第7話 帰ってくる君



 外ではグラヴィオンが2体のゼラバイアと戦ってる他、スバルとリインを捜していたシグナムとアイナが避難所まで逃げ遅れた人達を避難所に誘導したり運んだりしていた。

「避難所はこちらでよろしいのですね?」
「はい」
「ありがとうございます」


 シグナムとアイナは誘導する人達から感謝の言葉をもらう。二人は感謝の言葉をもらいながら同じ事を考える。

「シグナムさん…」
「はい。他の近くの避難所を見ましたがスバルとリインの姿はありませんでした。恐らく今行く方の避難所にいるのでしょう」
「そうですね……。だったら少し急がないと……。シグナムさん、先に行ってください」
「ですが……」

 飛んでいるシグナムの背中には5歳くらいの子供が1人いたのだ。急ごうと思えば急げるが背中に居る子供が急ぐスピードに耐えられるかはわからない。
 そんなシグナムにアイナは自分に任せるように勧める。

「だったらその子はこちらで預かります。シグナムさんは先に……」
「…わかりました」

 シグナムはアイナに抱えてる人を任せて先に避難所に向かい、アイナの背中には5人ほどの子供や老人が抱えられる。

「皆さん、少し急ぎますけどいいですか!?」
「わかりました」
「お任せします」

 アイナは世話係として鍛えていたのでこれくらいはわけはなくもないがいけないわけではない。
 アイナは火事場の底力の如くのパワーとスピードで避難所に向かって走る!
 その一方ではグラヴィオンがグラヴィトンソードで敵の攻撃を防いでいる。

「グラヴィオン、重力安定指数65%」
「重力子臨界まで7043ポイントです」
「スバルとリインはまだ見つからないのか?」

 司令室ではグラヴィオンの限界を聞いて、クロノがせかすように尋ねる。

「戦闘地域周辺に強力なジャミングが張られていて、通信が出来ません…」
「ジャミングか……」

 「ジャミング」と聞いて、ヴェロッサは手をあごに添えて考え込んだ。


 スバルとリインは瓦礫から自分達を庇ってくれたノーヴェを見て泣きながら謝る。

「リインのせいです……」
「リインのせいじゃないよ。あたしのせいだ」

 二人が自分を責めあいをしていると意識を取り戻したノーヴェがスバルの顔に手を近づける。
 その時のノーヴェの腕からは何やら機械が動くような音が聞こえたのをスバルは聞き逃さなかった。

「ノーヴェ!」
「………」
「もしかして神経ケーブルが?」

 スバルがノーヴェを気付かおうとするとノーヴェはスバルの顔に近づけていた手をスバルの服の胸倉の方にやって襟をつかむ。

「あたしの事はいい。それよりもグラヴィオンに乗れ……」
「え?」

 突然の事でスバルは一瞬呆気に取られてしまう。

「グラヴィオンに乗って戦えってんだよ!」

 ノーヴェはスバルに対して怒鳴る。

「守るんだろ? 人を……。あたし達そう言うとこにいるじゃないか……」
「ノーヴェ……」
「だったら早くグラヴィオンに乗ってあいつら倒して守れよな。もし負けたら承知しね…え…ぞ……」

 ノーヴェの手はスバルから離れ、ノーヴェは再び意識を失う。

「ノーヴェ……」

 スバルは泣きながらノーヴェを強く抱きしめる。自分は双子の妹に迷惑をかけてしまった。
 その罪をスバルは悔やむ。そんな泣いてるスバルにリインがふと思った疑問をスバルに尋ねた。

「あのスバルさん…、さっき『神経ケーブル』って言ってましたけど……」
「……うん」
「あれってどう言う……」

 リインがスバルに事情を聞こうとするがスバルはさらに顔を伏せてしまう。

「ごめん、詳しい事はまた今度話すね」

 スバルは今はノーヴェの(本当は自分やギンガや他の面々も含む)事について話すのは後にすると言い、立ち上がる。
 その時になってようやくシグナムと少し遅れてアイナがスバル達と合流する。

