Devil never Strikers
Mission : 12
stand by ready
「オラァ!ッス!」
咆哮と共に放たれたショットがマリオネットの体を砕いた。
十分前にはうじゃうじゃと群れをなし、人を襲っていた悪魔達も今のが最後だ。
周囲には何の気配も無い。だが今も彼女は見られている。
彼女を見ているのは有り体に言えば被害者だ。悪魔のではなくスカリエッティの。
(この施設もこれでオジャン。任務完了ッスね)
悪魔が施設を襲い、施設が機能しなくなったらスカリエッテイの作品が助けに行く。
全てスカリエッティの指示によるものだが、管理局が公表していないため知られていない。
故に戦闘機人に助けられたという事実だけが残る。
命の絡んだ事実は重く、戦闘機人およびガジェットを救世主だの何だのと称える声は多い。
管理局への嫌がらせが発端のこのヒーローショーは、管理局のフットワークの遅さのおかげでそれなりに利用価値のあるものとなった。
もっとも、最終的には世間の評価はどうでもいいのだが。
「やれやれだぜ…ッス」
それにしてもこのウェンディ、ノリノリである。
同時刻、スカリエッティのアジトでは待機中のナンバーズが雑談に興じていた。
「で?チンク姉の容態はどうなんだよ?」
「自爆したとは言え、あたし達がそんなやわなわけ無いだろ?大丈夫だよ」
「自爆してねーよ!」
「じょーだんだって、そう怒るなよ」
最初に言ったのがチンク大好きっ子のノーヴェ。答えたのは今一扱いの軽いセインだ。
もちろんチンクは自爆などしていない。自分の攻撃なのは間違いないが、自爆ではない。
「そもそも私達には自爆装置なんて付いてないじゃない」
これは正論だった。
自爆装置とは機密保持が目的であり、今のスカリエッティはむしろ見せ付けるために動いている。
もしナンバーズが捕まったとしても戦闘機人は倫理面での問題も大きい存在。いきなり解剖なんてのもまずありえない。
故にスカリエッティがナンバーズに自爆装置を搭載する可能性はまず無い。
これは正論だった。
そりゃそうだよな、と笑い飛ばされるだけの言葉。
だが―――これを言ったのはクアットロだった。
ただそれだけで沈黙が舞い降りる。
『本当に大丈夫か?』
誰もが目でそう言っている。
だがそれを口からは出せない。
もし出そうものなら『当たり前でしょ♪』とでも言いながら怪しげなスイッチが出てくる気がしてならない。
スカリエッティではありえないが、クアットロならありえる。
ある意味ではスカリエッティを越えた女。それがクアットロだ。
「それよりも!チンク姉の容態はどうなんだよ」
「そうだった。確かそろそろ完治でしょ?」
「一人で歩くのも辛そうだったからな~」
分からない物は分からないのだ!(訳:分からない事よりチンク姉)の精神で話題を元に戻すノーヴェ。
それに乗っかるディエチとセイン。
ちなみにセッテは傍観を決め込んでいる。
「姉ならもう大丈夫だぞ」
後ろから聞こえてきた声。
振り返ってみるとそこにはちっちゃな体におっきな心の姉がいた。
「チンク姉!」
「もう動けるの?」
「ああ、もう戦闘だってこなせるぞ」
スティンガーを投げる動作をしながら笑うチンク。
だがその笑みもディエチと目が合った瞬間に掻き消え、すまなそうに頭を下げる。
「すまない。姉を優先したせいでディエチの装備が……」
「良いよ。私のは武器だけどそっちは体なんだし」
「姉は姉だからがまんしなくちゃいけないのにな……」
「いやオヤツみたいに言わなくても……それにここから先は微調整きかない私は出番なさそうだから」
「そうか?」
「そうだよ」
厳密にはそうとは言い切れないのだが。
だがそれよりもチンクが来た事により、風が吹いた。雑談の話題という風が。
「そういえばチンク姉がいない間ノーヴェの機嫌が悪くてさ~」
「うるせえ!」
「いだ!殴ること無いだろ!
すっかり怪我の治ったチンク。そしてその話題に便乗しようとするセインとノーヴェ。
絶対に前の話題には戻りたくないらしい。
だがここに来てようやくセッテが口を開いた。
「……伏線?」
この呟きは一瞬の硬直の後に無視されたとか。
「はっはっは!忙しいなァ!」
今現在、スカリエッティは大忙しだ。
もっとも本人は顔の筋肉を常人では動かせないほど動かして笑っているが。
「忙しいなァ!」
これぞマッドサイエンティスト!といった笑いをさらに十倍くらい怪しくした笑いだが、手を止めることはしない。
ゆりかごの確認。ナンバーズの整備。ガジェットの管理。レリックウェポンのデータ採取、解析。タイプゼロの改造。残った上位悪魔の制御。そして聖王の器の調整。
絶賛多忙中である。
「いっそがしいなァ!」
その辺の悪魔よりよっぽど人間離れした顔で笑いながらキーボードクラッシャーのごとき勢いで作業を進める。
「いっそがっしいなあァァァァァ!」
「ドクター。お静かに願います」
「はい、すいません」
ミラクルハイテンションなスカリエッティを制したのはウーノ。
スカリエッティの秘書を務める彼女は手綱を握る役目も兼ねている。
握る方法は散髪の際にわざと変な髪形にする。など地味なものが多いが一度サザエさんヘアーにしてからは大人しくなった。
もっともウーノがその役を務めているのは『主人より強い秘書はかなりの萌要素である』という持論によるものなのだが、どうだろう?
