「貨物車両は速度70で依然進行中! 上空のガジェット反応はほぼ消滅!」
「スターズ1とライトニング1、エンゲージ! 例のアンノウンは地上へと離脱していきます」
「制空権はすでに獲得……これよりガジェットⅡ型の追撃サポートに入ります!」
「スターズFとライトニングFは無事着地を完了しました!」


(どっどどどど、どうしようやっちゃった……まさかあの人死んじゃったのかな……)

スバル・ナカジマは着地してからようやく今起こった出来事を思い返していた
初対面から間も無いがこれから相棒となる新型デバイス『マッハキャリバー』をセットアップし
バリアジャケットを装備……その最中接近していた人物に気付かず足に装備されたローラーブーツが
その青年に直撃、しかもローラーが勝手に動きだしてしまって……

「……あ、このジャケットってもしかしてなのはさんの」
「なに現実逃避してんのよっ!」

即座に突っ込みを入れるのは現在進行形での親友にして相棒のティアナ・ランスター。
彼女に抓られた頬が伸びていく感覚を味わいながらスバルは慌てた口調でまくし立てる

「でもでも! わたしまだこれの扱い方に慣れてないし、加減もまだわからないから………」
「あのねえ……あたしたちのデバイスは非殺傷設定になってるのよ?」
「出血多量で死んじゃってたらどうするのー!?」

肉を傷つけた音と感覚が焼き付いてしまったスバルは晒している肌に鳥肌が立つ程に狼狽していた。
フォワードとしての初任務なのに唐突に殺人犯となって驚かない者はいないだろう
でも考えてみれば実際にやったのはローラーブーツに組み込まれたマッハキャリバーであってでも
やっぱりデバイスの持ち主である私にも責任があるわけであれそういえばあの人どこかで会ったような

「!! スバル、後悔も懺悔するのも後回し!」

思考回路が正常に稼動しなくなり混乱したスバルを冷静だったティアナが一喝する
車両の天井部分の形が歪み始めるのを見て敵が来るのを察知。
“ドライブ・イグニッション”
その音声と共にティアナは新型デバイスの『クロスミラージュ』を構えスバルに指示をだす。

「えっ? ……あ、来る!?」
「あたしが道を開けるからあんたは車両内の敵を!」
「あ、うん! わかった!」

とにかく今はレリックの回収、自分がやるべきことをやるだけ。
踏んづけてしまった青年が生きていることを願いつつスバルは車両内へと跳び込んだ。

「痛え……あんの野郎、よくも人の顔を踏んづけやがって……!」

そして顔を踏まれていた巧は一度は無事に着地したが血を流していたせいで上手く踏ん張れずに
数百mほどありそうな地表に向かって真っ逆さまに転落するところだったが
ぶち破ったリニアレールの窓に腕を引っ掛け車両内に転がるようにして入り込む

「うりぃぃぃやあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「………おい」

そこで待っていたのは飛行用とは違うガジェットの大群の歓迎、そして暴れん坊少女の一人舞台だった
溜め息の入り混じった呼吸を続けれながらも裏腹に戦いを見る目は未だ真剣……
レーザーが飛び交う戦場で疲れていた巧は腰を降ろして息を整える

「うおおおおおおおーーーーーーっ!!!」
(なんだってこんな……もういい加減にしてくれ)

その暴れん坊ことスバルの身体能力はかなり高くガジェットに拳を叩きつけて破壊した後に
動かなくなったそれを別のガジェットに向けて放り投げるという荒業を見せつけた
そして投げたと同時に爆発して分解されたガジェットの残骸は運の悪いことに休憩中の巧を襲った
左頬に続いて右の頬にも傷を負ってしまう、ガジェットの破片が顔を霞めていったのだ

(痛ぇ……またかよアイツは。まぁ目が飛んでないだけまだマシ……)
「リボルバー……シューーーッ!!」

スバルの右腕のリボルバーナックルが生み出した衝撃波をまともに受け
先ほどの思考を撤回する間も無く巧は身体ごと吹き飛ばされ壁に叩きつけられる
すでに両の頬から文字通りの出血大サービスだがもう気にするのも疲れた

(ちっ、こっちの防御フィールドも弱ってやがる……!)

巧のバリアジャケットから放たれる防御フィールドは魔力変換物質の力で強化されていた。
即ちそれは巧の魔力に比例して強くなりもすれば弱くなることもあるということになる。
しかし巧はそれをスバルの技で加速がついたせいだと思ってしまい……我慢の限界を超えた。

「どういうつもりだあいつ……もう許さねえ!」

その理由も間違ってないのだが完全に頭に血が昇っていた巧は他の理由を探すこともなく
外に飛び出した青髪を追うために立ち上がる、滴り落ちるほどの血で濡れた頬を拭いもせず

「おまえは、わたしと一緒に走るために生まれて来たんだよ?」

車両内から外に飛び出たスバルはそんなことも知らずに自分のデバイスにそう言い聞かせた
瞬間加速にグリップコントロール、ウィングロードの発動、そして先ほどのリボルバーショット。
何よりもその基本性能の高さに驚いた彼女は素直に感想を口にしていた。
だが“より強く、より速く走らせるために造られた”という言葉がなぜか引っ掛かったのだった。

“同じ意味に聞こえます”
「違うんだよ、いろいろと!」
“……考えておきます”
「うん」

インテリジェントデバイスであるマッハキャリバーにはAIとはいえ心がある。だからそう訂正した。
マッハキャリバーはまだわかってないが仕方ない、生まれて間もない子供にわからせるのは容易じゃない。
ならば一緒に戦う事で少しずつわかっていけばいいとスバルは考えていた

