「シャリオ、状況は?」
「あんまり芳しく無いですね。
 例の落着物――を狙ってだと思うんですけど、
 所属不明の勢力が集結しつつあります」

 彼女がキーボードを叩くと同時、モニターに映し出されたのは、
 様々な装甲を身に付けた小人のような――異形の存在。
 いや、武器を手に握って集団で行動しているならば、或いは――

「……軍隊?」

「かも、しれません。
 それと気になる情報が一つあって――」

 続いてモニターに映し出されたのは、一つの単語。

「解析できたのは、この言葉だけでしたけれど。
 通信を傍受した結果、何度も何度も繰り返されているんです」

 フェイトは、記憶していた。
 聖王教会のカリムから、はやてを通じて齎された情報。
 恐るべき予言。或いは管理局の終焉を告げる文書。 
 それを齎す、悪鬼の如き存在の名――

 幸いなるかな 忌むべき者ども
 災いなるかな 死せる王よ
 鉄の鎧 鉄の槍 鉄の意志 持つ
 一人の 兵 によりて
 数多の 海を 守る 法の船
 中つ大地の 法の輪 打ち砕かれん 
 称えよ栄光 仰げよ武勲
 伝えよ千年の後までも
 その名―――……

「リクレイマー……ッ」



 * MISSION HISTORY
 > LOADING ......
 【-任務履歴-】
 【ローディング】


 薄暗く、静寂に満ちた室内に、微かな光が灯った。
 続いて腹の底に響くような、機械の唸る音が響く。
 それに伴い、光源が一つ、二つと次々に数を増していき、
 ついには"それ"を照らし出す程にまでなっていった。
 "それ"は棺桶のように思えた。
 戦いに戦いを重ねて、ようやく兵士がたどり着く平穏。
 しかし"彼女"は、その穏やかな時間を壊さねばならない。
 一瞬の躊躇の後、"彼女"はその棺桶を起動した。 

《…………よく眠れた?》

「ああ。キミが管理していた割には。
 ………………状況はどうなっている?」



 * EXPLORE DERELICT
  RING HABITAT
 > COMPLETE
 【-放棄された環状構造体を調査せよ-】
 【完了】


 パラシュートもつけず、"それ"は崖の上から飛び降りてきた。
 次の瞬間、異形の軍隊に包囲されていた機動六課の面々は、
 緑色をした"それ"が、装甲服を纏った人型である事を知る。

 自分達を護る立ち位置に降り立った彼に対し、
 異形の軍勢はまるで悪魔でも見たかのようにざわめき、怯え、そして――。

「ッ!」

 恐怖を殺すために、その手に握り締めた武器を発射した。
 迸る電流によって気体が圧縮、荷電され、淡い光を放つや否や、
 全ての生物を焼き尽くす程のプラズマ粒子の雨が、瞬く間に降り注ぎ――。

「まだ終りではない」

 展開されたバブルシールドの中から、恐るべき声が響き渡った。

 全身をすっぽりと覆った緑色の第六世代ミョルニル・アーマーは、
 およそあらゆる実弾兵器を弾く装甲と、プラズマ粒子を防ぐフィールドを備え、
 装着者の筋力を、その骨組織の限界まで強化する機能をフル稼働させている。
 更に、周囲の世界を反射して煌くヘルメット。
 その内部には液晶ディスプレイに無数のデータが投影されている。
 仮に装着者の情報処理能力が低くとも、"同乗"しているAIには何ら問題はない。

 そして恐るべきは両手に握られた武器。
 MA5Bアサルトライフルおよび、M6Dハンドガン。
 人類の存亡を巡る戦いに投入された最新鋭の装備であり、
 管理局世界において最も忌むべき存在――つまり質量兵器であった。

 男はそれを手馴れた様子で――そして的確な判断力で――操ってみせた。

 次の瞬間、その鋼鉄の塊が、圧倒的な量の鉄の雨を吐き出した。
 それは次々に異形の兵士の装甲を貫き、肉を穿ち、
 管理局世界の魔法では有り得ない、圧倒的な数の死を生み出していく。

