第8話 白銀の牙
「どう思う? ヴェロッサ」
スバルが戻って来てから1週間が経った。ヴェロッサとクロノは1週間前に倒したゼラバイアが発した光の事について考えていた。
「あれは恐らく、仲間に知らせるものだろうね」
「最近、敵の進化がすさまじいものだと考えるが……」
「恐らくはグラヴィオンを倒すための進化をしているのだろうね」
ヴェロッサとクロノが真剣な顔をしてゼラバイアの対策を考える。
「あれをあの子達に渡す時が来たのかもしれないね」
「見極めないとね。はたしてあの子達に白銀の牙を託すのに値するかの資質があるのかどうかをね……」
ヴェロッサは静かに月を見る。
グラナガンにある地上本部ではゼラバイア対策会議にレジアスを初めとする、地上部隊の高官達が出席していた。
「ミッドチルダを狙うゼラバイアの脅威は増していくばかりだ! しかし次元部隊や本局は地上に対して、たいした援助をしてくれない!
そこで私達はグラヴィオンと同じようにこの世界を守るものを考案した!」
レジアスが指を鳴らすと、天井になにやらロボットのようなものが立体映像で映し出された。
「これは現在開発中の対ゼラバイア用の兵器、それは!」
レジアスが対ゼラバイアのための兵器の名前を言おうとしたその時、来てしまった。それは当然ゼラバイアである。
「ゼラバイア……」
「中将、こちらへ」
「いや、いい」
武装局員達はレジアスを退避させようとするが、レジアスは断る。
「しかし中将……」
「わしは大丈夫だ。お前達こそ早く逃げろ。わしはここにいる」
「しかし!」
「案ずるな。わしは生きて戻る。それにゼラバイアがここまで近くにおっては逃げれんだろ。だがお前達は逃げろ」
「中将……、わかりました」
武装局員達はレジアスを置いて自分達は退却して行った。レジアスのすぐ横にはスカリエッティの姿があり、レジアスはスカリエッティの存在に気付く。
「お前は逃げんのか?」
「何をおっしゃいますか? 私が逃げる? こんなにいい研究材料が目の前にいるのにですか?」
スカリエッティは狂ったようにレジアスに言う。スカリエッティは自分の命よりも研究が大事だと考えているマッドサイエンティストである。
レジアスはその事を思い出し、思わず鼻で笑う。
「ふん、好きにするがいい」
「ええ、そうさせてもらいますよ」
聖王教会ではゼラバイアが地上本部にやって来た事を知り、整備の為にゴッドグラヴィオンのままだったので合神をする必要がなく、
スバル達はそのままグラヴィオンに乗り込もうとすると、ヴェロッサが引き止める。
「出撃は許可できない」
「何でですか!?」
突然の事にスバルはヴェロッサに意見する。
「何で出撃しちゃいけないんですか!?」
「相手は対グラヴィオンのゼラバイアだ。」
「敵はグラヴィオンが今まで使った武器や技に対応できるようになっているはずだ。今のグラヴィオンでは勝ち目がない」
「それって……」
「完全にゼラバイアはグラヴィオンを敵視したと言う事だ」
クロノの発言を聞いて回りは凍りつく。ゼラバイアがグラヴィオンを優先に狙ってくる。
それは街に被害を出さないようにするにはいい事なのだが、逆を返せば敵はグラヴィオンだけを狙い、もしグラヴィオンが負けたらミッドチルダに抵抗する術はないと言う事だ。
「じゃあ、このまま黙って指を咥えるしかないのですか!? あたしは嫌です!」
スバルが強く反論する。
「あたし達は今まで自分達が生き残るための戦いをしたんじゃないんです! 誰かを守ったりミッドチルダを守ったりするために戦っていたんです!