(あれ? ……なんだろこの匂い、ちょっときついなぁ)

突如感じた匂いの方角……列車に開けた穴から何かが見えた。見間違いだろうか、人間の手に見える。
これは錯覚? 中に突入したときにはガジェットしかいなかったはず
ライトニング分隊はスターズ分隊とは違い最後尾の14両目から突入している
レリックは7両目にあるからこちらまで来るはずがない、そして隊長達は空で戦っている。

(それに……わざわざ手をかけなくてもジャンプすればいいだけ、って)

そこまで考えてスバルはあるひとつの可能性を、思いたくない可能性に思い当たった
機動六課のフォワード部隊以外にもう一人空中で戦っていた魔導師が
初出撃の最中に自分が踏み潰してしまった魔導師が一人悲鳴を上げながら落ちていたことを
ここは高い上に崖も切り立っている、たぶんあの高さから落ちていったなら

「ま、まさか……もしかして……」
(あの時踏み潰しちゃった……もしかして幽霊……)
“危険です! 離れてください!”

マッハキャリバーの忠告ももはや意味をなさない、切り裂かれるような恐怖が身体を竦ませる
よく見るとその手はほぼすべてが紅く染まっている。
穴からはかなり離れているがそれでも鉄に似た異臭が鼻に入ってくる

「お……ま、えかぁ、はぁ……はぁ……」
「へっ……あ、ああ、あ……」
「見つけたぜ……さっきはよくも痛い目にあわせやがって……」

―――血に全身を濡らした青年が穴の中から這い出てきた瞬間、スバルの中で何かが弾けた。

「いっ、いやああーーーっ!! こっちに来ないで、成仏してぇ!!」
「おい……本気で殴られたいのかおまえは」

外見からはとてもそう見えないが内面はまだ気弱で内気だった彼女は恐怖の余り腰が抜けてしまった。
車両の上にへたり込んで足を小刻みに震えながら血塗れの青年こと巧が近寄ってくるのを直視している。
出てきた瞬間には並のホラー映画にも負けないほどの恐怖を覚えてしまう

「やめてお願い、許して……助けてぇ、呪わないでぇぇ!!」
「やだね、許せないし許さない」

絶体絶命なこの状況から逃れられないことを察した彼女はただ泣き叫ぶことしかできない
その巧の凄惨極まりない外見に自分が強くなるきっかけとなったあの事件
かつて火災に巻き込まれ、泣く事しかできなかった弱い自分も纏めて思い出す
過去の記憶がフラッシュバックしてしまい軽い錯乱状態へと陥りかけた。

「お願い……来ないで、こないでぇ……」
「おいどうし……!? 伏せろ!」

スバルの様子から只ならぬものを感じた巧はひとまず落ち着かせようとするが
背後に接近していた敵にいち早く気付く。巧は防御体制に入るが
伸びた黒い腕のような……鞭に似たそれの直撃を受け易々と弾き飛ばされた

「ひっ!! あ……あの……」
「痛ってぇな、まだいやがったのか……?」

悪態をついた巧とショックで恐怖が薄れたスバルが目の当たりにしたそれは先ほどの種類とは違う
人の身体以上はある球型のボディをしたそれは巧も見たことのない新型のガジェットだった

「新型が……なんでこんなところに……」
「こんな物騒なもん怪我人に寄越すんじゃねえ!」
“Phone Blaster Single Mode”

吠えながらも一撃だけ放って様子を見るがその高速直射魔力弾はAMFに遮られ消滅する
並のAMFなら貫通する一撃が通用しないのを見て巧は自分の限界を感じた

(もう力がほとんどないのか……それに奴のフィールドの力も他より強い……)

「おいそこの青髪! おまえは逃げろ!」
「……え?」

恐怖に奮えながらも立ち上がるスバルを見て巧は声を飛ばしたが彼女は意味がわかっていない
呆然としたままの彼女に再び巧は大声かつわかりやすい言い方で叫んだ

「ここは俺がやる、おまえはレリックに向かえ!」
「やるってそんな!? そんな大怪我してるのに……!」
「……おまえにいられても迷惑なんだよ」

巧のその言葉に少なからずショックを受けてしまうスバルだが巧は構わずに続ける

「いいからさっさと行け! 死にたいのか!?」
「……!」

息も絶え、魔力もほとんど残っていないはずの巧が迫力に気圧されスバルはその場から引き下がる
その小さくなった後ろ姿を見た巧は罪悪感にかられたが仕方が無いと諦めた
彼女たちの任務はあくまでもレリックの回収、それは彼女らにしかできないこと

(立ち塞がる敵を倒す事は、俺にだってできる……だから)
「って、倒せるかどうか考えてなかったな……」

大型ガジェットの中心から放たれるレーザーを跳躍して回避すると同時に振り下ろした拳を突き刺す
直撃したその拳でもわずかにボディを凹ませるだけで有効打撃とは呼べない

「!! こいつ、見た目より硬い……ぐぅっ!」

再び放たれたレーザーをなんとか避けるものの即座に伸びた黒い腕に弾き飛ばされる巧
車両を越えるように弾き飛ばされた巧は即座に起き上がるが
その時には既に大型ガジェットの周囲には先ほどスバルが一蹴した通常のガジェットが展開されていた


「ったく、うじゃうじゃとわいてきやがって……ちょっとは遠慮しろ!」

絶望的な状況でも血で濡れた手首を力強く振った巧は目の前の敵を一掃するために走っていく
Ⅰ型と呼ばれるガジェットの一斉砲撃にも構わず突撃し敵を倒そうとする

青い髪の新人に偉そうな事を口にしてしまった巧はここで引き下がることが出来なかった。

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最終更新:2007年08月14日 14:04