リリカル・グレイヴ 番外編 「ツギハギと幽霊と女の子」(中篇)


「そういえばビリーさんって足が透けてるように見えるんですけど‥‥」
「ああ、俺は幽霊だからさ」
「ゆ、幽霊!?」
「ちなみに俺は死人だしな」
「死人!?」
「ああ」
「じょ、冗談ですよね?」
「いいや」
「誰がそんな冗談なんぞ言うか」
「ええ~!?」




十二とビリーの旅にキャロが同行するようになって、彼女にとっては驚きの連続だった。
なにせ相手は死人と幽霊なのだ、これで驚くなという方が無理だろう。
だがまあ適応能力が高いのかそれとも理解するのを早々に諦めたのか、キャロは状況をすぐに受け入れた。

西へ東へ、十二とビリーの探す“モノ”を求めて一行は方々を旅した。
時に人助けをしたり町にはびこる悪党をノシたりと波乱万丈の風来坊三人。
そして今日もまたとある町に巣食う麻薬組織を軽くボコっている最中だった。


「逝きさらせっ!!」


掛け声と共に十二の蹴りが目の前の男に炸裂する。
強烈な打撃の衝撃に男は吹っ飛びながら手にした銃を落とした。
周囲にいた他の男達は口汚く罵声を吐きながら十二に向かって鉛弾の雨を降らせる。
だがその銃弾が十二の身体を貫くことは無かった。
朽葉流忍術の悉くを極めた死人の動きは一陣の風のように素早く、疾風迅雷となって弾丸の軌跡を掻い潜り回避する。
乾いた銃声が鳴り響く中、雷撃を纏うエレキギターとその主が軽快な音色を奏でた。


「まったく、もう少し平和的に話し合いとか出来ないのかねぇ」


ギターの音色と共に銃を持った荒くれ共を電撃が襲う。
高速の凄まじい打撃を打つ十二と電撃を放つビリーの荒っぽいセッションは瞬く間に敵を残らず倒し尽くし、後には気を失った悪党共が何十人と横たわっていた。


「おいキャロ、終わったぜ」
「はぁ~い」


ビリーの呼ばれたキャロがトタトタと物陰から走ってくる。
この奇妙な風来坊三人の中では、基本的に荒事担当は十二それに仕方なく付き合うのがビリーそしてその後始末がキャロの役目となっていた。
キャロは慣れた手つきで気を失った男達をふん縛りながら懐からサイフを抜き去っていく。

これこそが彼らの日銭の稼ぎ方。
麻薬取引の現場や悪党の溜まり場に殴り込んではボコボコにして(キャロの教育上、殺しはしない)金目の物を取っていくという最高に荒っぽいものだった。


「終わったか?」
「はい」
「んじゃ、後はサツに通報でもしてトンズラすんぞメスチビ」
「ちょっ、待ってくださいよ屍さ~ん」


一人でズカズカと先行く十二にキャロが慌てて後に付いて行く。
後にはボコボコにされてふん縛られた悪党数十人を残して三人はねぐらである安ホテルへと戻った。

別に十二とビリーは宿泊施設など必要ではない、なにせ彼らは既に死んでいる身の上だ、いつもは野宿でもして夜を明かすのが普通だった。
しかし10歳に満たない少女にそれは厳しいものがある、故に十二とビリーは少ない身銭を切って宿泊施設を使用するようにしているのだ。

ホテルに帰る道すがらその事を考えるとキャロは二人に“すまない”という想いで一杯になった。
誰にも迷惑をかけたくなくて里を黙って出て行ったのに、このままでは自分は十二とビリーのお荷物でしかない。


「あの十二さん‥‥‥すいません‥」
「てめえ突然、何言ってんだ?」
「だって私‥‥お二人にご迷惑ばかりかけて‥」


シュンとなって俯くキャロ。
十二はバツが悪そうに口元を不機嫌そうに歪ませる。


「ったく、チビがんな事気にしてんじゃねえ」
「でも‥‥」
「どうせ俺らの目的にゃあ、ヤクの売人シめるのが入ってんだ。べ、別にてめえの為にやってる事じゃねえ」
「目的‥‥確か“シード”っていう麻薬でしたっけ?」
「ああ、まあ因縁のあるヤクだからな。それにアイツを探すのもな」


