雲一つない蒼天に雷鳴が轟く。
金色の閃光が大気を裂き、弾幕を擦り抜け、群がる敵機を薙ぎ払う。
だが、どれだけ敵を堕とそうとも、そのたびに黒い靄が現われ新たな敵機が襲ってくる。
フェイトは倒せど倒せど沸いてくる戦闘艇に苛立ちを募らせる。
「いったい何機出てくるの、これじゃキリがない」
十時砲火を避わし、すれ違いざまにまた一機を切り捨てる。
すぐさまカートリッジをロードし魔力を補充、バルデッシュの刀身に魔力刃が形成された。
鋼鉄をも両断する魔力刃が、黄金色の軌跡と共に突進。射線にいた戦闘艇を次々と切り裂く。
真っ二つに裂かれた戦闘艇が、虚空に炎と金属を撒き散らす。
特徴的な主翼――もしくはアンテナか?――をもぎ取られ、きりもみ状態となって堕ちていく。
直も飛ぼうとしている機にフェイトは止めの一撃を食らわせた。
「堕ちろ堕ちろ堕ちろ! 堕ちて! 滅びろ! このおおおぉぉッ!」
フェイトに挑んだ戦闘艇はことごとく撃墜され、一機も彼女を抜くことが出来ない。
大軍相手に刃を振るうその様は、まさに金色の夜叉と称すべき強さだった。
しかし、戦いは決して有利に進んでいるわけではない。
堕としても堕としても減らない敵機。終わらない戦いはフェイトを次第に疲かれさせていた。
溜まった疲労は錘となり、動きを鈍らせ、技の威力を落とし、思考力を低下させる。
事実、フェイトの息はすでに上がり、敵機の火箭がかすめる度合いも増えていた。
だからと言って休むことなど出来はしない。
敵の銃火がフェイトを捉えようとそこら中から迫っているのだ。
一瞬でも立ち止まれば、あっというまに防御ごと削られ八つ裂きにされるだろう。
『リミッター』のせいで大規模魔法も使えず、身体能力も制限されている以上、倒せる数にも限りがある。
戦の勝敗を決めるのはやはり数。
一騎当千の猛将も、手かせを付けた状態で、数多の敵に襲われては勝ち目なんてあるわけが無いのだ。
疲労が溜まった体に鞭打ち、フェイトはバルデッシュを振りかぶる。
一機撃墜。その爆風を浴びながら、新たな敵機がフェイトに向かって突進する。
彼女が気付いた時には、戦闘艇はもう目の前に迫っていた。
フェイトはとっさに体を捻ってレーザーを避す。まさに紙一重のタイミング。
急降下して離脱しようとした敵機目掛けて、フェイトは渾身の力を込めて金の刀身を振り下ろした。
「なっ!」
が、戦闘艇は機体を急回転させ斬撃を回避。そのまま彼女の後ろをとったのだ。
普段の彼女だったら、これくらいの機動は簡単に対処出来たはずだった。
しかし、溜まっていた疲労と『リミッター』による能力制限が、彼女の動きと判断力を少しだけ鈍らせてしまったのだ。
(だめだ、やられる……)
そのとき、フェイトに熱戦を浴びせるかと思われた戦闘艇は、急に攻撃を中断して上昇を開始。
桃色の光球が追いすがる。戦闘艇は無数の穴を穿たれ、爆音と共に四散した。
「大丈夫、フェイトちゃん!」
救いの主はスターズ分隊隊長であり、彼女の十年来の親友でもある高町なのはだった。
彼女も激戦を潜り抜けてきたのだろう、ツインテールの片方は解け、BJも所々が焼け焦げ、裂けている。
「平気だよ。なのは、そっちは何機堕とした?」
「五機くらいまでは数えてたんだけど、今はわからないかな」
「こっちもそんな感じかな、本当にどれだけ……」
「危ないッ!」
なのはに気をとられ、動きを止めたフェイトに敵の砲火が襲いかかる。
『Protection』
なのははフェイトを庇って全方位フィールドを展開。
かなりの強度があるとはいえ、リミッター付きでは敵の一斉射撃には耐えられず、シールドはガラスのように砕けちった。
だが、レーザーの威力はかなり軽減されたらしく、BJを貫き体を焼くことはなかった。
「今のままじゃ、ちょっとキツイかな?」
なのはが冷や汗を流しながら苦笑する。
「キツイなんてもんじゃないよ、これは……」
フェイトはギリリと歯を噛み締めた。
もはや疲労は限界にまで達し、今の二人は精神力とカートリッジによる魔力補充で体を支えている状態だ。
