「お前だけが消えろ……」
そのロボットは無慈悲にそう告げて、プレシアを殴り、アリシアの亡骸を奪った。
結果、プレシアだけが消えていった。
それからしばらくして……。
「なのはー!!!」
翡翠屋の店主、高町士郎の手に握られていた手紙にはこう書かれていた。
一身上の都合により七つの海を旅してきます。探さないでください。 なのは
第一幕「Twinkle Talk」
海鳴市の沖合い約10km。
ぺペロンチーノ号の甲板で、高町なのはと、プレシアを殴ったロボット、ハカイダーが潮風を浴びていた。
「……」
「ハカイダーさんは何故この船に?」
「……スコットに、一緒に来ないか? と誘われてな。断る理由が無かったから同行することにした」
「そうなんだ……」
「……」
会話が途切れるのと同時に、ハカイダーを呼ぶ声が響いた。
「ハカイダー、ちょっと来てくれ」
この声に無言で反応したハカイダーはそのままエンジンルームに行った。
「アルフォンゾ、どうした」
「お前さんの銃、直ったぜ」
「助かる……」
アルから受け取ったハカイダーショットのグリップを握り締め、ハカイダーは礼を言った。
「試し撃ちは……駄目か?」
「海賊に襲われた時にしてくれ」
「わかった。ところで、例のアレは?」
「エンジンの複製がやっと終わったところだ。後は残りの部分を造って組み上げるだけだ」
「そうか」
甲板では、ナナミとなのはが談笑していた。
「なのは、ハカイダーっていつもああなの?」
「初めて会った頃よりは口数は多くなった方だよ」
「……あれで?」
「うん」
「ナナミ、なのは、どうした?」
甲板に戻ってきたハカイダーが、ナナミとなのはに声をかけた
「ハカイダーさん」
「今ちょうどね……」
自分の口数の事でナナミとなのはが話していたことを聞かされ、ハカイダーは少し感慨深げだった。
「そうだな……。あの頃と比べると俺は、お喋りになった方だな」
どんどん見えなくなっていく海鳴市を、ハカイダーはずっと見続けていた。
夕飯時、キッチン。
「……と、こんな感じだ」
アルがなのはとハカイダーに料理を教えながら夕飯を作っていた。
「そうなんだ……」
「ふむふむ」
なのはだけでなくハカイダーもエプロンを着けていたが、不気味なまでに似合わなかった。
「そういえば何でハカイダーさんも料理を習っているの?」
「アルフォンゾとお前が病気なり怪我なりで、料理を作れなくなったときに備えるためだ」
ハカイダーのその一言に、アルは思わず感心してしまった
「しっかり考えてるんだな……」
十数分後、今日の夕飯が出来上がり、食卓に上った。
その中には、なのはとハカイダーが作ったナポリタンがあった。
「これがナポリタンか。洋子から聞いたことはあったんだが」
「口に合う合わないは別にして、まずは食べてみてくれ」
ハカイダーに促されたスコットは、小皿に分けたナポリタンを口にした。
「旨いな」
その一言を合図に、ナナミとアルも食べ始めた。
数時間後、無事に領海、更に排他的経済水域も抜け、ペペロンチーノ号は台湾目指して外海を突き進んでいた。
操舵席にいるスコットが不意にハカイダーに話しかけてきた。
「ハカイダー、少し聞いていいか?」
「何だ?」
「もといた世界に帰りたいと思ったことは、無いのか?」
「毛頭無い。当て所なくさすらい続ける以外にやる事が無いあの世界より、この世界の方が好きだからな」
「そうか」
「一体どうした? 唐突に」
「……何となくさ」
二人の会話をよそに、夜の海を進むペペロンチーノ号目掛けて、一隻の奇妙な船が100ノット以上のスピードで海上を走っていた。
それに気付いたハカイダーが、大声を上げた。
「スコット、妙に細長い船がこっちに向かって来るぞ!!」
ハカイダーの声に反応したスコットは、ハカイダーが指差した先を遠目で凝視した。
「カスピ海の怪物だ!」
スコットが叫ぶのと同時に、色とりどりの光線がペペロンチーノ号目掛けて飛んできた。
「攻撃魔法だ!!」
ハカイダーの叫び声と、光線が海面に着弾する轟音で目を覚ましたナナミ、なのは、アルが慌てて甲板に出てきた。
「スコット、カスピ海の怪物とは何だ!?」
「正式名称は「エクラノプラン」。ロシア語で「ホバークラフト」という意味で、冷戦時に旧ソ連が開発した特殊な船舶だ。ちなみに、「カスピ海の怪物」という名前は祖国の諜報員が付けたあだ名だ」
攻撃魔法が飛び交う中、スコットがエクラノプランの説明をした。
「なるほどな」
「二人とも何のんきに話してんだ!!」
アルの怒声が聞こえ、我に帰ったスコットとハカイダーは、エクラノプランの方を向き直した。
「あのエクラノクラフト、何が目的なんだ?」
「恐らく、俺となのはを狙っているのだろう」
レイジングハートを起動させようとしたなのはに「俺に任せろ」と言って、ハカイダーはいつの間にか左手に持ったハカイダーショットをエクラノプランに向けた。
「……航海初日からこれとは、胸糞悪いな」
その一言と共にハカイダーショットから発射された、超高周波炸裂弾は白く光っていた。
弾が直撃したエクラノプランは一撃で破壊され、直後に(核爆発や火山の噴火よろしく)キノコ雲が発生した。
ペペロンチーノ号から数キロはなれた海域。
エクラノプランの破壊と、キノコ雲の発生の一部始終を見ていた高速艇がいた。
「テスタロッサ博士の仮説以上の威力だな……」
一人の大柄な男が呟いた。
その男は、右手が鋼鉄製の義手だった。
「自分がデバイスになっていた事を忘れていた……」
キノコ雲を見ながら、ハカイダーは呟いた。
「スコット、どうする?」
「全速力でこの海域から離れる。アル、エンジンを頼む」
「オーキードーキー!」
ティコと並んで、全速力で進むペペロンチーノ号の甲板で呆然と星を見ていたハカイダーに、ナナミは声をかけた。
「どうしたの?」
「……星のささやきが聞こえた、気がしたんだ」
台湾は、まだ遠い。
返り血ですら滑り落ちる黒いボディ。
返り血をも弾く白いドレス。
黒の戦士に幼き魔王と人の言う。
ミッドチルダの裏社会じゃ賞金首。
信念有用、情無用のトラブルメーカーズ。
賞金総額は台湾元で30億以上。
次回「Chase The Wind」
台湾は中国より中華料理が美味いらしい。
最終更新:2008年04月29日 09:30