【LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS】
♯EPISODE:1-3
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それは、突然になのは達が居た辺りとはやて達が乗っていたヘリに飛来し、
着弾した辺りの空間を高性能爆薬と火薬に仕込まれた鉄片群で抉り砕きながら、
殺意に彩られた大輪の赭い火炎の華を咲かせ爆裂した。
……そして、爆裂したその場に厚く群付く灰黒い爆煙が徐々に晴れたその内から
垣間見えるは━━地上の廃道路上では左掌を前に突き出して薄桜色の円形魔力楯
《ラウンドシールド》を前面に張りスバル、ティアナ、リィンⅡを庇う純白の
バリアジャケット姿のなのはが僅かに両脚を拡げてしっかりと地を捉え立ち、
空には同じく薄金色の《ラウンドシールド》を張ってヘリを護る
漆黒のバリアジャケット姿のフェイトが凛と浮遊していた。
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無茶なゴールをしたティアナとスバルをリィンⅡが一頻り叱った後に、
二人をカバーした二種類の防御魔法を解いてから一旦変身を解いたなのはが
スバルに再会の言葉を掛けて感極まって泣き出した彼女の頭をなのはが
軽く撫でて宥めている直ぐ横で、ティアナの挫いていた片足にリィンⅡが
治癒魔法を掛け始めたその時に、その場の全員が固まって居た地点から
かなり離れた右斜め後方と左斜め前方の二ヶ所のビルの物陰から
何かが高速で飛来する風切り音の先端が皆の耳に入り、即座に反応した
なのはは瞬時にバリアジャケットを再装着して法杖型へと展開変型した
レイジングハートを右手に握り、同じく即座に反応したフェイトは
スバルとティアナの無茶なゴールインの時からいざと云う時の為に
活性化準備を済ませて置いた金色の二等辺三角形をした待機状態の
彼女のデバイス“バルディッシュ”━━正式名称“バルディッシュ・アサルト”
を起動させてなのはとほぼ同時にバリアジャケットを纏い法杖型へと
展開変型したバルディッシュをその手に掴み、そして続く瞬間には
“戦闘意識”に思考を移行しつつ自身のリンカーコアを“戦闘活性”させ、
先程よりも鋭敏になった反射神経と動体視力で飛び来るロケット・ランチャーの
砲弾を何とか視界に捉えて即座に防御魔法を展開していた。
━━魔導師が普通の人達よりも強力な人種として存在出来ている背景には、
只、魔法が使えるからと云うだけでは無く、この“戦闘意識”そして“戦闘活性”
と云うものも大きく作用している。
これは、通常時とは違い文字通りに戦闘を意識しながらリンカーコアを
活性化させる事で動体視力と反射神経を半恒常的に強化する、
魔導師の基本能力として備わっている。
その強化度合いは劇的で、一例として言えば、不意さえ打たれずしっかりと
目視認識出来れば飛び来る拳銃弾でも何とか肉眼で捉えられて積極的回避を
試みる事が可能な程で有る。
因って、例えば当事者の魔導師同士では射撃魔法の飛び交いが手の内大の硬球を
全力で投げ合う程度に見えていたとしても、魔導師で無い普通の人達が端から
それを見れば目にも止まらぬ超高速戦闘が展開されているとしか映らないのだ。
尤も、この戦闘活性も魔導師同士では上記の様に「同じ土俵に立てる程度に過ぎない」ので、
更に自身や仲間の能力を一時的に伸ばして立ち向かう困難を乗り越えられる様にする為に
加速魔法等の各種補助魔法も開発され発達して来ている。
そうして辛くも砲弾の直撃は防げたが、その爆音はその場に居た少女達
━━スバル、ティアナ、リィンⅡ(ツヴァイ)、なのは、はやて、フェイトの
耳に轟き、彼女達の鼓膜を擘いた。
思わずティアナと一緒に自身の両耳を両掌で塞いで音の衝撃から
鼓膜を保護してたスバルは、僅かに身を屈めながらも上目使いで
目の前のなのはに視線を遣り尋ねる。
「……な、なのはさん、これって……!?」
「分からない。けど、状況だけ言えば、わたし達は強力な質量兵器で狙い撃ちされたの」
毅然と答えるなのはの台詞に、スバルは場違いにもぽかんとした表情を浮かべる。
(……え?……質量、兵器?……狙い撃ち、された?……これも、試験n)
「言って置くけど、これは試験の一環じゃないからね」
スバルの内心の動揺を見透かしたのか、振り向く事無く先んじて
スバルが浮かべた疑問を打ち消すなのは。
「━━で、あの攻撃パターンからする…と!」
台詞を口にしながらなのは達を覆う半球状の防御結界《プロテクションEX》を展開しつつ
入れ換える様になのはがラウンドシールドを解くと同時に、ほぼ全方位から鉛弾と魔力弾と
超能力弾が豪雨の如くなのは達に撃ち込まれ始める。
「━━じゃあ、あたし達、テロに見舞われてるって言うんですかぁっ!?」
リィンⅡからの治癒魔法を途中で中断されて治癒し切れていない
自身の左足首を片手で摩りながら、飛び来る攻撃がプロテクションに
弾き逸らされる際に生じる間断無く続く厭な音に負けじと声を張り上げて
確認する様になのはに問うティアナ。
「大丈夫、あなた達はわたしが必ず護るから」
顔だけを僅かに振り向けて、なのはは微笑み応える。
その言葉通りに、二人を安心させようとして。
そして、なのははプロテクションを維持したまま両手でレイジングハートを
構え直し、凛とした声で永年の相棒(パートナー)に声を掛ける。
「敵は強力な初撃で此方を足留めした後で多数で此方を包囲して
中距離から射撃の雨霰を浴びせ掛けて来てるって見たの!
