Devil never Strikers
Mission : 13
Subaru VS TypeZero-First
戦闘において、コンディションは非常に重要だ。
もしスバルに今のコンディションはどうか、と聞けば病み上がりの身にも関わらず「最高です!」と即答されるだろう。
マッハキャリバーの修理と強化、次いで怪我も完全に治ってようやく退院。
しばらく動いていなかった間に溜まったエネルギーは爆発寸前。
そのエネルギーを今すぐにでもマッハキャリバーに載せて走り出したい。
そんな気分をアースラの廊下で出くわした親友に伝えてみた。
「今絶好調なんだ!」
「そー」
終了。でも寂しかったので少し話を伸ばしてみた。
「ねーねークロスミラージュはモード3無しなんだよね」
「そーよ」
「それで出力の上昇だけにしたんだよね」
「ええ」
「マッハキャリバーもね!ちょっとだけど強化したんだ!」
「ふーん」
「軽く模擬戦しない?」
「しない」
反応が淡白だが諦めない。
今のスバルは入院中になまってしまった体を動かしたくて仕方ないのだ。
「ねーティ…」
「うっさい!」
名前を最後まで呼ぶ前にいつもの言葉に遮られる。
これを言われてしまって黙り込むしかなく、代わりに目で訴えてみる。
だが効果は無かったらしく、いつもの表情で手に持った書類をスバルに押し付ける。
「あんたがいなかった時の会議の資料!さっさと目を通す!」
これからの六課のスタンスの説明があった会議にスバルは出ていない。
その資料を読みながら、入院中にあったことを把握していく。
もっとも、大体は聞いていたので本当に細かい事だけを新たに覚えるだけだが。
渡された資料を読みながらティアナと歩く。
資料に集中しているせいで何度か壁にぶつかりそうになるがその都度ティアナが軌道修正していたのでぶつかりはしなかったが。
並んで歩く姿はすっかりいつもの二人だった。
705 :Devil never Strikers2/9:2008/08/21(木) 00:46:54 ID:ae0vyktI
八割方目を通したところで、警報が鳴り響いた。
「何だろ?」
「知らないわよ」
じきにくるだろう艦内放送に備えて足を止めるが、だが艦内放送より先に壁に映像が映った。
その映像を見た瞬間、スバルの頭は何も考えられなくなる。
モニターの中に四人いる戦闘機人。その一人にとても見覚えがあったから。
「ギン、姉?」
手と足に何らかの装備を付け、さらに口を覆うマスクまでしているので印象に違いはあるが、間違いなくギンガだった。
映像で一見しただけだがその装備にはネヴァンのそれに近い物を感じる。おそらくは魔具だ。
管理局がダンテから聞き出した魔具中で手足に付ける格闘用の魔具は三つ。
断片的に聞いた手がかりからその中のどれなのかを推理する。
まずイフリート。
これはおそらく違う。あの篭手からは全く炎が出ていない。
情報ではぱっと見ただけで『炎』を連想させるような物とのことだからだ。
そもそもイフリートには足に付ける武装は無い。
次にベオウルフ。
これも違う。白い光を出している、と聞いていたからだ。
あれは光など出していないし白くもない。もっと鋼のような金属色だ。
残る一つは何だったか、イフリートでもベオウルフでも無いのだからあれに違いないのに名前が出てこない。
違う違うばかりで肝心の所を出せない自分の脳みそにうあー!っと叫びたい。
「衝撃鋼、ギルガメス……?」
「それ!」
名前は出てきたが(親友の口からだが)まだ分からないことだらけだ。
こんな所で説明を待っている場合ではない。
詳しい事情を知るため、走り出す。
「ちょ、スバル!?どこ行くの!」
ティアナに言われて気付く、自分はどこに行けば良いんだろう?
そもそもここはどこだろう?
