魔術士オーフェン5話(後編)

機動六課の訓練場―――

「じゃあスバルはヴィータ副長から近接戦闘の指導、ティアナは私と中距離での射撃訓練だよ」
「ライトニングスは二人で基礎体力の強化ね」
「「「「はい!」」」」
各隊長の指示にフォワードの四人が元気な声で返す。

「・・・・・俺はどうすんだ?」
「お前は私とだ」
オーフェンの所在なさげな呟きに凛とした声が答える。
その場の全員が振り向くとそこには普段訓練場ではまず見ない顔があった。
「シグナム!?」
「珍しいな、オイ・・・」
フェイトとヴィータが驚きの声をあげる。
「何、オーフェンのデバイスが出来たんだろう?調整の手伝いをしてやろうと思ってな」
その言葉にヴィータが驚きから一転、呆れたような顔になる。
「ま~た始まった・・・戦闘狂も結構だけどな、たまには新人の戦技指導にも顔出せっての・・・」
「あいにく教えられる事が少ないのでな。それに手加減ができない性分だ」
それでは困るだろう? と薄く笑ってからオーフェンに向き直る。オーフェンもその目を見つめ返す。手の中で彼のデバイス「フェンリル」を弄びながら―――
「・・・要するに模擬戦をかねて「コイツ」がどれくらい使えるか見てみようって事か?」
「そういうことだ」
簡潔に答えてくる目の前の騎士。微笑を浮かべてはいるが瞳には隠しきれてない高揚が炎の様に揺らいで見える。
断言してもいいがデバイスの調整など間違いなく方便だろう。
彼女を見据えながら暫し黙考する。彼女は管理局内ではトップクラスの実力者だというのははやてから聞いている。
(彼女と戦えば俺がこの世界でどの程度戦えるか分かる・・・か?)
安易な考え方をしている自分に気づき胸中でわずかに苦笑する。別に彼女に勝てたからといって彼女以下の相手に必ず勝てるというわけでもないだろうに・・。
だがそれでも―――
(断る理由も特に見当たらないな・・・)
デバイスを使った戦闘はどのみち経験しておかねばならないし、なにより魔術だけでどれだけ戦えるのか確かめておかねばならないのは本当だ。
そこまで考えてオーフェンは口を開いた。
「そうだな・・・。付き合ってくれるか?」



「なのは・・・いいの?」
「う~ん・・・」
心配そうな声で尋ねてくるフェイトになのはは手元のパネルを叩きながら答えにならない呻きで返す。
「確かにデバイスを使った模擬戦はいずれやってもらわなくちゃならないけど、相手がシグナムっていうのは、やっぱり・・・」
相手が強すぎるんじゃないか、とフェイトは暗に言っている。横で見ているヴィータ、フォワードの面々も同感と言った面持ちだ。
ベルカの騎士の長「烈火の将」の二つ名を持つシグナム。
リミッターにより実力を制限させられているとはいえ魔法を覚えてわずか一週間足らずの彼にどうにかできる相手では到底ない。
なのはとて頭では分かっている。
「う~~ん・・・」
だがなぜだろう?止めようという気が少しも起きなかった。
(これはつまり心配しなくても大丈夫ってことかな・・・?)
自分でもよくわからないが「まぁ、危なくなったら止めればいいか」という事で見守る事にした。


