『無双』が『勝利の鍵』の元に集い始めた……。
槍を振るう竜。若き知謀の虎。
紅き闘志の龍。若き知謀の狐。
天に愛されし傾奇者。
そして、今。彼らと同じ時……。
求めるのは望みをかなえる力を持つ『魔王』と『ゆりかご』を復活せんと目論む。
ジェイル・スカリエッティと平清盛。
彼らもまた、始まりし宴の準備を整えるために二人の協力者を得る。
一人は『贖罪』の為に。
一人は『最強』の為に。
スカリエッティ軍 第1章
「お前がジェイル・スカリエッティか……」
広く、ほの暗い部屋。
政宗は目の前に立つ白衣の男にそう尋ねる。
「ああ、よろしく頼むよ。政宗君。」
そう言うと男は口の端を吊り上げ、ニヤリと笑みを浮かべて政宗に手を差し出す。
それが握手なのだと理解し、政宗は鋭く彼を睨んで言い放つ。
「まだ儂は貴様から話を聞いておらぬ。清盛から貴様の名前と貴様のやろうとしておることを聞いただけじゃ。
だから、まだ儂は貴様と手を組む気持ちにはなれん。」
キッパリとそう言ってスカリエッティの握手を断る政宗に傍に立っていたスカリエッティと巨漢の翁はさも面白そうに「ク、クク。ハハハハ」笑い声を零す。
「流石は我輩達が見込んだ男よ。」
「なるほど。なら先ずは君が私達に抱いている疑念を晴らしてあげよう。君はお母さんを蘇らせたいのだろう?」
スカリエッティの尋ねに政宗は複雑そうな表情のまま、コクリと頷いて答える。
「それが儂にとって罪の償いじゃ……。『魔王』を再臨させることが近道とはまことなのか?」
政宗の尋ねにスカリエッティは「もちろんだ。」と答え、彼の目の前にモニターを展開して『ある物』を見せる。
そこには一つの結晶体、その名前、情報も表示されており。政宗はその名を口ずさむ。
「レ……リック……ロストロギアか。」
「そのとおり。レリックは『魔王再臨』の宴には必要不可欠のロストロギア。これが我輩達の元に集いし時、卿の望みを我輩の術とドクターの技で叶えてやれるのよ。」
鉤爪のように鋭く尖った指先を政宗に見せ付けるように握りしめて開くと、清盛はその掌に紅黒い光球を発生させる。
それは生者と死者を惑わす光……。
一瞬、政宗はそれに視線を外せなくなりそうになる。
「卿も見て来たであろう……この男の技の成果を。」
清盛の言葉に政宗はこの部屋に来るまでに見たことを思い出す。
広い廊下の両脇に数えても数えきれないほどに並んだ数字が刻まれたカプセル。その中は液体、それに浸かっていた少女達。
清盛が言うにはあれは戦闘機人……。
確かに、あれがこの男の技の成果なのなら凄い。この男の目指す夢。
こやつら--スカリエッティと清盛なら、母上を蘇らせることも可能なのやもしれぬ。
「私達と組まないか?政宗君。」
政宗の心情を読んだかのようなタイミングで再び手を差し出すスカリエッティ。
そんな彼に政宗はしばらく考えを巡らす。
この男達は危険じゃ……手を組めば儂は大罪人。
いや--。母上を蘇らせたいと望んで施設を抜け出しておる時点で儂は大罪を課している。そんな儂が今更……。
ええぃ、フェイトの誘いを断った時点で何を迷っておる!!
