本日の献立は!
…肉じゃが! おひたし! ぬか漬け!
味噌汁の具は、油揚げとほうれん草なり。
配膳確認、各自、箸の置き忘れはないか?
ヴィータよ、速やかに席につけ。 飯が冷めるなり!
シグナム、シャマル、リィン、はやて、覚悟…着席完了。
ザフィーラに猫まんまの用意あり。
全員…そろった、準備よし。 いざ!
「いただきます」
強化外骨格は飯を食えぬが、家族は皆で食事を摂るが八神家の掟なり。
今宵もただ、食卓に席並べて鎮座す。


魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果

第四話『葉隠禁止(前編)』


あの日、いきなりはやてが知らない男を連れて帰ってきた。
シャマルがそいつの名を知っていた…葉隠覚悟。
クソ重てえユニゾンデバイス、零(ぜろ)のマスター。
大ケガしてるくせに空港火災で人助けに走り回ってた、
死んでない方がおかしいケガで走り回ってたやつだ。
それだけでも胸クソ悪い…のに、一緒に話してるはやてが楽しそうにしてるのを見て、決定的にムカついた。
最初は数日世話になるだけ、とか言ってたけど、何考えてんだか全然わかんねーし。
わざとお茶、頭にこぼしてみても、なんにも言わねーで拭きやがるし。
怒るとかなんとかしろよ! バカにしてんのかよ!
あの目つきがムカつく。 なんか色々見透かされてるみてーでムカつく。
もっとムカついたのは、こんな風にキレてたのがこのあたし、ヴィータ一人だけだったってことだ。
シャマルがいきなり言い出しやがったんだ。
「いっそ、ここにずっといれば? 覚悟君」
入院中はずっと身の回りの世話してたんだっけか、情が移りすぎだってんだよ。
「はやてちゃんは簡単に言うけどね、首都圏だと住む場所も高いのよ」
おめーこそ簡単に言ってんじゃねえよ、男だぞこいつ。
「はやての力になる気があるなら、ここに居る方がよほど実際的だ」
なのにシグナムまでこれモンだったから、あたし一人で認めねー認めねーって言ってたら、
「本日まで、まことお世話になりました」
荷物まとめて敬礼してよ、さっさと出て行きやがったんだよ、あいつ!
完ッ璧あたしが悪モンじゃねーか、ざけんな!
その後、はやてに本気で怒られた。
「覚悟君、独りぼっちなんよ。 独りぼっちの子をほっぽり出すなんて最低や」
全員で探しに出て、なのはとフェイトにも手伝わせて、
明け方、あいつが高級住宅街の川べりで座り込んでたのを見つけたのは、よりにもよってあたし自身だった。
帰ってこいなんて言いたくなかった。 あたしは心を許していない…だから。
「メシ、できてんぞ、来いよ…いいから!」
それで突っ張り通して連れ戻したのが、早くも半年前の出来事だ。
今じゃずいぶん慣れたもんだよ、我ながら。
はやての言う通り、あいつが管理局の仕事を手伝うこともあった。
戦力としては、くやしいけど認める。
うちに来て早々、なのはとの対戦結果を聞いてたシグナムが心待ちにしてたみてぇに模擬戦を申し込んだんだけど、
正午に始めてから日が落ちるまで、ずーっとにらみ合ったまま動かねえのな。 で、最終的には、
「積極!」
「紫電!」
同時にしかけて相打ち。 剣と拳が紙一枚の隙間で止まってた。
「葉隠覚悟は袈裟懸けに深き一太刀浴び、即死いたしました!」
「烈火の将シグナム、貴様に首を砕かれて二度と立てん!」
「零(ぜろ)の意志、果たせぬまま終わりました」
「主はやてを置き去りに散ってしまったか」
「不甲斐なき也(や)!」
「私もだ!」
なに、固い握手してんだよ。
戦い通じて友情はぐくんでやんの。 これだからバトルマニアはイヤだよ。
それからはもう、ヒマを見つけては試合(しあ)ってて、たまにあたしも巻き込まれたから、
