【LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS】
♯EPISODE:1-4
□■□■□
━━腰溜めに構えた法杖たるレイジングハートの先端に
桜色の羽根が三点放射状に羽ばたき、杖の前半分を
幾重もの桜色の円環が取り巻き展開し、杖先の空間に
桜色の光球を湛え、なのはは今正に砲撃魔法を放たんとする。
ティアナの支援を受けたスバルの獅子奮迅の遊撃に拠って
地上の敵射撃陣は最早連係を保て無くなり、なのは達への
集中砲火はかなり控え目になっている。
また、スバルが突撃の際に行き掛けの駄賃で此方に接近中の
ベルカ騎士を何人か打ち倒して行ってくれているが、今だ
四人程が此方に歩を進め迫って来ている。
特に先頭を駆ける二人のベルカ騎士からは他とは
桁違いな威圧感を、なのはは痛い程感じ取っていた。
肌がひり付く程と言っても過言では無い。
しかも、前線で活躍するスバルもなのはの後ろに居るティアナも
その傍に控えているリィンもその二人に対して他の敵と同じ以上の
警戒はしていない処を見るに、十中八九で先頭の二人のベルカ騎士の
力量は“今のスバルやティアナレベルでは計れない━━”
(……少なくても、わたしやフェイトちゃんやヴォルケンズの皆や
今空に居るカルロって人と同レベル━━最低でもAAAランク相当、かな)
未知の相手のランクを手軽に測定出来る、はやての愛読書で有る
某有名週刊少年漫画誌の某宇宙規模氣功格闘漫画の単行本に
載っていたヘッドセット型戦闘力測定装置が時空管理局では
未だ開発されていない事を並列思考の一部で悔んだが、
(無い物ねだりしても仕方無いよ)と(今、相手の魔導師ランクが
判ったって意味無いし)と云うこれまた並列思考の別の部分から
同時にツッコミが入れられる。
これも自ツッコミと言うのだろうか?
ともあれ、なのはの決断は砲撃魔法の準備を始めた時から既に決まっている。
(━━わたしの苦手なクロスレンジに踏み入られる前に
近付いて来てるベルカ騎士の人達をディバインバスターで一掃して、
直ぐにスバルの援護にわたしも加わる。そして、手早く片付けて
空のフェイトちゃんとはやてちゃんの加勢に加わるの!)
「━━リィン、わたしのプロテクション解くから、
前方以外のプロテクション張れるかな?」
「任せて下さいですっ!」
なのはと同じく《マインド・ハウル》に因る魔法の発動阻害を警戒して
“自分に今出来る事”とティアナの捻挫した足首に治癒魔法を掛け続けていた
リィンⅡ(ツヴァイ)は、寧ろ弾みを付ける様に勢い良く応え、直ぐ様になのはの
プロテクションの直ぐ内側に新たにU字型にプロテクションを張る。
今までの様子を見るに、敵のマインド・ハウルは
どうやら攻撃魔法または攻撃意思しか阻害出来ないらしい。
でなければ、なのはのアクセルシューターだけでは無く
プロテクションを維持する為の意識をも阻害されている筈なのだから。
『出来るなら、少なくとも俺ならそうするな』と云う、
教導隊での生徒時代でなのはを担当した先輩教導官の言いそうな台詞が
なのはの脳裏を過り、思わず口許に愉しげな苦笑を僅かに浮かべるなのは。
それも刹那で納めると、毅然と前を見据える眼差しに改めて力を込め━━
「全力全開━━」
自身の魔力光にも似た桜色の瑞々しい唇を開き、
必討のトリガーワードを口から放つ。
「ディバイィン、バスタァーー!」
トリガーワードと共にレイジングハートの先端から放たれた
桜色の極太魔力光は、狙い誤たず先頭の二人のベルカ騎士に
向かって疾駆して行く。
其処に秘めた威力は、更に貫き突き進み後続の敵をも薙ぎ払う!