自分に「居場所はあるよ。」と声をかけてくれた。話し掛けてくれた一人の女性の姿が心に精彩に浮かびあがり。
それらを政宗は頭を振るって消し去って、スカリエッティの手に自分の手を重ねる。
「……この伊達政宗。贖罪と二君らの望みの為に力になりたい。この話、受けさせていただく。ジェイル・スカリエッティ、平清盛。」
「ありがとう政宗君。改めて同盟成立だ。」
本当にありがたいよ……龍を宿す君の力を借りれるなんて。
スカリエッティは政宗に気付かれないように心で笑う。
また、清盛も。心底では政宗の悩み抜く顔を見て彼が会っていた女性と彼自身の共通点を見いだしてほくそ笑んでいる。
心底から殺した女を本当の母と思っておるとは純なる心よ……。まさかあの娘が妹である事など微塵にも思ってはおるまい。
クククク。冥府から戻り、捨てたもうひとりの我が子を見てあの女はどのような顔をするか……見物よ。
「スカリエッティ。」
「何かな清盛。」
「政宗はまだ身体に宿しておる龍の力を活かしきれぬ。そこで我輩の元にいる腕利き魔導師に魔法を学ばせ、使い魔を付けたいが良いかな?」
清盛の提案にスカリエッティは「ふむ……。」少し考え込むように間を置き。
「まだ外の妲己達と呼応するのには早いからね。政宗君、学んできたまえ。」
「師事を受け、使い魔を持つ。か……。承知した。」
「クフフフ……では政宗、参ろうぞ。」
た易く、首を縦に振る政宗の姿に清盛はほくそ笑みながら彼を伴って転送する。行き先はこのラボに植え付けるように空間を置く『厳島』である。
「政宗はともかく、あの清盛という男を信用して良いのでしょうか?」
巨体を誇る翁と政宗の姿が消えた後、一人の女性が姿を現してスカリエッティに尋ねる。
「平清盛……食えない男だ。が、彼が居る方が心強いのは確かだ。ウーノ」
問題ないと言うように彼はウーノと言う名の女性に呟く。
彼の内には海馬に焼き付いて離れない初めて会った時の清盛が鮮明に残っている。
『聖王のゆりかご』について研究していた時、『魔王』の存在まで行き着き。
そして、魔王の名を述べた時……彼は「貴様の望みは我らが遠呂智様の望みに似ておる……手を組まぬか?」と頭に囁いて現れた。
最初のうちは興味の無い男に過ぎなかったが、『平清盛』と聞いたら話は別だ……。
「旧暦のこの世界に魔王・遠呂智が姿を現した時にその力に魅せられた男だ。が、かつては今の管理局において「伝説」と言われている三人を育てた魔導師でもある。」
「過去の人物……という訳ですか?」
ウーノの尋ねに「ああ」と頷く。
「そして敗れて命を落とし……虚数空間に消えたが。魔王から与えられた力で不可能とされる虚数空間から舞い戻ったそうだ……。」
そう告げ、話を区切ると同時にウーノの元に通信が届く。
「ドクター。ルーテシアお嬢様が呂布を伴って戻って参りました。」
「…………。こちらに転送するよう伝えてくれ。」
待ちこがれていたよ……鬼神。
呂布の名を聞き、スカリエッティはなんとも嬉しそうな笑みを浮かべる。
それはまるで欲しがっていた玩具を与えられた子供のようなものであった……。
そして、光が発生し。
そこからルーテシアと、彼女に連れ添われるように巨躯の男の二人がスカリエッティの前に現れる。
「連れてきた……」
光が晴れ、彼を見上げ呟くように述べるルーテシア。
そんな彼女にスカリエッティは優しい笑顔で「ありがとうルーテシア。」と答え、男に向き直る。
「貴様がジェイル・スカリエッティか?」
鋭く、威圧の篭った低い声がかけられ。スカリエッティは頷く。
「ああ、よろしくね。呂布君。」
「……聞きたいことがある、答えろ「それは魔王と君の愛する女性の事とかな?」
「……」
言葉を遮られ、核心を突く質問に呂布は軽く舌打ちをして頷く。
やれやれ、鬼神の気の短さは困ったものだね……。
とスカリエッティはそう思い、苦笑を零してしまう。
「ルーテシアの母についてはこれから彼に教えて貰うと良い。ウーノ」
「はい。」
スカリエッティの呼びかけに傍居た女性は頷いて、モニターを展開させる。そこにはこの研究施設内にある訓練室が映し出されていた。
そして、そこに誰かを待っているかのように立っている男がおり。その姿を見た瞬間、呂布は今よりも険しい表情に変わり。無双が稲妻のように光を発して身体を稲走りだし、彼の周りの空間が揺らめいていた。
彼の変化にスカリエッティは自分の心が躍っているのがよく解る。
ククっ!クククク、周りを圧する存在感。まさに鬼神か……。
そして、呂布はモニターに映る男に懐かしさをも抱いていた。
かつての部下、ゼスト・グランガイツに。
……ゼスト。
「奉先。ゼストは望んでいるの……。」
ゼストを見据えていた呂布にそう告げたのは彼をここに連れてきた少女、ルーテシア。