 無論、この時は誰も、この男こそがリクレイマーだとは知らない。
 だが、それに近い事実を、生き残った機動六課の面々は理解していた。

 ――つまり。

 この男に、敵など存在しない。


 * DESTROY HOSTILE
  GROUND FORCES
 > COMPLETE
 【-敵対する地上勢力を撃退せよ-】
 【完了】



「ったく。どうしてテメェはそう高い所から飛び降りちまうんだ!」
 小さな赤毛の少女が、男に対して軽口を叩く。
 悪くない気分だった。寡黙だが、為すべき事を果たす男。
 長い戦いの日々にあっても、こういった人物に巡り合えるのは稀だ。
 肩を並べて戦うに値する男。背中を預けるに値する男。
 悪くない。それがヴォルケンリッター全員に共通する感想だった。
 だけど、とヴィータは付け加える。
 ――なに考えてんだかわかんねぇーところ以外は、だ。
 其処だけは我慢できなかった。



 * MEUTRALIZE ADAPTIVE
  PARASITIC LIFEFORM
 > COMPLETE
 【-寄生生物を無力化せよ-】
 【完了】



「HALO、フォアランナーの遺産、第二のアーク。……そしてリクレイマー」

 ジュエル・スカエリッティ博士は、全てを掌の上で弄ぶ。

「果たして管理局はどう動くだろうね。
 あまりにも大量のロストロギアの存在に。
 もっとも――大量のロストロギアが、何故、同じ場所に存在するのか。
 そのことにはきっと、誰も気付かないのだろうけれど」

 数学的に有り得ない。彼は笑いながら呟いた。
 実に好奇心がそそられる。
 何よりも、あのリクレイマーという存在に。
 魔法技術を使わない、完璧な戦闘機人。
 是非とも――手に入れたい。

「……ナンバーズに襲撃、してもらうとしようか」

 己の欲望の為に。己の夢の為に。己の好奇心を満たす為に。
 ジュエル・スカエリッティは世界を弄ぶ。


 * OUTWIT ANCIENT
  A.I. CONSTRUCT
 > COMPLETE
 【-古代文明のA.I.の裏をかけ-】
 【完了】



「あたし、あたしは……もう誰も傷つけたくないから!
 ――死なせたくないから!
 だから………強くなりたいんですッ!!」

 その訓練の傍観者である男は、彼女に対しての解答を持っていなかった。
 成程、彼は確かに苛烈な経験を経て、ここに立っている。
 男はしかし、それが自分だけの力では無い事を知っていた。
 海兵隊の戦友や、多くの友人達のお陰で、彼は生き延びてこれたのだ。
 ましてや、自分を天才だと思ったことは一度も無い。
 …………そして同時に、常人であると思った事も、無い。

 遺伝子的な改良は元より、ホルモン交換、毛細血管、
 更には神経系統の調整などが施された結果、
 彼の肉体は、外見以外およそ人類の範疇を超えている。
 無論、其処までの道のりが平坦であった筈も無い。
 14歳の時に経験した神経改造では七十五名の同胞達のうち、
 十二人が副作用により永続的な障害を持ち、三十人が命を落とした。
 適合したのは三十三人。その仲間達も、今では彼一人しか生きていない。
 つまり、彼は凡人ではなかった。ある筈がなかった。
 人類の存亡を巡る争いに投入されるべく生み出された、
 いわば最終兵器、最後の希望のような存在であったからだ。

 だが、そんな自分が果たして其れ程までに強いのだろうか?