「アイナさん! シグナム!」
「お前達怪我はないか?」
「ないです。けど……」

 リインが重い表情でノーヴェの方を見る。リインの顔と周りを見てアイナとシグナムはすぐに察しがついた。

「わかったわ。その子は私達が引き受けるわ。とりあえずその子をこっちに…」
「はい」

 スバルは抱いていたノーヴェをアイナに引き渡す。

「とりあえず医務室に運びたいけど……」

 アイナがそう言っているといなくなったノーヴェ達を捜しに来たチンクとセインとウェンディがやって来た。

「ノーヴェ!」
「うわ! どうしたんすっスかノーヴェ!?」
「怪我をしているのか…」

 チンクが心配そうにノーヴェに近づき、スバルがチンクの耳元でノーヴェの状態を話した。

「そうか……、ならば姉が医務室に案内しよう」
「あ、待って。それなら僕も……」

 チンクの肩に乗っていたユーノが自分も行くと言い出した。フェレットのユーノが喋った事にセインとウェンディは驚きを隠せない。

「動物が……」
「喋ったっス!?」

 二人は驚いているが肩の上に乗せているチンクは驚いた様子を見せない。

「とりあえずこちらへ……」

 冷静なチンクは先導してアイナを医務室に連れて行く。

「私はまた外に出て逃げ遅れた人達を救助に向かう。お前達、行くのか?」

 シグナムがリインとスバルに問いかける。

「はい!」
「……」

 スバルは少し間を置いて答えた。

「行きます!」

 スバルの答えに迷いはない。このままグラヴィオンに乗らなかったらグラヴィオンはゼラバイアに敗れ、ミッドチルダは終わる。
 そんな事絶対にさせたくない。それにノーヴェとも約束をしたのだ。「戦って、勝って、守れ」っと……。

「そうか、なら行くぞ!」
「「はい!」」

 スバル、リイン、シグナムは外の方へと走り出す。

「あたしらどうしようか……」
「そうっスね……」

 あまりの出来事でセインとウェンディがどうしようかとその場で立ち尽くしてしまう。
 そして二人が考えた結果。

「とりあえず、スバル達の後を追うか」
「そうっスね。IS、エリアルレイブ!」

 ウェンディは自分が持っていたライディングボードを宙に浮かせて、ウェンディはその上に乗る。

「じゃあ、とりあえずセイン姉、乗るッス」

 その後、ウェンディはセインを後ろに乗せ、セインはウェンディの腰辺りを両腕で囲み掴む。

「じゃあ、とばすっスよ!」
「おう!」

 ウェンディはライディングボードを思いっきり飛ばす! スバルとリインを追うために飛ばす!


 グラヴィオンは未だにグラヴィトンソードで敵の攻撃を凌いでいた。
 グラヴィオンは敵の腕を何とか跳ね除けて、敵を後ろに押し出す。

「脚部攻撃!」
「グラヴィティレーザー発射!」

 Gストライカーの部分から魔力レーザーが何本も発射され、剣型のゼラバイアを撃つが、上空にいた駒型のゼラバイアが剣型のゼラバイアを庇うようにレーザーの前に出て、攻撃を防ぐ。

「くっ!」
「何でこんなに動けるの?」

 ティアナが敵を分析して考えるが答えがなかなか思いつかない。
 レーザーのよる攻撃の煙が晴れた瞬間、剣型のゼラバイアは左手に纏わせた氷がグラヴィオンに向かって地走る。
 グラヴィオンはそれを何とかソードで防ぐもその影響でソードは凍りつき、剣型のゼラバイアは右手の炎でソードを攻撃。ソードは突然の冷却と熱しにより砕けた。

「グラヴィトンソードが……」
「砕かれた…」
「もう何であんなに統率が取れてるの!?」

 司令室ではシャーリー達が怒りを顕わにしていたが、先ほどから考えていたヴェロッサはシャーリーに指示を出す。

「シャーリー、さっき強力なジャミングが出ていると言ったね」
「は、はい」
「それはあの2体から出ているのか?」
「いえ、違います」
「だったらそのジャミングの発生源を割り出してくれ!」
「はい!」

 そしてすぐに発生源が割り出された。

「上空5千メートルに飛行物体、ゼラバイアです!」
「やっぱりもう1体いたか…。なのは、攻撃目標を上空のゼラバイアに変更。恐らくそいつが司令塔だ」
「わかりました」

 なのははすぐに上空の方へと飛びたとうとして、グラヴィオンの後ろのブースターを点火させて、空に飛ぶ。
 グラヴィオンが空で敵を探しているとわずかにレーダーに反応が映し出される。

「なのは、正面にいる」
「グラヴィトン、アーーーーーク!!」

 グラヴィトンアークが空に向かって飛んで行き、グラヴィトンアークの斜線上にはさっきまで見えていなかったゼラバイアの姿が存在した。

「あいつね、グラヴィトン……」

 ティアナがグラヴィトンバスターと叫ぼうとしたがそれは防がれる。何故なら地上にいた剣型のゼラバイアがグラヴィオンの方に飛んできて後ろから攻撃をしたのだ。
 グラヴィオンは攻撃の影響でそのまま地上に落ちてしまう。グラヴィオンが落ちたのとほぼ同時にようやくスバルとリインは地上に出てくる。