レイジングハート! プロテクションを維持しつつ
《アクセルシューター》、行くよ!」
『Yes,master.』
言外に『No problem.(問題有りません)』と言わんばかりないつも通りの響きの
電子音声で応えを返してレイジングハートはカートリッジを二発ロードし、
杖頭付け根辺りに在る排莢口から空薬莢が二つ跳び地に落ちて、
ちりちりんと鈴の様な澄んだ音を響かせる。
次いでレイジングハートの紅珠の表面に『Accel shooter』と云う単語が
浮かぶと同時に、なのはが張る薄桜色のプロテクションの直ぐ近くの周囲に
同じく桜色の魔力球が浮かび上がり始める。
その数、16。
そのなのはの背中を見て、尊敬と共に畏怖を覚えるティアナ。
(……凄い。この弾幕を防ぎ切る防御魔法を張りながら、これだけの数の
誘導操作弾を一度に展開させるなんて……これがエース・オブ・エースの実力なの!?)
そして、なのははシューター発射の掛け声を挙げる━━……!
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一方、空でも激戦が展開されていた。
物陰からの射撃は専らなのは達に向けられている為か、
初撃の砲撃以降は地上からの射撃や砲撃が
再び此方に向けられる気配は薄いが、その代わりに
十人に及ぶ空戦可能な魔導師やサイキッカーにヘリを取り囲まれ、
魔力弾や超能力弾や鉛弾やアームド・デバイスが行き交う空戦舞台に
フェイトたった独りで迎撃へと飛び出しているので有る。
はやても変身して飛ぶ事は可能だが、今のこの目紛しい高速乱戦に
着いて行ける程の戦闘機動ははやてには無理とはっきりと言える。
それ以上に、今は変身しているはやてはヘリ内からヘリ全周を覆う
《オーバルプロテクション》を展開してヘリの防御に務めている。
だからこそフェイトはヘリの事を気にせずに、抜ける様な青空の
廃棄都市上空を縦横無尽に飛び回って十倍の人数差を
たった独りでも相手取れているのだ。
バルディッシュを魔力刃を備えた大鎌形態“ハーケンフォーム”にし、
死角を補い合って上手い具合いにフェイトの予測軌跡を狭めようと
飛び交う射撃攻撃や肉迫して来るベルカ騎士達を何とか潜り抜け躱しつつ
自身の攻撃を敵に叩き込もうと挑むフェイトで有るが━━
「━━無駄です」
と、その敵とフェイトとの間に入りフェイトのハーケンでの一撃を
サイキックパワーを帯びた水膜で受け、そのままアームド・デバイスでの
一撃の様な重い水圧を伴う強烈な水流をカウンターで放つ
《ハイドロトラップ》と云う超能力技をフェイトに見舞う、一人のサイキッカー。
(……あれは確か、新生ノアの参謀のカルロとかって人だった筈)
ぎりぎりで自身から後ろに跳んでハイドロトラップの威力を多少なりと
減殺させて再度何とか堪えたフェイトは、油断無くバルディッシュを構え直しつつ
他の敵に捉えられぬ様に絶えず高速飛翔をしながら内心でぎりっ、と歯噛みする。
そのカルロが空に飛び交う魔導師やサイキッカー達の動きを見事にフォローし、
支援される魔導師やサイキッカー達も自然とカルロを中心に戦陣を組んで行く。
追い立てる側と追い立てられる側が目紛しく入れ替わりながら刃や魔力や超能力や
鉛弾を交錯させて行く中、フェイトと平行して飛行し着いて来たカルロが
フェイトに話し掛ける。
「……これだけの戦力差です、もう諦めて我々に投降して下さい。
フェイト・T・ハラオウン」
見た目通りの折り目正しくは有るけれど今の激戦状況には似遣わしくはない口調と声音で
降伏勧告を迫って来たカルロの眼を見据え、しかしフェイトは諦める事無く形勢逆転への
糸口を模索する。
(…つまり見方を変えて戦況を見れば、このカルロが空戦組の要に
据えられているって事ね。 なら━━)
フェイトは敢えてカルロに向けて突進して体当たりを試み、
辛くも回避したカルロとそれに肉迫するフェイトの二人は
螺旋の軌跡を描きながら高速飛行で射撃攻撃や近接攻撃を交えて攻めぎ合い、
突き出した左掌から《プラズマスマッシャー》を放ちながらフェイトが壮麗に吼える。
「それは此方の台詞です、カルロ・ベルフロンド!
