ジェイル・スカリエッティ事件から半年…

 スバル・ナカジマは、自身が望んだレスキューチームで任務に当たっていた。
「はぁああ!!」
 彼女の豪腕が、崩れかけた建物を粉砕する。
 工場の突然の爆発…スバルは残った人がいると聞いてその救出に当たっていた。
 自身もまた同じような火災を経験した身としては、こういった人を守ることは、かつての自分自身を助けるような、そんな気持ちもあった。
 しかし、今回は火の気の無い場所であることから…放火の可能性があった。
 それは、この火災の後、捜査されることだろう。
 スバルは壁を壊し、火を避けながら、救出のために移動する。
「確かに…ここらへんから信号があったはず」
 それはSOSと鳴らされた電話からであった。確かに人の反応もあったのだが…一体どこに。
 スバルはあたりを見回す。
「…スバル・ナカジマ。姉はギンガ・ナカジマ。
 元機動六課…新人でありながらスカリエッティのナンバーズに対抗、事件解決の功労者となる」
「誰だ!?」
 振り返るスバル。
 自分のことを調べて……まさか、自分を待っていた!?スバルはその相手を見定める。
 それは黒い、耳までかかる髪の女子…服もまた黒い、どこかの学校の制服のようなものを着ている。
 両手両足にはリングのようなものをつけ、高速で回転をしている。



「お前が、私をここに呼んだのか!?」
「…」
 その女は何も言わず、宙を飛んで、スバルに蹴りを入れてくる。
 スバルは両手でガードし、それを受け止める。
「そっちがその気なら!!」
 スバルの手がうなる。
 今度はスバルから相手に向かって拳を撃ちつける。
 女は両腕を回るリングを前に出して、それを受け止めるが、勢いは殺せず、壁にたたきつけられる。
「…機動六課で鍛えた拳は、こんなもんじゃないよ!さぁ、おとなしく投降しな」
 スバルは壁にぶつかった女を見ながら言う。
 女はふらつきながら、顔を上げた。
 前髪の奥に光る赤い目…に、スバルは一瞬、恐怖を覚える。

「…カグヅチ」

 女はそうつぶやく。
 轟音とともに、女の足元から巨大な炎の柱が立つ。
 スバルは後ろに下がりながら、その巨大な炎の柱を眺めた。
 炎の柱はやがて形となり、その姿を現す。
「な、なんだ…これ」
 それは竜…炎の竜。
 黒き炎の竜は頭に巨大な剣が突き刺さり、大きな羽を広げて、雄叫びを上げた。
 スバルはその巨大な竜相手に蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまっていた。
 炎の竜の上に乗る女は、スバルを見下す。



「…ガグヅチ」
 女はつぶやく。
 炎の竜の背中から風が吹き、竜の腹部から巨大な閃光が喉にへと昇っていく。
 やがて、口をあけた竜からは白い光を放つ巨大な火球が打ち出された。
 建物全てを巻き込む巨大な閃光があたりを包み込んだ。

 事件は、すぐに管理局にとり上げられた。
 だが、管理局を揺るがした事件…スカリエッティ事件からわずか半年。
 この短い期間で再び管理局を揺るがしかねない事件を大々的に捜査するわけにもいかず、
 管理局は内密に八神はやてを主軸とする特別部隊をつくることとなった。
 これははやてが、管理局に呼びかけたものである。
 メンバーは元機動六課のものが招集された。
 高町なのはとフェイト・T・ハラオウン、かつて管理局最大の危機を救った二人がまず呼ばれた。
 勿論、この前にははやてを守るヴィータ、シャマル、シグナム、ザフィーラの4名も揃っている。
「昨夜起こった事件なんやけど……スバルの話だと、竜と女いうてたみたいなんや」
「……スバル」
 スバルは、相当の重傷を負った。
 それでも彼女の体のことを考えれば、そこまで彼女を追い詰めたものが、いかほどの力を持っていたかは察しがつく。



「このことから…相手はおそらく召喚士やとおもう。それも…相当の使い手」
「…キャロのものを凌駕する力を持っていると考えたほうがいいのかな…」
 キャロのことを知るフェイトが聞く。
「そやな…詳しいことはわからんから…なんともいえへんけど。
 あの一体を草木も残らない場所にしてしまったんやからな…」
 そう…あの場所はまるでクレーター。
 なにかの爆心地のような状態となってしまっていたのだ。
「…でも、一体なんのためにスバルを…まだ、これからだったのに」
「え?いや、スバルは…」
「私は、絶対に許さない」
 なのはは、拳を握りつぶやく。
「絶対に、スバルの仇をうつんだから…」
「いやぁ…だから」
「スバル……お前のことは絶対に忘れない」
 シグナムが目じりをおさえる。
「だから!まだ死んでない!!」
「「まだ…」」
 はやての中途半端な突っ込みにシャマルとザフィーラは大きくため息をついた。
「……スバルもむくわれねーな」
 ヴィータはそんな一同を見ながらつぶやく。




 黒い…黒い…闇の中、それはいた。
 数人のものがそこには立っていた。
 そして、その中…学校の制服を着た女が、歩いてくる。
 その女は、前にいるものに話かける。
 前にいるイスに座った男はニタリと白い歯を見せる。
 男が微笑むと、その周りにいるほかの者達も微笑んだ。

「…諸君、研究を再開しよう…」
 男は微笑んだままつぶやく。

「この世界にも与えてやろうじゃないか……戦争を。地獄のような戦争を」



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最終更新:2008年04月16日 21:17