【LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS】
♯EPISODE:1-2
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(━━たった二人の為に廃棄都市区画の大部分を使っての
魔導師ランク試験、か……何とも贅沢だな)
その魔導師ランク昇級試験の会場たる廃棄都市区画の地下水路に
息を潜めるその青年は、思考の内で明ら様な侮蔑と嫉妬を込めて
そんな台詞を吐き捨てる。
今、彼は六十人近い“同志”と共に薄暗い
地下水路の奥深い一画に潜み待機している。
彼等の目的を初めに言ってしまえば、
上で行なわれている魔導師ランク昇級試験の試験官を務める
高町なのは一等空尉とリィン・ツヴァイ空曹長及び
視察に来る八神はやて二等陸佐への襲撃、後に彼女達の拉致または殺害で有る。
(管理局側が用意したサーチャーへのハッキングは巧く行ってるみたいだな)
彼は、自身の左眼やや斜め上の空間に展開させた葉書大の小さな空間ディスプレイに
映し出される試験会場の様子に時折視線を向け、これから彼等が巻き起こす争乱に
巻き込まれる運命に在るとも知らない受験者たる二人の少女の気を引き締めつつも
何処か初々しい様子に軽く微苦笑を浮かべる。
(まぁ、「通信映像を脇から盗み見られる浅い程度までしかアクセスしていないから」とは
これ遣ってる奴は言ってたが、それでも普通ならあっさり察知されるぜ? しかも、相手は
管理局でも曰く付きのインテリジェントデバイス、レイジングハートだ。それでも察知される事無く
此処まで見事にハッキングしてるってのは……噂じゃあ『意識だか精神だかを直接電脳空間に投影して
アクセスしてるから、速度も影響力も普通のハッキングの比じゃあ無い』っつうらしいが、そんな事は
普通は魔導師にだって出来無いぜ? サイキッカーってのは、やっぱ化け物だな)
彼は意識して表情を引き締め直すと、思考の内で今回の作戦に協力参加している
“新生ノア”率いるサイキッカー達に思いを馳せると同時に、今回の作戦を軽く御浚いする。
━━元々は、旧ベルカ派の幹部の一人から持ち上げられた時空管理局地上本部要人の
暗殺テロ計画が本来の作戦で有った。
しかしこの幹部、その実は先祖から受け継がれた今や有名無実な爵位と
先祖の遺産を食い潰しての財力しか誇れない、魔導師では在るがその魔力は
極々弱いと云う“戦”と付く事柄に関してはとことん無能な男で在る。
そんな男が、旧ベルカ派の指導者たる“大公”が用事で遠方の次元世界に赴いて不在な内に
手柄を挙げようと立案したのが事の発端で有る。
その作戦概要も、大雑把に言ってしまえば単なる無謀な特攻作戦で終わっていたが、
戦力補強の為の協力要請を受けた新生ノアの参謀で在るカルロ・ベルフロンドが
自身の情報網から入手していた情報を元にして、同日ほぼ同時刻に行なわれる
この魔導師ランク昇級試験も同時に襲撃して陽動色の強い二方面作戦としての
組み直しを提言したので有る。
普通に考えれば単なる魔導師ランク昇級試験を襲撃目標にするなど
一笑に伏されるところで有るが、この試験の試験官を務めるのが
聖王教会の重鎮・カリムの息の掛かった時空管理局本局要人で在る
八神はやて一派に属する者達だと知った、より上級な別の旧ベルカ派幹部からの
推奨の後ろ楯も得られた結果として、現状の二方面同時作戦として組み直されたので有る。
(━━尤も、この作戦組み直しを考えたのはカルロって奴じゃ無く、
新生ノア総帥のキース・エヴァンスって奴だったけどな)
彼はそう内心で独り言ちながらも思考を続ける。
(まぁ、より上の幹部を引っ張り出せたカルロとやらの人脈作りや情報収集の才覚も
凄いけれど、そいつが心酔して遣えて且つ今回の作戦の先まで見通してるキースって奴は
どんだけの化け物だってんだよ?!)