と云うなのはの目論見を見事に体現している。
しかし、その信頼出来る感触とは裏腹に相手のベルカ騎士の
応じる挙動を見て、なのはは怪訝そうに僅かに首を傾げる。
先頭の敵ベルカ騎士の内の片方、まるでファンタジー世界の戦士の様な
野戦甲冑(プレートメイル)を模した騎士甲冑を纏うその紅毛碧眼の白色人種系の
青年が、左腕に装着している上半身を完全に覆い隠せそうな円形の楯を
身を守る様に前面に掲げて構え、直ぐ後ろに続くもう一人の騎士は
その楯の騎士の陰に身を隠す。
━━魔法が発達した管理世界では回避以外の防御手段は
“バリア系(柔性魔法障壁)”“シールド系(硬性魔法障壁)”
“フィールド系(範囲内効果阻害結界)”の三種の防御魔法と
“物理装甲(素材強度に依る物理的防御)”が既存しているが、
最後の物理装甲はその重量や装備時の身体可動の制限や持ち運びの手間等の
諸々の理由から魔導師の間では廃れてしまっており、クロスレンジでの戦闘を
主とするベルカ騎士の間ですら防御は魔法と武器での受けが主流で有り、
楯を用いる者は稀と言って良い。
しかし、目の前の騎士は円形の楯を構え、良く見れば右腕にも
先端がコの字に窪んで片縁が半円に窪んでいる全身を覆える程の
長方形の楯を装備している。
が、彼の手には武器らしい武器は何ひとつ携えられてはいない様に
なのはには見える。
(……楯の人は防御魔法に自信が無い、のかな?
あ、魔力は全て攻撃に回すタイプなのかも)
なのはは相手の手をそう読むが、それ故に自分の戦術に自信を以て
ディバインバスターの疾る先を厳しく見詰め━━
だが、その良くも悪くも“魔導師としては常識的”な思考故に、
なのはの眼は驚愕に見開かれる。
「……《ドラッケンセシルド》」
楯の騎士がトリガーワードを唱えると同時に
カートリッジシステム独特の撃発音と共に円形楯の裏側から
カートリッジらしき空薬莢が1発弾け跳び、円形楯の外縁が
八分割されて楯の周囲の空間へ放射上に展開され、
分割パーツと楯本体との間に朱色の魔力障壁が張られて
楯の騎士達を含むかなり広い面積を覆い
━━ディバインバスターを苦も無く受け止め防ぐ。
只それだけならば、なのはは悔しくは感じても驚愕はしない。
問題は、楯の騎士がディバインバスターを受け止めても
その疾駆を一切緩めない事だ。
なのはのディバインバスターは、標準的な消費魔力で撃っても
Sランク砲撃の威力が有る。
それでも教導隊では防げる魔導師は幾人かは居たが、それにしても
受け止められた際には足を留める位は出来ていた。
そもそも、防御魔法を張る際には砲撃魔法と同じ様に
術者は足を留めざるを得ないのが“魔法の常識”で有り、
動きながらこれらを掛けるならば魔力制御への精度の問題で
効果威力なり発動精度なり射程や有効範囲なり射速なりを
犠牲にしなければならない。
しかし、なのはの目前の楯の騎士はその疾走を僅かに鈍らせる事も無く
ディバインバスターを押し返すかの如く平然となのはに向かって迫って来る。
(……違う! あの人は防御魔法が苦手なんじゃない!
その逆━━防御特化タイプなんだ!?)