弱いわけねーってのはよーくわかった。 ラケーテンハンマーを『因果』された時は最低の気分だった。
回転始めて力を溜めた瞬間に「隙あり 因果」とか、やってらんねーよマジで。 空気読めってんだよ。
おかげで、より遠くから打ちかかれるように技自体を改良するしかなかった。 そんくらいには、強い。
だから、ガジェットドローンを素手でズッコンバッコンぶっ壊されても、別に驚かなかったな。
零(ぜろ)は仮封印処置を取られてて許可がないと使えねぇって話で、
シグナムと立ち会ったときにも実際装備しなかったけど、ぶっちゃけあいつ武器いらねーって。
ま、そんなこんなのそんなこんな。
全員一緒の休日がとれたあたし達は、遊園地に行くことになった。
クラナガン・サン・ガーデン。 最近できた遊園地だとか。
んなことはどうでもいいんだ、楽しけりゃな。
だけどよ…こいつ、完ッ璧、ダメだ。 マッハがつくポンチ野郎だ。
はやてにムリヤリ組まされて、その辺はっきしわかった。
ガンシューやったんだよ、ガンシューティングな。
『スーパー・リアル・アサルト3』。
最近ゲーセンに入ったばかりの新作が、大迫力の立体映像で遊べる。
遊園地だと後がつかえるから、二人プレイでライフ共有になってるけどな。
うん、まあ、銃自体はうまかったんだよ。 ほとんど百発百中であきれたしな。
だけど弾は切れるようにできてるのがゲームってもんで、
「弾、切れるだろ、あれ撃てよ」
向こう側に出てきたカートリッジを指さしたんだけどよ…
「なにやってんだよ、撃てってば」
「火薬の塊たる弾倉に銃弾叩き込むなど、正気か、ヴィータ!」
「いやこれ、ゲームだから! ゲームだから!
 そういうモンなんだってば、そういうルールなんだってばよ」
「しかし…これはリアル、すなわち現実的であると銘打たれていたからして、そのような…」
「だーっ、アホヤローッ」
銃をぶん取ってあたしが撃ったら、弾が満タンになって、
あいつは釈然としない顔でゲームを続けてた。
あたしもぶちぶち言いながら結構先まで行けたんだけどよ、それで終わりじゃなかったんだよなあ。
ガンシューだとよ、ヘルプミーとか言って出てくる民間人いるじゃん。 撃つとワンミスになる邪魔なやつ。
ボスの直前に大量配置されてたんだよな、今作。
それを、あいつな…反射的に撃っちまったのな。 アーオゥ! とかいう悲鳴と一緒にワンミス。
「…今のは!」
「民間人だな、撃つとワンミス」
「なんだと…」
「あいつの盾になるよーに配置されてんじゃねーかな」
「外道許さじ! 正しき因果極めてやる」
んで、銃をピッタリ構えたかと思ったら、奥にいた敵キャラにしこたまぶち込みやがった。
一発撃てば死ぬのによー、こいつはもー。
「あらがえぬ人々の痛み、覚えたか」
「ノリノリだよな、おめー…あ、でも一発残したのな」
弾の補充のために残したか、やっと飲み込めてきたみてぇだな。
ここからはフツーにやれそうだ、そう思ってたのによぉ。
「…何やってんだ? それ、何のマネだ?」
「自害なり」
大真面目に銃口をてめえの頭に向けているこいつに、そろそろ泣きたくなってきたあたしは正常だよな?
「誤射にて罪なき人の生命を絶ったとあらば、我が生命、捧ぐ以外に償う途(みち)なし」
「だから、これゲームだから! それより、ボスが来っぞ」
「首魁(ボス)!」
また眼鏡をギラリと光らせやがった、こいつ。
嫌な予感がするんだけどよ、とりあえず言うだけのことは言って…
「弾一発じゃどうしようもねーから、おめーはすっ込んで」
「問題なし」
「はぁ?」
「胸すわって進むなり。 正義に敗走は無い!」
もう、何言っていいんだか全然わかんねえ。
その後すぐ、ライフ共有のせいで、あたしもろともゲームオーバーになった。