━━キースはこの魔導師ランク昇級試験襲撃に関して、
旧ベルカ派幹部達を納得させる為の幾つかの要因を先読みして挙げている。
第一に、別動隊が離れた別の場所に居る時空管理局地上本部の要人を襲撃するのと
ほぼ同時刻に此方が作戦を開始する事に因って、必然として時空管理局からの
救援戦力は分けて展開せざるを得なくなると云う事。
しかし、時空管理局内に潜む協力者から齎されている情報に拠れば
標的自体には警護も付いてはいないとは云え、襲撃を仕掛ける予定の場所は
仮にも時空管理局仕切りの試験の会場内で有るのだから、いざ争乱が起これば
それを察知した時空管理局の地上部隊本部や本局航空魔導師隊からかなりな数の
魔導師が救援として直ぐに駆け付けて来るだろうと云う意見も多数出たが、
これに関して更にキースは救援派遣はかなり遅くなるだろうとも見ている。
要因のひとつとして、次元航行部隊を主体とする時空管理局の本局と
各次元世界への駐屯任務を帯びた陸戦魔導師部隊を主体とした地上部隊及び
その統轄を為す地上本部との管理局内部での確執が挙げられている。
標的には本局所属の魔導師ばかりが揃っている故に、此方には地上本部からの救援は
出し渋られて到着が大幅に遅れるか、さも無ければ事が終わるまでは様子見を決め込むか
地上本部要人への救援の方を優先して、事態の最中には全く救援を動かさない展開も
有り得ると言う。
また、本局航空魔導師隊は高ランクな空戦魔導師が多く所属する
精鋭揃いで在るが、その機動性に反して事態に対する初動が軒並み遅い。
これには、地上部隊との管轄問題が大きく作用していると言う。
どちらにしても、作戦に擁せる時間は充分に有ると言える。
(……まぁ、それでも作戦自体は短時間で済ませるべきなんだけどな)
地上に居る標的に気取られない様に出力を抑えて広範囲に発された
移動準備を促す念話を受けて、彼は黙したまましゃがんでいた体勢から
立ち上がり、今の念話を発した少し先の前方に立つ男の姿を視界に収める。
(カルロ・ベルフロンド……確か、魔導師に喩えればオーバーSランクに
匹敵する力を持ったサイキッカーらしいけれど、参謀って名乗る位だから
後方で指揮出してるだけかと思いきや、俺達と一緒に実働に参加してくれるとは、な)
カルロ・ベルフロンド━━
紺を基調としたスラックスを穿き、紺蒼白のストライプ柄のYシャツの上から
ブラウンとベージュのツートンカラーのビジネスベストを重ね着て、首回りは
鮮やかな紅いスカーフをネクタイ風に巻いてアクセントに蒼いブローチでそれを
留めていると云う、シルエットとしては地味だがカラーは派手な衣服に身を包み、
端正な顔立ちに掛けられた武骨な黒縁眼鏡と後ろに撫で付けられてきっちりと
セットされた紺紫色の髪型とも合間って、一見するとアパレル系メーカーのマネージャーみたい
にしか見えないが、その実は新生ノアの総帥・キースを骨身を惜しまず補佐し、
キース不在の間は総帥代理を務め、そして実戦に置いてはたった独りで本局航空魔導師隊の
一個中隊を全滅撃墜させた戦歴を持つ、AAA級サイキッカーなので在る。
先程から思考を続けている彼と同じく各人の顔脇に光量を抑えた小さめの空間ディスプレイを
展開させて、そこに映した地下水路までを含めた試験会場の立体ワイアフレーム・マップを
交えてこれからの行動計画を手早く皆に再確認させて行くカルロを彼は視界の端に収めつつ、
ちらっと自身の周囲にも視線を巡らせて皆の様子や武装を視認しながら今回の戦力を
念話受信とは別に脳内で換算する。
━━手勢は六十名弱。
内、魔導師が十五人。
ノアから派遣されたサイキッカーがカルロ含め十人。
更にサイキッカー側は、実働の他にもバックアップ要員としての
サイキッカーを数人投入して来ている。
そして、魔導師/サイキッカー含めて空戦可能な者は内の十人。
また、旧ベルカ派の陣容の常としてその構成人員には
非魔導師な者達が多く、今回も残りの三十人弱はそう云う者達で在るが、
そう云う者達には組織が極秘裏に密造や密売している銃器等の質量兵器が
支給されており、今回はアサルトライフルを主武装として支給されている。
中には支給品以外の個人所有での銃器や武具を持ち込んでいる者も散見される。
他にも、各種手榴弾やロケット・ランチャー等も揃えられているのが心強い。
更には、別に隠し玉も有る事も通達はされている。
装備の点に付いては、あの爵位と財産だけが自慢のぼんくら幹部に感謝しなければな、