しかも、なのはが知る限りでは防御力に関しては定評の高い
はやての守護騎士たる“楯の守護獣”ザフィーラの
その遥か上を行くと推測出来る防御力。
あの威圧感の正体はこれだったの!?と、
魔導師の常識を覆すその闘法に戸惑いつつも
なのはもレイジングハートも新たに迎撃の為の
魔法を構築しようとしたが━━
既に楯の騎士はなのはが最も敬遠したい
クロスレンジに踏み込んでいた。
あの威圧感の正体はこれだったの!?と、魔導師の常識を覆すその闘法に戸惑いつつもなのはもレイジングハートも新たに迎撃の為の魔法を構築しようとしたが━━
既に楯の騎士はなのはが最も敬遠したいクロスレンジに踏み込んでいた。
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「━━なのはさんっ!?」
なのはのディバインバスターの叫びを耳に
勝利を確信して振り向いたスバルにも、
その光景ははっきりと捉えられていた。
━━なのはのディバインバスターが防がれる
その事実は、スバルにはとても信じられなかった。
なのはのディバインバスターは、スバルに取っては
如何なる絶望も打破する希望の光の象徴だ。
それが平然と防がれ、しかもなのはが驚愕の表情と共に
クロスレンジに接敵を許してしまっているまでを認識した瞬間に、
全てを放り出して雄叫びを上げてスバルは楯の騎士へと突進する。
うおおおぉおぉっ!と云う叫びと共にリボルバーナックルから
カートリッジを2発ロード、スピナーの唸りすら乗せて疾風の如く突撃しつつ、
しかし頭の中では相手を冷静に見極めようとするスバル。
(━━敵の片割れは両腕に楯を装備してるけど、
他にデバイスや武器を手にはしてなく見える。
なら、例え最初のこの一撃は防がれても
相手に反撃手段は無い筈!
一人をあたしが抑えれば、もう一人は
なのはさんやティアが何とかしてくれる!)
そう考え、楯の騎士を拳で直接捉えられる間合いまで駆け込むと
突進の勢いを殺さぬまま渾身の右ストレートを放つスバル。
「《ナックルダスター》っ!」
楯の騎士はスバルの叫びにも反応せず、視線を向けすらしない。
それを此方に反応し切れていないと判断したスバルは
必討を確信した闘微笑を浮かべる。
しかし、次の瞬間には楯の騎士の姿がスバルの視界から掻き消え、
気付けばスバルは大きく退け反り吹き飛ばされて近くの路肩壁に
背中から激突してそのまま仰向けに崩折れる。
(……な…に? 今、あたし…何されたの……?)
全く訳が解らず兎に角立ち上がろうとするスバルだが、
何やら脳振盪を起こしてしまっているらしく
視界がぐるぐると回るのを認識したのを最後にスバルは気絶してしまう。
「スバルっーー!?」
ティアナの悲痛な叫びが再び響き渡る。
離れた場所から一部始終を見ていたティアナには
何が起こったかを理解出来ていた。
楯の騎士の左斜め後ろから右ストレートでナックルダスターを
放ったスバルに対し、楯の騎士は視線を向ける事無くその場で
両膝を落としてスバルの右拳を頭上を透かさせて躱し、
そのまま伸び上がるかの様に左の腕刀を裏拳の如く振り回して
左腕の円形楯でスバルの顎を下からカチ上げたのだ。
「……楯で殴り付ける、って……何なの、その戦法……!?」
立て続けに自身の常識範囲外の闘い方を見せ付けられて、
言葉を口にしたなのははもとよりティアナもリィンも
警戒を強めつつも暫し茫然とする。
当の楯の騎士は、傍らの騎士━━狩人の様な格好をモチーフとした
騎士甲冑に身を包んで銃の様にしては銃口の見当たらない
一抱えも有る直方体のデバイスを手にし、体格のがっしりした
上背の有る狼頭の獣人に視線を遣ると他者には傍受出来無い
念話かアイコンタクトで何かを交し合った後に獣人騎士の方を
数歩退がらせてなのは達と空の両面を警戒させ、楯の騎士自身は
元の形状に戻した左腕の円形楯を身体の正面に構えつつ
なのはに向けて更に二歩だけ歩み寄り、其処で初めて
なのは達に向けて口を開く。
「……高町なのは、おとなしく捕まれ。
御前はユーノ・スクライアを誘き出す餌に使うからな」
「……どう云う事なの?」
なのはは明ら様に怪訝に思い、思わず楯の騎士に向けて尋ね返す。
曲がりなりにも時空管理局の士官で在りエース・オブ・エースの呼び名を
有り難くも載いているなのはを拉致するのは、確かに時空管理局の風評的にも
単純に戦力的にもそれなりに痛手にはなるだろう。
けれど、何故この場でユーノの名が出て来るので有ろうか?
