔を顰めながらも耐える。足が地面に陥没し、アスファルトが砕け散る。
それでもなお、ナイトガンダムは攻撃を耐えつづけ、押し返そうとする。

紫電一閃の斬撃を正面から防がれた事に、襲撃者は悔しさよりも、強い相手に出会えた事に、自然と口をほころばせる。
「・・・・・・・正面から絶えるとはな・・・・・ヴィータが苦戦するわけだ・・・・・だがな!!」『EXPLOSION』
電子音と共に、レヴァンティンの刃を纏っていた炎は一層激しさを増す。そして
「はぁあああ!!!」
襲撃者の気合の声が木霊した瞬間、接触部で魔力爆発が発生。レヴァンティンの刃はナイトガンダムを盾ごときり払い、吹き飛ばした。

「くっ、この!!」
ナイトガンダムを吹き飛ばした襲撃者を睨みつけるアルフ。直に渾身の一撃を叩き込もうと拳を握り
突撃しようとするが
「でぉああああ!!」
突如上空から聞こえて来る叫びにアルフは攻撃を中断、障壁を展開する暇が無かったため、咄嗟に腕を頭の上まで上げた後、
肘を曲げ交差させる。その直後、声の主と思われるアルフと同じ狼の尻尾と耳を持った男性が、拳を振り下ろしてきた。
叩きつ得られた瞬間、衝撃と痛みがアルフを襲う。
「くっ・・・・この・・くらい!!」
歯を食いしばりながら耐え抜くアルフ。相手の拳の勢いが弱まった所で、交差している腕を払い、距離をあける為に上空へと逃げる。
だが、アルフを攻撃した男も、狙いをアルフに定めたのか、後を追うように飛行を開始した。

「・・・・ああ・・・・・」
自分を庇ってくれたナイトガンダムが吹き飛ばされた瞬間を見たフェイトは、バルデッシュをサイズフォームに変形させ、
襲撃者に向かって切りかかろうとする。だが、
「よくもやってくれたな!!」
ナイトガンダムが襲撃者の攻撃を防いでいた数十秒の間に、ヴィータは自分を拘束していたバインドを解除。
攻撃に入ろうとするフェイトより早く、グラーフアイゼンを叩き付けた。
フェイトは先程の汚名を挽回する様に素早く反応しバルディッシュで防御、力比べになる前に切り払い、吹き飛ばされたナイトガンダムの元へ向かった。


「ちっ・・・・・」
フェイトを逃がした事に舌打ちをしながらも、自分を助けてくれた襲撃者『シグナム』の方に顔を向ける。
「あんがとな・・・・・助かった・・・・」
言っている途中で恥ずかしくなったのか、そっぽを向きながら小さな声でお礼を言うヴィータに、
シグナムは一瞬呆気にとられた顔をするが、直に微笑む。
「しかしどうした、ヴィータ?油断でもしたか?」
「うるせぇよ!・・・・まぁ、間違ってはねぇけどよ・・・・・だけどな、これから逆転して、あいつらをボッコボコにする予定だったんだよ!」
確かにあの時、自分はナイトガンダムとの戦いに集中していた。だから自分を拘束したあの二人の存在には気付かなかった。
あいつらの仲間が来るかもしれないのに、周囲の警戒を怠っていたために起きた事態。油断以外の何者でもない。
だからこそヴィータは素直とは言い難いが認めた。二度とこのような過ちを起こさないために。
「そうか・・・だが、すまなかった。遅くなってしまって」
「気にすんな・・・助けてもらった事に変わりはねぇからな・・・・」
「そうか。だがあまり無茶はするな。お前が怪我でもしたら、我らが主も心配する。あとこれを。破損は直しておいたぞ」
妹を心配する姉のように優しく語り掛けながら、シグナムはなのはの砲撃で吹き飛んだヴィータの帽子を
彼女の頭に優しく乗せる。
「・・・・ありがと・・・・シグナム・・・・・」
自分で帽子の位置を整えているヴィータを一瞥した後、シグナムは後ろを振り返る。
そこには、先程自分を攻撃しようとした少女が、同じく自分が吹き飛ばした一見小型の傀儡兵に見える者の側で何かを話しており、
上空では少女の守護獣であろう少女が、ザフィーラと激しい空中戦を繰り広げていた。
「・・・状況は・・・実質3対3。だが、奴は何者だ?小型の傀儡兵の様に見えるが・・・・・」
「ワカンネ。だげど、この世界じゃ傀儡兵を作る技術はないし、管理局に関しても知らないっていってた。もしかしたら
あいつらの仲間ですらないかもしれねぇ・・・・・まぁ、収集対象には変わりはねぇがな」
アイゼンにカートリッジを補充品しなら、今時分が知りえる情報を話すヴィータ。
「あいつ・・・・ガンダムって言ってたな。あいつは空を飛べない。下手すりゃ魔力はあっても魔法すら使えないかもしれない。
だけど剣術に関しては強い・・・・間違い無くな・・・・・ベルカの騎士のアタシらには厄介な敵だ」
カートリッジの補充を終えたアイゼンを一度振り、シグナムの前へと出るヴィータ。
直に補充したばかりのカートリッジをロードし、ラケーテンフォームへと変形させる。
「シグナム・・・・・わりぃが、ガンダムはアタシがやる。シグナムはあの黒い魔道師の相手を頼む。空を飛べば、向こうも食いついてくる筈だ」
「・・・・・お前から進んで相手を選ぶとは珍しい・・・いや、初めてかもしれんな・・・・お前の話から、
ガンダムとやらの相手をしてみたかったのだが・・・・・まぁ、また今度にしよう」
『また今度』というシグナムの言葉に反応したヴィータは、アイゼンを横に振り被りながらも、吐き捨てるように笑う。