このままでは、自分達はいずれ、敵の数に押しつぶされてしまうだろう。
だけど、ここで力尽きたら無数の敵機がエリオやキャロの元に押し寄せることになる。
実戦慣れしていないあの二人が容赦の無い戦闘艇に敵うとは思えない。
守ってあげると言った。幸せにすると誓った。
なのに自分は、年端もいかないあの子達を戦場に出した挙句に、無残に死なせてしまうのか。
それだけは出来ない。それだけは何としても阻止しないといけない。そのためには、もうこれしかない。
フェイトは一縷の望みをかけ、本部との回線を開いた。
「こちらライトニング1、敵機の猛攻を受けて制空権奪取は極めて困難。至急リミッター解除を申請する」
この手しか残されていない。限定解除をすれば能力も上がる、広域殲滅魔法でまとめて倒せる。
使える能力を出し惜しみして、後で後悔はしたくない。
回数制限など知ったことか。全力も出せずに大事なものを失うことよりはるかにマシだ。
しかし、本部の回答は――
「本部から現地部隊へ、通信状態が悪くて良く聞こえません。もう一度お願いします」
通信状態が悪い? 本部は何を言っているのだ、こんなに良く聞こえてるではないか。
こんな時に冗談は止めて欲しい。フェイトはもう一度本部との通信を試みる。
「こちらライトニング1、大至急リミッター解除を申請する」
「こちら本部、もう一度繰り返してください」
「本部、今すぐリミッター解除を! 早く!」
「ライトニング1……ですか? よく、聞こえません、もう一度」
「ほんとは聞こえてるんでしょう! ふざけないでシャーリー!」
「ああもう妨害酷すぎ! もう一度お願いします!」
何度通信を送っても、何度怒鳴って見ても、返ってくるのは『聞こえない』の一言のみ。
フェイトは本部からの無責任な返答の数々に眩暈を感じた。
はやて達は何を考えているのだ。もしかして、向こうは自分達を見殺しにするつもりなのか?
それとも、自分やなのはがいるから大抵のことは何とかなると思っているのか?
バカを言うな、今の状況を見たらそれが不可能であるとすぐにわかるだろうに。
それに、はやてが六課を見捨てるなんて考えられない。だとしたらなぜ?
「いけない、三機逃がした!」
ふと気が付くと、三機の戦闘艇がなのはの迎撃を擦りぬけ列車に向かっている。
なのはは新たな戦闘艇に取りつかれていて追撃できない。
「まかせて、あれは私が」
すぐさまフェイトは傷だらけの体にカートリッジという劇薬を投与する。
尽きかけていた魔力が急速に補充され、一時だけ疲労から解放された彼女は爆発的なスピードで三機を追撃した。
敵機を新人達の元へ行かせるわけにはいかない。さらに加速度を上げ、徐々に敵との距離を詰めていく。
戦闘艇を射程に捉えた。残った魔力を振り絞り、フェイトは周りに十数個もの光球を生成する。
「いっけええええええええええええええっ!」
敵に向かって流星群のごとき閃光が一気に噴出した。
撃墜できたのは二機。一機は穴だらけになり、黒煙を噴きつつもまだ飛んでいた。
もう一度魔法弾を生成しようとした矢先、フェイトに向かって赤く長い熱線が突き延びる。
敵の護衛に追いつかれた。右から左から、銃撃に気をとられている隙に、敵機との距離はどんどん開いていく。
「邪魔をするなぁ!」
苛立ちに満ちた叫びを上げ、フェイトは邪魔な護衛を堕とそうと向き直る。
刹那、目の前が白銀に染まり、自動車に跳ねられたような容赦の無い衝撃が彼女の体を弾き飛ばした。
護衛機はレーザーを撃たずに体当たりをしかけたのだ。
体勢を立て直したときには、もう敵機の姿は遥か彼方。撃ち落とすには距離が離れすぎた。
(一機逃がしたか……)
本部が進言を訊いてくれていたら、限定解除が出来ていたらここを抜かせることはなかったのに。
これ以上敵機を一機も後ろに行かせてはならない。
唯一の幸運は、あの敵はもう墜落寸前であること。あの子達にとって大した脅威にはならないことを祈るだけだ。
この気を逃すまいと、敵機はレーザー光を閃かせつつ、突撃する。
フェイトも向かってくる銀の悪魔をしっかりと見据え、真正面から受けて立った。