なのはのその問いに、楯の騎士は憤怒の表情を浮かべると
「……何も知らないと云うのは最も残酷な大罪だな」と吐き棄てつつ、
憎しみの業火を湛えた眼差しをなのはの凛とした眼差しとぶつけ合わせながら
強い口調で言葉を叩き付ける。
「俺の名はイオス・アウディ。
PT事件……いや、ジュエルシード事件の発端となったユーノ・スクライアを
始め、あの事件に関わった時空管理局も御前等も全てに復讐を誓った者だ!」
662 :LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS ◆mC6nUscAv2:2008/08/20(水) 18:22:29 ID:KChO/aO2
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再び空へ場面を向ければ、戦況はかなり様変わりしていた。
敵側の空の要がカルロで在ると見抜いたフェイトは、
今までとは逆に自身から積極的にカルロに向かって
攻め掛かりながらそれでカルロを僅かに抑えた隙を
細やかに突いて、此方にちょっかいを掛けて来た
他の敵の空戦魔導師やサイキッカーにも閃光の如き速さで
強烈な一撃を見舞わせて着実に一人一人討ち落として行ったのだ。
その際、“新規準の非殺傷設定”に自身の攻撃を
切り換えて置く事もフェイトは忘れない。
━━従来の魔導師達が扱う非殺傷設定は「対象に魔力ダメージを与える」
もので有るが、それではパワーソースに魔力が介在しないサイキッカーに対しては
全く意味が無いと云う事に気付いた時空管理局は開発部総部長のウォンの
研究データを応用して「対象に疲労性の精神力ダメージを与える」
新たな非殺傷設定の開発に成功した。
これに拠ってダメージを与えると同時に対象サイキッカーのパワーソースたる
精神力をも同時に削る事の出来る手段を得た管理局魔導師達は、
サイキッカーに対して非殺理念を貫いたまま戦える様になったので有る。
また、この新規準の非殺傷設定は普段は対物破壊力がやや落ちてしまうけれど
獣や昆虫程度以上の精神力を持つ生命体に対しては着弾時には完全に
精神力ダメージに転嫁される為に、魔力を持たない普通の人々を対象にしても
従来の非殺傷設定と変わらぬ感触で魔法を用いる事を可能としている上に、
魔導師に対してもリンカーコアでの魔力精製に用いる精神力を削らせると云う
意味で従来の非殺傷設定と変わらず有効で有り、今ではこの新規準の非殺傷設定が
魔導師の間でも一般化しつつ有る。
そうしてフェイトの機転を利かせた奮闘の結果、敵の空戦戦力は
カルロを除けば並程度の射撃魔法が放てる魔導師と同程度の威力の
火炎弾しか放てないサイキッカーの二名だけになり、その程度では
はやてのオーバルプロテクションは易々と破れはしないと判断したフェイトは、
目標をカルロ独りに改めて定めて蒼穹を舞台に烈水のサイキッカーと激しく交錯する。
カルロの方も、余計な手出しをさせればまたもフェイトの餌食にされると
判断して、残された空戦組二人をはやての乗るヘリに対する攻撃にと専念させ、
自らはフェイトの舞う猛き閃光の舞踏の相手役として水輝を振り翳し
共に闘舞を舞い翔る。
(━━それにしても、上級サイキッカー相手の戦いがこんなに厄介なんて……)
たった今、擦れ違い様にカルロの手から放たれた小型の水流弾《ハイドロ・マグナム》を
身を捻ってバリアジャケットの裾を掠めるぎりぎりで躱したフェイトは、それを今、
嫌と云う程痛感していた。
御返しとばかりに開いた遠間から抜き打ちの直射系小型電撃魔力弾《プラズマショット》を
バルディッシュを握らぬ左掌から放つフェイトで在るが━━
「行きます!」
そう叫ぶと同時に突撃加速時に生じるサイキックオーラを纏ったカルロが
フェイトのプラズマショットをその“クイック・ダッシュ”時のオーラで