「あれは、グラヴィオン!」

 スバルとリインは落ちたグラヴィオンの方にと走る。その二人を追ってウェンディとセインがスバルとリインの後を飛ぶ。

「スバル、何する気っスか?」
「危ないよ!」

 スバルとリインはウェンディとセインの制止を聞かずにグラヴィオンの方へと走る。
 グラヴィオンの方でもスバルとリインの姿がようやく確認できた。

「スバル、リイン」
「なのは、一度分離してくれ。二人を回収するために一度敵を引き付けてくれ」
「わかりました。はっ!」

 なのはが了解したのと同時に剣型のゼラバイアは自分の剣の先をグラヴィオンの方に向かってトドメとばかりに突き刺すような勢いで落ちてくる。
 なのははそれを紙一重で避けようとし、分離する。

「エルゴ、ブレイク!」

 なのはの掛け声と共にグラヴィオンは6つの機体に分離し、敵の攻撃をかわす。

「おお、あれって!」
「まさか『オープンゲット』ってやつっスか!?」

 『エルゴブレイク』を知らないセインとウェンディは思わず、最近買ってやっているRPGゲームに出ているロボットの分離技の名前が頭に思い浮かんだ。
 その間にGアタッカーとGシャドウはスバルとリインを回収する。

「とりあえず、選手交代」

 スバルはGアタッカーのコックピットにつけられたファントムシステムのデバイスを取り外す。
 リインは先ほど消滅したGシャドウの翼を自身の魔力とグランディーヴァに搭載されている自己修復機能で復元させた。

「スバル、乗っちゃったっスね」
「スバルの言ってた事、本当だったんだね」

 スバルとリインがグランディーヴァに乗り込む姿を見て、二人はスバルの言った事が本当だったのだと確信した。
 その一方、ノーヴェを医務室に連れて行ったチンクもスバルの言葉が真実である事をアイナとユーノから聞いていた。

「と言うと、あなた達はあのゼラバイアと戦う組織の一員であると…」
「そう言うことだね…」
「もっとも私たちはお世話係ですけど……」

 チンクはその事を聞いて恥を知った。それは自身に対してだ。

「私はスバルの言ってた事を信じ切れなかった。ダメだな…」
「そんなことはないわ」
「最初は信じてくれって言う方が無理あるからね……」

 アイナとユーノはチンクを懸命に慰める。チンクは慰めながら、医務室のベッドで眠るノーヴェを見てふと心の中で思う。

(ノーヴェ、お前は信じられたのか?)

 チンクの心の声に反応したかのようにノーヴェの口元が笑ったようにチンクには見えた。


 Gアタッカーに入ったスバルになのはが通信を入れる。

「なのはさん…」
「スバル、ごめんね」
「……」
「あの後、スバルの言ってた事を一生懸命考えたよ。それで決めたの」
「決めたって…」
「もう仲間を失うようなことはしないって!」

 なのはの決意にスバルは笑顔を見せて答える。

「そうですね! それじゃあ、一気に合神しましょう!」
「いや、合神はしないでくれ」

 スバルの勢いに水をさす様にヴェロッサが通信に割り込む。

「このままゴッドグラヴィオンに合神しても勝ち目はない。まずはGアタッカー、ストライカー、シャドウで上空のゼラバイアを攻撃。
グランカイザーとドリラーで地上のゼラバイアを押さえる」
「わかりました。じゃあ、いっくぞーーーーーーー!」

 スバルは気合を入れてGアタッカーを飛ばす。

「スバル、気合入ってるね」
「空回りしなきゃいいですけどね…」

 フェイトとティアナがスバルの気合を見てそれぞれの意見を述べる。

「フェイトちゃん、ティアナ。マッハドリルでいくよ!」
「わか(りました)った!」
「ドリル、セット!!」

 グランカイザーの両手にレフトドリラーとライトドリラーがそれぞれくっつき、グランカイザーの両手はドリルの手になる。

「マッハ、ドリル!!」

 グランカイザーの後ろのブーストとドリルのブーストで勢いをつけて、駒型のゼラバイアの腕らしき部分に両手を一点集中にして攻撃をする。

「ブレイク、ドリーーーーーーーール!!」

 マッハドリルは駒型のゼラバイアの腕を貫くが、貫かれて散らばった破片が丸いドームのように駒型のゼラバイアを覆う。

「形態が変わった?」


 空では上空にいたゼラバイアを追い込もうとし、レーザーを繰り出すが、ゼラバイアはちょこまかと避ける。

「思ったよりいい動きね」
「でも…、リイン!」
「はいですっ!」

 Gシャドウのステルス機能を利用し、姿を隠していたGシャドウがゼラバイアの真上に現れ、Gシャドウは翼の部分をゼラバイアに当て、ゼラバイアは真っ二つに割れる。

「これで…」
「トドメだ!」

 ドゥーエとスバルもリインの作った勢いに乗り、GストライカーとGアタッターをぶつけ、ゼラバイアはバラバラになり消滅したがその時、ゼラバイアから何か赤い光が宇宙に向けて飛んでいくのが見えた。