と彼は心中で嘲り気味に苦笑する。
━━旧ベルカ派の思想特徴として
『時空管理局が提唱する法を遵守しなければならない謂われは
我々には無い。言わんや、管理局システムを支えている魔導師至上主義を
助長している質量兵器廃絶など愚の骨頂で有る。道具とは道具その物に
非は無く、あくまで使用者の意思に善悪を左右される物でしかない。
それよりも、利便性を逆に危険視して力無き人々から身を守る術を取り上げ、
資質を持つ一部の者達に力を独占させている事こそ“悪”で有り“罪”と言える。
我々は、時空管理局及びミッドチルダに拠る管理世界支配体制を打破する為には、
使えるものは何でも使う』
と云うものが有り、組織としては質量兵器への禁忌が薄いどころか戦力増強に
有効且つ効率的な手段として積極的に取り入れている。
しかし、技術力の未熟故か次元大戦時代に猛威を奮った戦略級質量兵器の
再現開発にまでは到る事は出来ていないのが現状で有る。
そうした彼の思考の切れ良いタイミングで
カルロからの作戦再確認はものの1分も経たずに完了する。
尤も、作戦概要は皆事前に頭の中にきっちりと叩き込んで来ているので、
本当に再確認程度の意味しか無い━━否、敢えてそうする事で皆の意識を
切り換えさせ易くさせるのがカルロの狙いか。
本来ならこう云う指揮をしなければならない筈のぼんくら幹部の側近は、
カルロの行動を出過ぎた事と勝手な理屈で叱責しつつも側近自身の代弁として
摩り替え様としながら、カルロに指揮の面倒な部分を押し付けてしまっている。
(……あれで腹立てないってのは、カルロってのはよっぽど人が出来てるのか、
さも無きゃかなりな苦労人だな、こりゃあ)
そんなカルロに僅かに同情の念を重ねる、彼。
と、皆を見回していたカルロの右腕が垂直に差し上げられる。
顔脇のディスプレイに視線を遣ると、地上の受験者二人が今にもスタートする場面で有り、
彼は自身の得物で有る片手鋼棍(メイス)型アームド・デバイスを握り締め直し、作戦開始の合図に備える。
そして、地上での受験者達のスタートと同時に
カルロの右腕が振り下ろされて作戦開始が告げられ、
襲撃者達は当初の予定通りに約十人単位の小集団に素早く纏まり
別々の水路へと散開した。
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作戦の仕掛け時を確認する為に自身の顔脇に座標固定した空間ディスプレイに
時折視線を走らせながら、彼は自分に加速魔法を掛けてくれた魔導師も含む
同班の同志達と共に非常灯以外の明かりの無い仄暗い地下水路の側道を疾走して行く。
此方の作戦概要は、試験のゴール地点に此方が先回りして、受験者達がゴールした後に
現れるで在ろう高町なのは一等空尉とリィン・ツヴァイ空曹長の二人が受験者達に
直接声を掛けようと充分に近付くのを待ち伏せし、周囲及び上空を包囲して高町一等空尉達を
受験者達ごと一斉攻撃に晒すと云うもので有る。
その為に、散開した各班は地下水路の抜け道を利用して
最短経路で試験のゴール地点周辺の各ポジションへと向かっている。
それは今の処上手く行っており、受験者達よりも僅かに早くポジションに
到着出来ると云う、標的に気取られ難く且つ襲撃体勢を整える時間も
きちんと取れる絶妙のタイミングで配置に着ける事は確定的で有る。
とは言え、管理局魔導師の中でも高い防御力を誇る高町なのは一等空尉の事。
そう簡単には撃墜は出来無いで有ろう事は予測の範疇内で有る。
その為に、包囲攻撃は高町なのは一等空尉をその場に足止めする事が主目的で有り、
それに因ってヘリ上に居る八神はやて二等陸佐をも引き擦り出す囮としても活用する算段で有る。
また、これには高町なのは一等空尉に飛ばれない様にし、
彼女の高い空戦能力を封じる意味も含まれている。
この際、彼女等の傍に魔導師ランク昇級試験受験者二人が居る事が重要で有る。
普通ならばCランク魔導師と言えばそれなりに戦力として数えて良いだろうが、
今回の此方の布陣に対するならば高町一等空尉達よりも遥かにランクの低い
受験者二人は、高町なのは一等空尉に取っては庇護対象にしかならずに
良い足手纏いになるで有ろうと云うのが、作戦改訂を考えたキースの見解で有る。
(……確かに、その読みは良い処を突いているだろうし、キースの側近で在るカルロが
俺達と一緒に実働に交じってるのも、作戦成功確率をより高める為だろうな。