難無く弾き飛ばしてフェイトの懐に一直線に飛び込み、左廻し蹴りから
そのまま旋回して鋭い右膝蹴りを突き入れて来るも、フェイトはバルディッシュの
長い柄を巧みに操って何とかカルロの連蹴を防ぎ切る。
返す刀でフェイトはハーケンフォームのバルディッシュの刃でカルロへ向けて
袈裟に斬り掛かるが、すんでの所で“スライド・ダッシュ”でフェイトの左脇へと
避け回られ、バルディッシュを振り抜き切って隙を見せてしまったフェイトの左脇腹に
カルロの右廻し蹴りと左後ろ廻し蹴りが交互に連なって叩き込まれ、
駄目押しと言わんばかりに更なる廻し蹴りから高圧縮された螺旋水流
《ハイドロ・スパイラル》を放たれる。
連蹴で退け反り吹き飛ばされたフェイトでは在るが、宙転して直ぐに体勢を立て直すと
同時にサイキッカー達の使う“回避バリア”の如く瞬時にフェイトの数少ない防御魔法
《ディフェンサー》を張り、迫るハイドロ・スパイラルの双牙を辛くも防ぎ、
再びカルロの隙を窺おうと周囲の廃ビルの間を縫う様にフェイトは翔け抜ける。
カルロも、フェイトの逆手を取ろうと廃墟の隙間を高く低く翔け抜け、
時に牽制として高水圧の水の超能力弾をフェイトに向けて放ち、
時に急旋回でフェイトへと迫りクロスレンジでの攻防を挑んで来る。
その度に、フェイトは相手の自在な間合いに苦々しく舌打ちする。
663 :LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS ◆mC6nUscAv2:2008/08/20(水) 18:41:04 ID:KChO/aO2
━━サイキッカーの戦法の特徴として「射撃技に頼り切りになる事無く、
積極的にクロスレンジでの格闘戦を挑んで来る」と云うものが有る。
似て非なるものとは云えサイキッカーにもリンカーコアが内在する事は
医学的に確認されており、魔導師と同じく戦闘活性をも行なえる。
しかも、サイキックオーラの加護に拠ってサイキッカーの素手攻撃は
アームドデバイスでの一撃に迫る威力を秘めており、
高ランクのサイキッカーで在る程にこの特性を活かして
クロスレンジでのインファイトで相手を往しつつ
連係で超能力技を確実に叩き込もうとする傾向が強い。
その上で、遠間からの超能力射撃にも事欠かずに
威力も下手な魔導師を浚いでいる。
つまりは━━ミッドチルダ魔導師の射撃/砲撃能力と
ベルカ騎士の接近戦闘能力が同居した存在━━、
それがサイキッカーの強さの一端なのだ。
フェイトの眼前の敵たるカルロもその例に洩れず、しかも━━
(……強い)
フェイトは素直にそれを認めた。
フェイトは未だに全ての力を奮ってる訳では無いが、手は一切抜いてはいない。
だが、それは相手のカルロも同じではないかと、フェイトは交戦からの
直感で確信を持てている。
自身の魔力と相手のサイキックパワーが激突する度に黄金色の電光が絡まる
水輝煌めく水飛沫が飛び舞い散り幻想的に空間を彩るが、フェイトにそれを
綺麗と感じる余裕は無く、相手のサイキックパワーを帯びた水気には
超純水の様な絶縁効果でも付与されているらしく普通の水の様に
通電に拠る感電を狙えない事に僅かに苛立ち歯噛みする。
カルロもカルロで、噂を超えるフェイトの移動速度と機動力に些か手を焼き、
決定的なコンボを叩き込めない事に次第に焦れる。
そして、双方共に動き合いの牽制に痺れを切らしたか、
互いの間合いと隙を見極める為に敢えて足を止めて帯空し
眼差しを絡めて対峙する。
と、カルロが息を調えながらフェイトに向けて言葉を投げ掛ける。
「……もう一度言います、我々に投降して下さい。フェイト・T・ハラオウン」
「…は! 何を言い出すかと思えば」
カルロからの再度の降伏勧告を鼻で嗤うフェイト。
「貴男程の人が状況を把握出来ていないの?