テロ実行に因る罪で貴方を逮捕します!」
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「アクセル、シュー…━━!?」
今にもアクセルシューターを放とうとしていたなのはの脳内で、
突如として誰かの絶叫が響き渡った様な激痛が走り
猛烈な眩暈とそれに伴う軽い吐気に襲われた。
その為に、集中を途切れさせたなのはの制御下から離れたアクセルシューターは
全てが有らぬ方へと飛び狂い、内の一発はラッキーヒットで此方に迫ろうと
距離を縮めて来ていたベルカ騎士達の内の片手鋼棍型アームド・デバイスを構えていた
青年を打ち倒せてはいたが、残りは全弾外れと云うなのはらしからぬ失態を演じてしまっていた。
かなりな有効打たり得ると思えていた魔法を思わぬ形で潰してしまい、
プロテクションを維持して一時的に防戦に徹するも、複数同時処理思考で
なのはは先程の異常を考察する。
(……今のは、何!?
何か外から直接わたしの頭の中に叫び声が響いた感じだったけど……?
感触からすると念話に近い感じが……
はっ! もしかして、今のがテレパシー使い特有の《メンタルハウル》なの!?)
数瞬の思考の後に、なのははつい最近にユーノから伝え聞いていた
サイキッカーの定番戦術のひとつを思い出していた。
━━《メンタルハウル(精神絶叫)》。
その名の通りに目標の精神や思考に念話的な絶叫を直接響かせて
目標の意識を麻痺させる、テレパシー使い御得意の超能力技で有る。
普通の念話と違う所は、これは攻撃意思を伴っている為に受ける側は
任意に拒絶する事は出来ず、相手の強制テレパシーを抑え込む
強力な精神抵抗位しか対抗策が無い点だと言える。
特に外傷を与える技では無いが、目標を精神的に消耗させたり、
先程の様に魔法等の高度な集中を必要とする行動の阻害には
正に打って付けな超能力技と言える。
プロテクションの維持をレイジングハートに任せて
密かに視力強化の魔法を自身に掛けたなのはが
敵の潜む辺りを良く観察してみると、確かに武器を手にしてたり
射撃攻撃を投射して来る敵達の中で一人だけ、武器やデバイスも手にせずに
唯ひたすらに暝黙して何かに集中している女性が確認出来た。
(……どうやらあの女性(ひと)が、先刻わたしの邪魔をしたテレパスね)
邪魔者を発見出来たなのはで在ったが、そこからの戦術の選択でまた考え込んでしまう。
(けど、どうしよう……?
別の誘導操作弾魔法でも先刻の二の舞になっちゃうだろうし、
砲撃魔法を撃つには此方の壁にもなってるプロテクションを
一度解かなきゃいけないから、先刻から続いてるこの猛攻が煩わしいし、
しかもクロスレンジでの戦いに持ち込もうとアームド・デバイスを装備した
人達も少しずつ近付いて来てるし……
せめて、フロントかセンターを任せられる味方が後もう一人位居てくれてればなぁ……)
八方塞がりで眉根を寄せて困り顔を浮かべているなのはに、
「あのぉ、なのはさん……」と云う声が呼び掛けられる。
なのはが僅かに顔だけ振り向いて声の主を確認すると、
そこにはリボルバーナックルにカートリッジを給弾装填している
スバルがしっかりと立っていた。
いつの間にかに、あの無茶なゴールイン時に片方脱げていた
ローラーブレードも両足きっちりと履き直されている。
「何かな、スバル?」
なのははスバルに尋ねたが、その眼差しはスバルの所作から
彼女が何を提案しようとしているかを察した光を宿している。
その為に「止めなさい」と言おうとしたなのはの機先を制して、
スバルはいきなりローラーブレードを最大出力で稼動させて
プロテクションに向かって突っ込み激走しながらなのはに向けて言葉を放つ。
「あたしが敵陣に突入して掻き回して来ます!