「ところで」
「あん?」
荒廃した市街地に設定されたそこで二人はやや距離を取りながら向かい合っている。
シグナムはすでに己の甲冑と刀剣を顕にしていた。こちらを見据えながら問いかけてくる。
「デバイスの使い方は知ってるんだろうな?」
「ああ、その事か。まぁ多分な。俺にも魔力が備わってるってのはなのはから聞いたし起動の言葉もさっき教えてもらったよ」
フェイトや新人達と少し離れた所で見物を決め込んでるなのはに視線を向ける。
「一緒に教えてもらった飛行魔術に関してはまだ浮かぶのがやっとって所だがね」
「そうか・・」
再び視線を目の前の騎士に戻し、呟く。
「セットアップ・・・」
その言葉と同時に黒い極光がオーフェンの体を包む。一瞬後、オーフェンの服装は一変していた。
黒いジャケットにズボン、革の手袋に無骨で頑丈そうなブーツ、頭には赤いバンダナが巻いてある。オーフェンがこの世界に来た時と寸分違わぬデザイン。
これはオーフェンの希望だった。
唯一違うのは腰のベルトに括り付けられて鞘に収まる刃渡り30cm程の黒い短剣。
装飾らしい装飾はないが柄の腹に黒いひし形の宝石が埋め込まれている。
「・・・なるほどな」
自分の状態を一通り見回し、満足とも呆れともとれるため息をつく。
(聞いてはいたが・・・とんでもない技術だな)
そう、「今更」な感想を胸中で呟いていると―――

「用意はできたか・・・?」
「――――――――ッ!」
直後、そんな何でもない言葉と共に凄まじいプレッシャーが叩きつけられた。声の主へと目を向ける。
そこにはさっきと変わらずに紺紫の剣士が立ち尽くしている。何も変わらない、が―――
(違う・・・)
姿カタチは同じだが雰囲気が先ほどとは一変していた。こちらに向けて溢れんばかりの闘気を放っている。
「ったく、やる気満々だなオイ」
悪態をつきながら鞘からフェンリルを抜き、構えをとる。
構えと言っても何も大仰なものは必要としない。精々相手に対して体を横に向ける程度。フェンリルは前にある左手で逆手に構える。
「そうでもないさ」
そう答えながらシグナムもレヴァンティンを下段に構える。上体はやや前傾、重心も前に出した右足に偏っている。
その姿はさながら地に伏して獲物に飛び掛ろうとする猛獣を連想させた。
「――――――――」
「――――――――」

緊張が場を支配する。
まばたきすら忘れて睨み合う。
――――カラッ
どこからか瓦礫の落ちる音がした。それを開始の合図と判断したのか、シグナムの体が沈む。
「シッ!」
―――瞬間、シグナムの体が爆ぜた。
否、「爆ぜたように見えた」 そうとしか思えぬ加速を持って彼女はオーフェンの間合いあっさり侵略する。
(ッッッ、速ぇっ!!)
5mはあった距離を一瞬で潰された。その事に軽く驚愕しながらも全力で後退する。下からの切り上げが髪の毛を数本さらっていく。
それを皮切りに更に距離を詰めながら怒涛の剣戟を放ってくるシグナム。
それをオーフェンは何とかフェンリルで捌いていく。しかし、
(・・・剣じゃ勝てねぇ!)
十合も刃を合わせない内に悟る。腕力ではさすがに勝っている、剣速は同程度か向こうが少し上、しかし技量の上で比べ物にならないほどの差があった。
――――連撃は加速していく。


