魔王……。
それは旧暦の次元世界において人々の争いに力による究極の世界を創ろうとして介入し、大規模な次元震を起こした最悪最凶の存在。
公には『聖王のゆりかご』が原因である。と言われているが一説によれば『魔王』とこの『聖王のゆりかご』が介入したことで古代ベルカはダメージを受け、滅亡寸前まで追い詰められたというらしい。
しかし、それも一握りの魔導師達により平定され。『魔王』の存在そのものが歴史上から消されて新暦の次元世界に生きる者の多くは知らない。
反対に『魔王』の存在を知る者達は彼の最悪最凶の力を欲している……。
とある研究施設に『魔王』を待ち望む二人がいた。
大きななモニターに映るカプセル型の機械兵器を見据えながら声が響く。
「卿の兵器、なかなか順調であるな。」
「ありがとう。準備は揃っている……だが、もっと行動を起こすには足となる人材が必要だ。」
暗く広い施設の中、紫色の長い髪を揺らせて白衣を纏った男性が呟いていた。
廊下を歩けば両側には何体ものカプセルが並び、中は蓄えられた液体に漬かった少女達が眠っている。
「ルーテシアだけでは行動も狭まろう……が今はまだ手の内を晒すには早いぞ。スカリエッティ。」
男性の名を呼んだ男の声。
「二人ほど心辺りがあるのではないのか……?」
続けてそう述べた男は小さなモニターを展開しスカリエッテの前に見せる。
するとスカリエッティはそこに映るある二人の姿に口の端を吊り上げて妖しく微笑む。
「ふふ、君も察しが良いな……そうだ、飛将とプロジェクトFで生まれた作品さ。」
「まだ若いが惨めな生を歩んできたようじゃ。」
「ククク……あはははは!」
いつもはつまらない表情でいることがほとんどだが、スカリエッティは自分の興味がそそられるものには狂に等しい笑い声をあげる。
何時もよりも狂っていた……。
「ならば、そろそろ私の元に来させるか。飛将にはルーテシアを向かわせてみよう……。もう一人の方は「儂が行こう」
遮るように答えた男は暗闇からその巨体を現す。
その姿はバリアントジャケットと皮膚が混ざり合ったようで。瞳は血の如く朱く染まり、頭からは角が生え。『鬼』といった風貌であった。
「かの者は最強を追い求め、かの者は迷っている。人とは芯が真っ直ぐで迷っている時ほど脆く篭絡しやすい生き物だからな。」
「君は悪魔だね……。清盛」
呆れたようにそう告げるスカリエッティ。
にも関わらず彼らは笑みを絶やしてはいない。
「儂なんぞより、強い命を造りだす卿の方が悪魔ではないのか?ふふふ」
「痛いところを着くね、君は。ああ、そうだ妲己はどうしているだろうね?」
スカリエッティの尋ねに清盛は右手の拳を鳴らしながら答える。
「フフ、案外にも我らが準備する宴に招く客人に成り済ましておるやもな。」
「……儂の居場所か。」
ミッドチルダ保護施設。その中の厳重に分厚いシェルターで閉められたな部屋で一人の少年が水の入ったコップを片手に呟いていた。
その日の彼はとても忙しいものであった。
薄い思考で少年は思い出す。
こんな部屋にいるから今の時間など把握出来ないが、昼下がりであっただろうか……。
突然、施設の人間が現れて自分の手足に枷を付け始めた。
何なのだ?と思っていると、部屋に黒い服……制服のようなものを纏った金髪の女が入ってきた。
施設の人間は儂がこの女に危害を加えないように念をおして身体を押さえ込む。しかし、女は「大丈夫です。」と言って儂を押さえ込む人間達に止めさせるように促した。
「何故、彼は此処に?」
女は人間達に儂の出生を尋ねる。
「はい、この子はプロジェクトF関連で造られた名家のご子息のクローンです。ご子息が事故で亡くなられて母親がクローンを造るように手配したのですが、クローニングに失敗してしまい、右眼が無い状態で生まれ、その姿を母親から疎まれました。
そのこともあり永い間虐待を受け、ある日にこの子供は龍を召喚して母親や一家全員を殺害してしまい。この施設に送られてきたのです。」
……母親に?