「チンクの修理は完了。ディエチの武器はいまだ手付かずですが……」
「仕方ないさ。飛行能力を持たない以上彼女は単なる固定砲台。団体戦ならチンクの方が上なのだし、悪魔もいるしね」
「では後回しで?」
「ああ。今はガジェットの方を優先で。思いのほか買い手が早く現れそうだからね」
「はい」
「それにしても……ククク…」
「はい?」
「たあああああのしいなぁぁぁ!」
勇気・元気・本気で無邪気なパワーはまだまだゴキゲン盛りだった。
そしてしばらく時は進み、新暦七十五年九月十九日。
ゆりかご起動の日が来た。
準備は万全。とまでは行かないがそろそろ管理局がこっちを追えるくらいには体制を立て直してくるだろう。
これ以上遅れてはどんどん不利になる。
追われる前に息の根を止めるなら今が最高、最良の時だった。
すでにガジェットは配備済みで、守りは万全。
なら残った過剰戦力はどこに配すれば良いか?
これは簡単。攻めに出て相手の戦力を守りにも使わせれば良い。攻撃は最大の防御。という訳だ。
ゆりかごの内部で、全ての手順を確認したクアットロは今度は自分の手札を改める。
中でも独自に組み込んだ切り札は特に念入りに。
ここから先は頼りになるのは自分のみ、そういう配置なのだ。
「チェック完了。問題なし」
スカリエッティ最大の手札でもあるゆりかご。
その管理を任された彼女がGOサインを出した瞬間、作戦が始まる。
おそらく最後の作戦が。
「これより作戦を開始します。ルーテシアお嬢様~お願いしま~す♪」
作戦が始まった。
了解、と無感情な声の数秒後にゆりかご全体が震動した。
落ちてくる埃をパタパタと払いながらモニターを凝視する。モニターには地中のゆりかごを掘り起こすための作業をしている地雷王の姿。
数分の震動の後にゆりかごが起動できるだけの地割れができあがった。
即座にゆりかごを起動。
さっきの震動よりかなり弱い震動と共にエレベーターに乗っているような感覚。
ゆりかごが完全に地面から離れたのを確認したルーテシアはその場を離れ、ナンバーズ達と合流、首都目掛け出撃。
ここからはクアットロは航空戦力が来るまで少し暇になる。
地上のナンバーズも似たようなもので、さっそく暇を持て余しているノーヴェから任務半分私情半分の連絡が入った。
「なあ、あたし達はいつ敵に当たる?ちょっと調べてくれよクア姉」
「りょ~かい♪え~と……あららん?」
マップデータを呼び出して、進行ルートを確かめる。
このマップデータは地図というよりは衛星写真に近い物で、現在の状況を見ることができる。
それゆえに地図には載らないものまで見ることができるのだ。
この場合は赤いコートを来た銀髪の男がそれに当たる。
「進行ルート上のポイントであの赤いのがいるわよ」
「それってあたしらの行動が読まれてたって事かよ!?」
「いえ、これは、多分……」
「何だよ?」
「都合が良かったんじゃない?」
「はあ?」
「ここって廃棄都市だから周りに人がいないのよ」
「自分に都合の良いところで待ってたらそれが当たったって事か?」
「多分ね」
「ありかよ!?そんなの」
「ありよ」
「何でだよ」
「最終決戦だからよ♪」
「ああ、なるほど」
ものすごく納得の行く理由に満足したノーヴェは通信を切る。
そこにオットーが追加情報を話し始めた。
「多分、僕らが到着するのと同じくらいに、機動六課も着くと思う」
「あいつにとっちゃ全力の出せる場所で都合が良い。六課の連中からしても同じ」
「そしてあたしらからすれば全員まとめてぶっ潰せるから都合が良いっスね」
横から口を挟んできたウェンディにああ、と答えてから『新入り』に目を向ける。
あいつらはこの状況を予想できなかっただろう。
コイツが敵になったことを。
そしてこっちの人数がナンバーズだけで八人いる事を。
ガジェットはいないがルーテシアがいるし、彼女は上位悪魔を三体も待機させている。
数では勝っているし、個々の実力で劣るつもりも無い。
前に地下水路でチンクを痛めつけたダンテの姿を思い出し、黒い感情を表に出す。
「あのヤローの赤いコートを血でドス黒く染めてやる!」
Mission Clear and continues to the next mission
最終更新:2008年08月03日 10:54