「まったく……付いてきなさい。会議室に行くわよ、ミーティングがあるとしたらそこだから」
会議室には一番乗りだった。
先に歩いていたティアナが座った横の椅子に腰を下ろす。
「そこ、副隊長の席よ」
慌てて逆に座りなおす。
普通に考えれば偉い人の方が奥になるのは当たり前だった。
そんな事も考えられないほど自分は慌てているらしい。
深呼吸して気持ちを落ち着ける。
気持ちを落ち着け、自分のやる事を考え終えた時にはスターズとライトニングの全員とアルトが集合していた。
「みんなそろっとる見たいやね」
モニターにはやての姿が映り、ミーティングが始まった。
まずこの事件の背景が語られた。要約するとスカリエッテイを利用しようとした奴が逆に利用された。という話だった。
だがそれは全て昔あったこと、原因や理由だ。
今しなければならない行動ではない。
上司の言うことを聞き流すつもりはないが、スバルにそれほど興味は無い。
その後は今の状況と対策の説明でミーティングは終わった。
スバルの役目はティアナ、エリオ、キャロと一緒に戦闘機人を抑えること。
後は待機して出動するだけ、この部屋をでれば配置の違う人たちと話すことはない。
「スバル」
退室しようとしたスバルを呼び止める声。
振り向いて声の主を見上げる。
「なんですか?なのはさん」
「体は、大丈夫?」
「大丈夫です!」
即答できた。
「あたし今絶好調なんですよ!」
もちろんこれは嘘ではない。
だってやるべき事ははっきりしているから。
普通の人よりちょっと優れているこの体で、何をすれば良いか分かっているから。
間接的にではあるが、消えそうな命を守る。
コンプレックスを力に代えて、憧れ目指して一直線に。
「じゃ、いってきます!」
スバルは走り出す。
その背中に嘘や無理は無いと見たなのはは安堵のため息をつく。
実はあの質問に意味なんて無いから。
今更大丈夫じゃないなんて言われても頑張ってもらうしか無いのだから。
でもそれでも不安だった。
無理をしているのではないかと。そして取り返しの付かない事になるのではないかと。
意味の無い質問だったが、それでもスバルは意味を付けてくれた。
「憧れて、不安まで取り除いてくれたあの子に、無様な姿は見せられないな」
向いているとは言えない指揮行動と、自分と同じ事になってしまうのではないかという不安。
その両方から解き放たれた今、絶好調がもう一人現れた。
707 :Devil never Strikers4/9:2008/08/21(木) 00:50:28 ID:ae0vyktI
六課の保有していた物よりちょっと型の古いヘリが飛んでいる。
操縦士はアルトで、飛行ルートは結構適当。
ナンバーズの移動ルートを逆走すればいつかは会うだろうくらいの考えだ。
本当に適当だがさっさと終わらせてAMF慣れしてない部隊の援護に回ることを考えたらこれが一番早い。
「良し!そろそろ着くよ!みんな準備して!」
アルトの声が響き、四人は立ち上がる。
言葉通りそろそろ降下ポイントだ。
降下ポイントはこのヘリが敵の射程距離に入らないギリギリの位置、と決めていた。
ちなみに狙撃手であるディードの射程距離は考えに入れない。入れるとどうしても遠くなってしまうからだ。
故にアルトに頑張ってもらった。もちろんカンで避けろ、等と無茶を言っている訳ではなく、シャーリーのサポート付だ。
ヘリの下にはハイウェイがある。
ここを進めばナンバーズに、いや、ギンガに辿り着く。
おそらくギンガと戦うだろうハイウェイを窓から見下ろして、―――そしてダンテと目が合った。
他の三人の顔を見る。平常どうりだった。
どうやら見たのはスバルだけらしい。
さて、この事実をどう伝えたものか、いくらあの神出鬼没のダンテといえどもこんな所にいると言って信じてもらえるだろうか。
「みんな!下!」
とりあえず緊急事態っぽく叫んでみた。
三人は素早く窓から外を確認する。
悪くない反応だ。エースオブエース直々に鍛えられただけの事はある。
ダンテの赤はかなり目立つ赤なのですぐに分かるはずだ。
だがさっきいたところにその赤は無い。
目を凝らしてみるがやはり無い。
せいぜいが赤信号か看板の赤くらいで、あの鮮やかな赤はどこにも無い。
「何を探してるんだ?」
散々探した赤は、いつのまにか自分のすぐ横で同じ窓から外を見ていた。
「いえ、ダンテさんが見えたので」
「ほーう」
アンタそんな物で騒いでたの?とティアナが言った。
エリオとキャロも、なあんだといった顔をしている。
ここは飛行中のヘリの上だが、どうやって来たのかは誰も聞かない。
どうせはぐらかされるし、ダンテなら出来るだろみたいな感じだ。
一度の模擬戦と何度かの共闘の経験が四人を落ち着けていた。
「えっ?ちょ、何で!?」
ただ四人と違い、その全ての経験が無いアルトだけは大きく動揺した。
そのせいでちょっとした操作ミスを起こし、ヘリが大きくガクンと揺れた。
「うわ、やば!」
修正しようとするがこの場合はどうすればよかったのか忘れていた。実際操縦するのは免許習得以来の事なので無理も無いが。