左からの切り下ろし、そのまま更に踏み込み全く同じ軌道の右からの切り上げ、避けきれずフェンリルで受け止め、捌く。
すかさずしゃがみこみ体を一回転させながらその勢いで足狙いの切り払い。跳んで避ければ地面につくまでの間無防備になる。
後方に跳ぶ。刃が足に少し掠っていくがバリアジャケットのおかげで怪我は負っていない。
(距離を稼ぐ。接近戦じゃ勝負にならない)
そう考えバックステップで距離をとろうとする。だがその考えを阻むかのようにシグナムが一足で間合いを詰め、稲妻のような突きを放ってくる。
舌打ちをしながら左への体捌きでかわす。が、
「甘い!!」
その叫びと同時、剣を左片手に持ち直したシグナムの左への切り払いが追尾するようにオーフェンに迫る。
(くっそ・・・!!)
避けきれない、首を狙った魔剣の一撃を右手のフェンリルで受け止める。そのまま体を押し付け鍔迫り合いの形に持っていく。
「やるな・・・接近戦でベルカの騎士についてくるのか・・・」
息のかかりそうな距離でシグナムが呟く。その口元には微笑が浮かんでいた。
(ハッ、何が楽しいんだか!!)
胸中でそう罵りながらオーフェンも口の端を吊り上げる。
(隙がないなら作るまでだ!)
接近戦用の魔術の構成を編み上げる。そして自由な左腕を振り上げ―――叫んだ。
「我掲げるは降魔の剣!!」
するとオーフェンの左手の掌から光の剣のようなものが現れる。
「何ッ!!」
シグナムの顔に初めて驚愕のようなものが浮かぶが構わずオーフェンは光剣を振り下ろす。
「チィッ!!」
シグナムはそう呻くと一旦体を離し後方に退がる。当然、光剣は空を切る、が
「我は跳ぶ天の銀嶺(ぎんれい)!!」
それを見越して編んでいた構成を解き放ち、オーフェンは後ろに跳んだ。
重力制御―――重力の枷から解放されたオーフェンは一気に数十メートルの距離を離す事に成功する。いかにシグナムといえどこの距離を一瞬では埋められない。
そう確信してオーフェンはシグナムに向け右腕を振り上げ魔術を―――
「レヴァンティン!!」
『schlangeform!』
突如、背筋に悪寒を感じると同時に凄まじい速度で「伸びてきた」剣の切っ先に阻まれた。
「っんだと!?」
編んでいた構成を霧散させ咄嗟に横に避ける。我が目を疑いシグナムの方に視線を移すと彼女は剣を突き出した姿勢のまま硬直している。間合いは依然離れたまま。
だが先ほどまでと彼女の武装が一変していた。さっきまで確かに刀剣だったものが柄を残して刃の鞭、蛇腹剣へと姿を変えている。
(形状変化の魔法・・・って所か?やっかいな)
舌打ちをしながらオーフェンはフェンリルを構え直す。光の剣はすでに消えてしまっている。
音声魔術であるための必然。声は保存しておけないため術の効果を長い間持続する事はできないのだ。
「・・・少し驚いたぞ。何だ今のは?」
遠い間合いから彼女が問うてくる。「今の」というのは自分が使った魔術の事か?
「・・・『超力場の剣』接近戦専用の魔術だよ、俺が作った、な」
話ながらジリジリと距離を詰める。もはや遠い間合いでも有利とは言えなくなった。
苦々しく認める。
「なるほどな・・・ただ力を放つだけが能ではなかったか・・・」
だが対するシグナムも心中穏やかではない。
(まさか『シュランゲフォーム』まで晒す事になるとは・・・)
先の蛇腹剣での一太刀はシグナムにとって不本意なものだった。オーフェンの機転により距離を開けられた時、
相手に中距離で必殺の威力を持つ技があるのを知っていた事により生まれた焦り。それによって半ば反射的に放った一刀だった。
無意識で最良の選択が出来るというのは戦士として卓越した技能なのだが「格下相手への不意打ちじみた一撃を放った」という事実が彼女の誇りを傷つける。
だがその苦い思いも次の瞬間には消し飛んでいた。なんと彼は高速で迫る一刀をこともなげにあっさりかわして見せたのだ。

(目がいいのか・・・勘がいいのか・・・。加えて接近戦でベルカの騎士と渡り合うほどの腕、更に戦術的にも恐ろしく長けている、か。
全く、侮っているつもりはなかったんだがな・・・。)
気を吐き、己の意識を引き締め直す。もはや格下などとは思わない。
「行くぞ!」
彼女はそう吼えると鋼の蛇に鞭を入れた。