女性は眼の前の少年の生い立ちと自分の生い立ちを重ねてしまう。
母さんに「いらない子」と言われ、私の全ては崩れた。しかし、私にはなのはやみんなが居た……。
けど、この子はなんの希望もなかったのだ……。ただ、右眼が無いから。そんな理由って無いよ……。
内に現れた言い知れぬ憤りに女性は気付かないうちにキュッと力強く手を握っていた。
「そういうことじゃ……。貴様は儂に、何の用なのじゃ。」
説明の最中に。決して、顔を見ようとせずに少年は俯いたまま女に聞いた。
「止めておいた方が賢明です。この子は「もう結構です。この子の枷を外して下さい、引き取ります……。」
聞きたくない。ここの人達は前も。
キャロの時もそうだった……キャロの時もここの人達は彼女を化け物を見るような眼で見ていた。
「貴様が引き取る……だと?」
俯いたまま。少年は女に再び尋ねる。しかし、その口調は低かった。
「うん。貴方の居場所は「儂に居場所など無いわ!世迷い言をいうな、馬鹿め!」
女の言葉を遮るように少年は叫ぶ。が、女は顔を横に振る。
「そんな事、ないよ……」
「いけません!「大丈夫です。」
制止を振り切り、女は少年へと歩み寄る。
しかし、少年にとっては……それが我慢ならなかった。
「なら……なら貴様に何が解る!?母上に見捨てられ、無い右眼を醜いと言われ、それでも……。それでも殺したくなかったのに殺してしまった儂の心を、貴様なんぞに何が解る!!」
次第に少年の右眼の凹みから異様程の魔力が発し始めた。
それでも、女は優しく微笑み。少年にゆっくりと歩み寄る。
「……寄るな。儂に近づくな!独眼竜が貴様を殺すぞ!寄るなっ!」
女は、少年の言葉を受け止めるように彼を抱きしめる。
少年は言葉を失ってしまう。
「大丈夫だよ。貴方がいなくて良い場所なんて無いよ。」
温かい……。
何なのじゃ……この女は。
いままで冷ややかさしか感じたことのないこの儂に温かさを感じさせる。
こんな奴に怯えるとは儂は馬鹿じゃな……。馬鹿め。
身体を覆うように発していた魔力は収縮し、右眼へと戻ってゆく。
「……すまん。」
「ううん、私もいきなり抱きしめてごめんね。」
「……い、嫌ではなかった。」
赤くなった染まった顔を恥ずかしさから見せたくない少年は彼女から顔を背ける。
「大丈夫ですから、彼の枷を外して下さい。二人だけで話がしたいので。」
女の言葉に施設の人達は頷くしか出来ず、ただ黙って少年の枷を外し。部屋を後にした。
「結構、偉いのだな。貴様」
少年の素直な感想に女は怒ったように否定する。
「貴様じゃないよ。私はフェイト。フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。」
「す、すまん……儂は、伊達政宗じゃ。さっきの話……居場所と言ったな。」
政宗の問いにフェイトはこくんと頷く。
「政宗は一人じゃないよ……。」
が、政宗は首を横に振った。
ソレが予想していなかった行動からか、フェイトは驚いてしまう。
そして、彼は背を向けて答える。
「儂は……怒りに任せ。母や、皆を殺めた。未だ罪を償っておらぬのに居場所などない。」
その重苦しい声からフェイトは……。
同じく、生母を失ったフェイトには政宗の悲しみはよく分かる。が、自分よりも彼は深い闇に落ちている。
と悟らせた。
「…………」
言葉が出ない。
「儂はいましばらくこの場所で罪を償う。が、誘ってもらった気持ちには感謝しておる、フェイト。」
そう告げてから、儂はフェイトに帰るように促し、その時のフェイトは悲しそうな顔していた。
儂の前から完全に去るまでずっと。
それがずっと、頭に強く残っておる。
温かさをくれたからか……。
「だからこそ……フェイトのいう居場所は、儂には。」
ギリっと歯を噛み締めて呟く。
『卿の望み叶えてやろうか?』
「!?」
突然響いた声に政宗は辺りを見回す。しかし、隔離されて部屋に入るには眼の前のドアしかない。
『フフフ、こちらよ。』
再び響く声。
聞こえた方へと眼を向けるが自分の影しか無い。いや、影から聞こえたのだ……。
「誰じゃ……」
『卿の罪を償うことが出来る者よ。』
「何……?」
あの女性にしか話したことの無い。自分の願いを述べた影を政宗は鋭く睨む。
次第に右眼の凹みから身体へと魔力が溢れ出す。
「もう一度、ほざいてみろ。貴様を殺す!」
部屋に響く、憤怒の声。
しかし、影は恐れたふうを見せずに答える。
『魔王復活に力を貸せば家族を蘇らせることが出来る。』
「何……?」
影の言葉に身体を覆った魔力は霧散していく。
「馬鹿げたことを吐かすな。母は……儂を『無論、その忌々しい右の凹みに眼を与えることも容易じゃぞ。その姿なら卿の母も卿を醜く見ぬじゃろう。』
左眼が見開き、瞳が影から宙へと移り、力無く追う。
「右眼を治す……この呪われた穴に眼を?」
『儂と知り合いの研究者に任せればな。 来い、卿は此処で燻っているよりも望みの為に力を使うべきよ。』