あわあわとレバーを動かすアルト。だがそれも間違いだったらしく、それを修正しようとしてまた間違える。
それが二、三回続いた後、ヘリは火花を撒き散らしながらハイウェイを走り始めた。
ヘリが摩擦で止まる頃には、ヘリの中は散々な有様になってしまった。
物が少なかったため何かの下敷きになる事は無かったが、四人とも壁に叩き付けられ、そのまま重力で床に落ちる二連コンボだった。
「みんな、大丈夫?」
明らかにイライラした口調でティアナが言い、それに答える声はちゃんと三つあった。
全員大した怪我は無いらしい。
「本当に大丈夫か?」
この惨事の原因だけはキッチリシートベルトを締めていたので無傷、というのもティアナのイライラの一番の原因なのだが。
同じくシートベルトをしていたアルトは気絶していた。ぐったりと、では無く目がグルグル~ってなっている方の。
とにかく外の空気を吸いたい。ドアを手動に切り替え、外に出た。
その瞬間、ノーヴェの蹴りが襲ってきた。
とっさにダガーモードで受け止めようとするが起動が間に合わない。
四人は知らないが、ナンバーズはダンテがいた辺りで四人と戦うことになると計算していた。
つまりダンテが見えた瞬間からは、いつ敵の攻撃があってもおかしくなかったのだ。
いくら映画の世界みたいな出来事があったからって、そんな所で油断した自分の愚かさを嘆きながらティアナは腕でせめてもの防御を試みる。
その瞬間、別の腕がノーヴェの足を掴んでいた。そのまま肘だけで衝撃を受け止め、これまた肘だけで押し返した。
「危ねーじゃねーか!テメーらちゃんと免許持ってんのかよ!」
「どうやらペーパードライバーだったらしい」
「そんな奴に運転させんじゃねーよ!死ぬかと思ったぞ!」
敵にそんな言葉を浴びせるくらい怖かったらしい。
まあヘリコプターの神風特攻なんてコスト的にも性能的にもあり得ない物を食らってしまったのだから無理も無いが。
かなり予想とは違う結果だが先手は取れた。
だが状況はかなり悪い。ナンバーズは四人とも健在だし、何よりこちらはヘリを、アルトを守りながらの戦いだ。
人数では一人分だけ勝っているとはいえ、不利なのはこちらだった。
「何をするか、決めたか?」
唐突にダンテが言った。この男は本当に先が読めない。
その言葉が誰に向けられているのか、スバルが分かった時には口が動いていた。
「はい」
「今は何をする?」
「ギン姉を、助けます」
「上出来だ」
その言葉と同時にスバルの体が宙に浮いた。
ダンテに襟を掴まれたのだ、と理解した時にはすでにハイウェイの外に投げられていた。
投げられた体はフェンスを越えてその隣にあった別のハイウェイへと飛んで行く。
とっさに体勢を整えて着地した瞬間、同じようにギンガが落ちてきた。
「しっかりやれよ」
壁の向こうからダンテの声が聞こえた。
気を利かせてくれたのだろうか。それにしたってもう少しやり方がある気がするが。
今から戻ろうとするとギンガに隙を見せる事になる。逃がしてはくれないだろう。
つまりギンガを倒すしか道は無い。そう言うやり方しか出来ないのもダンテらしいといえばダンテらしい。
「私を助ける、と言っていましたがどうするつもりです?」
声はギンガのそれだが全く違う口調に、改めてコイツはギン姉じゃなくてタイプゼロ・ファーストなんだと認識する。
「殴る」
年頃の女の子にしてはワイルドすぎる返答だが、これが一番だ。
スバルにシューティングアーツを教えたのはギンガだ。
戦う事でその記憶を取り戻させれば良い。
この方法をスバルは疑っていなかった。
人間のギンガは、ちょっと改造されたくらいで消えたりしないと。そう思えるから。
「いつまで?」
「泣くまで」
涙を流すのは人間だけ。
ダンテが言ったと少し意味は変わるが、まあ間違いではないだろう。
ギンガは戦闘中に泣くほど弱くない。
もし泣くとしたら戦闘が終わる時か、人間に戻る時だ。
「じゃあ、行くよ!タイプゼロ・ファースト!」
走り出すと同時に敵の名を叫ぶ。
見失わないように、間違えないように。
目の前の相手は今だけは、敵なのだ。
先手を取ったのはスバル。リボルバーナックルで正面からの攻撃。
タイプゼロはそれに合わせて七割ほどの力で左拳を突き出す。
正面衝突したリボルバーナックル同士の戦いを制したのはタイプゼロの方。
「う、わ」
弾き飛ばされながらも、加速をつけた自分の拳が、立っていただけのタイプゼロの拳に負けた理由を考える。
「buddy , devil arm」(相棒、魔具です)
相棒の答えには納得する。あれはネヴァンのようにコウモリを操ったり雷を起こしたりするものではなく、肉体を強化する魔具だったのだ。
大事な事を忘れていた。だが長所が見えれば短所も見えるはず。
着地しながら観察と思考を行なう。
(あれは装備じゃなくて、ギン姉の生体パーツが変化した部分なんだっけ)
機械入りの腕と、金属そのものの腕の重量差。
それに加えて衝撃鋼の名の通り、衝撃を生み出している。
故にパワーで負けしてしまう。
(なら、スピードで勝負!)