「無駄だと思うぜ。一度収集した相手からは収集できない。ここであいつをぶった押せばもう戦う機会なんて無いんだからな。
ただの時間の無駄になる。それには、分かってるだろ、シグナム。『一対一ならベルカの騎士に』」
「『負けはない』・・・ふっ、その通りだ・・・・・行くぞ!!!」


「あの・・・・大丈夫・・・ですか・・・・」
シグナムの一撃で吹き飛ばされたナイトガンダムの元へ向かったフェイトは、抱き起こすように、ナイトガンダムの体に手を回す。
「ああ・・・・大丈夫・・・・・ありがとう」
「いえ、お礼を言うの私のほうです。あの時、私を庇ってくれてありがとうございました。それに・・・・なのはを助けてくれて」
なのはの名前が出た途端、フェイトは悔しそうに俯く。
事態を知り、フェイト達が駆けつけた時には、すでになのはは襲撃された後であった。
もし、あの時ナイトガンダムが駆けつけなかったら、なのはは魔力を奪われていたに違いない。
フェイトはただ悔しかった。自分に手を差し伸べてくれたなのはを、『友達』と言ってくれたなのはを助けられなかった事に。
「・・・・・・・気を落とす事はないよ。君はなのはさんの危機を知って駆けつけた。友達を救うために。
それに、もしヴィータ達の仲間の到着が早かったら、結果的になのはさんは危なかった。今こうして彼女達をなのはさんの元へ
向かわせないでいられるのは、君達のおかげだ・・・・私こそお礼を言わせてください。助けていただき、感謝いたします」
跪き、頭を垂れるナイトガンダムに、フェイトはどうしていいのか慌てる。
「い・・・・・いえ、そんなことないです。あ、名前がまだでした。私はフェイト、フェイト・テスタロッサ。一緒にいた子はアルフ。
あと、敬語とかは使わないでください。私・・偉くありませんから・・・・」
「わかったよ、フェイト。私の名前はガンダム。ラクロアの騎士ガンダム。同じく敬語とかは使わなくていいよ。偉くないからね」
ナイトガンダムの物言いに、先程まで落ち込み気味だったフェイトの顔にも笑みが浮かぶ。
その顔を見たナイトガンダムも安心したのか、釣られて微笑むが、直に顔を引き締めた。
「フェイト・・・・・現状では3体3。だが、私は空を飛ぶ事が出来ない。おそらく君達の戦闘では足手まといになるだろう。
それになのはさんの事もある。ここは撤退をすべきだと思う・・・・・どうだろう」
「うん。私も同じことを考えていた。ちょっと待ってて」
瞳を閉じ、急に黙り込むフェイト。数十秒後、瞳を開け、再びナイトガンダムを見据えた。
「今、ユーノと相談してみた。アルフと協力すれば何とか出来るみたい」
「分かった。それまでは私達が彼女達の相手をして注意を引きつけよう。私でも囮くらいにはなれる筈だ」
二人は同時にヴィータ達の方を向く。すると、ヴィータはナイトガンダムと目が合った瞬間、獰猛に微笑みながら、
ラケーテンフォームへと変形させたアイゼンを突きつけ、シグナムは空が飛べるフェイトを誘うように飛行を開始する。
「・・・相手は決まったようだ。がんばろう!」
「うん!」

「フェイトちゃん・・・・・・」
フェイトが上空へ上がる姿を見たなのはは小さく名前を呟く。
今なのはは、ユーノが張った結界魔法『ラウンドガーダー・エクステンド』の中で佇んでいた。
その結界を張ったユーノもまた、自分達を閉じ込めている結界を破壊すべく、周辺調査のためこの場にはいない。
「・・・・・・みんな・・・・・・」
自分も皆の所で戦いたい。だが、時より体にほとばしる痛みが、その願いを叶える事の難しさをなのはに無理矢理教える。
それでも、彼女は一番痛む左腕を押さえながら、ゆっくりと戦いの場絵へと歩み始める。その時、
『Master』
見た目からも、使い物になるのか疑わしいほど大破したレイジングハートが、なのはを呼び止める。そして
『shooting mode acceleration』
その電子音の直後、レイジングハートから桃色の羽が生えた。まるで、自分はまだ戦える事を主張するかの様に。
「レイジング・・・・・ハート・・・」
なのははレイジングハートが自分に何をさせようか直に理解できた。だが、間違いであって欲しいため、口を噤む。だが
『Let's shoot it. starlight Breaker』
なのはの思いを代弁するかのように、レイジングハートは呟いた。

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最終更新:2008年05月24日 22:06