(来る―――!!)
そう感じた時にはオーフェンはすでにその場を飛び退いていた。一瞬前に自分がいた地面を鞭と化した剣の切っ先が抉る。更に蛇は止まらず地面を掘り返し、
蛇行しながらこちらを追尾してくる。
オーフェンは走りながら思考する。
このままでは間違いなくやられる。複雑な軌跡を描いて襲ってくる蛇腹剣の避けづらさは刀剣の時の比ではない。
(ならどうする!?)
近距離で勝てない事は実証済みだ。ならやはりこの距離で撃ち合うしかない・・・が、ある予感がオーフェンに魔術を使う事を躊躇わせていた。
(魔術を放つ瞬間を狙っている・・・)
確信があるわけではない。だがどのみちこの状況では狙い打ちなどできない。動きを止めればあっという間に捕まるし、
何よりこういう時の自分の予感は不幸な事に大体「正しい」
(・・・ならどうする?)
意図的に同じ言葉を繰り返して自身に問う。
[キリランシェロ、人と戦う時には敵を超えようなどとは思わないことだ。それよりも―――]
瞬間―――頭の隅に閃くものがあった。
「――――――――」
フェンリルを順手に持ち直し走る方向を変える、シグナムの方へと。
「・・・・」
予想の範囲内だったのか彼女は動じず、レヴァンティンを振るう。

斜め後ろからの強襲を勘だけを頼りに身を捻ってかわす。だが通り過ぎた切っ先が弧を描いて跳ね戻ってくる。フェンリルで弾き返す。
距離を詰めるごとに蛇の往復は速さを増していく。
肩に、頬に、足に、腕に、わき腹に、致命傷とはならないが体の至る所に蛇の爪痕を残しながらそれでも走る。
(あと、少し・・・)
五感を研ぎ澄ましながら師の教えを思い出す。
[―――そう、それよりも敵の弱点を見つける事だよ。弱点を見つけたらあとは実行を恐れない事だ。
それがなんであれ、たった一つでも弱点と呼べるものがあるのならば―――]

「・・・・・それこそ、打つ手は無限にある」
その言葉自体には意味なんてない。だがオーフェンは自分の意識が極限まで冴え渡るのを感じていた。
1m手前まで迫った所でシグナムは鞭を収め、再び刀剣を構える。かまわずオーフェンはフェンリルで斬りつけるが、それをいとも容易く捌きながら彼女は怒りの表情を見せる。
「何か策があるのかと思えばただの特攻か・・・舐められたものだ。剣の勝負なら勝てるとでも思ったか!」
叫びながら再び連撃を放ってくる。その様子にオーフェンは胸中でほくそ笑んだ。
(・・・策?―――あるさ!!)
剣戟を受けながら隙を窺う。チャンスは一度、こんなもの二度も使えばこの剣士は必ず対応してくる。
「ハァッ!!」
裂帛の気合と共に振り下ろされる大上段の一撃を両手で握り直したフェンリルで受ける。
そのまま力を込めてくるシグナムに拮抗するようにこちらも短剣を握る両手に力を込める。
噛み合った刃が火花を上げて擦れあう。
(ここだ!)
オーフェンが仕掛ける。レヴァンティンを受けている腕を残してしゃがみこみ、体を反転させ足払いを繰り出す。
「ッ!」
予想外の攻撃に反射的に跳んでかわしてしまう。
オーフェンはその隙に再び後退しながらフェンリルを投げつけた。
「舐めるな!!」
だがシグナムは至近距離から放たれた投剣を鬼神じみた反応速度で打ち落とす。
オーフェンはそれを見越していたのか更に距離を離し呪文を紡ぐ。
「我は―――」
先ほどと同じシチュエーション。シグナムは当然距離を稼ぐつもりなのだろうと思い己が愛機に変形を命じる。
「無駄だ!レヴァンティン!!」
『schlangefolm!』
カートリッジから排莢しながらレヴァンティンが吼える。
(かかった!!)
心中で歓声を挙げながらこの時の為に編み上げていた構成を解き放つ。