こちらはマッハキャリバーを強化している。
それにタイプゼロは人体を金属化させているので重い。スピードならこっちに分があるはずだ。
ウイングロードを作り出し、走り出す。
向こうも追ってきたが―――予想以上に速い。どうやら足のタービンでブリッツキャリバーの力を上げているらしい。
スピードなら勝てると思ったがどうやらそれも間違いだったらしい。
あっさりとタイプゼロに追いつかれ、背後からの攻撃を許す。
「でもそれじゃ!」
攻撃を身をひねって避け、その回転力を維持したまま蹴りを入れる。
「小回りが利かない!」
重いからってただ出力を上げただけじゃそうなるのは当然だ。
その当然を逃がさない。
蹴りがタイプゼロの体に入った瞬間、ISを使って一気にトドメを刺す―――つもりだったが失敗した。
蹴りを入れた足に、ちょっとした痛みが走ったからだ。
自分では絶好調だと思っていたがやはり病み上がりの身だ。精神的にはともかく肉体的にはまだ無茶が出来ないらしい。
だがISを止めたのは痛みからではない、疑問からだ。
(もしかして……いや、絶対そうだ!)
疑問が確信に変わる頃には既に足はタイプゼロを離れ、IS発動は失敗した。
だが問題ない。すでに弱点は見えた。
蹴り落としたタイプゼロと同じ高さまで降り、拳を構える。
タイプゼロが起き上がりスバルを見つけ、同じく拳を、いや違った。ドリルに変形させた左手を構えた。
このドリルをみてもスバルは自分の勝ちを疑わない。
むしろ好都合さ、といわんばかりに口の端を歪めて笑う。
走り出したのは同時だった。
スバルの拳と、タイプゼロのドリルがぶつかり合う。
互いに全力全開の衝突だが、ドリルと拳ではドリルのほうが強い。
だがドリルが拳を削る事は無かった。削るより速くドリルを弾き飛ばしたからだ。
タイプゼロが弾かれた左腕を戻そうと力むが、肩から先に全く力が入らない。
「あたしさ、さっき退院したばかりなんだ」
右腕を引き戻しながらスバルが話す。
自分が競り勝った理由、それは。
「ギン姉の怪我、私より酷かったよね。それなのにさ、何でもう動けるの?」
戻した腕を構えなおす。
ギンガとスバルの怪我は同時だ。
だがギンガの方が酷かったから完治は同時ではない。
「本当なら、やっと歩けるようになったくらいなんじゃない?」
狙いも定めて力をこめる。
ギルガメスの本当の目的は強化したのは出力なんかじゃなくて、体そのもの。
故に、ギルガメスに覆われていない所は弱い。
普通に戦えるレベルには治っているだろうが、全力全開には耐えられない。
「じゃ、ちょっと痛いよ」
後は母の形見を見せるだけ。
良く見えるように顔の前まで。
ちょっと行き過ぎても気にしない。その方が思い出しやすいだろうから。
顔面への右ストレートが綺麗に決まり、タイプゼロは落ちていく。
落ちていく体と意識。
その瞬間スバルは殆ど勘で確信する。ギンガが戻ってきたと。
地面に叩きつけられる前に、追いついて拾い上げた。
ギンガの体と意識を。
「強くなったわね」
そう言ったギンガの目には涙が溜まっているが、良く見えない。
自分の視界もぼやけているから。
「おかえり、ギン姉」
周りは静かだ。向こうも片付いているらしい。
だから今くらいは良いだろう。
ちょっとコンディションを落とすくらいは、みんな許してくれるだろう。
久しぶりに思いっきり泣いた。
涙を止めようと思わなかったのは初めてだった。
「あたし達、泣き虫姉妹だね」
「もしお母さんに見られたら何て言われるか」
スバルの涙がリボルバーナックルに落ち、装甲を伝いまた地面に落ちる。
まるでリボルバーナックルが泣いているようだった。スバルやギンガと一緒に。
Mission Clear and continues to the next mission
最終更新:2008年08月21日 21:57