それをここに来てやめろ何てあたしには出来ない! そんな事したらギン姉に会わせる顔がない!」
「スバル……」
クロノがスバルの強い思いにわずかに反応する。
「だから、行かせて下さい!」
「スバル……、ダメだ。今のグラヴィオンの装備では無理だ」
「大丈夫です!」
話を聞いていたマリーが言い出す。
「対グラヴィオンって事は今までのグラヴィオンの武器が効かないってことですよね?」
「そうだが……」
「こんなこともあろうかと!」
マリーが指を勢いよく鳴らす。するとマリーの後ろから何やらグラヴィオンの身の丈くらいの巨大な鋸刀が現れた。
「名づけて! 『グラヴィトンブレイカー』。これは前から作ってたのですが難癖が強いのですが、
今まで出すのはやめてたのですがこうなったら出すしかありませんね。でも難癖があるって言いましたけど破壊力は折り紙つきですよ」
マリーがウインクして『グラヴィトンブレイカー』をグランンナイツやヴェロッサとクロノに紹介し、スバルは『グラヴィトンブレイカー』を見て強い決意がわく。
「行きましょう! ヴェロッサさん、クロノさん!」
スバルの強い押しに、なのはやフェイト、ティアナにリイン、それに常にクールなドゥーエも賛同する。
「行こうよ! ヴェロッサさん、クロノ君!」
「これならいけるよ」
「それにこのまま黙って指を咥えるのはあたしも反対です」
「リインもです」
「私も反対よ。それにあれならその対グラヴィオンのゼラバイアを倒せるのなら行くべきね」
グランナイツの強い決意に二人は負ける。
「わかった。出撃を許可しよう」
「だが、一撃だ。一撃決めてくれ。でないと敵は進化して『グラヴィトンブレイカー』に耐えられるようになるかもしれない」
『わかりました!』
スバルはグランカイザー、なのははGアタッカーのコックピットに乗り込み、他の皆も各グランディーヴァに乗り込む。
グランフォートレスも動き出し、グランフォートレスはシグナムとシャマルが動かす。
出撃前にクロノがスバル達に任務内容を言い渡す。
「今回の任務は二つだ。一つは地上本部にいるゼラバイアの排除。そしてもう一つは、生き残る事だ! 誰一人かけることは許さんぞ」
「超重神グラヴィオン、発進せよ!」
ヴェロッサの発進許可により、ゴッドグラヴィオンはグランフォートレスの上に乗り、発進し、グランフォートレスは飛んでいく。ゼラバイアのいる地上本部にへ飛ぶ。
地上本部ではゼラバイアは着いてから何もしないまま、ただ腕を組んで座っていた。グラヴィオンが来るのを待っているのだ。
「ゼラバイアめ、何を考えている?」
レジアスがゼラバイアが何もしないのを見て不審がるのを、スカリエッティが答えを与える。
「グラヴィオンを待っているのだろうね。恐らくあのゼラバイアはグラヴィオンを倒すために作られたものだろうね」
今回のゼラバイアは今までと違い人型である。これは明らかに人類抹殺以外の何か明白な目的があると見た方がいいとスカリエッティは判断した。
「作られた?」
「前にも言ったが、あれは恐らくは誰かが作って送り込んだものだ。そしてその敵はグラヴィオン抹殺を最優先にした。そう見るのが妥当だろうね」
「うーむ……」
レジアスも腕を組んで考える。スカリエッティの言い分はもっともだ。
「スカリエッティ、例のものはまだなのか?」
「まだだね。早くて数ヶ月はかかる。それにまだデータが少々不足している」
「もしここでグラヴィオンが負けたら……」
「全ては水の泡だろうね」
レジアスとスカリエッティは真剣な顔でその場に留まる。
それから数分もしないうちにグラヴィオンとグランフォートレスが現場に来る。
「どうやら来たようだな」
「ゼラバイアも迎撃体勢にはいるようだ」
二人は妙に冷静に状況を見る。
グランフォートレスの方では、敵ゼラバイアを視認した。
「よし、飛ばすぞ!」
「皆、しっかり捕まって!」
シグナムとシャマルが思いっきりレバー引き、アクセルを踏む。グランフォートレスはものすごい勢いで加速する。
「敵が予測しているグラヴィオンの最大加速以上のスピードをキープしてください」
「わかってる!」
マリーが通信を入れ、シグナムが了解を送る。
そしてグラヴィオンはGシャドウのブースターで勢いよくグランフォートレスから離れ、ゼラバイアの頭上に一気に近づき、
背中に背負っている剣『グラヴィトンブレイカー』を遥か上空に向けて振り下ろし、スバルは叫ぶ!