けど……)
彼は、自身の顔脇に浮かぶ空間ディスプレイに映し出される
受験者達の様子を見ながら僅かに考えを巡らす。
そこに見える受験者の少女二人は、見事なコンビネーションを
見せて障害を手早く次々にクリアして行く。
考察するに、片方は手甲型アームド・デバイスを主武器とした典型的な
近代ベルカ式の近接陸戦魔導師で中距離射撃魔法も持ち、もう片方は
カートリッジ式の拳銃型デバイスを主武器とするミッドチルダ式の射撃型魔導師で
デバイスに仕込んでいる射出式アンカーでの絡め手や幻影魔法の使い手で在り、
どうやらコンビネーションのイニシアティブは此方の少女が取っていて、
手甲型デバイスの少女が前線で動き回り易く出来る為の下地作りをしている様だと見える。
問題は、その手際の良さで有る。
これは、この受験者二人の存在は足手纏いよりも
もう少しましに計算に組み込み直すべきか?とも見てしまう。
それ程に見応えが有った。
当初の予定には無かった要素と言えば、フェイト・T・ハラオウン執務官の
試験視察への同席も有るが、それに対応出来る戦力は充分に用意出来ていると
彼は断言出来る。
(そう言えば……)
と、彼はキースが旧ベルカ派幹部達への説得に考えた
今回の魔導師ランク昇級試験襲撃へのもうひとつの効果の説明を思い出していた。
高町なのは一等空尉、フェイト・T・ハラオウン執務官、八神はやて二等陸佐━━
この通称“三人娘”は、その容姿の可憐さとそれ以上に強力な膨大な魔力と
数々の大事件を解決に導いた輝かしい実績を時空管理局本局の幹部達に注目されて、
時空管理局本局のプロパガンダを担うアイドル兼英雄としても持ち上げられている。
管理局内にファンクラブが存在する他にも、時空管理局本局全面バックアップの下に
ニュースやワイドショーにも良くゲスト出演し、それに拠って管理局外にも三人娘それぞれの
私設ファンクラブが急増し、確かな情報筋からは近々三人娘それぞれのソング・シングルと
ファッション画像データ集が時空管理局本局謹製として発売されるらしい。
(……そうするとこの襲撃が成功すれば、それ等が彼女達の遺作になる訳だなぁ……
い、いや、別に俺が欲しい訳じゃ無いぞ!? あ、そうだ、フェイトのシングル位は
レクイエム代わりに買って聴いてやっても良いな! 画像データ集は遺影として
ハードディスクの奥深くに永久保存して━━)
何やら内心で自己弁護を始める、彼。
どうやらフェイトの隠れファンの一人で有るらしい。
とまぁ、そんな風に時空管理局本局の正義と強さの象徴としての
広告塔としても重宝されている三人娘を撃墜拉致または殺害出来れば、
時空管理局のイメージアップ戦略を大きく頓挫させる事も可能で、
彼女達の安否に関わらず「彼女達を標的としたテロの実行を許した」と云う
事実に因って、本局と地上本部との溝は更に深まる事は確定的と言えるだろう。
しかし、作戦前の集合時にカルロにその事を尋ねていた彼は、
カルロがぽつりと溢したこの台詞の方が強く印象に残っていた。
━━「……戦争に決定打を打てるのは膨大な物量か
━━運命に選ばれた少数の規格外な異端分子(イレギュラー)だけです。
そして、我々ノアは異端分子の強大さと恐ろしさを厭と云う程に知っている。
そして、キース様はあの三人娘のデータを見て彼女達に戦局を左右し得る
異端分子的なものを見出しています。
数値を超えた、それこそ運命に選ばれた感じなものを……。
旧ベルカ派の幹部連中はこの意見だけは一笑に伏しましたが、
僕としてはあの三人娘を早々に潰したいのです。
それがキース様の意志なのですから』
(……まぁ、この班にはカルロも居るし、何より旧ベルカ派の中でも
最強と名高い“三頂騎士(ドライエクスリッター)”の内の二人までもが
参加してる主力班だからな。そう簡単にはやられはしないぜ)
そう考えながら彼が再び前方に視線を向けようとした瞬間、
手甲型デバイスの少女の不意を突き掛けた小型オートスフィアを
拳銃型デバイスの少女が手甲型デバイスの少女を突き飛ばし庇いつつ
迎撃した映像を最後に、唐突に空間ディスプレイの画像が一面砂嵐に染まる。
最初は受信トラブルかとも思い、彼を始め周囲の同志数名はディスプレイの
調整に挑もうとしたが、2秒も経たずに画像は復旧する。
サーチャーからの映像回線にハッキングを仕掛けていたサイキッカーから
齎される画面端に表示される補足情報に拠ると、先程の拳銃型デバイスの少女からの