「今のは……」
「スバル、敵はまだいるわよ」
「わかってます」

 スバル、ドゥーエ、リインは急いで地上に戻る。
 さっき宇宙に飛んでいった光はヴェロッサとクロノもきちんと見ていた。

「今の光は…」
「……」


 地上では丸いネットを張った駒型のゼラバイアと剣型のゼラバイアと別々に戦っていたが両方とも硬い装甲で守られていて、なかなか倒せないでいた。
 その時にようやくスバル達が上空から戻ってきた。

「よし、じゃあ合神いくよ!」
「待ってください! なのはさん、この下には避難所があるんです。大技を出したら天井が崩れるかも…」

 スバルは先ほどのノーヴェの事もあってなのはに合神とその後の注意を促す。

「ならば、あのネットを張っている中で合神をしてくれ。それなら最小限に出来るはずだ」

 ヴェロッサがスバルの意見を採用し、合神を押さえるアドバイスを送る。

「よし、じゃあいくよ! 皆!」
『うん(はい)(ええ)!』

 グランカイザーを初めとして各グランディーヴァが穴の開いた場所からネットに入り込む。

「グランナイツの諸君合神せよ!」
「エルゴ、フォーーーム!」

 なのはの叫びにグランカイザーからGフィールドが展開される。

「超重合神!」

 なのはが目の前のパネルに拳で押す。
 各グランディーヴァはそれぞれ合神体勢に入って合神し、ゴッドグラヴィオンは完成。その影響により駒型のゼラバイアはネットもろとも消滅した。
 残りは剣型のゼラバイアだけであった。

「なのはさん、一気に決めましょう!」
「そうだね! スバル、頼んだよ!」
「はい! なのはさんもお願いします!」

 グラヴィオンは剣型のゼラバイアに一気に近づき、剣型のゼラバイアを持ち上げて上空に投げ飛ばす。
 剣型のゼラバイアは上へと投げ飛ばされ、グラヴィオンはそれを追う様に飛んで行き、右脚をゼラバイアに向けて突き出し、キック体勢に入る。

「必倒! グラヴィオンキーーーーーーーーーーック!!」

 右脚の突き出したキックが剣型のゼラバイアを一気に貫き、ゼラバイアは爆散。グラヴィオンもうまく地面に着地した。

「さすが、グラヴィオン!」
「やるっスね! スバル!」

 外でスバルやグラヴィオンの戦いを見ていたセインとウェンディは歓喜の声を上げた。


 ゼラバイア撃退からさらに数時間後の夕方、ノーヴェは聖王病院で治療を受け、病院のベッドで目を覚ました。

「大丈夫?」

 ノーヴェが起きてすぐに声がするほうを見ると、横にスバルが座っていた。

「スバル……、勝ったのか」
「うん。でもごめんね、ノーヴェ。酷い事して……」

 スバルが暗い顔をしているとノーヴェは元気よく怒る。

「そんな暗い顔すんな! 勝ったんならもっと明るくしろ!」
「ノーヴェ……」
「それにお前はグラヴィオンに乗って人を守るんだろ。だったらいちいち暗い顔すんな! お前はあたしの姉なんだぞ!」
「……、そうだね。ありがとう、ノーヴェ。慰めてくれて」

 スバルがお礼を言うとノーヴェは照れくさそうに顔を背ける。

「そ、そんなんじゃねえよ」
「それじゃあ、あたし行くね」

 スバルが病室の窓から出て行くとそこにはグラヴィオンが飛んでいた。

「じゃあ」

 スバルはグラヴィオンの手に乗り移り、グラヴィオンはどこかに飛んでいった。

「頑張れよ、スバル……」

 ノーヴェはスバルとグラヴィオンに立ち去る姿を見てそう呟いた。


 そしてスバルは聖王教会へと帰ってきた。
 スバルは正門で立ち尽くし、スバルの前には機動六課の皆がスバルの帰りを待っていた。
 スバルはその事に思わず涙が出てきてしまうが涙を拭ってこう言う。

「ただいま!」


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最終更新:2008年06月19日 21:57