なのはさん、結界を一部解いてあたしを表に出して下さい!
ティアは、出来れば無理しない範囲で援護お願いっ!」
「無茶だよっスバル!?」
と止めようとしたなのはだったが、スバルは既にトップスピードに乗ってしまっている。
このまま躊躇ってもスバルがプロテクションに内側から激突して自爆するだけと
瞬時に判断したなのはは、仕方無くプロテクションの一部を一瞬だけ開いて
スバルの通過を許す。
(……もう、スバルの無茶を聞き入れなきゃ行けない動き方すれば、
わたしが結局は聞き入れる事を見越しての事だったんでしょうけど……)
プロテクションを閉じながら、内心でぼやくなのは。
(根っからの猪突猛進って言うか直感で動くお猿さんって言うか……
まぁ、フロントアタッカーにはぴったりな資質だけど。
これは、勧誘成功したらその無茶癖を直させないと)
こんな圧倒的不利な状況下でも、部下や生徒になるかも知れない相手を
査定してしまうのは、やはり教導官としての職業病と言うか性なのだろうか、高町なのは。
「……さて、それじゃあスバルを死なせずにわたし達も無事に家に帰る為に、
もっと頑張ろうかっ!」
敢えて微笑み浮かべて高らかに言い放ち、スバルが敵陣を乱してくれると
信じて、なのはは砲撃魔法行使の準備を進める━━……。
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身を屈め、時には跳び、時にはリボルバーナックルを楯にして弾き、
ジグザグに疾走しながら横殴りの暴風雨の如く此方に向けて飛び交う
様々な射撃攻撃を掻い潜り、先ずは最も近くに居た接近中のベルカ騎士に
肉迫するスバル。
手斧型アームド・デバイスを得物としていたその壮年のベルカ騎士は、
カートリッジを一発ロードすると自身の頭上高く掲げた手斧型デバイスを
勢い良く右袈裟に振り下ろすが、スバルはそれを見切って速度を一切緩めずに
突進したまま自身の身体を独楽の様に左に回して半身入り身の様に背面すれすれに
相手の手斧型デバイスを空かし躱し、僅かに伐り飛ばされた自身の後ろ髪の毛先が
宙に舞うのを視界に捉える間も無くスバルは疾走速度を乗せた回転の勢いを殺す事無く
振り返り様に身体全体を伸ばした突き上げる様な右フックを放ち、カートリッジを
一発ロードしつつ唸りを挙げて手首部分の歯車“ナックルスピナー”を高速回転させる
リボルバーナックルが相手のベルカ騎士の胸板中央を捉え、その爆発的な打撃力で
仕留めた相手をそのまま吹き飛ばして遥か彼方の廃ビルの壁にめり込ませる。
(…行けるっ!)
確かな手応えを実感するスバル。
(……お願いだから保ってね、あたしのローラー)
試験ゴールイン時の無茶な加速での過負荷で今も時折時各所から内部電気系統の
ショートを示す電気火花を洩らし飛ばし、ターン時の切り返しをする度に
ローラー接合部から派手に厭な軋み音を挙げている自身のローラーブレードの
心配をしつつも、スバルはそのまま速度を落とす事無くビルの物陰に潜む
敵射撃陣の内の一班━━なのはが厳しい視線を向けていた、あのテレパスが居る
一団に向かって雄叫びを挙げて疾駆し、到達するまでの擦れ違い様に
もう三人のベルカ騎士を左廻し蹴りやリボルバーナックルでの右裏拳や
そのまま突き出したリボルバーナックルでの拳圧射撃魔法《リボルバーシュート》で
仕留めて行く。
━━正直に言えば、スバルは自分でも無茶な事をしていると自覚はしている。
最初に質量兵器で攻撃された時は、今まで見舞われた事の無い攻撃に
晒されて内心パニックになり掛けもしたし、自身が突入して敵陣を乱す事を
提案しようとした時も(……あたしは何をしようとしてるんだろう?)と思う
もう一人の冷静な自分が頭の片隅に居た事も否定はしない。
けれど、
なのはさんの━━スバル達を護って敵に向かい合う彼女の毅然とした背中を見て、
あの空港火災で自分を助けてくれたなのはの姿がスバルの脳裏に
今のなのはと重なった瞬間に、
なのはから掛けられると分かり切っていた制止の声がその口から吐かれる前に、
全ての戸惑いや迷いを置き去りにするかの如く、スバルは疾走を始めていた。
心の内に、この勇気の言葉を響かせながら。
(━━泣いてるだけなのも、
何も出来ないのも、
誰かに助けられっぱなしなのも、
もう嫌なんだ!