どこか懐かしそうに言う十二の言葉にキャロは不思議そうに首をかしげる。
今までこんな十二の顔を見たことがなかった。


「“アイツ”?」
「まあ俺らの昔の連れだ、訳あって行方不明でな‥‥もう何年も探してる」
「連れっていうかファミリー(家族)って言っても良いんじゃないか十二? 特にミカとかはさ」
「う、うるせえぞRB!!」
「?」


十二が恥ずかしそうにしている理由が分からずにこれまた首をかしげるキャロ。
そんなこんなで騒がしくしながらも3人はねぐらの安ホテルに戻っていった。




「で、なんて書いてあんだ?」
「“娘は預かった、返して欲しければ港の第八倉庫に来い”だってさ」
「ちっ! あのメスチビ、簡単に拉致られてんじゃねえぞクソがぁ」


十二とRBがほんの少し部屋を留守にしている間にキャロが攫われた。
言うまでも無く相手は十二とビリーが相手にしていた麻薬組織だろう。
置手紙を読み終えたビリーは、いつもの軽い雰囲気が嘘のように鋭い気迫に満ちた目で十二に視線を投げる。


「さて、どうするジュージ?」
「決まってんだろ、売られた喧嘩は買ってやらぁ」
「だな」


二人の死者は幼いファミリー(家族)を救うべく、怒りを胸に手の得物を担いで歩き出した。
こうなったこ二人は、例え悪鬼羅刹でも敵うまい。




「で、これで終わりか?」
「まったく大した事ないねぇ~」


十二とビリーの呟きが海から吹く潮風に混じって空に消える。
場所はキャロを浚った連中に指定された港の一角、そして二人の周囲には倒された麻薬組織の悪漢共が気を失って倒れていた。
ただの銃火器で武装した程度のチンピラ連中では十二とビリーを止める事など叶わず、ただ一方的に倒されるのみ。
この有様に組織の親玉と思われる小太りの男は頬を怯えて腰を抜かしている。


「ひぃっ! て、てめえら人間じゃねえっ!!」
「当たりだぜブタ、なんせ俺ぁとっくの昔に死んでる死人だからなぁ」
「俺なんて幽霊だからな♪」


ドスの効いた声を吐く十二に陽気に喋るビリー、いつもと変わらぬように見える二人だが漂う気迫は修羅の如く鬼気迫るものだった。
それだけキャロに手を出された事は二人の怒りに火を付けていたのだ、この迫力に組織の親玉は小便すら失禁して身悶えする。


「ひぃぃっ! お、お前ら、早くこいつらを殺せえええぇぇっ!!」


その声と同時にミサイルランチャーの雨が降り注いだ。
この奇襲に即座に振るわれた十二の両手の得物、ガンブレード旋風と疾風の赤き刃が踊り絶妙な太刀筋で軌道を逸らして跳ね返す。
進行方向を狂わされたミサイルはあらぬ方向に飛んで行き、海に落ちて爆炎を上げる。
奇襲を仕掛けた新手に顔を向ければ、そこには大量のサイボーグの集団がいた。


「ったく、ゾロゾロやって来てんじゃねえぞクソがぁ!」
「ヤレヤレ、お姫様を助けに行くのはもう少しかかりそうだな」


十二とビリーは思わず苛立った言葉を漏らす。
次の瞬間には数多の銃火が二人に襲い掛かった。


そしてこの銃声と爆音に駆けつける者が一人。


「この騒ぎ、ただ事じゃないね‥‥行くよバルディッシュ」
<YES SIR>


雷光の名を持つ執務官、その名の通りに運命の出会いへと。


続く。

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最終更新:2008年04月05日 22:14