其方の地上の戦力は既に連係の瓦解した烏合の衆な状態。
そして空でのまともな戦力はもう貴男だけです。
先程の言葉をそのまま返します。
私達に投降しなさい、カルロ・ベルフロンド」
フェイトからの返答を聞き、カルロは眼を臥せて
頭を僅かに左右に振ると構えを解いて両腕を
自身の身体の横にだらんと下げる。
(観念した!?)
カルロのその振る舞いをそう判断したフェイトは
逮捕の好機とばかりにバルディッシュを振り翳し、烈迫の叫びと共にカルロの懐を目指して一直線に突進する。
664 :LYRICAL PSYCHIC FORCE StrikerS ◆mC6nUscAv2:2008/08/20(水) 18:47:50 ID:KChO/aO2
しかし、それこそがカルロの仕掛けた誘いだった。
フェイトの突進の初動を認めたカルロが、して遣ったりと
言わんばかりの愉微笑を浮かべて左手人差し指の先で
自身の眼鏡の位置を僅かに直すと同時に、
カルロとフェイトの間の空間━━フェイトの突撃進路の
丁度その軌道上の空間が唐突に揺らめき、其処に
モスグリーンの鋼の猛毒蜂━━スリムな機体の機首に機銃を備え
翼下に6連装ミサイルポッドを提げた一人乗りの戦闘ヘリが一機忽然と現れ、
機銃の銃口をフェイトへ向けて旋回させロックオンする。
(━━転送!? いえ、カルロの様子からすると
テレポートで送り込んで来た!?)
気が動転して瞬時に憶測するフェイトだが、
そんな事に最早意味は無い。
案外軽快な炸裂音の連なりより僅かに先んじて飛び来る機銃掃射の
大口径弾の群れを、戦闘活性とは別な感覚でゆっくりと迫るのを眺めつつも
身体の反応が全く付いて来ていない事を何と無く察したフェイトは
「……私、死ぬ」と、何処か他人事の様に考え……
━━刹那、フェイトと戦闘ヘリとの間の空間に漆黒の閃光が炸裂する。
脊椎反射的に左手を目前に翳して目元を被いながら眼を僅かに細めた
フェイトの視界で、漆黒の閃光に因ってその射線を歪められて
悉く明後日の方向へ飛び過ぎ行く機銃の弾群と、その漆黒の閃光が
徐々に収束して行く中に
赤いインナーシャツの上から黒いライダージャケットの様な衣服に
身を包んで額に巻いた白い鉢巻きで猛る様な赤毛の髪を持ち上げて
顏前を被わせている、翠雷をその身に纏うを少年の姿を認める。
「……あ、貴男は……?」
助かった安堵と目の前の事態に把握が付いて行けていない事が
ない交ぜとなり思わず呆然となって、忽然と現れた謎の少年に
尋ねの言葉を投げ掛けるフェイト。
が、今この場は戦場。そんな振る舞いを許容してくれる展開では無い。
突然の事態に同じく唖然としながらも直ぐに攻撃失敗を認めた
戦闘ヘリのパイロットが、先刻の攻撃を妨害してくれた謎の少年に
向けて機銃の照準を合わせようとする。
視界の端で機銃が動く様を捉えたフェイトが「危ないっ!」と
謎の少年へ警告の叫びを発しようとした瞬間、
謎の少年が身体全体で戦闘ヘリへと振り向き続く瞬間に
鋼の猛毒蜂は真っ二つに分断され墜落爆発する。
驚きに目を見開くフェイトが改めて謎の少年に視線を戻せば、
その右手には翠雷で成形された稲妻の大剣が握られている。
(この人が、戦闘ヘリを斬り墜としたの!?)
未だ敵とも味方とも定かでは無い謎の少年を凝視するフェイトに向けて
謎の少年は顏を振り向け、精悍な面立ちに相応しい刃の様な鋭い眼差しで
フェイトの瞳を見据えて口を開く。
「……俺は……俺の名は、マイト。此処は、何処だ……?」
━━この戦いに、変調詞が今、挿し挟まれた。
最終更新:2008年08月21日 21:48