今、なのはさんの役に立てなくて、
いつ「何かを護れる強い自分」になれるって言うんだっ!!)
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「…無茶し過ぎ、なんてレベルじゃ無いわよ、スバルぅっ!?」
なのはの張っているプロテクションを越えて敵陣に突入していった
スバルを見て、ティアナは目を剥いて悲痛な叫び声を挙げる。
敵は圧倒的多数で既に此方は包囲され済み、魔導師やサイキッカーが
多数含まれている上に質量兵器も多数使用、しかも初撃で此方の最大戦力の
高町なのは一等空尉も初動を抑えられて続く射撃攻撃の嵐でそのまま足留めされ、
先刻のなのはの魔法失敗の直後になのは自身の口から簡単にされた説明に拠るに
此方の集中を乱して魔法発動をジャミング出来るサイキッカーも存在していると言う。
(……そんな圧倒的不利な状況で、高町一尉より遥かに力の劣る上に
先刻の試験での消耗も激しいあたし達に何が出来るって言うのよ……!?)
先刻までそんなネガティブな考えに取り憑かれていて、なのはの背後で蹲っていた
ティアナで在ったが、突入したスバルが敵との交戦を始めたのが視界に飛び込んで来ると、
一度顔を伏せ深呼吸をして気を取り直して顔を挙げ、片膝立ちになって自身のデバイスたる
アンカーガンの銃把を握り締め直して強い意志を湛えた瞳で戦場全体を見据える。
「だ、大丈夫です!?」
未だ痛むで有ろう捻挫の具合を心配してティアナの直ぐ傍に付いて居たリィンⅡが
ティアナに慌てた声を掛けるが、ティアナはそれに不敵な笑みで応える。
「……あの馬鹿が、憧れの人の前で勇気奮い起こして立ち上がったってのに、
このあたしが怪我程度で蹲ってたままじゃ、あの馬鹿に笑われちゃうじゃない!」
続け、ティアナは足下にオレンジ色の魔力光で
描き出されたミッドチルダ式の魔法陣を展開する。
「それは!?」
「…《フェイクシルエット》」
サーチャー誤爆に因って先程の発動場面を見ていなかったリィンⅡが
驚き混じりに尋ねる声を無視して、けれど結局は答える様な形で
魔法のトリガーワードを唱えるティアナ。
そして、魔法が発動した瞬間に戦場のそこかしこに現れる
疾風と化して疾る多数のスバルの幻影。
しかも、唐突に発動させる事で相手を吃驚させる事が目的だった初回以降は、
スバル本体が物陰や爆煙等に入って姿が隠れる度にそのスバル本体と連れ出す様に
幻影を増やしてスバル本体が何れかを敵に悟られ難くする念の入れ様で有る。
「それって、先刻の試験の時の幻影魔法……」
「……今度は、あたしじゃ無くてスバルの幻影ですけど、ね。
━━にしても、やっぱりこの魔法は魔力の食い方が半端じゃないですよ……」
まじまじと見詰めてティアナに問うリィンⅡに、魔法維持に意識を集中しつつ
ティアナはぼやきを交えてやや苦しげに応える。
そのティアナの魔法支援の御陰か、スバルに向かう攻撃は幻影にも分散されて
その結果としてスバルの行動自由度は格段に上がり、次々と敵射撃陣や
擦れ違うアームド・デバイス使いを討ち倒して行く。
しかし、そんなスバルの活躍やティアナの幻影になど一切見向きもせずに、
只、黙々と戦場を駆ける二人のベルカ騎士が正面からなのは達の直ぐ傍に迫ろうとしている。
━━戦局は、中盤に差し掛かろうとしていた。
最終更新:2008年07月27日 14:52