「来なよ、いくらでも堕としてあげるから!」
――
戦闘艇は瀕死の状態だった。
魔法弾による損傷が激しい。機体の中央に開いた三つの大穴。止まらない黒煙。時には炎も見え隠れする。
ふらふらと不規則な起動を描きながら、それでも速度を落とさず飛翔する。
彼に撤退の意思は無い。ただ、『彼女』から与えられた命令だけが、
『「魔導師」の戦闘データ収集と収集対象の殲滅、及び機動歩兵の奪還、もしくは完全破壊』
という命令だけが彼の全てであり、『母』から存在を許される唯一の理由だったからだ。
切り離された車両を通りすぎたそのとき、ついに戦闘艇はボッと軽い爆音を立てて炎に包まれた。
機首がガクリと落ちる。そのまま墜落すると思いきや、戦闘艇は体勢を立て直して火達磨になったまま、さらに加速し飛行を続ける。
列車が見えた。だが、戦闘艇のレーザー口はすでに焼け落ち、攻撃の手段はもはや一つしか無い。
森に火の粉と赤く熱した金属片をばら撒きながら、なおもスピードを上げて急降下を開始する。
機体そのものをミサイルとし、戦闘艇は重要貨物室ヘ一直線に突っ込んだ。
――
「う、うう……」
頭が重い。全身が痛み、目の前が真っ暗だ。
目を開けようにも、ノーヴェの目蓋は縫いあわされているかのように固く、執拗に目覚めを拒んでいる。
それでもなんとか開いてみると、彼女は床に倒れていて、隣には、さっきまで戦っていたハチマキの女が意識を失い倒れ込んでいた。
いったい何が起こったのだろうか?
たしか、ハチマキと戦っている最中、重要貨物室で物凄い爆発音がして、すぐ後に列車がすさまじく揺さぶられたのだ。
それで、そこら中に体をぶつけて、何が起こったのかもわからなくて、そのまま気が遠くなって……。
ノーヴェは寝転がっていた壁に手をつき、上半身を少しだけ起こしてみた。
痛みはおさまらないが、耐えられないほどではない。
そのままなんとか起き上がると、待機状態に戻っていたハチマキのデバイスを拾い上げ、車両の隅に投げ捨てた。
落ちていたコードを何本か拾い、ハチマキの手足をきつく縛り上げる。
もし目が覚めたとしても、これでこいつは自分を襲えない。身の安全を確保したノーヴェは、痛む足を引き摺るように出口へと向かった。
壁際の扉は衝撃で歪んでしまったのか、押しても引いても扉は素直に開かない。
募る苛立ちそのままに、ノーヴェは思いきり扉を殴り飛ばした。
重苦しい衝撃音と共に、扉に人一人は通れるくらいの大穴が開いた。
外に這い出てみると、周りは鬱蒼と生い茂った一面の森。頭上には、先程まで列車が走っていたリニアレールがあった。
そこから脱線した列車は途中で千切れた車両を除いて全てが落下し、木々を薙ぎ倒し、ひしゃげた鉄箱と化していた。
正直、これが地上本部の車両で良かったと思う。
民間車両のレールは管理局のとは違い、深い崖のすぐ側を通っている。
そこで脱線しようものなら、列車は完全に潰れ、自分はスクラップの仲間入りをしていただろう。
列車に沿って進んでいたノーヴェは、ある車両の様子がおかしいことに気付いた。
重要貨物室がある車両だ。それだけがまるでミサイルの直撃を受けたかのように大きくたわみ、ほとんど原型を留めていないのだ。
それだけではなく、中から微かに音が聞こえてくる。
ヘルメットを取って、でこぼこだらけの表面に耳を押しつけた。
ギリリッギリッ、と、まるで金属同士が擦れあうような奇妙な音がはっきりと聞こえる。
「なんだ、この音……?」
呟いたその時、視界に入った人影にノーヴェは反射的に銃口を向けた。
いたのは二人の子供だった。
一人は赤毛の少年。十歳くらいであろう少年魔導師が、槍型のデバイスを構え、ノーヴェを睨みつけている。
その後ろでは子龍を抱えた桃色の髪の少女が、少年の背中に隠れてこちらの様子をうかがっていた。
おそらく、二人はハチマキとオレンジ頭と同じ、機動六課のメンバーなのだろう。
「動かないで。大人しく武装を解除し、投降してください。抵抗しなければこちらから危害は加えません」
デバイスを突きつける少年の手は少し震えている。声もうわずっているように思える。