「あっはっはっはっは!! ふわはははははははっ!!」
何が悪かったのであろうか。
てめえはリアルで死ねと言われて蹴飛ばされたゆえ、
昼食がてらはやてに一部始終を伝え是非を問うてみたのだが。
…なにゆえ、皆は笑うのか?
シャマルに、リィン、シグナムまで。
「あー、もうダメ、お腹痛くなっちゃって、もう…あはは、ははははっ」
「お腹が痛い?」
「言っておくが違うぞ覚悟、ぷっ、くくくくくっ」
食事に悪いものでも入っていたのかと立ち上がりかけたのを
シグナムの両手に軽く制された。
「いや、すまん、おまえを笑い物にする気はない。
 むしろその馬鹿正直さは好ましい」
「なにが悪かったかって、本気で聞いてるんだもんね、ふふっ」
「リィンはそんな覚悟くんが大好きなのですよー」
「わたしもや。 もー、ほんと、覚悟君らしーわぁ」
笑い物にされているなど、最初から思っておらぬなり。
皆の微笑みが、これほどに暖かければ。
ザフィーラに目をやると、尻尾をひとつ振って寝転んで居た。
その脇にかがみ、なにやら下を向いていたヴィータが立ち上がり、こちらに向けるは鋭き視線。
「どいつもこいつも…あたしの身に、なれッ!」
ずかずかと歩み来て、わが傍らに置かれたトランクをばんと叩く…何をする。
「零(ぜろ)よぉー、おまえ、こいつにどういう教育してんだよ、こらぁっ」
『我らはただの強化外骨格なれば、常識一般を教えることはできぬ』
零(ぜろ)はすでに心を許していた。 はやてに近しい人全てに。
やはり、はやて主導による徹底した人間扱いが効いているのかも知れぬな、と思う。
零(ぜろ)も一度は止めたらしいが、郷に入りては郷に従えと逆に諭されてしまったという。
ヴィータがこうしてからむのも、今日では日常茶飯事なり。
「にしてもよぉー、もうちょっとよー」
『生まれた世界が違うのだ! やむをえぬ部分は許してくれぬか』
「あんまり、零(ぜろ)を困らせたらあかんよ、ヴィータ」
荒れる様を見かねてか、はやてがたしなめにかかるも、
ヴィータはますますへそを曲げている様子。 やはりおれに落ち度ありか。
「あたしが困らされてんだよ、こいつに!
 とにかく、もうあたしはイヤだからな、こいつとは行かねー」
「よくわからぬが、申し訳ない」
「謝ってんじゃねーよ、もっとムカつくんだよ」
ではどうしろというのだ。
半年も共に生活しているが、このヴィータのことは未だわからぬ。
彼女らは皆、かつては闇に囚われた戦鬼(いくさおに)であったとは
シグナム、シャマル自身の口よりすでに聞いており、その強さにも首肯せざるを得ぬが、
日常のヴィータがただの少女に過ぎぬことに変わりなし。 おれの何が彼女の機嫌をそこねるのか…
「ほなら、しゃーないわぁ」
はやてが席を立ち、おれのとなりに来た。
彼女もまた、たまにわからぬことをするので困るが…
「覚悟君、一緒に行こか。 お化け屋敷」
「お化け屋敷?」
「ヴィータが行きたないみたいやし…怖いんやね」
「彼女ほどのものが恐れる場所とは!」
奇っ怪至極!
遊園地、まっことわからぬ場所(ところ)なり。
先の射撃訓練施設といい…ここは民間人の遊戯場ではないのか?
「わたしは覚悟君と一緒なら怖ないねん」
「了解、謹(つつし)んで護衛させていただく」
…なぜ笑う、シャマル、シグナム。
これは試されていると見るべきか。 よかろう、ならば応えよう。
お化け屋敷がいかなるものであろうとも、はやてに指一本触れさせぬなり!
「征くぞ!」
「うん。 みんな、零(ぜろ)のこと見ててなー」
「待て、っつの」
突如、足を踏みならしたヴィータに振り返ると、
またずかずかとした足運びにて我らの征く道阻みたり。
「止めるな、ヴィータ」
「あたしも行くってんだよ」
「怖くはないか」
「ざけんな」
「良し!」
やはり彼女も戦士であった!
ならば共にいざ征かん。 目標、お化け屋敷!
「あ、リィンも行くです、行きたいですーっ」
―――これが、わが腑抜けぶり思い知る、実に五分前であった。





「覚悟くんたら、もう、ねえ?」
「まったく、少しは洒落のわかる男になれと言いたいが…どうした、零(ぜろ)?」
『侵略行為が行われている!』
「…なに?」
『半径50m以内、室内なり』
「なん、だと」
『追うのだ、覚悟を! はやてを!』
「言うに及ばず!」





「くるしい、ひぐっ、たすけて、息が…」
「撮るよーっ! 次は脱いでスマイル!」
「い、いやだあっ」
「お肉も脱いでスマイル!」
「ぎゃっ、ぐぶげっ!」
「バッチリ撮れたよー、お代は結構! だってボクの写真は芸術だから!」
「ひ、人喰った…お化け屋敷に、ホントにオバケ…おまえ、なに? ナニモノ?」
「ボクは戦術鬼(せんじゅつおに)、激写(うつる)! さあスマイルスマイル、撮るよーっ!」
「助け、うげぇっ」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年08月14日 14:21