スーッと影から姿を表した鬼のような男が政宗の心を揺さぶりはじめる。
「……儂は……儂は。」
『悩むならば、儂についてこい。』
「違う、そんなことでは償いの意味がない!」
『数年生きたばかりの若僧が罪を償う意味を語るか!!』
「……ぐっ、しかし。蘇るなど」
『それでも儂が信用出来んなら儂を殺すが良い。』
「…………」
『さあ答えるがいい、独眼竜……伊達政宗よ!』
ドスンと全身を殴るような衝撃が政宗の身体を襲った。
しばらくの間を沈黙の空気が支配する。そして……。
「…………罪を償うのが儂の願い。母上や皆を蘇らせることが出来るというなら、貴様に手を貸す。が、それが嘘なら儂は貴様を殺す!」
政宗は男を見上げながら立ち上がる。
『良い、判断じゃ。儂は平清盛。冥府より舞い戻りし男よ。 さあ、まずはドクターに会わせよう……フフフ』
嬉しそうにキヨモリは口の端を吊り上げ、政宗を影に連れ込む。
この時の彼の頭の片隅にはある女性の姿がまだ残っていた事を知りながら……。
※第22世界・カヒ北部の平原。
清盛が政宗を説得していた頃、気温の低い風が舞うこの平原に一人の大柄の男がある少女と立っていた。
「この俺にスカリエッティ等という雑魚と組めと言うのか……小娘?」
「……そう。ドクターの夢を叶える為に。」
紫色の長い髪が風でたなびくも、少女は気にとめず男を見上げる。
「下らん。妄想に浸る豚などに付き合う気はない。失せろ」
男は突き放すように背を向けて口笛を吹こうと指を加える。
「魔王と闘える。」
「何……?」
『魔王』……。少女が告げた名称に男は加えていた指を離す。
「管理局に居た時に貴方が追い求めた存在と会える。」
「……何故、それを知っている。小娘」
振り向くと男からは強大な殺気が溢れ出している。
少女は鋭く、見る者を射殺すような彼の視線に圧されるがそれでも懸命に答える。
「ゼストとお母さんが貴方の仲間だった……。」
「……ゼスト、小娘の母?」
思っても見なかった二人の名前に男から殺気が消える。
奴らだ、と……!?
それほど気にも止めなかった少女の姿に、男は記憶の中にある姿を重ねる。
自分が魔王を追い求めたが為に生き別れた同僚の二人の姿を……。
「なら母は……メガーヌ・アルピーノか……おまえの母の名前は。」
恐る恐る尋ねる男に少女はコクリと頷いて答える。
「私はルーテシア。メガーヌはお母さん。」
少女の答えに男は興味のなかった話につき動かされ始める。
自分の愛した女性の娘から、自分の追い求め、越えるべき天と見据えた存在の『魔王』を聞かされれば無理もなかった。
「俺は呂布、字は奉先だ……良いだろう、そのスカリエッティとかいう豚野郎に会わせろ。 ルーテシア」
その返事にルーテシアは静かに頷き、彼の手を握る。が、男はギロリとルーテシアを見下ろす。
「何のつもりだ?」
「わからない。……ダメ?」
「ふん……好きにしろ。」
メガーヌと似通った彼女の表情に男は複雑そうに答え。
ルーテシアは彼と繋ぐ手の力をきゅっと強くしながらグローブをに力を篭めて転送魔法を発動して、平原から自分達の姿を消す。
ミッドチルダ中央区画湾岸地区。
「呂布さんのGET作戦成功したようね♪ルーちゃんやるじゃない~。」
手元に表示する小さなモニター越しに二人のやりとりを見ていた金髪の女性はどこか、嬉しそうにそう述べる。
「っと。六課の人居るなぁ。」
この地区に新しく建った為、眼の前には建物の中に荷物を運ぶ人の姿。建物を嬉しそうに見上げる管理局員の姿が視界に入り、女性は眼鏡を掛けて制服の人へと歩み寄る。が、
「眉毛書いてるわよね私?」
さささっと物陰に隠れて空間から鏡を取り出してで自分の顔を確認する。
制服も、間違ってない。身嗜みは……良し。私ってば可愛い~♪
鏡を直し、女性は気を取り直して歩きだして先程見かけた人とは違う二人の女性局員へと声を掛ける。
「失礼します~。」
「あ、はい。」
「本日から機動六課「ロングアーチ」スタッフとして情報補佐を担当する。ダッキ・ユウ二等陸士でーす♪」(※姿は魔王再臨3コスの耳無しです。)
「貴方もなんですか?」
ロングアーチスタッフと聞き、二人は嬉しそうに微笑む。
「私達も「ロングアーチ」スタッフなんです♪私は整備と通信担当のアルト・クラエッタ二等陸士です。」
「あ、私は情報処理担当のルキノ・リリエ二等陸士です。よろしくお願いしますね♪ダッキュウさん」
ピシッ!
「名前はダッキ・ユウね♪」
可愛いいなぁも~♪
二人の同僚にダッキも思わず微笑んでしまう。
彼女に関してそれは本能的興奮みたいなものであった。
これからこの娘達を含めた人間達を追い込む事への。
「よろしくね♪」
色んな意味で♪ふふふ♪
こうして政宗、呂布。二人の存在がスカリエッティの元に向かい……。ダッキが潜入したことで。
次元世界で魔王再臨を巡る物語が始まった。
最終更新:2008年05月30日 16:22