怖いのだろうか。恐ろしいのだろうか。
無理も無い、死の危険はさほどないと言っても、戦場の空気は子供には毒気が強すぎる。
「カッコつけんなよ、ほんとはビビってるくせに。逃げたきゃ逃げていいんだぞ?」
「僕だって機動六課の一員だ! 絶対に逃げたりするもんか!」
なるほど、威勢は良い。が、挑発されたらムキになるなど、やはり子供だ。
その隙を見逃さず、ノーヴェは素早く槍を掴むと、懐に引きいれた。
姿勢を崩した少年。彼女は顎をすかさず蹴り上げ、間髪いれずに殴り倒す。
数メートルは吹っ飛ばされて倒れ込んでいる少年に銃口を向け、ノーヴェは余裕を見せつけるように微笑んだ。
「エリオ君!」
少女が少年の名前を叫び、駆け寄ろうとするが、ノーヴェの「動くな!」という一喝が少女の足を止めた。
「ちょっとでもそこから動いてみろ、そんときゃ、こいつの頭吹っ飛ばすからな」
もちろんウソだ。ノーヴェは二人を殺す気などない。死人を出したらドクターに怒られるからだ。
「これ以上手ぇ焼かせんなよ。もっと痛い目見ないとわからないのか? 降参しろ、そしたら殺さないで見逃してやるよ」
「嫌だ!」
少年――エリオはきっぱりと拒絶し、憤激した。
「殺さない? 信じられるか! そんなこと言って降参したら僕達を後ろから撃つつもりなんだろう。
それともまたあの銀色使って僕達を殺すつもりか? ヴァイス陸曹を堕としたときみたいに!」
「だから殺しゃしねーって、こっちだって死人出したら後々めんどー……」
そこまで言って、ノーヴェはあることに気がついた。
「ちょっとまて、銀色ってなんのことだ? ガジェットじゃないのか?」
「しらばっくれるな! あの象みたいな機械のことに決まってるだろう!
あれのせいでキャロがどんな怖い思いをしたか、ヴァイス陸曹が、ヴァイス陸曹が……くそおおおおお!」
絶叫と共に振り降ろされた槍をかわし、エリオの横っ面を張り飛ばした。
ノーヴェはもうエリオのことなど眼中にはなかった。彼女の頭には疑問が渦巻いていた。
象みたいな銀色の機械? ガジェットⅡ型は一見すればエイのような形状をしている。
どれだけ目の悪い者が見ても象と見間違えることは絶対にない。機体カラーも銀色一色ではない。
オレンジのときには、六課を襲ったのはガジェットだと思っていた。だからあんな挑発じみたことを言ったのだ。
しかし、エリオの話を吟味してみると、どうやらガジェットではなかったようだ。
今思えば、ちょっと考えたらわかることだ。
他のⅠ型やⅢ型が機能を停止している中、Ⅱ型だけが無事であるなどありえないことだったのに。
だったらこいつらを襲ったのはいったいなんだ。
自分達でも六課でもない第三者が、この事態に介入している? ひょっとして、そいつらもこの積荷を狙っているのだろうか……
突然、耳をつんざく轟音が周りの空気を振るわせた。
キャロは見を竦め、エリオとノーヴェは貨物室に互いの獲物を向ける。
列車の天井が大きく盛りあがっている。衝撃音が再び轟き、天井がさらに隆起した。
「なに、何が起こってるの?」
「んなもんわかるわけねーだろ、アタシにも」
「何かがいる……キャロは下がってて」
三人は三度目の轟音の後も、地面に縫い付けられたかのように動かなかった。
轟音が止んだ。四度目は中々こない。森が、水を打ったように静まり返る。
木々のざわめきも、鳥のさえずりも、一切の音が止んでいた。
嵐の前の静けさ、三人の頭に同じ言葉が浮かび上がった。
キャロが近くの木陰に身を隠す。ノーヴェとエリオは脂汗を流しながらじりじりと後ずさる。
そよ風が、ふわりとノーヴェの髪を揺らした刹那――爆音と共に、巨人がその姿を現した。
それは、銀色のロボットだった。丸っこい胴体からひょろりと伸びた細長い腕。
拘束具引き千切って現われた手首は、それぞれ左はライフル型、右は突起状、おそらくこっちはビーム砲かなにかだろう。
ガジェットはおろか、ミッドチルダのどの機械とも似つかない、痩身の不気味なロボットだ。
だが、それでもこれが何のロボットなのかを三人はすぐに理解できた。