「我は踊る天の楼閣(ろうかく)!!」


瞬間、オーフェンの姿が世界から掻き消え、一瞬後に現れた場所はシグナムの目の前だった。

「疑似空間転移」
彼の師、チャイルドマン・パウダーフィールドが三大秘奥の内の一つにしてオーフェン自身の切り札の一つだった。
「――――ッ!!」
一瞬で、―――否、一瞬以上の速さで自分の前に現れた男に驚愕しながらも剣を構えようとして、気付く。自分がすでに変形を命じてしまっていたことに。
「シュランゲフォーム」では打ち合いなど望むべくもない。
(―――やられた!最初から「コレ」が狙いか!!)
相手の企みを看破するが遅い。息がかかるほどの超至近距離でオーフェンは身を屈め彼女のわき腹に手の平を押し当てた。
反射的に後ろに飛び退こうとする。が、同時にオーフェンの足元から凄まじい踏み込み音が響く。
「ぐ、―――っあ!」
バリアジャケット越しでも伝わる衝撃に苦悶の声を漏らす。気付けば彼女は地面と平行に「飛んでいた。」
そのまま数メートルも吹き飛ばされ、受身も取れずに地面に背中をしたたかに打ち付ける。
「がっ―――はぁ、あ・・・」
肺から空気を搾り出される苦しみに意識が飛びそうになるが堪え、必死に立ち上がろうとする、が―――
「終わりだ」
その時にはオーフェンはすでに王手に入っていた。シグナムの眼前に指先を突きつけたまま続ける。
「・・・・悪いな。今回は俺の読み勝ちだ」
「・・・・・・・・」
地面に膝をついた状態でその指先を見つめたままシグナムはしばし押し黙り、口を開く。
「・・・もし、私が」
「うん?」
「もし私があの時・・・レヴァンティンを変形させずに「見」に徹していたらどうしていた?」
「その時は遠慮なく魔術で狙い撃ちだな。あんたの敗因は俺のラストカードを見誤った事じゃない。俺に二度目の接近を許しちまった事さ。」
「そうか・・・」
その言葉に納得する。思えばあの突然の接近から全て彼の計算通りだったのだろう。自分はそれにまんまと踊らされてしまっていた。
なるほど、これは確かに・・・
「ああ、私の読み負けだ・・」
口元に自嘲の笑みを浮かべ、騎士は紙一重でも敗北を受け入れた。


「凄い・・・」
ティアナ・ランスターはその場を動く事が出来なかった。いや、おそらく自分以外の誰もがその光景に絶句しているだろう。
熱心なオーフェン党(ティアナが勝手に命名)のスバルでさえ目を見開いて唖然としている。当たり前だ。あまりにも予想外の結果なんだから。
なのはさんだけは「私の勘も捨てたもんじゃないなぁ」などと小さく呟いていたが
意味が分からなかったので無視しておこう。先ほどの戦いを思い返す。
(序盤は防戦一方だった。剣の腕でも明らかに負けてたし、距離を離してからも劣勢は続いていた。ていうか最初から最後まで攻められっぱなしだったかも。・・・でも)
終盤、前の攻防を囮に使った転移魔法、加えてデバイスの形態変形の隙をつくというオマケつき。相手の行動を二手三手先まで読みきっていないとこれはできない。
才能一つで出来る事じゃない。膨大な戦闘経験からなる予測、弱所を見抜くセンス、相手を自分の土俵に引きずりこむ駆け引き、一瞬のチャンスを逃さず物にする能力。
少なくともこれだけのものがなければまず実践するのは不可能に近い。
そこまで思い至った時、彼女は脳髄に強い痺れのような物を感じた。
「―――凄い」
意図せずに同じ言葉を繰り返す。声には先ほどよりもわずかに熱が篭っていた。