 目の前で、見えない所で、何人もの戦友が死んでいった。
 彼らをHALOや戦場から、連れ帰ってやる事はできなかった。
 故に――男は、この少女の、血を吐くような思いに対し、
 何一つとして回答する事はできない。

 ただ、搾り出すような一言だけがあった。

「……容易い事ではない」


 * STOP DESTRUCTION
  OF HUMAN RACE
 > COMPLETE
 【-人類の滅亡を阻止せよ-】
 【完了】



 《聖王のゆりかご》即ち"第二のアーク"。
 それが起動すれば、文字通り次元世界は完全に壊滅する。
 阻止しなければならない。何としてでも。その為に彼らは集まったのだ。
 調停者アービターに率いられた、エリート族。
 今まで、人類種のみとしか出会った事の無かった管理局において、
 史上初の異種族との接触は、瞬く間に軍事同盟へと変化した。

 そして――今、その同盟は最大の危機に瀕している。

「糞、なんて数だ! これじゃあ――勝てるわけが……ッ」

『落ち着け、クロノ提督。――敵の数はどれ程だ?』

 激昂しコンソールを叩くクロノと対照的に、
 エリート族の艦隊指揮を一手に引き受けるシップマスターは、
 落ち着いた仕草で、彼の動作をやんわりと警告した。
 いついかなる時にあっても、指揮官というものは余裕を見せていなければならない。
 其れでこそ、部下の兵士達も余裕を持って戦闘する事ができるのだから。
 これに答え、瞬く間にクロノは平常心を取り戻す。――慌ててはいけない。

「……申し訳無い、ラタス・ヴァドム・シップマスター。
 コヴナントの艦艇総数は此方の――……。
 此方の、およそ三倍。――圧倒的な数です」

 実に素直な反応。
 ラタスは笑みを浮かべている自分に気がついた。
 このクロノという人物。良いシップマスターになるだろう。
 惜しむらくは経験が足りていない事。
 それさえ満たしてやれれば――。

 ラタスは僅かな時間、モニターを眺めていた。 
 《聖王のゆりかご》を護るべく集結したコヴナント艦艇。
 それを示す赤い光点は、味方を示す光点を遥かに上回る数であり、
 モニターの大半が赤色に染まりつつある。
 およそ楽観できる状況ではあるまい。

『三倍、か』

 だが次の瞬間、この白い装甲を纏った爬虫人類の猛者は、
 クロノ・ハラウオンを震撼せしめる言葉を発した。

『ならば対等だ。――攻撃を開始する』


 * GETBACK THE KIDNAPPED
  DAUGHTER OF HER
 > IN PROGRESS
 【-攫われた彼女の娘を奪還せよ-】
 【進行中】



「わぁーっ!リインと同じ、ユニゾンデバイスさんですーっ!」
《……A.I.とデバイスは違うんだけど――……》


「これが私の全力全開ッ!
 ディバイィィィィン―――バスタァァアアァアァァァッ!!」
《ねえ、貴方も武器の名前を叫んでみたら?》
「遠慮しておこう」


《コヴナントの武器はフィールド貫通能力を持っているの。
 だからバリアジャケットは布切れと同じ。効果は殆ど無い。
 真正面からの攻撃は、あまりにも危険すぎる》
「でも、それは向こうも同じなんだよな? だったら――」
 だったら――そうだ。互角だ。
 いや。互角以上だ。
 なんたって奴らと自分とじゃ、覚悟が違う!
「吼えろッ! グラァァァフッ! アイゼェンッ!!」


「フラッドの寄生対象を無くすことで、拡散を防ぐ?」
『………わからないか?
 "第二のアーク"が起動すれば世界が滅びる、という意味だ』


『どーしたんだー、スバルー?ティアー?』
「ねえ、スバル」
「どうしたの、ティア?」
「グラント達ってさ、結構アンタに似てるわよね」
『似てるのかー?』


「ぐ、軍曹! ど、どうして生きてるんですか!?」
「悪いなエリオ。 そいつぁ軍事機密だ」


『慌てる事は無い。じきに奴がケリをつけに来る』


《おお、私は天才だ!》


「援軍? それって―――まさか………」
《ええ。"彼"――マスターチーフよ》


《ティア。貴女は才能ばかり気にするけど――大事なのは、そこじゃない》
「…………え?」
《それは、未来を信じる事。ヒーローを信じ抜く事》



『HALO -THE REQULIMER-』



《チーフ、失敗したらどうするか教えてあげたら?》
「失敗はしない」


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最終更新:2008年07月05日 03:36