彼女の言葉に呂布はそれがスカリエッティとゼストの望みなのだと悟る。
「ふん、良いだろう。試されるなど気に入らんが。望みと言うなら、この武を振るってやる。」
「頼もしい言葉だ……。」
承諾の言葉にスカリエッティはほくそ笑みながらルーテシアに呂布を訓練室へ案内させるように頼み、二人の後ろ姿を見送る。
「さあウーノ。呂布の力を余すところなく解析してくれよ。」
「はい。」
鬼神の戦いを見れるのは幸せなのかもしれないしね……。
~呂布・ゼストSide~
この研究施設における訓練室はかなり設備が整っている。
それは戦闘機人を大掛かりに生み出しているからこそ、戦闘訓練は欠かすことができないから。
中央の部屋から離れ、ルーテシアの案内で訓練室に辿りつき。呂布は躊躇うそぶりなども見せずに入室する。
久しぶりに踏み込む訓練室という部屋。
その闘う為に設けられた部屋でゼストと武を交わす。
呂布は今このことしか頭に入っていない。
そして、彼を待っていたゼストもひとつの思いに駆られて互いを見遣りながら立っていた。
「……久しぶりだな。奉先隊長。」
互いに鋭い視線を交わし、先に口を開いたのはゼストから……。
それに呂布は表情を変えることなく答える。
「ゼスト、貴様もな。 ルーテシアは離れていろ」
視線を合わせないまま、呂布は傍に居る少女にそう言い放つ。
だが、少女は心配そうな表情で呂布、ゼストの二人を見る。
ゼストもまた、呂布の意見に同じようで「危険な闘いになる。」と表情で言っている。
頷くことしか選択肢は残されておらず。ルーテシアは二人に従って心配そうに表情で離れていく……。
「ルーテシアとは初めて会うのか……。」
ぽつりとそう述べるゼストに呂布はただ黙って頷く。
「お前の後ろに隠れている融合騎にもな。」
見抜いているぞ。というような彼の言葉は見事にゼストの心を射ぬいてしまう。
「出てこいアギト。奉先はお前が考えてる以上に鋭い。」
ゼストの促す言葉に「わかったよ……。」と背後から少女の声が答え、彼の右肩の辺りまでゆっくりと浮かんで姿を現す。
まるで妖精のような小ささでいて気の強そうな顔立ち。
が、アギトと呼ばれたその少女はゼストと自分に刺すような視線を向ける呂布を見て途端に畏怖を抱く。
なんだよコイツ……。
踏ん張っていなくては身体をばらばらに破壊されそうな無双の力が目の前の男の身体を稲走り、空間が揺らめいているのが見える。
コイツはマジでやばい……。
「旦那!「黙っていろ小娘!!」
心配になり、ゼストを止めようと呼びかけたアギトを遮ったのは呂布であった。
刺す視線から殺す視線に変わっていることにアギトは黙ってしまう。
「ゼストは俺との闘いを望んでいる。そして俺は闘いを受けた……余計な水を注すのなら小娘。貴様から吹き飛ばすぞ……。」
「う……。」
それだけで見た者を殺すことが出来る呂布の威圧にアギトは目に涙を滲ませて黙り込んでしまう。
「……アギト、どうなろうとこれは俺が望んだことだ。」
アギトの頭を撫で、ゼストは呂布に向き直る。
「ルーテシアの--あの男の誘いを受けたということはお前はまだ『魔王』に心を捕われているようだな……。」
「最強となれるのなら何だろうが俺は魔王をたたき起こし、討つ。」
憮然とした口調で言い切る呂布にゼストは「やはり、変わらないようだな……奉先。」と呟き。
自身のアームドデバイスを起動し、アギトを見遣る。
それにアギトは渋々と「解った。」と頷き、ゼストの身体に溶け込むように入っていき。
彼の髪の色、身体を纏いし甲冑は金色に変化する。
ユニゾンを終え、ゼストは大きな槍へと姿を変えたデバイスを右手に握り、穂先を呂布に向けて言い放つ。
「ルーテシアとアギトの為にも、奉先。お前の本気(おもい)を……見せてもらうぞ。」
旧友の願ってもない呂布はそこで初めて嬉しそうに笑みを浮かべ。無双式デバイス『方天画戟』を右手に持って起動する。
瞬時にキーホルダーサイズのデバイスは等身大の長さに変化し、ハルバードに似た形状の戟の姿をあらわにした。
彼自身の姿は頭に孔雀の羽を一つ一つ繋げた触角のような飾りの冠を乗せ。金、赤、紫を基調とした無双ジャケット(※真・三國無双4のコスチューム)に身を包んでいた。
「良いだろう。ゼスト……『人中の呂布』の全力全開を受けてみろ!!」
「ああ、行くぞ。奉先!!」
『人中の呂布』または『鬼神』、『飛将』と数多の異名を持ち。次元世界にその名を轟かす無双の士。呂奉先。
かつて呂奉先の同僚として共にデバイスを振るった魔導師。ゼスト・グランガイツ。
数年前に生き別れた友は今再び
信念を貫く為に、託したい想いの為に対峙し。
……今、激突した。
続く
最終更新:2008年05月30日 16:25