これは戦闘ロボット、戦うための兵器だ。
「な……これも貴女が……」
「違う、アタシじゃない、アタシはこんなの知らない!」
ノーヴェとエリオが狼狽する中、ロボットは全ての拘束から解放され、立ちあがった。
大きい。十数メートルはあるだろうか。これだけのロボットをよく列車につみ込めたものだ。
ロボットは何かを探しているように、ゆっくりと胴体をめぐらせている。
胴体をぐるりと回し、ロボットは中央にある緋色のカメラアイで三人を凝視した。
そして、ライフル型の腕を徐々に持ち上げ、三人に向けた。
――
「どうだ? なんとかなりそうか?」
ノーヴェ達から離れた森の中、ストーム1は焦る気持ちを抑えながら、Ⅱ型を診ているセインに訊いた。
「あーもうだめだねこれ。完全に壊れてる」
諦めがちな溜息を漏らし、セインはⅡ型の機首を蹴った。
「機体自体は問題無いんだけど、センサーとかCPUが逝っちゃってて、わたしじゃ直せないよ。悪いけど。
でも、どうしようか。これじゃノーヴェ助けに行けないよ……」
始まりは、午後の座学をノーヴェが欠席したことだった。
彼女がサボったことなど今まで一度もなかったが、ノーヴェはナンバーズの中で一番ストーム1を嫌っている。
こんなこともたまにはあるだろう。そう、ストーム1は軽く考えていた。
しかし、座学の途中でウーノから保管庫からノーヴェの装備が無くなっていたことと、通路の監視カメラにガジェットを連れたノーヴェの姿が写っていたことを報告され、
そのとき初めてノーヴェが自分に黙って出撃したことを知ったのだ。
多分、自分とスカリエッティの会話をどこかで盗み聞きしていたのだろう。
呼び戻そうにも通信はなぜか繋がらず、転送を使えるルーテシアは外出中。
なので、仕方なくストーム1はメディック装備のセインを連れて直接迎えに行くことにしたのだ。
あいにくウェンディのボードは点検中で使えず、代わりに残りのⅡ型で出撃したのだが、
途中でⅡ型が制御不能となり、森へ墜落してしまったのだ。
「で、見ての通りわたしらの足が無くなっちゃったわけだけど、どうするの隊長さん。まさか、帰るなんて言わないよね?」
「言うわけが無いだろう。ほら、さっさと付いて来い」
「へっ? えーっと、まさか、ここから歩いて行くとか?」
ストーム1は返事せず、ライサンダ―Zを肩に担いで歩き始める。
セインは「やっぱり?」とがっくり肩を落としてたが、やがて赤十時が三つ描かれた救急キットを二つ持ち、とぼとぼと付いて行った。
ノーヴェの居場所はヘルメットのレーダーが教えてくれる。
チームメンバーが青、敵が赤、
その他が白で示される。
レーダーの端っこには青い点が一粒、中心には、無数の赤と、そこに見え隠れする二粒の白。
ライサンダ―Zのスコープごしに空を覗くと、二人の女性が群がるガンシップ相手に空中戦を展開していた。
多分、あれが話に聞いた魔導師というやつだろう。
最悪の予想が現実になってしまった。
今のところ、敵として登録されているのは『異邦人』だけ。
奴等もミッドチルダに来ていたのだ。しかもあの数は『星舟』から出撃したとしか思えない。
しかも、スカリエッティが言っていた積荷が本当に『ヘクトル』なら、ノーヴェの装備では勝ち目は無いだろう。
『ヘクトル』の強さは自分が一番わかっている。
あの二人に加勢はしない。している暇は無い。
非情かもしれないが、どの道あれだけの数をなんとか出来ないようでは、これからの戦いを生きぬくことなど不可能だ。
だけど彼女等は魔導師、並の人類を超越した力を持っているはずだ。
あのくらいの敵、雑作も無く殲滅できるだろう。
(すまない、そいつらのことは頼んだぞ)
心の中で彼女達に詫びながら、ストーム1は森を掻き分けレーダーを頼りに進み続ける。
急がないといけない。ガンシップに気付かれる前に辿りつかないと。
早くしなければ、手遅れになる前に。
To be Continued. "mission11『光と嵐と異邦人(後編)』"
最終更新:2008年11月05日 22:30