流れ弾に因ってサーチャーが破壊されてしまったらしい。
しかし、こう云う事態も想定していたカルロの事前指示に拠って、
映像遮断と同時に即座に此方の別班が独自に持ち込んでいたサーチャーを
射出する事で直ぐに映像情報を復活させたので有る。
管理局側のサーチャーがトラブルに因って使用不能になった際には、
試験官で在る高町なのは一等空尉やリィン・ツヴァイ空曹長は現状把握の為に
直接会場に現れざるを得なくなり、その場合には彼女達の注意は受験者二人に
主に向かうで有ろうから此方のサーチャーは発見され難くなるだろう、と云う
見込みでの備えで有ったが実際に使う事になるとは、彼に取っては
少し意表を突かれた感を覚える。
復活した空間ディスプレイには、受験者二人が先程の崩れ掛かった高架道路の中段で
何やら熱い言い合いをしている姿が映し出された。
(……見てる此方が恥ずかしいぜ。青いな、コイツ等…
…若いって事は、やっぱ良いもんだよなぁ)
自身も未だ二十代前半な癖に妙にオジサン臭い事を思ってしまう、彼。
しかし、得られた追加情報はかなり有益なもので有る。
どうやら拳銃型デバイスの少女の方は片足を酷く捻挫し、
手甲型デバイスの少女と何や彼やで言い合った末に
消費魔力の大きい大技を二人して仕掛けるつもりらしい。
これで、消耗し怪我を抱えた受験者二人の足手纏い率は格段に上昇する。
もし受験者二人が最後の賭けに破れてリタイアしたとしても、
試験官の二人が回収の為に受験者二人の許に現れる事は変わらないし、
その場合にも直ぐに対応して他班集結まで足止め出来る様に
一番近くの自分達の班が受験者達を地下水路から随時追跡している。
(大丈夫、だ。彼等さえ居れば━━)
そう思い直した彼の眼は、カルロと列び最前線を疾る
バリアジャケットを纏った二人のベルカの騎士を見遣ろうとして━━
視界の端に入った空間ディスプレイの映像を見て驚きの表情を浮かべる。
(……おいおい、コイツ等本当にBランク昇級を目指す
Cランク魔導師かよっ!? こりゃあ、この受験者二人の力量評価は
実際のランクよりも上方修正して作戦に組み込み直した方が良いんじゃないのか?!)
その動揺は彼だけでは無く、周囲の同志数人からも
程度の差こそ有れ見て取れる。
丁度その時、今までずっと黙っていた三頂騎士の二人から、
皆に向けて念話と肉声絡みで声が掛けられる。
「……問題無い。此方を圧倒するには奴等は未だ足りない」
「御前達は援護に徹しててくれれば良い。それよりも、
囮の受験者共はゴールに向かった。我々も急ぐ」
自信と落ち着きに溢れた二人のベルカ騎士の台詞を耳にして、
同志達に拡まろうとしていた動揺が直ぐ様に収まる。
そうして気を取り直した彼等は、直ぐに移動を再開して
受験者達がゴールする30秒程前に全員が所定の配置に着き、
息を潜めて物陰から襲撃開始のタイミングを窺う。
受験者達も程無く加速してゴールに飛び込み、それを出迎えていた
リィン・ツヴァイ空曹長の他にも、受験者達の様子を見に来て
彼女達の無茶なゴールのフォローの為にゼリーに似た性質の柱状障壁を
乱立させる《アクティブガード》と網状の柔らかい魔力障壁を張る
《ホールディングネット》を掛けた高町なのは一等空尉も読み通りに
受験者達の前に現れて二人+1の許へと近寄って行く。
八神はやて二等陸佐とフェイト・T・ハラオウン執務官の乗る
幹部輸送用ヘリも、都合良くかなり高度を落として受験者達を窺っている。
身を潜める襲撃者達が固唾を呑んで襲撃開始の合図を待つ中、
リィン・ツヴァイ空曹長が拳銃型デバイスの少女━━ティアナの
挫いた左足首に向けて治癒魔法を掛けようとした頃合いを見計らって、
ぼんくら幹部の側近のそれなりに堂々とした合図の念話が響き渡る。
(作戦、開始ぃっ!!)
その合図と同時にはやて達の乗るヘリとなのは達が集まっている地点に
ロケット・ランチャーの砲火が放たれ、着弾爆裂に因って生じた火炎の華が
激戦開始の真の合図となり、なのは達を包囲する様に潜んでいた襲撃者達からは
一斉に鉛弾と魔力弾と超能力弾の集中砲火をなのは達が居る辺りに浴びせ掛け始め、
ビルの各所からは空戦可能な魔導師達やサイキッカー達が飛翔して
はやて達が乗るヘリに向けて殺到する。
こうして、これから一年間に渡る永い戦いの
最初の激戦の火蓋は切って落とされた……━━。
最終更新:2008年07月07日 16:10