「サイキック、ざーーーーーーーーーん!!」
スバルは最近見ていたロボットアニメの主役ロボが使う必殺技をイメージし、それを真似るように叫び、剣のギザギザ部分敵に向けて、
敵を斜めに斬りつけ、敵は爆散。炎が上がる。
「やったーーーーー!」
司令室で見ていた、マリーやシャーリー達は喜びの声を上げていた。
「まだだ!」
ヴェロッサが叫ぶ。燃え上がる炎にゼラバイアは歩き出す。先ほどより少し小さくなっているが姿は変わらない。
「さっきまでのは厚い装甲を着ていたみたいだね」
「スバル、さっきのでブレイカーが持たない次で決めないと!」
「わかりました! ブレイズアップ!」
スバルはグラヴィトンブレイカーに重力の力を加え、再び上空に飛び、また斬りつけようとすると、敵は肩の部分からグラヴィトンブレイカーに似たような剣を取り出す。
「サイキック、ざーーーーーん!!」
しかしグラヴィトンブレイカーはゼラバイアの剣に防がれ、グラヴィトンブレイカーは二つに折れる。
「そんな……」
「もうこれじゃあ、グラヴィオンに勝ち目は……」
事態を深刻と見たヴェロッサは黙って指令室を去る。
「ヴェロッサ、どこに…?」
クロノは黙って去るヴェロッサを黙って見送る。
ヴェロッサはすぐに聖王教会立ち入り禁止とされている西館の扉開く。
閉じられた西館には正面に何かをはめ込むくぼみと、何らかの装置が置いてあるだけだった。
ヴェロッサは自分の持っていた杖の宝石部分をくぼみにはめ込み、謎の装置に手を置く。
「今のあの子達なら白銀の牙を託すのに値する」
ヴェロッサはピアノを弾くかのごとく、その装置を動かす。その装置からは美しい音色が流れ出し、聖王教会全体にその音色が響き渡る。
「何、この音?」
「いい音…」
「でも少し寂しい気が……」
謎の装置は完全に起動し、聖王教会の高い塔の上から光が飛んで行き、それはミッドチルダの宇宙のいくつもある一つの月に届く。
そして月はその光に反応し、月からも光が飛んで行き、その光はグラヴィオンの目の前に届く。
「これって……」
「剣……」
光の中には宙に浮く剣が存在した。
「綺麗……」
「白銀の牙、『超重剣』だよ」
通信でヴェロッサがその剣『超重剣』の名を口にする。
「スバル、握ってくれ。そして『エルゴ、ストーム』と言ってくれ」
「わかりました」
グラヴィオンは目の前に浮く超重剣を握る。ゼラバイアは使わせまいといわんばかりに猛スピードでグラヴィオンに近づこうとする。
「超重剣、エルゴ、ストーーーム!」
ゼラバイアよりもスバルの方が早かった。超重剣の先端からは重力の竜巻が飛んで行き、ゼラバイアを竜巻の中に閉じ込める。
グラヴィオンは飛び、そしてスバルは叫ぶ!
「超重、斬!」
グラヴィオンは超重剣を振り下ろす。そしてゼラバイアは完全に爆発を起こし、消滅した。
それから数十分後、その様子を見ていたスカリエッティは狂ったように言う。
「素晴らしい! 目標を空間ごと斬ったのか!」
「ドクター……」
喜ぶスカリエッティのそばにはいつの間にかグラヴィオンから下りていたドゥーエが近づいていた。
「ドゥーエ、久しぶりだね。元気そうでなによりだよ」
「ドクターも……」
「まさか、『タイプゼロファースト』でだけではなく『タイプゼロセカンド』も一緒だったとはね」
「私も最初は驚いたけど今はもう慣れたわ」
「まあいいさ。ところで、頼んでいた方はまだかい?」
「さすがにまだね。完全なものにするには早くて数ヶ月がいいところね」
「そちらもか……。では引き続き頼んだよ」
「ええ…」
ドゥーエとスカリエッティは人知れず薄ら笑いをしていた。
その一方でレジアスもまたグラヴィオンの新しい力を見て感動する。
(重力だけでなく、空間も征したと言うのか。我々も早く我らの切り札を作らねば……)
スバルはグラヴィオンから降り、グラヴィオンを見ながら心で思う。
(グラヴィオン、教えて。後何回戦えば、ギン姉とまた会えるの? 後何回、またギン姉やノーヴェと一緒にいられるのかな?)
戦闘が終わった中、ヴェロッサは外に出てふと考えていた。
(大人の事情に子供達を巻き込む。醜いものだな。だがあの子達ならその醜い連鎖を解き放てるはずだ。
僕はそう信じている。そしてそれが終わったら僕は………)
ヴェロッサは聖王教会の近くにある湖を見る。
ヴェロッサが眺める方にはスバルの姉、ギンガ・ナカジマの姿があったとか……。
最終更新:2008年06月30日 22:16