その後、午前の訓練が終わりオーフェンはなのは達と食堂で昼食を摂っていた。普段は一人かたまにヴァイスと二人で食べるかだが、
今日は訓練終わりに彼女達に誘われたのだ。
「で?・・・何でお前まで居るんだ?」
オーフェンは隣に座っているはやてへ半眼を向けながら呻く。その言葉にはやてがコーヒーを飲みながら同じく半眼で返す。
「・・・ウチの勝手でしょう。」
「・・・・まぁ、そうだけどよ。」
はやてとは午前の訓練を終わらせ基地に戻る途中で合流した。なぜか息を切らせて訓練所に向かって駆け込んできたのだ。
「でもホンマなん?シグナム相手に勝ったなんて・・・ちょっと信じられへんのやけど」
疑わしげにこちらを見ながら呟いてくるはやてに苦笑する。
「まぁ、奇策で拾わせてもらったみたいな勝ちだけどな。次同じことやったら俺の方が地面に転がってるよ」
「・・・怪我とかせんかったん?」
「あん?いや、そこらじゅう斬られまくったけどな。例の非殺傷設定とやらのおかげで怪我らしい怪我はねぇよ。」
便利なもんだよな、とこぼしながらパンを口に運んでいくオーフェンの方を見ながら独り言のように小さく呟く。
「ふ~ん・・・・心配のしがいないなぁ・・・」
「は?・・・何だって?」
「別に~?「何や、つまらんなぁ」って言うたんやけど?」
「・・・テメェ」
「ま、まぁまぁ、落ち着いてオーフェンさん。」
剣呑の雰囲気を醸し出したオーフェンをなのはが止める。そんななのはにフェイトが助け船を出す。
「なのは、あの話あの話!」
「え?あ、そっか。オーフェンさん!ちょっとお話があるんですけどいいですか?」
「・・・なんだよ、話って」
とりあえず落ち着いた様子でオーフェンが席に座りなおす。それを見てなのはがホッとした様子で咳払いを一つして話し始める。
「単刀直入に言うとですね、オーフェンさんには新人の子達の指導に回ってもらおうと思うんですけど。主にスターズの子達の」


「・・・正気か?」

信じられずに呟く。
「俺は魔法で教えられる事なんか・・・」
「教えてほしいのは魔法じゃないよ。オーフェンに教えてもらいたいのは主に戦術方面の事。
あの子達がどんな状況でも最適な判断が出来るように鍛えてあげてほしいの」
「特にティアナはその点でオーフェンさんからは学べる事がたくさんあると思うんです」
フェイトが間髪入れずに補足を入れてくる。それを聞いてオーフェンはわずかに考えるそぶりを見せる。
「・・・何か俺の事買い被ってねぇか?シグナムに勝てたのは―――」
「マグレだなんて言ったら怒りますよ?」
笑顔100%で言い切られた。バツが悪そうに頭を掻きながら言葉を捜す。
「・・・・いや、でもあいつらが嫌がるんじゃねぇかな?後から入った奴にアレコレ言われるのなんてよ―――」
「あ、その辺は大丈夫ですよ。ちゃんとみんなからアンケート調査済みです。賛成4の反対0で圧勝でした。人気者ですね」
「シグナムと同等クラスの人からの指導だもん。後とか先とか関係ないよ」
こちらの逃げ道を塞ぐようななのはの言葉にフェイトが乗っかる。・・・いや、逃げ道というのは語弊があるか。
多分その位置が機動六課にいる間の俺が一番有意義に動ける場所なのだろう。一応飛行魔法の習得という課題がある事にはあるが、
進み具合からして実戦投入できるのはいつになるやらというところだ。
それならモノになるのかどうかも分からない技術を磨くより自分の技術をフォワードの連中に叩き込んでやったほうがずっと建設的だろう。
そこで思考を切り、横でおかわりのコーヒーを注いでいるはやてに「どう思う?」と視線で問うてみる。
「・・・ええんちゃう?やってみても」
そう言って澄まし顔でカップに口を付けるはやてを見やりながら
「・・・そうだな、やってみるか」
やってみることに決めたらしい。

魔術士オーフェン 第5話(後編) 終


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最終更新:2008年04月11日 20:29